ヒルデ〜元女将軍は今日も訳ありです〜

たくみ

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28. 来客③

 男爵邸から離れた場所。ジオの家である伯爵邸のすぐ近くの道でジオとレイラは驚きに開いた口が塞がらなかった。遡ること、ほんの10秒前のこと。

 レイラが仲を深めようとジオを誘い街中デート(実際はジオの誕生日プレゼントを買いに行こうと誘っただけ)に行こうと伯爵家の門を出たところだった。

「失礼」

 どこからともなく、いや……二人の頭上付近から超絶美声が聞こえてきた。二人が上を向こうとしたとき、目の前に人が現れた。空から落下してきたのに足音1つさせず、地面に着地したのはキールだった。

 二人は頭上から人が現れたこと、ヒルデと並んでも霞まない美貌、美声を持つ人物の登場に驚きのあまり声を出せず、口を開けたまま固まっていた。

「伯爵子息とお見受けする」

 頭上からだろうが、目の前からだろうが美声は美声だなーと思っていると再び声がした。

「この国で将軍職を賜っているキールと申す。男爵の使用人であるヒルデ……殿に用があって、領内に失礼させていただいた。挨拶が遅れて申し訳ない」

 おー、精巧な人形がしゃべってるよ………はっ!

「初めてお目にかかります。伯爵子息のジオにございます。ヒルデ殿に用があったとのこと……我が父が治める領にまで来ていただけるなんて…まして挨拶をしていただけるなど大変、恐縮にございます。……しかしながらなぜ私のところへ?」

 さっと胸に片手を置き頭を下げたまま言葉を発するジオ。その隣ではジオと同時に体が動き出したレイラがスカートをつまんで頭を下げている。

「二人共頭を上げてくれ。父君には先程挨拶させて頂いたよ。そちらは婚約者の…子爵家のお嬢さんで間違いないかな?」

 頭を更に深く下げるレイラ。

「私のことまでご存知とは大変光栄にございます。子爵妹のレイラにございます」

 その後二人が頭を上げたのを確認するとキールは言葉を発した。

「突然すまない。特に用というわけではなかったのだが、あいつが君たちと仲が良いと聞いて挨拶をと思ってな…」

 用がないといいつつ、歯切れが悪い。二人の目の前から立ち去る様子もない。二人は軽く目を見交わすとレイラが切り出した。

「将軍、ヒルデ殿は大変優秀な方にございますね。美貌だけでも驚きますのに、何をしてもこちらが驚くほどの仕事ぶり。性格は少し腹黒い…いや、だいぶ…ですが、愛想もあり、妙に惹かれるものがある。あれだけの美貌と仕事ぶりだともはや同じ人間と思えないですね。まああそこまでパーフェクトにはならなくてもいいかなーとか普通に思うレベルですよね。それから…」

「んんっ!やめるんだ、レイラ」

 二人はキールが立ち去らないのはヒルデのことを聞きたいからだと思った。キールとヒルデはできているという噂を聞いたことがある。同じ女性であるレイラからなんとなくヒルデのことを話すようにアイコンタクトしたのだが、喋ること喋ること。

「いや、構わない。気を遣わせたようですまないな。君たちに腹黒………本性を見せるくらいあいつがここに馴染んでいるようで良かった」

 なかなか失礼なことを言うなーと思ったが、黙っておく。
二人が黙っているので、キールは続けた。

「私が言うことじゃないかもしれないが、あいつを頼む。それと……………これを渡しておく」

 キールが渡してきたのは、2つの首飾りだった。銀色の細いチェーンに5センチ位の細長いながらも丈夫そうな水晶がついている。

「もしも………もしもだが、あいつに何か異変があったらこれで知らせてほしい。これを壊すと私の方に連絡が入る仕掛けがしてある」

 えっ?これどうやって壊すの?トーマスのように筋力のない二人にこんな小ぶりの水晶を壊せるのかと思ったのの受け取った。用がないなんて嘘だ。これを渡すためにわざわざ二人の前に現れたのだと悟った。

「将軍、どういうことですか?ヒルデさんに何かあるということ「将軍」」

 ジオはキールの言葉からヒルデに何か起こることを察し、慌てて詳細を聞こうとした。が、レイラが急に遮ってきた。

「………なんだろうか?」

 レイラが目をキラキラさせて、自分の方に一歩近づいてきたので、若干引き気味に返答をするキール。

「将軍には奥方がいらっしゃると思うんですが、やっぱり本命はヒルデと言うことでしょうか?一時二人はできてるってすごい噂になりましたよね?!じゃあ、今の奥様とは政略結婚なんですか?!いや、でもすっっっごい仲良いって噂ですよね!じゃあ、ヒルデとは遊びだったってことですね!いや、でも私達に報せて欲しいなんて…やっぱりヒルデに特別な感情があるんですか?!今めちゃくちゃ心配してるってことですよね?!あと!あと!ムグッ!んーッ!」

 先程を上回る勢いで話しだしたレイラにキールもジオも呆気に取られてしまい、フリーズしてしまった。これ以上言わせてはならないと一足早く正気を取り戻し、めちゃくちゃ失礼な、不敬なことを言っているレイラの口を塞いだのはジオだった。

「あははー、申し訳ありません。ちょっとお酒でも飲んでたんですかねー。酔っ払いの戯言だと思ってお許しいただけたらと思います」

 レイラの頭の上に手を乗せて、無理矢理頭を下げさせ、自分も一緒に頭を下げるジオ。

「大丈夫だ。構わない。………よく聞かれる質問だ。ちなみにその首飾りは踏んでも良いし、壊れろって考え強く握るだけでも割れる魔術がかけられている」

 こんなところで聞かれるとは思っていなかったが、と言いながら力なく笑うキール。えっ……よく言われるの?世の中には度胸があるものが多いんだな……とジオは思った。それに、言葉にしなくても察してくれるとは流石将軍とジオが尊敬の眼差しでキールを見る。

 先程までベラベラと話していたレイラは正気に戻ったのか、冷静にキールのことを感心する思いからジロジロと見ていた。魔術といえばヒルデと言われているが、キールもなかなかの腕前のようだ。ものに魔術をかけ、その状態を保ったままにできる人間なんてそうそういるものではない。ヒルデがいなければ、キールが剣術、魔術共にNo1と言われていたかもしれない。その視線をヒルデとの仲の期待だと思ったのかキールが言葉を発する。

「私達の間には愛なんてものはないよ。あるとしたらライバルって感じだろうね。俺たちは育った環境が違いすぎて、あまりにも考え方というか……価値観が違いすぎる。全然意見が合わないんだよ」

「あー、わかります。将軍は筆頭貴族のご子息、ヒルデは平民ですもんね」

「………ずいぶんとはっきり言うお嬢さんだね」

「ヒルデが前に………貴族と平民って相容れないよねー。うちの坊ちゃまは平民のお嬢さんに惚れてるけど、うまくいくのかしら~。まあ、平民みたいな暮らししてるから大丈夫か~~~とか言ってましたよ」

「左様か」

「左様です」

「………それではお二方、何かあれば連絡願う」

 キールはちょっと相手するのがめんどくさくなってしまった。そういうときは、逃げるに限る。消える前にああ、と言ったかと思うとその手には手土産(トーマスがもらったやつと同じもの)が2つあった。それをジオとレイラに一つずつ渡すと消えた。

 目の前からキールが急にいなくなり、驚く二人。先に我に返ったジオがレイラに詰め寄る。

「おいおい、あんなにいろいろ失礼なこと言って、何かあったらどうするつもりだったんだ?それに、ヒルデさんに何があるか全然聞けなかったじゃないか!」

 少し興奮気味にまくし立てるジオに対し、レイラは冷静に返した。

「あれくらい言っても怒られないわよ。将軍はヒルデと多くやり取りしていたお方よ。忍耐強いわよ。それに、何か異変があったら教えろということは、ヒルデに何か起こることをわかっているんでしょ。でも将軍にさえ何もできない状態なのか、ヒルデがその協力を拒んでるってことでしょう。私達に何ができるっていうの?聞くだけ時間の無駄よ」

 呆れたように、淡々と言い返してくるレイラを見て、冷静になってきたジオ。

「まあ、そうかもしれないが………。とりあえず、お前の無礼が許されて良かったよ」

「心配してくれてありがとう。でも、ここは非公式の場よ。非公式の場でのからかいにいちいち反応してたらやっていけないわよ。あれくらい心が広くないと大将軍なんて勤めてられないわよ」

「………一応考えてものを言ってたんだな…」

「………あなた、人のことなんだと思ってるのよ…」

 軽口を言い合いながらもレイラは嬉しかった。婚約者が自分の身のことを心配してくれたことが。


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