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生き証人・東西南北へ・VS銀狼

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「銀狼ってあの名前も顔も何一つ知られてない銀狼のことですの?」


「そそ、その銀狼。さてさて、これからだけど…っと、忘れてたよ」


 ノアがため息を吐きながら後ろに手をかざすと薄い膜みたいなものが張られ、後ろから来た炎を左右に受け流す。


「よくも…よくも、リーナとマヤを殺したな!」


 肩で息をしながらもノア達に向かって杖を掲げているセリナが、涙を流しながら叫ぶ。


「あんたよくも!」


「凛、いいよ。手を出さないで」


 ノアはズレたロゼを掛け直しセリナにゆっくりと近づく。


「許さない…お前だけは絶対に許さない!」


「別に君に許してもらおうなんて思ってないよ」


「そいつ、どうすんだ?」


「そうだねー。君、帰っていいよ」


「なんやて!?」


 ノアの言葉に凛と日菜が驚愕の表情を浮かべノアの肩を掴む。


「ノアさん!?気でもおかしくなったのですか!」


「まあまあ、落ち着いて落ち着いて。考えがあるんだよ」


 ノアはセリナを引き起こしニコッと笑う。


「君達をここに派遣した国に伝えな、《破壊者》がSS級咎人のノア・アリアハートと手を組んだ。と」


「お前がノア・アリアハート…。私を逃した事後悔させてやる」


 セリナは仲間の亡骸を背中に背負い玉座の間を後にした。


「さて、これで各国の防御が硬くなるね」


「それはダメな奴ではござらんか?」


「考えてみなよ。防御を固めるには強い人達がいるよね?《破壊者》の樹と王国で大暴れした僕が手を組んだとなれば、普通の兵士じゃ歯が立たないよね?」


「あ!うち、分かった!兵士じゃ歯が立たないから転生者、転移者を集めるんやな」


「なるほどですわ。一々探す手間が省けると言う訳ですわね!」


 ノアは指を鳴らしながら「大正解」と言った。


「それで、これからどうすんだよ」


「先ず、日菜と凛は北と南に分かれて魔道具の情報を、半蔵と刹那は西と東に分かれて各国の動向を探ってね」


「俺は?」


 樹がシロネの頭に顎を乗せ欠伸をしながら聞く。


「随分仲良くなったね。樹はここに残って魔族達の特訓。今のままじゃ弱すぎる」


 ノアの言葉にライオンの魔族がグルルルと唸りながらノアに詰め寄る。


「俺たちが弱いと言うのはどういう事だ!」


「いや、お前らは弱いぞ?今回はノアに殺す気が無かったから助かったが、ノアが本気で殺す気ならお前らはもうこの世に居ないぞ?」


「樹さんお眠なのです?」


「少しなー」


「と、言う事だけどまだ、何か意見ある?」


「くっ、魔王様が言うなら仕方ない」


 ノアはやれやれと呟きながら、玉座に座る。


「ノア殿はどうするのでござるか?」


「僕は、行く所があるからそっちに行ってから合流するよ。出発は任せるよ。今からでもいいし明日でもいい。とりあえず、僕は明日出発するよ」


 ノアは欠伸をしながら玉座の手すりに肘をつき目を閉じる。


「おーい、ノアを運んでやれ」


 そして、その夜


「さて、そろそろかな。いい加減出てきたらどうかな?」


 ノアが、ベットに座りながら何もない部屋に呟くと部屋の隅から一人の女が姿をあらわす。


「いつから気づいていたのかな?」


「勇者を殺した後。それと、夜這いするならもうちょっと気配消しなよ」


「これでも、極限まで消したつもりだったんだけどなぁ」


「それで?銀狼の君がなんのようかな?」


 ノアの言葉に驚愕の表情を浮かべた後女は頭を抱え首を横に降る。


「そこまで、バレているとはねー末恐ろしいね貴方。えっとね、話は聞いて居たんだけど私が貴方達の仲間になる事は無いよ」


「へぇーそれは、君が狼の獣人だからかな?」


「魔法で隠している筈なんだけど、まあそういう事」


 獣人とは、頭に動物の耳、お尻に動物の尻尾が生えた種族の事で同族以外とは徒党を組まない種族である。


「そっか。なら、しょうがないねーって普通の人なら言うんだけど、僕は普通じゃないからね」


 ノアはゆっくりと立ち上がりひと伸びした後にニヤッと笑い女を部屋の外へと蹴り飛ばす。


「いきなり何を!」


「獣人ってさ、力で負けたらその人に従う掟だったよね?なら、負かす」


「なんの音なのです!?」


「良いから寝るのじゃ」


 部屋を出て行こうとするシロネをクロネが布団の中に引っ張り込み寝息を立てる。


 女が放ってきた蹴りを横に体をずらし避け軸足を蹴り払う。


「獣人である私の蹴りを避けるとは」


「師匠に比べたら君のスピードなんて止まって見えるよ」


 地面を滑り女の足を絡めとり足首を捻り両腕を拘束する。


「さてさて、このまま負けを認めないなら腕をへし折るけどどうする?」


「もういいよ。降参降参こんな所で本気出してもしょうがないしそれに、貴方の仲間達が来たらどうせ勝てないし」


 その言葉を聞いたノアはゆっくりと女の上から降り手を握り引き起こす。


「改めて、僕の名前はノア・アリアハートだよ。君は?」


「私は、ルナ・ツヴァイス・クローバー。ルナでいいよ。仲間にはなるけど基本的には一緒には行動しない。それでいい?」


 ルナはいつのまにか出ていた狼耳をぴょこぴょことさせながら首を傾げる。


「うん、いいよいいよ。戦争になった時とかに力を貸してくれたらそれで」


「分かった。それじゃあね、お仲間にもよろしく」


 それだけを言いルナは景色へと溶けて消えた。
 ノアは、口から伝う血を拭い口角を上げる。


「一発決められたか」


 そして、翌朝


「ノアさん、今日はどこに行くのです?」


 ノアは、用意されていた服に着替えながら口を開く。


「ローズの故郷でローズのお墓があるエルフの里だよ。それにしてもこの服…」


 ノアは、鏡の前でくるりと回ったりしながら頭を抱える。


「僕には似合わないよ…樹」


 オフショルダーの服に下は短パン靴はよく女の子が履いているようなサンダルに履き替える。


「可愛いのです!ノアさん」


「うむ、世の男がほっとかないのこれは」


「褒めても何も出ないからね。さて、先ずはエルフの里の情報集めだね」


「頑張るのです!」


「おー」
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