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願いを叶える桜・上

第7話 黒い暴発

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「どうして、どうして…ここに!!???」

目の前に立つ彼の存在を受け入れられず立ちすくんでしまう。

「どうしてって。まあ、心配だったし」

頭の中の思考が混沌として、思考がまとまらない。

――見られてしまった。よりによって、一番醜く、汚い所を。

一番見られたくない人に…

今まで、バレないように、嫌われないように必死に隠していたというのに、こんな些細なくだらないことで自分の本性がバレてしまった。

拒絶されてしまう、それがどうしようもなく怖い。

何で、よりによって彼に見られるのだろうか。

神様はきっとボクのことが嫌いなのだろう。でなければこんな仕打ちが、あっていいわけがない。

「いや、いぃぃぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

雷が鳴り響くと同時に、莫大な霊力《マナ》が周りを包み込む。



§



「見ないで!みないでえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」

雷が鳴り響き、大気が一瞬にして荒れ狂う。悲しみと、焦りと絶望。負の感情すべてが具現化したかのような迫力。

心の中で激しい感情が渦巻き、絶望と悲しみが混ざり合っていく

碧唯《あおい》の身体を取り巻く霊力《マナ》が漲り、その強大なエネルギーが周囲に広がっていく。まるで彼女自身が自然の力と一体化し、怒りに満ちた竜巻の中心となったかのように見えた。

そして、どこかで破裂音が鳴ったかと思えば、肇の足元に、地割れのように深い切り跡がでいる。

「あ…ぶね」

碧唯の周りの空間が帯電し始める。バチバチと電気が乏しり、それがまた周囲を無差別に襲い始めた。

そしてまた、響きわたる破裂音。

今度は、隣の体育館の壁にも大きな切り傷が出来る。

傷の深さはとても深く、体育館の中まで達している。

激しい風が吹き荒れ、目を開けることが困難なほど強さを増し――

「ッ……!!!??地震???」

足元が揺れ始め、強烈な振動が体を襲う。まるで大地が激しく揺れ動いているようにさえ感じる。

加えて、空間自体もう歪み始めた。周囲の景色にノイズが走り、ぐにゃりと波打つ。

超常的現象が次々と起きる。

―――これは…怨霊体《アパリティー》が現実世界に同化しようとしているのか!!

怨霊体《アパリティー》が逆位相から、姿を現すとき、空間に揺らぎが発生し、このように周囲に超常的な現象まき散らす。

まんま教科書通りのことが起こり始めていた

通常、霊力《マナ》が溜まり、密度が周囲より極端に高いところに顕現するはずであるが、碧唯の術式の暴走がトリガーとなったのだろう。

風がどんどんと強くなり、碧唯を視認することも難しくなる。

理想は碧唯の術式暴走《じゅつしきぼうそう》をなんとか食い止めることが出来れば…

最悪、怨霊体《アパリティー》が現実世界に同化してしまったら、屠り去ろう。

だから、碧唯をどうにかするのが先だ。

未だに叫んでいる碧唯にゆっくりと歩み寄ることを決意する。

「来るなぁぁぁぁ!!!!!!」

何も見えない空間に反響する強い拒絶。その叫び声が虚空に響き渡る。その叫び声からは強い感情が伝わってくる。それは恐怖、絶望、あるいは怒り。



瞬間、全身から血が溢れ出る。
体から真っ赤な華が咲いたように、周囲へと根を広げていく。

周囲には、鼻を突くような鮮明な鉄の臭い。

「え……?」

自分の体が刻まれたことに愕然としていたら、今度は右半身が猛烈な炎に包まれる。

不味い、暴走で術式を制御できていなかったのか!

俺の体を燃料に燃え盛る炎は猛烈な風に吹かれて激しく踊り舞い、火の粉を周りへとまき散らす。

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

碧唯が慟哭する。声帯が限界まで絞られ、もはや痛みを伴う声が響く。


絶望と悲痛にまみれた声が、どこまでも木霊する。




§




広がっているのは、穏やかな静寂。桜がシンシンと積もっていることを除けば、自分の呼吸だけが大きく響く。

白い枝垂れ桜が舞い散っている。桜の花びらが舞い踊り、まるで雪のように散り積もっていた。

季節は春ではないというのに、桜が咲いている事実にちょっとした不気味さを感じる。人間は自然でないことに対して恐怖を感じやすい。

人間がブリッチの四足歩行で歩いているホラー映画が物凄く恐怖を感じるのはそういったトリックがあるらしい。

白い桜が垂れさがって、こちらを手招きしている。

そのまま、白い枝垂れ桜に近寄るように足を進めると、ぎゅっぎゅと足音が鳴る。長い間桜の花びらが積雪?積桜の量はかなり深い。雪のように、足跡が残る。

「白い…さくら」

またしても白い桜の都市伝説がふと頭の中によぎる。

――白い桜に願い事を言うと叶う。

もし白い桜をもう一度見つけたら、叶えたい願いはあったはずなのに、あれ程恋焦がれていたというのに…

しかし…

もう、すべてがどうでもいい…

無気力に場に座り込む

頭がごちゃごちゃになって、苦しい。あれも考えなきゃ、これも考えなきゃ。

テスト前日に何をやればいいのか分からないのと同じ。

彼が居たから心が折れるなんてことはなかった

彼が居てくれたから、ボクは笑えた。

でも、きっと彼が居なかったらこんな苦しみなんて知らなかった

「ハァァハァ」

今までの嫌な光景が頭によぎり思わず蹲ってしまう。周りからの恐怖の目、そして敵意。
でもそれ以上に、今も頭の中で渦を巻き続けるのはきっと好きな人

でもそれが嫌で嫌でしょうがない。

彼が居なくなればこんな生き地獄から解放されるとさえ思た。

積もる思いは後ろめたいことを隠している罪悪感。

それがバレてしまったという、絶望。

いま振り返ると思い出すのは後悔ばかり。

あの時、言い出せていれば。もっと信頼していれば…

こんな苦痛にまみれた、痛みにまみれた人生なんて…

「思いが叶うというのなら!!!!もし願いが叶えられるというのなら!!この苦しい人生を早く終わらせt、むぐっ……」

それは叫びというより、もはや慟哭に近い。心からの願い。

これが一番幸せになる方法だと…

今まで追っていた心の傷から漏れ出した液を昇華させるように激しく。


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――――――――
――


シンシン桜だけが降り積もる中、急に後ろから抱き着かれた。



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