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第1章

メイド

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こ、これだ!


ガゼボを出た私はその足で王立図書館へ向かった。あのカップの絵付けに使われた山吹色の染料を調べるために。


『ヤマハゼ…ウルシ科の植物で樹液は染料、種子からは蝋が採れる。山間に多く生息しており、辺境では昔からその染料を使い布を染めたり、陶器の絵付けに使用している。ウルシ科のため、樹液でかぶれることもあるので注意。』

陶器の絵付けだから、最初は鉱物かと思ったのだが、植物だったのか。なるほど。

「辺境…。行ってみるか。」

私は、イオンさんの手掛かりが掴めるかもしれないという僅かな望みと、研究者として、ヤマハゼを染料として使ってきた歴史への知的好奇心で、すでに心は辺境に飛んでいた。






ひと晩ぐっすりと眠り、翌日~。

爺さんとカミュは、爺さんの友人の職業魔術師さんのところに出掛けて行った。カミュの魔力の量を正確に把握するために、調べて貰うそうだ。

私は、ミーシャ婆ちゃんとお揃いのフリフリエプロンを着けてマルシェにお買い物。
日曜日のマルシェは買い物をする人で、賑わっている。

ミーシャ婆ちゃん、フリフリエプロンをとても気に入ってくれて「冥土の土産が出来たわ~。」って言ってたけど、そのエプロン姿は冥土というよりメイドだよねっ。

「そこの可愛いフリフリエプロンのお嬢さん方!今日は辺境から届いたばかりの天使のトマトソースがオススメだよ!お1つ如何かなっ!」


ん?天使のトマトソース?

トマト…トマト…


近寄って瓶を手に取ると、ラベルには金髪の少女がにっこり笑ってトマトを両手に持っている絵が描かれている。

メイドイン辺境伯領…。

「あらあら~。これイオンちゃんじゃないの~。」

あ、やっぱりそう思う?

あの樽3つ分のトマト…。
トマトソースにするためだったのか。
でも、なぜ私がラベルに??
肖像権侵害??

ミーシャ婆ちゃんは、
「これ、10個くださいなっ。」だって。
ちょっと買いすぎじゃない?

お店のおじさんがラベルと私を見比べている。

「おお~。これお嬢さんそっくりだな。
ほんと、可愛らしい。天使のトマトソースにぴったりだな。」

物凄く恥ずかしくなってきた。
むむむ。これ、辺境伯様の仕業かな。
帰ったら断固抗議しよう。


「とぉっても良い買い物をしたわ。」

と、ミーシャ婆ちゃんはご満悦だった。10個も買うと重たいね!

マルシェでは、新鮮な野菜や肉、魚、乳製品がずらーっと並んでいる。品揃えが豊富~。さすが王都だねっ。


「婆ちゃん!見て!でっかい海老が!!」

「あらあら、本当、美味しそうねぇ。」

「こっちには、艶々の丸いチーズ!!」

「あらあら、本当、美味しそうねぇ。」


ミーシャ婆ちゃんは、にこにこと同じ台詞を繰り返している。ごめん。珍しくて、はしゃぎ過ぎちゃった。


調味料や瓶詰めのソース類も各地から集まっているため、とても興味深い。
山盛に並んだ香辛料も見たことのない色や香りの物ばかり。
え、この赤っぽい粒々って胡椒なの?!
こっちの黄色い粉は、ウコン?ウンコ?
ウンコちゃうわーい。と、脳内でセルフツッコミをする。ウコンは香辛料としても使えるけど、薬にもなるらしい。お店のおばさんが親切に教えてくれた。

どこのお店に寄っても、みんなフリフリエプロンを褒めてくれる。ちっさいミーシャ婆ちゃんのフリフリエプロン姿って、とても可愛らしいからね。うん。わかるわかる。


「おう!ミーシャさん。元気だったか?」

乾物を売っているお店のお兄さんが、ミーシャ婆ちゃんに声を掛けてきた。

「はいはい。元気ですよぅ。」

「お、今日はスゲー可愛い格好してんのな!そっちのスペシャルエキサイティングボンバーなお嬢さんは?」

は?今なんて?

「こちらはね、うちの旦那様のお孫さんなんですよぅ。」

そう、紹介されたのでにっこり笑ってお辞儀をする。そのお兄さんは一瞬固まったように見えたけど、しゅっっとすごい速さで表に出て来て私の手をきゅっと握った。

「俺、ジン。君は?」

「え、あの、イオンです。」

「俺と結婚して下さい!!」

ゴンっ!!!と鈍い音がする。
ちっさいミーシャ婆ちゃんが飛び上がり、大きなジンさんに拳骨を喰らわした。

「いってぇー…。」

私の手を放して、蹲るジンさん。

私は婆ちゃんの跳躍力にびっくり。

「全く、手の早い男だこと。さ、イオンちゃん次に行きましょうねぇ。」

そのままジンさんを放置して、歩き始める。ジンさんは悪い人ではないけれど、とっても惚れっぽい人で、すぐにプロポーズする癖があるそうだ。婆ちゃんが知ってるだけでも50人にフラれているらしい。王都って色んな人がいるのね。昨日カミュに言われたこと、やっぱり気を付けよう。

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