1 / 4
01 暇じゃ
しおりを挟む
「暇じゃ」
鬱蒼とした森林の奥にその城はあった。ここ魔界である。全世界の半分以上を占める、魔物たちの楽園。いわばここは魔界の王都であった。人間界の城以上に大きいであろうこの魔城には二匹の魔物しかいなかった。何を隠そう、その一人が現在の魔王である。名前はない。
立派な黒い角に血のように赤い髪、美しいアーモンド型の瞳。人間に似た姿をしたその美しい魔物は今、最高に暇していた。
「暇じゃよ暇じゃよ~!おい、サタン。勇者は何年ここに来ておらんのじゃ?」
「300年と5ヶ月と2日でございます」
サタンと呼ばれた魔物はこの魔王に仕える悪魔執事である。黒い髪に金色の目が特徴的なこれまた美しい魔物であった。この大きな城はサタンのみの力によって維持されている。ハイパー執事である。
魔王はだらっと玉座に座り、その姿に威厳はまるでなかった。
「確か前の勇者はわしが倒す前にお前がボッコボコにしたんじゃったな」
「申し訳ございません。我が主に挑戦することも許されないような愚者であったので」
「その前の勇者は美人じゃったよな~。わしに出会うなり失禁したのじゃが」
乾いた笑いが広い魔城に響く。そういえば、と魔王は思った。人間というと、ここ数百年は勇者とその一行しか出会っていない。というか魔王になってから魔城から出たことがなかったなあと魔王はぼんやりと思った。魔界の統治は四天王の魔物がしてくれているし、城のことはなんでもサタンに任せっぱなしだった。魔王になる前から、私は出不精だったっけ。
遠い昔に思いを馳せていると、目の前に美しい顔があった。サタンだった。魔王はそれを一瞥し、「なんじゃ」と声をかけた。
「魔王様、人間界に行ってみませんか?」
「なんじゃって?」
魔王は耳を疑った。魔王になってから、この悪魔執事に外へ促されることはなかった。それよりもここに座っているだけでいいと言われる始末だったのに。
じっとサタンを見ると、サタンはにっこり笑った。
「人間界には今、勇者育成学校というものがあるそうです」
「ゆうしゃいくせいがっこう?」
勇者って育成するものなの?といういたって普通な疑問が魔王の頭を駆け巡った。
「なんでも、勇者やその一行になる聖女や魔導士などの適性のある人間を集めて、育成し、学校を卒業すると魔界に送り込んでいるそうです」
「その割には誰も来んのじゃが……」
魔界の奥にあるこの場所に来るまでに四つの国を渡ることになる。その国を治めている四天王を倒さなければこの城にたどり着けない仕組みになっている。魔界の国に来るまでにも、獰猛な魔物が蔓延る魔の森を抜けなければならない。勇者でない大抵の者はそこで死ぬことになるそうだ。
「今年は勇者科も聖女科も特に優秀な者が入学したらしいです」
「つまりその学校をぶっ潰せばいいのじゃな?」
「違います」
出る杭は打つということなのだろう。何十年ぶりに玉座から立ち上がろうとすると、サタンに肩を掴まれて押し戻される。
「魔王としてではなく、勇者適性を持つ人間として人間界の学校に遊びに行きませんか?」
「人間界のがっこうに遊びに行く……?」
きょとんと目を丸くしたが、すぐになにそれ楽しそう!と魔王は目を輝かせた。学校という制度にも興味がある。自分で体験してみて、卒業したら魔界にも学校という制度を作ってみるのもいいかもしれないな、なんて思った。
「決めた!行くぞ!今すぐ行くぞ!」
「では御準備を致します」
今度こそ数十年ぶりに玉座から立ち上がった。その目線の景色は、数百年動かされなかった魔王の心をわくわくと躍らせた。
鬱蒼とした森林の奥にその城はあった。ここ魔界である。全世界の半分以上を占める、魔物たちの楽園。いわばここは魔界の王都であった。人間界の城以上に大きいであろうこの魔城には二匹の魔物しかいなかった。何を隠そう、その一人が現在の魔王である。名前はない。
立派な黒い角に血のように赤い髪、美しいアーモンド型の瞳。人間に似た姿をしたその美しい魔物は今、最高に暇していた。
「暇じゃよ暇じゃよ~!おい、サタン。勇者は何年ここに来ておらんのじゃ?」
「300年と5ヶ月と2日でございます」
サタンと呼ばれた魔物はこの魔王に仕える悪魔執事である。黒い髪に金色の目が特徴的なこれまた美しい魔物であった。この大きな城はサタンのみの力によって維持されている。ハイパー執事である。
魔王はだらっと玉座に座り、その姿に威厳はまるでなかった。
「確か前の勇者はわしが倒す前にお前がボッコボコにしたんじゃったな」
「申し訳ございません。我が主に挑戦することも許されないような愚者であったので」
「その前の勇者は美人じゃったよな~。わしに出会うなり失禁したのじゃが」
乾いた笑いが広い魔城に響く。そういえば、と魔王は思った。人間というと、ここ数百年は勇者とその一行しか出会っていない。というか魔王になってから魔城から出たことがなかったなあと魔王はぼんやりと思った。魔界の統治は四天王の魔物がしてくれているし、城のことはなんでもサタンに任せっぱなしだった。魔王になる前から、私は出不精だったっけ。
遠い昔に思いを馳せていると、目の前に美しい顔があった。サタンだった。魔王はそれを一瞥し、「なんじゃ」と声をかけた。
「魔王様、人間界に行ってみませんか?」
「なんじゃって?」
魔王は耳を疑った。魔王になってから、この悪魔執事に外へ促されることはなかった。それよりもここに座っているだけでいいと言われる始末だったのに。
じっとサタンを見ると、サタンはにっこり笑った。
「人間界には今、勇者育成学校というものがあるそうです」
「ゆうしゃいくせいがっこう?」
勇者って育成するものなの?といういたって普通な疑問が魔王の頭を駆け巡った。
「なんでも、勇者やその一行になる聖女や魔導士などの適性のある人間を集めて、育成し、学校を卒業すると魔界に送り込んでいるそうです」
「その割には誰も来んのじゃが……」
魔界の奥にあるこの場所に来るまでに四つの国を渡ることになる。その国を治めている四天王を倒さなければこの城にたどり着けない仕組みになっている。魔界の国に来るまでにも、獰猛な魔物が蔓延る魔の森を抜けなければならない。勇者でない大抵の者はそこで死ぬことになるそうだ。
「今年は勇者科も聖女科も特に優秀な者が入学したらしいです」
「つまりその学校をぶっ潰せばいいのじゃな?」
「違います」
出る杭は打つということなのだろう。何十年ぶりに玉座から立ち上がろうとすると、サタンに肩を掴まれて押し戻される。
「魔王としてではなく、勇者適性を持つ人間として人間界の学校に遊びに行きませんか?」
「人間界のがっこうに遊びに行く……?」
きょとんと目を丸くしたが、すぐになにそれ楽しそう!と魔王は目を輝かせた。学校という制度にも興味がある。自分で体験してみて、卒業したら魔界にも学校という制度を作ってみるのもいいかもしれないな、なんて思った。
「決めた!行くぞ!今すぐ行くぞ!」
「では御準備を致します」
今度こそ数十年ぶりに玉座から立ち上がった。その目線の景色は、数百年動かされなかった魔王の心をわくわくと躍らせた。
0
あなたにおすすめの小説
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身
にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。
姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした
藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると
土地を蝕む邪気となって現れる。
それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。
派手な奇跡は起こらない。
けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。
――その役目を、誰一人として理解しないまま。
奇跡が少なくなった。
役に立たない聖女はいらない。
そう言われ、私は静かに国を追放された。
もう、祈る理由はない。
邪気を生み出す原因に目を向けず、
後始末だけを押し付ける国を守る理由も。
聖女がいなくなった国で、
少しずつ異変が起こり始める。
けれど彼らは、最後まで気づかなかった。
私がなぜ祈らなくなったのかを。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる