エッチするまで出られない屋敷

世界のボボブラ汁(エロル)

文字の大きさ
3 / 13

物件撮影

しおりを挟む

 秋の日はつるべ落とし。

 この洋館の撮影は初めてだ。迷うまではしなかったけど、たどり着くのに少し時間がかかった。

 十月の始めとは言え、16時には既にオレンジ色の頼りない光になっていた。

 私はヘルメットを取ると、慌ててバイクから降りた。このままじゃあっという間に真っ暗だ。

 いそいそと、外側に飾りつけを始める。万国旗もハロウィン仕様にしないとな。洋風のバルコニーを見上げた。

 玄関横のキーボックスに暗唱番号を入れ、鍵を取る。

 他社の現地販売会まで暴風雨が来ないことを祈りつつ……。場合によっては、せっかく飾り付けても一度撤去しなきゃならない。

 めんどくさい。



 カチャとドアを開けた。その途端、背筋にゾクゾクと悪寒が走った。

「え?」

 私は真っ暗なエントランスホールを見つめた。

 なんだろ。お姉さんの孤独死の話を聞いたからだろうか。それともやっぱりこの廃墟っぽい見た目のせい? 変な雰囲気がある。

 電気は通っているはずだけど、ブレーカーの位置が分からない。造りが今の建売とはぜんぜん違っていて、おろおろしてしまった。

 とりあえず玄関の扉を開けたまま、その西日を頼りに1階のシャッターを開けに行った。っていうか、玄関もホールも広いな!

 そしてシャッターというより、両開きの鎧戸だ。これも敢えて、社長のお父さんが輸入したものらしい。

 開けると、広々としたリビングに西日が入り込む。

 三十二帖近くあるリビングって……。グランドピアノはそのまま置いてあるし、資産家ってすごいな。どんな小説書いてたんだろ。

 なんとなく、この家で書いていたなら怪奇小説なんじゃなかろうか、と想像した。

 私は電池式のカボチャのランプのスイッチを入れ、あちこちに置いてみる。うん、いいじゃない。

 それに中は雰囲気そのままでリフォームしてあるし、ぜんぜん怖くない。

 今日レインズ※に登録したばかりと言っていた。だから今のところ、広告の申請をしてくる他社はいないけど、もし仲介を申し出てきても、この写真なら差別化が図れそう。

 田沢さんから預かった袋から、空気を入れて膨らませる魔女の人形や、大きな鎌、ばかでかいタランチュラのような蜘蛛、モンスターの仮面を取り出す。

 それに、本物のお菓子が入った籠。

 これ……百均? ずいぶん本格的。でも今どきの百均のハロウィン飾りもすごいしな。なんて感心しながら、ハロウィンぽい装飾品を手早く置いていく。

 それから一眼レフのデジタルカメラを取り出した。

 超広角レンズ付きカメラ。狭いトイレも広く撮影できる。ここのトイレは狭くはなさそうだけどね。

 販売図面マイソクにトイレ五箇所と書いてあるのは、気のせいか?

 私はまず玄関から応接室まで撮り始めた。とにかく明るいうちじゃないと──。

 それにしても、応接室の石の暖炉はそれだけで雰囲気満載だ。中は薪ストーブ風のガスストーブが入れてあった。

 もうこれ、飾りなんて要らないんじゃないの? と思ってしまう。

 それからホール正面の大きな階段を撮り、そのまま上っていく。二階にはシャッターが無い。西日が物悲し気に踊り場を照らしている。でも、これも素敵。

 私は夢中になってシャッターを切った。


 ──ガタッ


 ビクッとなった。物音が家の中から聞こえた気がしたからだ。

 中古物件用に、一応お酒で炒った塩はいつも持っている。迷信深い社長の言う通り持ち歩いてはいたけれど、私自身霊感などない。

 だからこんな撮影のバイトなんてできるわけだけど。

 いや、でも今まで新築の仲介物件の方が多かったしさ。勘弁してよ。

 今の音は、どこから? 私はスマホを握りしめ、いつでも一一〇番できるようにスタンバイしつつ、そっと二階の部屋を開けた。

 まさかどこかの窓を割って、空き巣や浮浪者が入り込んでいるんじゃないだろうか。

 夫婦用の寝室だろうか。それとも二階のリビング? 音がしたと思えた部屋は、とても広い部屋だった。でも今風ではないので、ウォークインクローゼットがあるわけではなく、大きな年代物の飾りダンスがある。

 リビングではなく主寝室か。ベッドを見てそう判断する。ダブルどころじゃない。キングサイズ──もっと? 規格外である。これが輸入家具か、高そうだな。

 ──ガタッ

 私は全身が総毛だった。そうだ、音が聞こえたんだった。

 そしてその音は、すぐ真後ろから聞こえた。

 卒倒しそうになりながら、そっと振り返る。

 もし空き巣だったら、鉢合わせなんて……殺されるかも。

 震えあがりながら見ると、大きなタンスの陰に、ヨーロッパ風の鎧兜の飾りが置いてあった。

「なんだ……」

 一瞬、人かと思った。こんな年代物の飾りを置いておくなんて、どこかの博物館かよ。

 でも高そうな装飾品だし、なによりハロウィンにぴったりの、廃城の雰囲気が出ている。

 ちょうど西日もかかっているし、アンティークの飾りダンスもちょうど一緒に入って素敵。

 私は一番奥の壁に背を付け、腰を落としてカメラを構えた。

 その時、鎧が動いた。

 手に持っていた剣がググッと上がる。私はレンズ越しにそれを見て、あれ? 何これ、夢なの? と思った。

 落ち着いていたのは、あまりにも非現実的だったからだ。

 でも夢じゃない。

 鎧兜はガチャガチャ音をたてながらこちらに突進してきた。

 私はやっと我に返る。

「ぎゃぁあああああああああ」

 絶叫していた。

 いや、誰だって絶叫するよね!?

 自分の目がクルッとひっくり返るのを感じ、あ、死んだかな、と思った瞬間、フッと気を失っていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

身体の繋がりしかない関係

詩織
恋愛
会社の飲み会の帰り、たまたま同じ帰りが方向だった3つ年下の後輩。 その後勢いで身体の関係になった。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

処理中です...