【R18】熱い夜の相手は王太子!? ~婚約者だと告げられましたが、記憶がございません~

世界のボボブラ汁(エロル)

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元服の儀式とマルガレーテ

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「ベアトリス様」

 控えめな声に振り返ると、マルガレーテ嬢が扇子を口元に当て、落ち着かない様子で立っていた。

「少し……お話したいことがあって。ここだと人目がありますから、どこか静かな場所へ移れませんか?」

 私はゴクッと唾を呑み込んだ。

 記憶が戻った今、彼女との関係がどれほど複雑だったかを思い知らされる。……もちろん、ジークフリードとのことも。

 マルガレーテ嬢は、シルヴァン──ジークを好きだった。けれど彼女の父は、オットーの配下であるアドラー大使なのだ。私たちは立場上、敵同士になる。

 親しくなれば、いずれ互いに苦しむ未来しかないのだわ。

「ごめんなさい。わたくし、ここにいなければ……」

 私が言いかけると、マルガレーテ嬢が首を振った。

「いない方がいいわ」
「え?」  
「……ショックを受けることになりますから」

 その言葉に、私は目を見開いた。

「もしかして、もうお聞きになりましたの?」
「……ええ。イザベル様が言いふらしていました」

 嬉しくて仕方ないのね……。胸の奥で、また嫉妬の炎がくすぶった。

「二人の婚約は、確かにショックですけど」

 胸を押さえつつ、微笑を浮かべて平気なふりをする。私も彼も、お互いを選ばなかったのだから。

「耐えられるわ。気を使ってくれてありが──」
「あなたが婚約破棄されたのって、温室でシルヴァン卿といかがわしいことをしていて、それを殿下に見られたから……って本当ですの?」

 私は目を剥いた。そっちの方がショックだわ! イザベル嬢ったら、そんな噂をばら撒いているの!?  

 しかも微妙に事実が混じっているのも、すっごく嫌だわ。温室に入るところを、誰かに見られたのかしら?

「ち、違いますわ。シルヴァン卿ではありません」

 慌てて否定すると、マルガレーテ嬢の瞳に疑念が浮かんだ。

「シルヴァン様ではないなら、どなた? 詳しく教えてくださいっ!」

 しーっ! 声が大きい! 
 
 ここで「王太子殿下でーす!」なんて言えるわけがない。

 うわー……傍から見たら私、最低女じゃない。

 そこへ、顔を真っ赤にしたイザベル嬢がズカズカと近づいてきた。

「信じられない! 本当に二十秒だったわ! 私、婚約者なのよ!?」

 他の令嬢に交代させられたのだろう。

 憤慨したイザベル嬢は、クシャクシャのメモ紙をバシッと私の胸元に叩きつけた。

「しかも殿下ったら、最後にあなたと踊らせてくれって……。ここだと体裁が悪いから、迷路庭園で待つそうよ」

 そうよね……婚約者の前で、婚約破棄した女と踊れるはずがない。

 アルフォンスも傍から見たら、俺様クズ王太子だわ。

 イザベル嬢とマルガレーテ嬢の軽蔑の視線に、身の置き所がなくなる。

「あ……ありがとう。本当にいいの?」

 私は恐る恐る尋ねた。

「まあ、私が彼と結婚するのは確定ですから、別に構わないわ。正式発表はもうすぐですもの。あなたみたいなビッチに奪われなくて良かったわよ」

 イザベル嬢は、嘲るように言い放った。二人の白い目から逃れるように、私はホールを出る。

 最後に私と踊りたい……そう思ってくれたのは嬉しい。  

 でもアルフォンス、本当にあの人垣から抜け出せるのかしら……。

 廊下に控えていたアーデルハイドに目配せすると、彼女がついてくる。

「どちらへ? ベアトリス様も御手洗いですか?」

 アーデルハイドが小声で尋ねた。

 それで、私の後から出てきたマルガレーテ嬢が、化粧室に入っていくこと気づいた。涙で化粧を崩したらしい。

 それを見たアデルが不安そうに聞いてきた。

「……何かございました?」
「う……ん」

 誤解なのよぉ……相手はジークじゃないのよ。

「これから庭園で、アルと会うの」  
「王太子殿下と? ……しかし、温室での噂が」  
「アデルもその噂聞いたの!? まったく、誰が見ていたのよ」
「え、本当に……? ジークフリード卿は怪我をしていますから、殿下と……ですよね?」

 アデルが目を丸くして聞いてきた。

「まさか、これから庭園で──」
「こんな真昼間から、いかがわしいことなんていたしません! ダンスだけよ」
「いや、別にいかがわしいことをするとは──え、夜ならしてたんですか?」

 アーデルハイドが素で返してきた。

 まあ……ほら、最後だし? キスくらいしてくれないかなーって……。

 いえ、ダメね。離れがたくなるし、彼はもうすぐイザベル嬢のもの。  
 キスを求められても、流されない! 拒絶するんだから!

 気の進まない様子のアデルと庭園を歩いていく。

 見晴らしの悪い場所には、必ず王宮警備隊の衛兵が立っていた。私を見かけると敬礼してくる。

 元服の儀式のため、宮殿内の警備体制は万全らしい。

 その分、密会はバレやすいのだろう。

 アデルを入口に残し、私は背の高い生垣の迷路内へと進む。

 この中なら、プライバシーは保たれるはず。頬が熱くなる。

 べ、別に? 二人きりになったからって、えっちなことはしないんだからね? 本当なんだから!

「……最後のお別れを……するだけよ」

 そう呟き、メモ紙を頼りに迷路を進む。指定された中心部に辿り着いたところで、背後の垣根が揺れた。

「アル──」

 思ったより早い。笑顔で振り返ったが、そこにいたのはマルガレーテ嬢だった。

 彼女は息を整えながら、か細い声で囁く。

「……どうしても、聞きたいことがあって。さっきは途中で邪魔が入ってしまいましたし……」

 だから、ジークと待ち合わせしているわけではないわよぉ……。

「シルヴァン様とは、どういうご関係なの?」

 マルガレーテ嬢が一歩近づく。

 うわーん、しつこい!

「……古い友人です」  
「恋人? ご結婚なさるの?」

 さらに詰め寄ってくる。

 う……結婚……。帝位に着けば確かに可能性はあるけど……今は考えられない。  

 私の中からアルフォンスが完全に消えるまで、彼と……いえ、他のどんな男性とも、結婚なんて無理。

 答えに躊躇う私を見て、マルガレーテ嬢は眉を吊り上げた。

「救済院でシルヴァン様は、命がけであなたを庇ったわ。彼、あなたのこと大事なんだわ!」

 それは否定しない。ジークフリードは自分の命より、私を優先する。

 マルガレーテ嬢の声が急に低くなった。

「まるで皇女を守る騎士のようだった」

 聞き間違えかと思い、私は首を傾げた。

「……え?」
「それに、あの侍女──アデル。スリの少年を、熟練の護衛のようにねじ伏せていた。変だと思いません?」

 マルガレーテ嬢の視線が鋭くなる。

「あなたの髪と瞳も、不自然。……染めているのでは?」

 扇子を握る彼女の手に、力がこもった。

「あなたは──一体誰なのかしら? ずーっと……知りたかったの」

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