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再会編
ミレイユ強姦の危機
しおりを挟む「ピンクの髪の若作りなご婦人がね、私に逢いたがっているレディが居ると教えてくれたんだ。衣装部屋で一人、私を待ちこがれていると」
甘ったるい声で囁いてくるロッセル伯爵。
「誤解です!」
「火遊びでも歓迎だよ?」
けっこうです!
マドレーヌさん酷い! ヤリチンをけしかけるなんて!
初めはゆっくり口説いていたロッセル伯爵ですが、わたくしが逃げ出そうとすると、手首を掴みました。
「家柄の良い魔力持ちなら、誰でも良かったのだろう。お高く止まるなよ」
ガラッと声色が変わり、必死に扉の鍵を開けようとしていたわたくしの肩を乱暴に掴みあげました。
「公爵クラスだなんて、高望みしすぎなんだよ、魔力無し。どうせ、ガキなどできずに離婚されるのが落ちさ」
助けを呼ぼうとしたわたくしの口を塞ぎ、衣装部屋の鏡壁に押し付ける伯爵。貴族男子は鍛えているから、ものすごい力です。
「その時は私に泣きつきたまえ、試してやらんでもない。いや……」
ニヤッと笑う姿が、多面鏡にいくつも浮かびました。綺麗な顔だけに、よけい怖くて、気持ち悪くて。
具合が悪くなりました。
気を失いそうになるわたくしを抱きすくめ、肩に口づけを落とすロッセル伯爵。
背中に手を回し、ボタンを素早く外していきます。
なんて手馴れているの! わたくしは震えあがりました。
「君が綺麗だと、他の連中はまだ気づいてないんだ。君は地味だから」
生温かい息が耳にかかり、鳥肌が立ちます。
「私は気づいていたよ……どんどん綺麗になると」
唇の感触はまるで、蛭が這っているみたい。蛭に這われたことはないのだけど。
「滑らかな艶のある髪……本当に魔力が無いのかい?」
ございませんわっ!
わたくしは彼から逃れようと身を捩りました。
「──っ!? いやっ」
大きく広げられた襟ぐりから、胸の谷間に顔を突っ込んでくるロッセル伯爵。じゅっと肌を吸われ、恥辱の声を上げました。
それどころか、彼は一秒で自分のズボンを膝まで下げ、迫ってくるのです。
脱ぐの早っ! どっかの怪盗みたいですわ!
襲ってくる彼をどうにか手で防ごうとするも、今度はわたくしの唇を奪うつもりか、顔を近づけてきます。
恐怖に引きつった、か細い声しか出ません。
わたくしは、改めて自分がベルトラン様にした仕打ちを思い知ったのです。
強姦だめ! 好きじゃない人だと、いくらイケメンでも気持ち悪い!
……ましてやわたくしは、ベルトラン様から見たら、鍋に間違って入れられそうな鶏ガラでした。
ごめんなさい、ベルトラン様。本当にごめんなさい。わたくしは汚い女です。
薄い唇が触れる瞬間。
わたくしは、その黄色の瞳を凝視してやりました。
確かに、わたくしには魔力はありません。
ただし、わたくしにはちょっと妙な能力がございますの。自戒のため、あの時以来使っておりませんでしたが。
「手をお離しなさい!」
わたくしは目に力を入れ、命じました。
ロッセル伯爵は魔力が強い。
ベルトラン様レベルですと魔鉱石の補助が必要でしたが、ロッセル伯爵だとどうかしら?
暗示がかかるか、不安でした。
でも、わたくし驚きました。ロッセル伯爵の黄色い瞳から、簡単に自我が消えたからです。
わたくし自身がこんなにも精神を乱された状態で、何年も試していなかった妙な能力がすんなり使えるなんて、思ってもみませんでした。
わたくしは、ダランとなった伯爵を見て、気が抜けました。
怖かった……。
そっと後ずさり、扉を開けようとしたその時、扉のノブが弾き飛びました。
小さく悲鳴をあげ後ずさると、バンッと乱暴に扉が開かれます。
初めて見るベルトラン様の、強ばった鬼気迫る表情に、わたくしは両手で口を覆い、立ち尽くしてしまいました。
ベルトラン様は無言で中の様子を見て、首を傾げます。
わたくしは、その時気づきました。
ズボンを下ろしたロッセル伯爵と、乱れた衣服のわたくし。
彼からどう見えるか、明白だったのです。
「何をしていたの?」
ベルトラン様は、凍りついたままそう言いました。
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