上 下
48 / 56
再会編

ミレイユ強姦の危機

しおりを挟む

「ピンクの髪の若作りなご婦人がね、私に逢いたがっているレディが居ると教えてくれたんだ。衣装部屋で一人、私を待ちこがれていると」

 甘ったるい声で囁いてくるロッセル伯爵。

「誤解です!」
「火遊びでも歓迎だよ?」

 けっこうです!

 マドレーヌさん酷い! ヤリチンをけしかけるなんて!

 初めはゆっくり口説いていたロッセル伯爵ですが、わたくしが逃げ出そうとすると、手首を掴みました。

「家柄の良い魔力持ちなら、誰でも良かったのだろう。お高く止まるなよ」

 ガラッと声色が変わり、必死に扉の鍵を開けようとしていたわたくしの肩を乱暴に掴みあげました。

「公爵クラスだなんて、高望みしすぎなんだよ、魔力無し。どうせ、ガキなどできずに離婚されるのが落ちさ」

 助けを呼ぼうとしたわたくしの口を塞ぎ、衣装部屋の鏡壁に押し付ける伯爵。貴族男子は鍛えているから、ものすごい力です。

「その時は私に泣きつきたまえ、試してやらんでもない。いや……」

 ニヤッと笑う姿が、多面鏡にいくつも浮かびました。綺麗な顔だけに、よけい怖くて、気持ち悪くて。

 具合が悪くなりました。

 気を失いそうになるわたくしを抱きすくめ、肩に口づけを落とすロッセル伯爵。

 背中に手を回し、ボタンを素早く外していきます。

 なんて手馴れているの! わたくしは震えあがりました。

「君が綺麗だと、他の連中はまだ気づいてないんだ。君は地味だから」

 生温かい息が耳にかかり、鳥肌が立ちます。

「私は気づいていたよ……どんどん綺麗になると」

 唇の感触はまるで、蛭が這っているみたい。蛭に這われたことはないのだけど。

「滑らかな艶のある髪……本当に魔力が無いのかい?」

 ございませんわっ!

 わたくしは彼から逃れようと身を捩りました。

「──っ!? いやっ」

 大きく広げられた襟ぐりから、胸の谷間に顔を突っ込んでくるロッセル伯爵。じゅっと肌を吸われ、恥辱の声を上げました。

 それどころか、彼は一秒で自分のズボンを膝まで下げ、迫ってくるのです。

 脱ぐの早っ! どっかの怪盗みたいですわ!

 襲ってくる彼をどうにか手で防ごうとするも、今度はわたくしの唇を奪うつもりか、顔を近づけてきます。

 恐怖に引きつった、か細い声しか出ません。

 わたくしは、改めて自分がベルトラン様にした仕打ちを思い知ったのです。

 強姦だめ! 好きじゃない人だと、いくらイケメンでも気持ち悪い!

 ……ましてやわたくしは、ベルトラン様から見たら、鍋に間違って入れられそうな鶏ガラでした。

 ごめんなさい、ベルトラン様。本当にごめんなさい。わたくしは汚い女です。

 薄い唇が触れる瞬間。

 わたくしは、その黄色の瞳を凝視してやりました。

 確かに、わたくしには魔力はありません。

 ただし、わたくしにはちょっと妙な能力がございますの。自戒のため、あの時以来使っておりませんでしたが。

「手をお離しなさい!」

 わたくしは目に力を入れ、命じました。

 ロッセル伯爵は魔力が強い。

 ベルトラン様レベルですと魔鉱石の補助が必要でしたが、ロッセル伯爵だとどうかしら?

 暗示がかかるか、不安でした。

 でも、わたくし驚きました。ロッセル伯爵の黄色い瞳から、簡単に自我が消えたからです。

 わたくし自身がこんなにも精神を乱された状態で、何年も試していなかった妙な能力がすんなり使えるなんて、思ってもみませんでした。

 わたくしは、ダランとなった伯爵を見て、気が抜けました。

 怖かった……。

 そっと後ずさり、扉を開けようとしたその時、扉のノブが弾き飛びました。

 小さく悲鳴をあげ後ずさると、バンッと乱暴に扉が開かれます。

 初めて見るベルトラン様の、強ばった鬼気迫る表情に、わたくしは両手で口を覆い、立ち尽くしてしまいました。

 ベルトラン様は無言で中の様子を見て、首を傾げます。

 わたくしは、その時気づきました。

 ズボンを下ろしたロッセル伯爵と、乱れた衣服のわたくし。

 彼からどう見えるか、明白だったのです。

「何をしていたの?」

 ベルトラン様は、凍りついたままそう言いました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】生き餌?ネズミ役?冷遇? かまいませんよ?

ユユ
恋愛
ムリムリムリムリ! 公爵令息の婚約者候補!? ストレスで死んじゃうからムリ! は?手遅れ?とにかく公爵家に行け? 渋々公爵家に行くと他にも令嬢が。 ちょっと!他にもいるんじゃないの! え?帰っちゃ駄目? じゃあ、自由に過ごすか。 強制送還を目指す令嬢は出発の朝に別人の魂が入っていた。

乙女ゲーム攻略対象者の母になりました。

緋田鞠
恋愛
【完結】「お前を抱く気はない」。夫となった王子ルーカスに、そう初夜に宣言されたリリエンヌ。だが、子供は必要だと言われ、医療の力で妊娠する。出産の痛みの中、自分に前世がある事を思い出したリリエンヌは、生まれた息子クローディアスの顔を見て、彼が乙女ゲームの攻略対象者である事に気づく。クローディアスは、ヤンデレの気配が漂う攻略対象者。可愛い息子がヤンデレ化するなんて、耐えられない!リリエンヌは、クローディアスのヤンデレ化フラグを折る為に、奮闘を開始する。

危険な森で目指せ快適異世界生活!

ハラーマル
ファンタジー
初めての彼氏との誕生日デート中、彼氏に裏切られた私は、貞操を守るため、展望台から飛び降りて・・・ 気がつくと、薄暗い洞窟の中で、よくわかんない種族に転生していました! 2人の子どもを助けて、一緒に森で生活することに・・・ だけどその森が、実は誰も生きて帰らないという危険な森で・・・ 出会った子ども達と、謎種族のスキルや魔法、持ち前の明るさと行動力で、危険な森で快適な生活を目指します!  ♢ ♢ ♢ 所謂、異世界転生ものです。 初めての投稿なので、色々不備もあると思いますが。軽い気持ちで読んでくださると幸いです。 誤字や、読みにくいところは見つけ次第修正しています。 内容を大きく変更した場合には、お知らせ致しますので、確認していただけると嬉しいです。 「小説家になろう」様「カクヨム」様でも連載させていただいています。 ※7月10日、「カクヨム」様の投稿について、アカウントを作成し直しました。

条件付きチート『吸収』でのんびり冒険者ライフ!

ヒビキ タクト
ファンタジー
旧題:異世界転生 ~条件付きスキル・スキル吸収を駆使し、冒険者から成り上がれ~ 平凡な人生にガンと宣告された男が異世界に転生する。異世界神により特典(条件付きスキルと便利なスキル)をもらい異世界アダムスに転生し、子爵家の三男が冒険者となり成り上がるお話。   スキルや魔法を駆使し、奴隷や従魔と一緒に楽しく過ごしていく。そこには困難も…。   従魔ハクのモフモフは見所。週に4~5話は更新していきたいと思いますので、是非楽しく読んでいただければ幸いです♪   異世界小説を沢山読んできた中で自分だったらこうしたいと言う作品にしております。

【R18】温和はオトメをもっと上手に愛したい

鷹槻れん
恋愛
『オトメは温和に愛されたい』 https://estar.jp/novels/25594070 の温和(はるまさ)視点バージョンです。 鈍感な彼女が相手だと、素直になれない彼はうまく思いが伝えられなくて大変です。 ※のんびりゆっくりな気まぐれ不定期更新です。  ストーリー自体の先が気になるかたは彼女視点の『オトメは温和に愛されたい』は完結済みですのでそちらをお読み頂ければと思います💦 ※2020/03/11連載開始 ―― ○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)  市瀬 雪様;  (エブリスタ)https://estar.jp/users/117421755  (ポイピク)https://poipiku.com/202968/ ○書き下ろしのため、公開後に加筆修正する場合が多いにございます。完結時に完成形になると思っていただけたら幸いです。 ※エブリスタでもお読みいただけます。

【R18】死に戻り悪役令嬢は悪魔と遊ぶ

三月べに
恋愛
死に戻りを繰り返し、三回目。もう嫌になっていた悪役令嬢・ディナ。 どうせ死ぬならちょっと遊ぼうと軽率に悪魔を召還したが、その悪魔と意気投合したために、遊びまくり。しかしそれでも、やはり死ぬ羽目になった。 後悔は一つ。悪魔・ゼノヴィスを泣かせてしまったことだけ。 四回目。どう生き抜こうか、またはどう死に戻らずに済むか、考えている間に頭痛を覚えた。その頭痛はあの悪魔が封じられている方へ近づくと痛みが和らぐと気付いて、会いに行った。すると、彼は前回を覚えていて、泣きながら生きている悪役令嬢を抱き締めた。 死に戻りを繰り返す悪役令嬢と、気のいい溺愛ヤンデレ悪魔は、今回はハッピーエンドを目指す! (※ざまぁも目指す! ヤンデレ悪魔とのらぶえっち!※)

聖女のおまけです。

三月べに
恋愛
【令嬢はまったりをご所望。とクロスオーバーします。】  異世界に行きたい願いが叶った。それは夢にも思わない形で。  花奈(はな)は聖女として召喚された美少女の巻き添えになった。念願の願いが叶った花奈は、おまけでも気にしなかった。巻き添えの代償で真っ白な容姿になってしまったせいで周囲には気の毒で儚げな女性と認識されたが、花奈は元気溌剌だった!

わたしは王国の盾!~美麗王太子に愛されてるのに気付かない影武者令嬢は、婚約者探しに奮闘する~

弥生ちえ
恋愛
【4話、約10,000文字の物語です】 **『相棒(バディ)とつむぐ物語』コンテスト一次選考通過いたしました!**  スタルージア辺境伯家は、『王国の盾をも凌駕するフルメタルアーマー』と評される武門第一のお家柄。その家系に生まれついたルルシアも、小さい頃から兄たちに交じって、剣を振るった脳筋令嬢。  難しい策略や、堅苦しい社交は苦手なルルシアは、母が国王の妹であったために頻繁に招かれていた王都での誘いを悉く断り続けていた。  そして、年頃となった彼女のもとへ今度は『王国の盾』として無視できない依頼が舞い込んでくる。それは、敵対勢力や周辺国からの暗殺者から幼馴染である王太子を護るため影武者となって欲しいと云うものだった。  ―――けどこれはただの依頼ではなく、別の思惑が絡んだものだったようなのだが……。  鈍感な脳筋令嬢はその思惑に気付くことができるのか!?じれじれ影武者ストーリー開幕!

処理中です...