ヤバい男に捕まった

喜楽直人

文字の大きさ
5 / 11

5.

しおりを挟む


 未知の感覚に耐え切れず、腰に回された腕を外そうと、弱弱しくも足掻いた莉子の手は、男の大きな手に絡めとられた。

 まるで恋人繋ぎのように。
 莉子の一本一本の指と指の間に、男の、骨の太い指が侵入して、隙間もないほど包まれる。
 半袖のシンプルなシャツから伸びる腕の、肌の感触。さらさらとしていて、無駄な肉のついていない手をしている。

 その手は、あまりにも熱かった。

 いいや、熱いのは莉子自身か。

 喉を滑る指の熱と、莉子の手とは明らかに違う骨格を持つ大きな手と、後ろから抱き締めてくる腕の逞しさ。
 莉子の背中を支えてくれる硬い身体も、腰に感じる、塊も。
 すべてが莉子を、熱く蕩けさせた。
 唇と重ねる角度を変える度に、頬を撫でていく男の前髪すら、官能を擽る。

 抗うことなど、すっかり莉子の頭からは消え失せ、感じるままにうっとりとして身を預けた。

 どれくらい、その熱を堪能しただろう。思わず両脚を擦りつけてしまうほど、身体の芯までぐずぐずに蕩けだした莉子から男の熱い唇が、離れていく。

 「ん゙んっ」思わず莉子はぐずった。
 頑是ない幼子のように、手を伸ばし引き寄せようとする。
 それと、自分から聞こえた、自分が出したとは思えない、甘えた声。

 こんな媚態、莉子はこれまで一度たりとも示したことが無かった。
 けれども今は、離れてしまった男の唇が与えてくれる喜びに、戻ってきて欲しくて仕方がなかった。
 蕩け切った顔をしている。
 莉子の誘う視線が、男の視線と熱く絡む。

 我慢できない、したくない、もっともっと欲しいのだと伝える視線が、男の手によって遮られた。
 
「こんなに感じ易いなんて。とろけた可愛い顔で、そんな風に誘惑しないで。今すぐここであなたのすべてを暴いてしまいたくなる。駄目だよ。元婚約者すら知らないあなたの可愛らしく蕩けていく姿は、僕だけが知っていればいい」

「お、お前。関係ない奴が、割り込んでくるな」

「あなたはもうこの可愛らしい人を捨てたんでしょう? ならば、それを拾った僕がこの人をどう愛でようと、それこそあなたに関係ないのでは?」

 冷たい声だった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

あなたのことなんて、もうどうでもいいです

もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。 元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

真実の愛がどうなろうと関係ありません。

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。 婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。 「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」 サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。 それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。 サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。 一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。 若きバラクロフ侯爵レジナルド。 「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」 フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。 「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」 互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。 その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは…… (予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)

愚者による愚行と愚策の結果……《完結》

アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。 それが転落の始まり……ではなかった。 本当の愚者は誰だったのか。 誰を相手にしていたのか。 後悔は……してもし足りない。 全13話 ‪☆他社でも公開します

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

9時から5時まで悪役令嬢

西野和歌
恋愛
「お前は動くとロクな事をしない、だからお前は悪役令嬢なのだ」 婚約者である第二王子リカルド殿下にそう言われた私は決意した。 ならば私は願い通りに動くのをやめよう。 学園に登校した朝九時から下校の夕方五時まで 昼休憩の一時間を除いて私は椅子から動く事を一切禁止した。 さあ望むとおりにして差し上げました。あとは王子の自由です。 どうぞ自らがヒロインだと名乗る彼女たちと仲良くして下さい。 卒業パーティーもご自身でおっしゃった通りに、彼女たちから選ぶといいですよ? なのにどうして私を部屋から出そうとするんですか? 嫌です、私は初めて自分のためだけの自由の時間を手に入れたんです。 今まで通り、全てあなたの願い通りなのに何が不満なのか私は知りません。 冷めた伯爵令嬢と逆襲された王子の話。 ☆別サイトにも掲載しています。 ※感想より続編リクエストがありましたので、突貫工事並みですが、留学編を追加しました。 これにて完結です。沢山の皆さまに感謝致します。

婚約破棄、別れた二人の結末

四季
恋愛
学園一優秀と言われていたエレナ・アイベルン。 その婚約者であったアソンダソン。 婚約していた二人だが、正式に結ばれることはなく、まったく別の道を歩むこととなる……。

嘘からこうして婚約破棄は成された

桜梅花 空木
恋愛
自分だったらこうするなぁと。

処理中です...