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継続★美少女騎士団長
1.美少女騎士団長ゴルドちゃん
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空はまだ濃い藍色をしており、星が瞬いていた。
王城内ではまだベッドの中にいる者がほとんどで、むしろようやく就寝に至った者もいる程度には、夜と言っていい時間だった。
だがすでに仕事場で作業を始めている者も少なからずいる。
たとえば、下働きの者たちなどがそうだ。それぞれの持ち場で眠い目を擦りながら仕事についていた。
厨房では井戸から水を汲んだり野菜の泥を落したりし始めているし、掃除係は昼間では人通りが多過ぎてできない目の付く場所を、這いつくばって掃除をしていた。
それだけではない。
屈強な騎士たちも、この時間すでに訓練場で己の限界という枠を押し広げるための努力をしていた。
筋肉を傷めつけ、より頑強な身体へと作り替え、理想の剣筋を極めるための基礎練習は地味でただただ疲れる。しかしそれを疎かにするような者は、この国の騎士には誰もいなかった。
彼らはかつて、誰もが本気で今日の戦場で命を落とすことになると考え、その恐怖に打ち勝つために日々を鍛錬を積んできた。
妖術を使う魔族との戦いを前に、人にできることなど人海戦術で押し寄せていくしかない。それでも少しでも己を高め、家族を国を護るため日々切磋琢磨していた。
そうして、神の御業をもって魔族が退けられた今も、尊敬できる上司や先輩方を失った悔しさやもっと何かができたのではないかという後悔を胸に、騎士たちは今も己を叱咤するように、声を張り上げ鍛錬に勤しんでいるのだ。
その声が、しばらく前から、聞こえない。
いや、鍛錬自体はされている。騎士たちは皆本気で己の限界を超えようとしている。それは変わっていない。
「きゃあっ」
踵の高い赤い靴を履いた華奢な足が、砂地に踵を取られたのか、滑って膝をつく。
「わははは。我ながら面白いモノであるなぁ。咄嗟に出る声は、まるで女性だ」
悲鳴を上げて転んだ美少女が、自分で上げた悲鳴に対してツッコんでいた。
特に痛がる様子もない。笑顔のその瞳は、藍色に金の星が飛んでいる。まるでゴルドがいま見上げている、夜明け前の空そのもののようだった。
そうして周囲は、その美少女のひとりごちた言葉に向かってツッコみたくて仕方がなかった。
『『『その自分ツッコミの声も、女性そのものです!!』』』
「あの、ゴ、……お怪我は?」
「すまんすまん。しかし、この身体はどうにも脆い。筋肉もつかなくて、いかんなぁ」
ガハハと笑って、ほつれてきた髪をそっと耳に掛けた。
嫋やかな指の動きは、見た目と裏腹に実に雑だ。纏めるつもりの動きのはずが、綺麗に編み込まれていた長い髪を解いてしまった。
まるで精巧な白磁人形のような美貌が、さらさらと音を立てて広がる美しい銀の髪、銀の川の向こうへと隠されてしまった。
空で瞬く星々よりも輝く銀色の髪は、じゃんけんで勝利をおさめた専属侍女の手で花の形に編み込まれていた。
着ている物も新しくなっていた。生地から切り出したパーツを縫い合わせたのではなく、希少な白金繭から作った糸を惜しげなく使って立体的に編み上げられている。
本来ならば、王族がフルアーマーの下に身に着けるような、薄くて軽いアンダーウエアを作るために生みだされた技法だ。
縫い合わせることがないので薄く、軽くてしなやかだ。しかも白金繭の特性により、少しの剣げきを直接受けても貫通することはない。
魔族の妖術には敵わなくとも、人の手でこれを打ち破ることは難しい。
本来ならば、王族以外が袖を通すなど許されるものではない。戦場で命を削って戦う大王アレクサンドルだけが身に着けることができるようなものだ。
しかし、今は違う。
聖女ゴルドが、真実その身を捧げて成した防御結界により、この世界の平和は為されたのだ。
ならば、その聖女ゴルドの身を護るために、その特別な衣が編まれるのは至極当然のことであった。
首から腰に掛けて花の形に編んだ紐で作ったボタンが並ぶその訓練着は、どこから見ても戦場には不似合いだ。
つまりこの訓練着は、王宮のドレス部のみならず衣装縫製部全員の感謝の祈りが込められている聖女の衣だった。
特製の布製コルセットの上に、自ら発光しているような輝きを持つ白金繭の訓練着を身に着けているゴルドは、見る者に銀色の花束を彷彿させる。まるで花の妖精だ。
勿論、本人にはその自覚はない。
「まぁ仕方がない。俺があの身体を作り上げるまで35年掛ったんだ。もう35年……いや倍の70年掛けて、もう一度作り上げていくしかないな」
ブツブツと検証に勤しんでいる。ひとり言にしてはなかなかの大きな声だ。
それでも鈴を転がすようなその声に悲愴感はまるでなく、むしろ楽し気ですらある。
「あぁいかんいかん。心拍数が177を超えてしまったぞ。休憩を取らねば。また倒れてしまっては、今度こそアレクサンドル様より訓練の中止を申し付けられる」
深層筋を鍛えるのには時間が掛かるし根気がいる。
そうして、当然だが体力をつけるための筋力トレーニングにも時間が掛かる。
どちらも一気に鍛えたいゴルドは、深層筋トレーニングを休憩として、走り込みと素振りを一日中交互に行ってぶっ倒れたのだ。
『ゴルドよ。乙女の身体は柔らかいものだと、あと何回言えばお前の頭に常識として残るのだ』
悲しそうなアレクサンドル様から極々至近距離で顔を覗き込まれてしまい、ゴルドはどれだけ焦った事だろう。
あの時の心拍数は今の177より上だった。200を優に超えていた。非常に危険な状況だった。
まだ怒鳴りつけられた方がマシだった。呆れられるのでもいい。
それならばゴルドも堂々と反論できるというものだ。
「王を悲しませるなど、臣下としてあってはならぬことだからなぁ」
己の理想の姿を手に入れつつ、王を悲しませることのないように。
ゴルドは自身の筋力トレーニング計画を綿密に立て直した。
その後姿を、遠くからじっと見つめる陰があった。
「ふん。あのような小娘がゴルド騎士団長なものか。私は騙されん。その化けの皮を剥がしてみせる」
空はまだ濃い藍色をしており、星が瞬いていた。
王城内ではまだベッドの中にいる者がほとんどで、むしろようやく就寝に至った者もいる程度には、夜と言っていい時間だった。
だがすでに仕事場で作業を始めている者も少なからずいる。
たとえば、下働きの者たちなどがそうだ。それぞれの持ち場で眠い目を擦りながら仕事についていた。
厨房では井戸から水を汲んだり野菜の泥を落したりし始めているし、掃除係は昼間では人通りが多過ぎてできない目の付く場所を、這いつくばって掃除をしていた。
それだけではない。
屈強な騎士たちも、この時間すでに訓練場で己の限界という枠を押し広げるための努力をしていた。
筋肉を傷めつけ、より頑強な身体へと作り替え、理想の剣筋を極めるための基礎練習は地味でただただ疲れる。しかしそれを疎かにするような者は、この国の騎士には誰もいなかった。
彼らはかつて、誰もが本気で今日の戦場で命を落とすことになると考え、その恐怖に打ち勝つために日々を鍛錬を積んできた。
妖術を使う魔族との戦いを前に、人にできることなど人海戦術で押し寄せていくしかない。それでも少しでも己を高め、家族を国を護るため日々切磋琢磨していた。
そうして、神の御業をもって魔族が退けられた今も、尊敬できる上司や先輩方を失った悔しさやもっと何かができたのではないかという後悔を胸に、騎士たちは今も己を叱咤するように、声を張り上げ鍛錬に勤しんでいるのだ。
その声が、しばらく前から、聞こえない。
いや、鍛錬自体はされている。騎士たちは皆本気で己の限界を超えようとしている。それは変わっていない。
「きゃあっ」
踵の高い赤い靴を履いた華奢な足が、砂地に踵を取られたのか、滑って膝をつく。
「わははは。我ながら面白いモノであるなぁ。咄嗟に出る声は、まるで女性だ」
悲鳴を上げて転んだ美少女が、自分で上げた悲鳴に対してツッコんでいた。
特に痛がる様子もない。笑顔のその瞳は、藍色に金の星が飛んでいる。まるでゴルドがいま見上げている、夜明け前の空そのもののようだった。
そうして周囲は、その美少女のひとりごちた言葉に向かってツッコみたくて仕方がなかった。
『『『その自分ツッコミの声も、女性そのものです!!』』』
「あの、ゴ、……お怪我は?」
「すまんすまん。しかし、この身体はどうにも脆い。筋肉もつかなくて、いかんなぁ」
ガハハと笑って、ほつれてきた髪をそっと耳に掛けた。
嫋やかな指の動きは、見た目と裏腹に実に雑だ。纏めるつもりの動きのはずが、綺麗に編み込まれていた長い髪を解いてしまった。
まるで精巧な白磁人形のような美貌が、さらさらと音を立てて広がる美しい銀の髪、銀の川の向こうへと隠されてしまった。
空で瞬く星々よりも輝く銀色の髪は、じゃんけんで勝利をおさめた専属侍女の手で花の形に編み込まれていた。
着ている物も新しくなっていた。生地から切り出したパーツを縫い合わせたのではなく、希少な白金繭から作った糸を惜しげなく使って立体的に編み上げられている。
本来ならば、王族がフルアーマーの下に身に着けるような、薄くて軽いアンダーウエアを作るために生みだされた技法だ。
縫い合わせることがないので薄く、軽くてしなやかだ。しかも白金繭の特性により、少しの剣げきを直接受けても貫通することはない。
魔族の妖術には敵わなくとも、人の手でこれを打ち破ることは難しい。
本来ならば、王族以外が袖を通すなど許されるものではない。戦場で命を削って戦う大王アレクサンドルだけが身に着けることができるようなものだ。
しかし、今は違う。
聖女ゴルドが、真実その身を捧げて成した防御結界により、この世界の平和は為されたのだ。
ならば、その聖女ゴルドの身を護るために、その特別な衣が編まれるのは至極当然のことであった。
首から腰に掛けて花の形に編んだ紐で作ったボタンが並ぶその訓練着は、どこから見ても戦場には不似合いだ。
つまりこの訓練着は、王宮のドレス部のみならず衣装縫製部全員の感謝の祈りが込められている聖女の衣だった。
特製の布製コルセットの上に、自ら発光しているような輝きを持つ白金繭の訓練着を身に着けているゴルドは、見る者に銀色の花束を彷彿させる。まるで花の妖精だ。
勿論、本人にはその自覚はない。
「まぁ仕方がない。俺があの身体を作り上げるまで35年掛ったんだ。もう35年……いや倍の70年掛けて、もう一度作り上げていくしかないな」
ブツブツと検証に勤しんでいる。ひとり言にしてはなかなかの大きな声だ。
それでも鈴を転がすようなその声に悲愴感はまるでなく、むしろ楽し気ですらある。
「あぁいかんいかん。心拍数が177を超えてしまったぞ。休憩を取らねば。また倒れてしまっては、今度こそアレクサンドル様より訓練の中止を申し付けられる」
深層筋を鍛えるのには時間が掛かるし根気がいる。
そうして、当然だが体力をつけるための筋力トレーニングにも時間が掛かる。
どちらも一気に鍛えたいゴルドは、深層筋トレーニングを休憩として、走り込みと素振りを一日中交互に行ってぶっ倒れたのだ。
『ゴルドよ。乙女の身体は柔らかいものだと、あと何回言えばお前の頭に常識として残るのだ』
悲しそうなアレクサンドル様から極々至近距離で顔を覗き込まれてしまい、ゴルドはどれだけ焦った事だろう。
あの時の心拍数は今の177より上だった。200を優に超えていた。非常に危険な状況だった。
まだ怒鳴りつけられた方がマシだった。呆れられるのでもいい。
それならばゴルドも堂々と反論できるというものだ。
「王を悲しませるなど、臣下としてあってはならぬことだからなぁ」
己の理想の姿を手に入れつつ、王を悲しませることのないように。
ゴルドは自身の筋力トレーニング計画を綿密に立て直した。
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