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同盟国の王太子
2.可哀想な聖女ルー
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「おーい! オウジサマも連れていかんか」
小さくなっていく背中へ向かって、ゴルドが叫ぶ。
だがゴルドの鈴を転がすような声が、遠くなっていくラザルの耳まで届くことはなかった。
「うーん。どうするべきか」
そのまま王城内へと消えていく背中に、頭を掻く。
「失礼しました、聖女ルー。改めまして、ベルターニャ国第一王子のデチモと申します。少し強引な手を使ってしまったことを謝ります。どうしても、ひと目あなたにお会いしたくて。こうして会いに来てしまいました」
重ねたままであった手を引き寄せられ、きゅっと握りしめられた。
ベルターニャ国の男性は、目の前に女性がいたならば褒めて口説き文句を言わねば死んでしまうと言われている。だから今のゴルドを前にしてこの程度の言葉を口にしたとしても本気にする必要はない。気にしても疲れるだけだ。
しかし、それといつまでも手を取られていることは別である。ゴルドは手を引き戻そうとした。
だが、しっかりと握りしめられていて離れない。
「デチモ王子。手を、離していただいても?」
何故、いつまでも手を繋いでいたがるのか分からず、ゴルドは首を傾げた。
視線が合うと、微笑み返される。
「そんなにつれないことを言わないでください、聖女ルー。どうかこのまま、私にあなたをエスコートする栄誉を与えていただけないでしょうか」
「俺にはエスコートなど必要ありません」
「“おれ”、ですか」
デチモが呟く。きゅっと寄せられた眉の下で、その目は痛ましいものを見るように、揺れている。
その呟きはちいさすぎて、ゴルドには聞き取れなかった。
「何か言いましたか?」
フルフルと首を横に振りつつも、デチモは哀れみの言葉を続けた。
「かわいそうに。こんなにも幼い少女の華奢な手に、剣を握ることを強制するなど。外道のすることです」
「? いや。俺は、この手を離して欲しいと言っているだけなのですが」
「あぁ、聖女ルー。愛される為に生まれてきたあなた。可愛らしい女性であるあなたを守る騎士として、どうかこの私を選んで下さいませんか。──アレクサンドル大王ではなく」
ボクッ。
「う・ぎゃーーーーーーっ!」
伸びてきた腕に殴りつけられて、デチモの顔が変形しながら飛んでいく。
どがっ。ずしゃーっ。ボテッ。ボデ。
宙を舞ったデチモが顔から地面へと激突したが勢いを止められず、そのまま二回ほど地面で跳ねて、ようやく止まった。いや、転んだ。
「い、いたい! いたいいたいいたいいたいいたいいたい!!!!! 私は、ベルターニャ国の王太子、デチモ第一王子だぞ! 不敬らぞっ! 死にひゃいのはっ?!」
「あぁ? “へるひゃーにゃのおうひゃひひれひもらいいひおうひ”? 何を言ってるんだ、お前は。一度死んでみるか?」
「ひっ。ああああああああああれくひゃんろる大王!!」
「うるさい。黙れ。変な声を出すな」
「ひゃい!」
きゃんっ、とひと声泣いて、デチモが地面へと直接座り込んだ。そのまま額を擦りつけるようにして身体を伏せ、ガタガタと震えていた。
「アレクサンドル様。その辺でお鎮まり下さい。その方は同盟国であるベルターニャ国の王太子デチモ殿下だそうです。その、ラザルの帰国について、入国されたのだそうです」
「なんだ、不法入国者か。処刑だな」
ゴルドの説明に端的に答えを出すと、アレクサンドルは腰布に差してきた剣の柄へと手を掛けた。そのままかちりと鞘の安全装置を外してみせる。
「ひゃっ!! ひゃめれくらひゃい! あれくひゃんろるらいおうひゃま! おりひを」
デチモはその音を聞いた瞬間、地面から飛び上がると、そのまま後方へと1m近く下がって再び額を地面へと擦りつける体勢に戻った。
これはベルターニャ国で、平民が王族に謁見を賜る時などに用いられるずっと上位の存在に対する正式な礼の取り方らしい、とゴルドは自らの中にある神の知識を取り出してほほーっと眺めた。
知識で知っているだけなのと、実際に目にするのでは迫力が違うなどと呑気に考えていたが、ハタとこのままでは外交問題になると仲裁に入ることにした。
「ベルターニャ国の男性に、女性を前にして口説き文句を口にするなという方が無理らしいですからな。それにその御仁は妻帯者です。かわいい娘御もいるそうですから。あまり気にせず」
「なんだと。子供もいるのに、他の女の騎士になりたがるとは。なんという不埒者だ。コロス。その方が、世のためになる」
「ひがいまふ。ひょうひういみれは……あっ、あっ。おひゃめくらはい、あれくひゃんろるらいおうひゃま! おひゅ、おひゅるひをぉ」
「うーむ。さっきから何を言ってるのか、全然わからん」
「あんたが力いっぱい殴ったりしたからでしょう」
「婚約者に迫っている男がいたら、全力で排除するのは当然の権利だろう」
「まったくもう。どうするんですか。事情聴取をするにしても、歯が抜けてしまっていますから会話するにも空気が抜けて発音が不鮮明になってますよ。この頬の傷も、抜けた歯が刺さってますから全治半年は掛かるんじゃないですか」
「すぐに処刑するのだから、問題ない」
「同盟国の王太子殿下ですよ」
頭の上で交わされる不穏な会話に、デチモが震える。
「こいつは不法入国者で、俺の婚約者に手を出したんだぞ。処刑されて当然だろ」
「せっかく平和になったのに。戦争の火種を起こしては駄目でしょう」
「ふむ。ではやはり証拠隠滅するしかないか。埋めるか」
悪い顔をして笑ったアレクサンドルの手が、デチモへ向かって伸ばされた。
「おーい! オウジサマも連れていかんか」
小さくなっていく背中へ向かって、ゴルドが叫ぶ。
だがゴルドの鈴を転がすような声が、遠くなっていくラザルの耳まで届くことはなかった。
「うーん。どうするべきか」
そのまま王城内へと消えていく背中に、頭を掻く。
「失礼しました、聖女ルー。改めまして、ベルターニャ国第一王子のデチモと申します。少し強引な手を使ってしまったことを謝ります。どうしても、ひと目あなたにお会いしたくて。こうして会いに来てしまいました」
重ねたままであった手を引き寄せられ、きゅっと握りしめられた。
ベルターニャ国の男性は、目の前に女性がいたならば褒めて口説き文句を言わねば死んでしまうと言われている。だから今のゴルドを前にしてこの程度の言葉を口にしたとしても本気にする必要はない。気にしても疲れるだけだ。
しかし、それといつまでも手を取られていることは別である。ゴルドは手を引き戻そうとした。
だが、しっかりと握りしめられていて離れない。
「デチモ王子。手を、離していただいても?」
何故、いつまでも手を繋いでいたがるのか分からず、ゴルドは首を傾げた。
視線が合うと、微笑み返される。
「そんなにつれないことを言わないでください、聖女ルー。どうかこのまま、私にあなたをエスコートする栄誉を与えていただけないでしょうか」
「俺にはエスコートなど必要ありません」
「“おれ”、ですか」
デチモが呟く。きゅっと寄せられた眉の下で、その目は痛ましいものを見るように、揺れている。
その呟きはちいさすぎて、ゴルドには聞き取れなかった。
「何か言いましたか?」
フルフルと首を横に振りつつも、デチモは哀れみの言葉を続けた。
「かわいそうに。こんなにも幼い少女の華奢な手に、剣を握ることを強制するなど。外道のすることです」
「? いや。俺は、この手を離して欲しいと言っているだけなのですが」
「あぁ、聖女ルー。愛される為に生まれてきたあなた。可愛らしい女性であるあなたを守る騎士として、どうかこの私を選んで下さいませんか。──アレクサンドル大王ではなく」
ボクッ。
「う・ぎゃーーーーーーっ!」
伸びてきた腕に殴りつけられて、デチモの顔が変形しながら飛んでいく。
どがっ。ずしゃーっ。ボテッ。ボデ。
宙を舞ったデチモが顔から地面へと激突したが勢いを止められず、そのまま二回ほど地面で跳ねて、ようやく止まった。いや、転んだ。
「い、いたい! いたいいたいいたいいたいいたいいたい!!!!! 私は、ベルターニャ国の王太子、デチモ第一王子だぞ! 不敬らぞっ! 死にひゃいのはっ?!」
「あぁ? “へるひゃーにゃのおうひゃひひれひもらいいひおうひ”? 何を言ってるんだ、お前は。一度死んでみるか?」
「ひっ。ああああああああああれくひゃんろる大王!!」
「うるさい。黙れ。変な声を出すな」
「ひゃい!」
きゃんっ、とひと声泣いて、デチモが地面へと直接座り込んだ。そのまま額を擦りつけるようにして身体を伏せ、ガタガタと震えていた。
「アレクサンドル様。その辺でお鎮まり下さい。その方は同盟国であるベルターニャ国の王太子デチモ殿下だそうです。その、ラザルの帰国について、入国されたのだそうです」
「なんだ、不法入国者か。処刑だな」
ゴルドの説明に端的に答えを出すと、アレクサンドルは腰布に差してきた剣の柄へと手を掛けた。そのままかちりと鞘の安全装置を外してみせる。
「ひゃっ!! ひゃめれくらひゃい! あれくひゃんろるらいおうひゃま! おりひを」
デチモはその音を聞いた瞬間、地面から飛び上がると、そのまま後方へと1m近く下がって再び額を地面へと擦りつける体勢に戻った。
これはベルターニャ国で、平民が王族に謁見を賜る時などに用いられるずっと上位の存在に対する正式な礼の取り方らしい、とゴルドは自らの中にある神の知識を取り出してほほーっと眺めた。
知識で知っているだけなのと、実際に目にするのでは迫力が違うなどと呑気に考えていたが、ハタとこのままでは外交問題になると仲裁に入ることにした。
「ベルターニャ国の男性に、女性を前にして口説き文句を口にするなという方が無理らしいですからな。それにその御仁は妻帯者です。かわいい娘御もいるそうですから。あまり気にせず」
「なんだと。子供もいるのに、他の女の騎士になりたがるとは。なんという不埒者だ。コロス。その方が、世のためになる」
「ひがいまふ。ひょうひういみれは……あっ、あっ。おひゃめくらはい、あれくひゃんろるらいおうひゃま! おひゅ、おひゅるひをぉ」
「うーむ。さっきから何を言ってるのか、全然わからん」
「あんたが力いっぱい殴ったりしたからでしょう」
「婚約者に迫っている男がいたら、全力で排除するのは当然の権利だろう」
「まったくもう。どうするんですか。事情聴取をするにしても、歯が抜けてしまっていますから会話するにも空気が抜けて発音が不鮮明になってますよ。この頬の傷も、抜けた歯が刺さってますから全治半年は掛かるんじゃないですか」
「すぐに処刑するのだから、問題ない」
「同盟国の王太子殿下ですよ」
頭の上で交わされる不穏な会話に、デチモが震える。
「こいつは不法入国者で、俺の婚約者に手を出したんだぞ。処刑されて当然だろ」
「せっかく平和になったのに。戦争の火種を起こしては駄目でしょう」
「ふむ。ではやはり証拠隠滅するしかないか。埋めるか」
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