聖女さま、御降臨~元ガチムチ騎士団長は美少女聖女さまにTS中♡

喜楽直人

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同盟国の王太子

6.後方養父?できました

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「聖女さま。アレクサンドル大王に、ご家族や友人を人質に取られている訳では、ないのですね」
「おい」

 突然のデチモの口から飛び出した難癖に鼻白んだアレクサンドルを、ゴルドは手で制した。
 まっすぐにデチモと視線を合わせて頷く。

「勿論です。俺は、俺の意思で、アレクサンドル様のお傍にいるのです。確かに最初は親に決められた主従、それだけでした。だが、今の俺は違います。俺が尊敬して止まないのは、大王アレクサンドル御一人です」

 夜明け前の空のような濃い藍色に金色の星が飛ぶ美しい瞳がまっすぐにデチモを見返していた。

 大人たちの思惑や陰謀すら飲み込んで尚輝く穢れなき瞳に、今すぐにでもベルターニャ国へ連れ去ってしまいたくなる。
 愛らしい笑顔に似合うドレスを着せ、好きな物を好きなだけ食べさせ、笑って愛する我が娘や妻と同じだけの幸せを与えたい。

 聖女ルーには、どんなドレスが似合うだろうか。いいや、どんなドレスでも似合うだろう。娘や妻と色違いコーディネートもいい。
 家族皆で仲良くお茶やお菓子を楽しむ姿を想像して、デチモは脂下がった。
 想像だけで、胸がいっぱいの多幸感に包まれるのだ。実現した際には、どれだけの感動がデチモに押し寄せるだろう。

 だが、それ等は結局デチモの欲でしかない。

 彼女自身が望むことは、まるで別のものなのだ。彼女が努力していること、その覚悟を支えることこそ真に彼女なのだと、デチモは理解したのだから。

 だから──

「そうですか。聖女さま、あなた様はお強いのですね。ならば、いいのです。我が国ベルターニャ国は聖女さまの御心に従いましょう」

 デチモは自らの欲を押し退け歯を食いしばって、ベッドの上で深く頭を下げた。

 覚悟を決めてあったとはいえ、辛かった。ぎりりと口元から音が漏れるほどだった。

 そうして強く歯を食いしばったので、医師から言われた通りに、再び傷が開いた。

 大量に出血して、怒られながら麻酔を兼ねた眠り薬なしで処置をされたのは仕方がないだろう。



***



「同盟国の王太子殿を強制送還することにならずに済んでホッとしている」

 ようやくデチモの傷も治り、帰国の途に就くことになった。
 最後まで入国したことすら内密のままであった同盟国の王子を見送る者はアレクサンドルとゴルドだけだ。
 むりやり連れてこられた側近が安堵の涙を流していた。王太子と共に帰国できることを彼ほど喜んでいる者はいないだろう。きっと何度も終わりだと思ったに違いない。
 異国の王子たち一行の不法入国を手引きしたラザルは、国境まで王子を送っていく役を申し付けられてしょんぼりしている。
「ようやくゴルド様の下に戻れたのに」
 実際のところ、ラザルが不法行為をしでかしたのは事実であり、こんなに軽い罰で済んだことを感謝するべきなのだ。それを分かっているので、不平不満を口に出してはいない。表情には如実に表れているが。

 青い空の下で、デチモは輝くような笑顔を見せた。

「ははは。そうなっては困りますな。聖女さまのご成婚時には、未来の養父として、たくさんの嫁入り道具を持って馳せ参じるつもりですからね。義理の娘に恥を掻かせるつもりはありません。聖女さま、それまでどうか心やすらかに。養父を自任するこのデチモが戻ってくる日までの、ご健勝とご多幸をお祈りしております」
「かたじけない」

 デチモの言葉に、ゴルドは内心のツッコミを我慢しながらにこやかに手を差し出した。
 その手をうやうやしく受け取ったデチモは、その指先へ軽く唇を寄せる。

「聖女様が助けを求められた時、それがどんな状況であろうとも、我がベルターニャ国はあなた様に手を差し伸べることを誓いましょう」

 わざとらしく、アレクサンドルへ視線を向けることも忘れない。
 周囲は無駄に煽らないで欲しいとハラハラしていたが、今更だ。

「どういう意味だ」
「あはは。アレクサンドル大王は、聖女さまのことになると本当に心が狭くなる。これは美しい女性に対する礼を尽くすのは当然のことですよ。では、またお会いしましょう」

 去っていく小隊に、ゴルドは手を振った。
 遠くなっていく姿に、アレクサンドルが呟く。

「なぁ、お前の両親はまだ健在だったよな」
「ふたりとも、手や足が一本無くなっております故、健在だと言い切るのは難しいです。ですがそうですね、しぶとく生き残っておりますよ」

 ふたりとも武勇に優れ、魔族との戦いで傷ついてもなお剣を弓や鞭に持ち替えて戦場に立ち続けた猛者だ。

 ゴルドの完全回復パーフェクトヒーリングが、戦場すべてに効果があるものであったなら、その傷も癒されたのかもしれない。だがそもそも、あの時ゴルドの頭にはアレクサンドルのことしかなかった。

 もし癒すことができていたならと思うこともあった。だがゴルドは、二兎を追うものは一兎も得られないと知っている。

 手に入れた幸運以上を求めることはしない。
 これまでも。これからも。

「はぁ。絶対に他にもいろいろ勘違いしてるぞ、あいつ」
「いいではありませんか。進む道が並行していようとも、お互いが顔を上げて進む先が同じ光ある場所ならば僥倖。それで十分ですよ」



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