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2.『君は僕と恋をする』は、キング・オブ・糞ゲーです

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 逆ハールートの存在しない『キミコイ』だが、実際には攻略対象者すべての好感度をある程度上げなくては、ラストの断罪シーンを成功させることはできなくなる。
 ゴーリオの好感度が低いと断罪前にヒドインは奴隷商に捕まえられて売られてしまうし、マージクの好感度が低いと選んだ攻略対象者の婚約者家の罪を暴く切欠を見つけることができなくなるので、そもそもの攻略対象者を振り向かせることができなくなる。
 この手の乙女ゲーには珍しく、攻略対象者たちはそれぞれの婚約者に対して恋愛的な想いは抱いていないが、政略による婚約相手として敬意を持っているので、ただ横恋慕を仕掛けても発生するイベントはことごとく失敗することになる。
 歯牙にも掛けられないんだな、これが。
 つまり、イベントを進めていくには全ての攻略対象者に対してある程度以上の好感度が必要になる。これが結構大変なのだ。『三回話し掛ければ口説ける』だの、『これをプレゼントすればOK』だの『選択肢を間違えなければイケる』などといった温いフラグですらない。

 たとえば、オッジ殿下の好感度をキープしたければ、年三回あるテストで高得点を取らなくてはならない。内容は、ゲーム冒頭にだらーっと流れてくるだけのダーラク王国史に関するテストを三択問題とはいえ五十問ずつ。あんな小さい文字で無茶いうなってネットは大騒ぎとなった。……ちょっと嘘だ。だって人気低かったからね。でも文句をいうユーザーが多かったのは本当だ。私も声を上げたクチだ。

 オーリゴの好感度を上げる方法もかなり酷い。まずは奇数月第一週にランダム発生する出会いイベントに成功して彼を発見しなければならない。いる場所がランダムなので見当をつけて探しに行ってもいないし、殿下からの誘いを断ることもできずに泣きそうになる。更に年に一回ある運動テストで高得点を取らなくては、それまで貯めた好感度が一気に下がる。酷い。

 そしてこの運動テストがとにかく惨いのだ。横スクロールの画面に立っている柱に駆け寄り、光ったタイミングで◎×△□ボタンを押せという洒落にならないレベルで激ムズだった。

 オッジ殿下だけは強制イベントなので何もしないでも出会えるし、その後にもいろいろ起きてくるけれど、他の攻略対象者の好感度を上げなくては攻略は行き詰まる。まったくもって、どこの本格RPGゲームかと憤るユーザー達は多かった。

 カンパニは一人だけクラスが違うから出会いイベントが発生するタイミングが難しくて大変だったっけ。多分、ヒドインちゃんもそんな感じだったのかも、……って、嫌だ。この世界でもあの乙女ゲームの攻略法がそのまま通用するかどうかもわからないのに。つい囚われてしまいそうになる。駄目ね。
 乙女ゲームの攻略なんか関係なく、ただカンパニの好感度を上げたくなかっただけかもしれないのに。

 とにかく、逆ハーがない癖に攻略対象者すべてを視野に入れて攻略を進めていかないとあっという間に詰んでしまう『キミコイ』。コンプ厨としてはなかなか燃えるものがあって、だから前世の私もかなり周回しまくった訳なんだけど。

 それでも、この攻略の難しさ以外にも、キング・オブ・糞ゲーという称号を付けられたのには理由がある。

 まぁいいや。とにかくヒドインちゃんがメイン攻略対象であるオッジ殿下と一緒になってビジョンヌ様を断罪しているということは、私ヴィア・シシャックが、末席悪役令嬢というものにならずに済んだことができたって事だ!

 そう思うと、それだけで晴れやかな気持ちで一杯だった。

 これで心置きなく、今日の卒業を寿ぐことができるってものだ。ヒャッホー!

 私は心の中で喝采を上げ、すっかり温くなってしまっていたグラスの中身を、未だに続いている断罪に向かって捧げ持ち、笑顔で中に入っていたワインを飲み干した。

 今夜はお祝いだ!
 


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