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4.キング・オブ・糞ゲーは誉め言葉じゃありません

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 キング・オブ・糞ゲー(乙女ゲーム部門)、神絵師の無駄遣い『キミコイ』

 アレは本当に絵師さんが可哀想だった。だってさ、本当に美麗絵な絵師さんなんだよ。他ゲースチルの尊さに涙を流したことだってある。何度も。
 今作だって、ヒドインって嗤われるような性格をしていようともヒルデちゃんのビジュアルは完璧可愛かった。お約束すぎる淡い水色の髪と瞳も尊い、思わず抱き締めたくなるような美少女だった。正に神絵師様様だ。
 メイン悪役令嬢となるビジョンヌ公爵令嬢もメリハリボディの黒髪紅瞳美人でむしゃぶりつきたくなる様な美しさで最高だった。ちょいエロいドレスを着こなしたパケ絵は拝みたくなった。あ、ちなみに断罪されたパーティーで着てたドレスね。
 実家の悪逆非道がバレてオーリゴに取り押さえられた時に、床に広がるドレスの裾が美しかった。

 一人だけ、発売前から立ち絵が公開になっていたメイン攻略対象者であるオッジ王太子殿下も銀髪蒼瞳の麗しさでうっとりした。
 その時の台詞は定番だからこそ心に響いた。声優さんも売れっ子だったし、台詞つき動画広告にトゥインクした。
 ここまではいい。つまりメインストーリーな彼等のビジュアルは神絵師様の本領が発揮された素晴らしいものだったのだ。

 だが、オッジ王太子殿下の背後に、後ろ姿で並んでいた他の攻略対象たちが、よろしくない。全然、まったく、誰一人として萌えなかった。
 私だけじゃないよ。このゲームをした心は乙女なユーザー達の総意としての判決だ。有罪。それしかなかった。

 騎士団長子息オーリゴはまんまゴリマッチョ。体格だけじゃない。顔もゴリラそのものだったのだ。名前を逆に読むとゴリオってなると気が付いた人がネットで騒いだお陰でプチ炎上したほどだ。逞しいキャラがいるのは構わないけれど、イケメンじゃないと許されないでしょ。そもそも乙女ゲーなら細マッチョが基本の筈なのに。
 宰相子息マジクはひょろガリ眼鏡、しかも顔色の悪い陰険簾頭。最悪だ。神絵師様だったからこその無駄クオリティで描かれた頬のこけ具合といい、ハイライトの消えた瞳といい、いろんな意味でキモさが爆発していた。さらにこの男、口が悪いなんてもんじゃないのだ。スチルを集める為とはいえコイツの攻略に乗り出して心をバッキボキに折られた乙女は数知れず。しかも、マジクって名前だけど魔法が使える訳じゃない。『キミコイ』に魔法はなかった。奇術としてのマジックが趣味で、告白シーンで跪いて空中から鳩とか紙の花を散々取り出しては「これじゃない」「いや、これでもないな」とぽいぽい捨てる。そうして「あぁ、これだ。キミに、一番似合うのは、私だと思う」とか言い出して瞳の色と同じシトリンの指輪を差し出してくるのだ。正直、酷い演出すぎる。告白失敗してもちゃんと掃除して帰れよな。

 そして、最大の汚点が、准男爵で大商人の息子カンパニ・カルネモッチだ。
 天使の様な金色の巻き毛をした、チビでデブ。しかも口を開けは「僕には最高級品しか似合わない」と札束を持って居丈高に言い放つ。
 誰だよ、こんなの乙女ゲーの攻略対象者にするって決めたの。

 攻略するのも気が滅入る三人の攻略者たちは、攻略が進むと甘い言葉を口にするようになる。

 髪型や着る物だけマシになって、でも見た目と性格はほぼそのままの状態で。

 …………。

 イケメン無罪って本当なのよ。無駄に高い画力で描き出されたブサイクを攻略しなくちゃいけないだけでも心が折れそうになるのに、俺様目線の甘い台詞を言われても困るしかない。いや、確かに何度か噴き出したけどね。乙女ゲームにその手の笑いは求めてないのよ。何処に需要があるって運営は思ったんだろう。


「オリジナリティを履き違えている」というのが『キミコイ』が「キング・オブ・糞ゲー」と呼ばれた最大の理由だ。



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