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しおりを挟む町はずれのちいさな教会の前で、何が起こったのかまったく判らないまま、りんは泣きだしていた。周囲を見回してもまったく身に覚えのない街。すれ違う人は皆、現代の服と違う古めかしい中世の西洋風のものを着ていたし、髪の色はピンクや水色、緑などカラフルすぎる。でもなぜか話している言葉も、書いてある文字も日本語だったのでより混乱が深まった。
なにこれ、どうなってるの、私どうしたの?
混乱してぼたぼたと涙が溢れてきたところで、教会の扉が開いてシスターが出てきて、りんを保護してくれたのだった。
シスターの着ている服は、りんが知ってるそのままで、それだけでホッとして更に泣いて迷惑かけたっけ。
そうして私は、この世界が元の世界と少しズレたところに存在する、いわゆる異世界なのだと知ったのだった。
古い教会の記録では、ごく稀に他の世界から落ちてくる人のことが残されているらしい。
言葉が通じる時もあれば、まったく通じない時もあるそうで、「りんは通じてよかったね」と笑って言われた。確かに、これでまったく通じなかったら泣いただけでは済まないだろう。怖すぎる。時間とか距離の単位も一緒。めっちゃ気楽だけど、たまに本当に異世界にいるのか、実は盛大なドッキリイベントに紛れ込んだのかと考えてみたりもする。
窓の外、空を見上げると異世界なのだと思い知らされる。
ふたつ並んだ双子の月。
空を飛んでいく大きな竜。
街中を大きな荷物を載せて走るのは巨大なトカゲや足の沢山ある牛っぽい動物達だ。
目につくすべてが、ここは日本ではないのだと思い知らせてくる。
「こんなの、漫画とかゲームの中の話だと思ってたのにねー」
ベットの中に潜り、枕元のタイガに頬を摺り寄せると、うざいとばかりにするりとそこから脱出して足元に移動された。まぁいい。春と呼ばれる季節にはなったけどまだまだ日が暮れると寒い。足元が冷える季節だ。これもありだ。
そうなのよね、生活はそんなに変わらないのよ。人の形も。色が違うだけ。
薄い布団を掻き寄せる。今年の冬はいつもより暖かかったらしいからなんとか風邪もひかずに越せたけど寒い冬もあるだろう。それもいつかなんとかしないといけないな、そう思いながら、りんは眠りに落ちていった。
まだ外が薄暗い中、タイガに起こされる。毎朝のこととはいえ、ちょっと辛い。あと30分でいいからベッドの中にいたいと思うけれど、戻ったが最後、仕事に遅刻してしまうだろう。
日本と違い、就職するのに学歴とか言われないのはとても楽だ。勿論、面接と紹介状は必要だった。それは教会の神父さまとシスター、街の世話役が引き受けてくれた。
1か月、教会に併設されていた孤児院でお世話になった。そこで調理や掃除洗濯の手伝いをして過ごし、これなら一人で暮らしていけそうだと太鼓判を貰って仕事を探すことにした。
一人暮らしをできるだけの賃金を貰えるアヤシゲじゃないお仕事を探すのは結構大変で、住むところを探すのも大変だった。
結局、街の世話役さんの伝手で住み込みで雇ってくれる今の仕事を見つけることができた。
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