冷めたイモフライは本当は誰かに愛されたい

喜楽直人

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冷めたイモフライは本当は誰かに愛されたい

37.人造美人ふたたび

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 まったく手入れをせずにいたことで、縺れ放題で艶のない、薄汚れた赤味を帯びた灰色をしていたオリーの髪だったが、日々丁寧に櫛梳られ、香油を揉みこまれたことで今や艶を取り戻し、ローズグレイ色の髪となっていた。

 艶やかに巻き上げられて襟足や耳元でやわらかに揺れる後れ毛も、年齢相応の健康的な色気を生んでいる。

「エラさん、すごい」
「ふふふ。明日からはご自分でなさって下さいな」
「えー! 無理無理」

 きゃあきゃあと鏡を前に、ふざけ合う。
 そうでもしていないと、オリーは今すぐにでも、緊張で倒れそうだった。

「さぁ、できましたよ」

 それでも、エラの優しい声が「美人さんに仕上がりましたよ」と言われてしまったからには、覚悟を決めるしかない。

「ありがとう。マダムが作ってくれた人造似非美人とは、また違った美人に作って貰っちゃった」

 鏡の中のオリーは、オリーの頭の中に住んでいる良く見知った総菜屋の店員オリーとはまるで違っていた。
 そして、初めてマダムに化粧をして貰った時とも全然ちがう。あの時の様な化粧を塗りこめて作り上げた顔をしてはいなかった。
 そもそも毎日毎日繰り返された骨格すら変えてしまおうとでもいうようなマダムの顔面マッサージのお陰で、すっぴんの状態でだって今のオリーの顔はまるで記憶の中のオリーと違う顔をしているのだ。繋がり気味だったぼさぼさの眉毛を整え、口の周りに生えた濃い目の産毛も綺麗に剃られていることも大きいんだと思う。浮腫みも取れたことで団子鼻だって小さくなっている。
 今日は髪を結い上げているため、垂れ目も幾分かキリリとして見えるし、なんというかもう全然ベースの顔自体から完全に別物なのだ。
 そこにより美しくなるように計算された華やかな化粧が施されているのである。
 美しくて当然だ。
 前回の化粧より段違いに美しく見えるというのに、それでも全体的に薄い気がした。
 長い睫毛をくるんとカールさせた目元を弛ませ、艶やかな紅を塗った唇を弧を描よう動かし笑ってみても、皮膚がつっぱるような違和感を覚えることもなかった。
 たぶん、ベースとなるオリーの素顔自体が入念な手入れによって随分とマシな状態になったことで、誤魔化す為の化粧がある程度少なくなったことが大きいのだろう。

「さすがだわ。エラさんの化粧の腕は確かね!」

「またそういうことを仰る。オリー様はお美しくなりましたよ。所作も、表情も、会話の運び方も。素顔だって、全然別物になられたじゃありませんか」

「それだって、マダムとカリンおねえさまと、エラさんの手による合作じゃない。私は人造美人! それも今だけのね」

「もうっ」

 意見を譲ろうとしないオリーに呆れた様子のエラに向かって、オリーはぱちんとウインクを送って、もう一度「ありがとう、エラさん」と礼を告げた。



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