異世界にログインしたらヤンデレ暗殺者に執着された

秋山龍央

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第3話

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「いや、それにしてもすごい。最新のVRってこんなにリアルなのか?」

 通りを歩きつつ、おれはキョロキョロと周囲を見回す。

 先ほどは服や装備品、武器やペットを売っている通りだったが、歩いているうちに、今度は食べ物屋が並んだ通りに出た。

「らっしゃいらっしゃい! そこの兄さん、今日はいいオーク肉が入ってるよ!」

「マンドラゴラ、入荷してま~す。今朝、引き抜いたばかりですよ~」

「コカトリスの串揚げ、揚げたてだぜ!」

 店先に並んだ、おいしそうな果物、肉、パン……そのどれからも、かぐわしい香りが漂ってくる。

 そう、香りだ。

 なんとこのゲームでは、見事に香りまで再現されているらしい。たまらない香りに、おれの腹がぐうと音を立てた。

 これはもう、買ってみるしかないだろう。

 幸い、所持金はある。
 初期装備の一つで、3000金貨が支給されているのだ。

「店主、コカトリスの串揚げ一つ頼む」

「あいよ!」

 呼び込みを行っていた店の前で足を止めて、おれは店主に声をかけた。
 ニカッと白い歯を見せて笑った店主は、身長は二メートルほどはあろうかという大きな体躯で、肌の色は赤黒い。
 この店主だけではなく、通りを行きかう人々は、みんな色んな肌や目の色をしている。

 ちなみに、おれは元の日本人通りの肌と目の色……というか、なんとリアルな『河野奏斗』の姿そのままである。

 先ほど、店先の窓ガラスにうつった自分をみて、見知った顔がそこにあったのでビックリしたものだ。

 どうやら、外見を特に設定せずに初期そのままにすると、リアルの自分の顔と身体そのままらしい。
 3Dプリンターのように、あのVR装置が顔を読み込んでいるのだろうか?

 すごいとは思うが、もっとよく考えてアバターの設定をすれば良かったかもしれない。
 まぁ、どうせこの装備のフードで顔が隠れるからそこまで問題はないか。

「コカトリスの串揚げ、一つ、30赤銅貨ね!」

「ああ」

 インベントリから金マークを選択すると、おれの掌の上に、金貨があらわれた。それを店主に手渡す。

 すると、店主が目を真ん丸に見開いた。

「おいおい、兄ちゃんよ、こんなところで金貨なんかやたらに出すもんじゃねェぜ。それともオレをからかってんのか?」

「うん?」

 店主に思ってもみなかった反応をされ、首を傾げる。

「悪い。足りなかったか?」

「違ぇよ! どこの馬鹿が、串揚げ一つに金貨一枚出すんだって言ってんだよ。ほら、他には細かい金はねェのか?」

 どうやら、おれの出した金が大すぎたらしい。

 たぶん、リアルでたとえるならば、今のおれは1本10円のうまか棒にたいして、一万円札を出したようなものなのだろう。

 しかし店主のこの反応、すごいな。
 先ほどのフェアリードラゴン屋でも思ったが、NPCにこんな複雑でリアル志向の反応を組み込んでいるなんて……!

「悪い、おれの手持ちは今はそれしかないんだ」

「マジかよ。チッ、弱ったなぁ。オレの店じゃ金貨なんざ出されても、釣銭がねェよ」

「そうなのか、すまなかった」

 しかし、こんなに複雑な反応をNPCにさせるのはすごいと思うが、これはすこしリアルすぎじゃないか?

 釣銭がない、なんてゲーム世界で言われるとは思わなかったぞ。
 
 まさか、すべてのNPCがこの調子じゃないだろうな?
 もしもそうだとしたら、まずは銀行かギルド的な建物を探して、両替からしないといけないのか……?

 そんなことを考えながら、おれは店主が突き返してきた金貨を受け取る。
 すると、それと入れ替わりに、横合いから声がかけられた。

「なになに? そこのおにーさん、金がねェの?」

 見れば、いつの間にかおれのすぐ横に、一人の青年が立っていた。

 まるで血のような色をした赤髪に、きらきらとした金色の瞳。
 その顔はひどく整っているが、浮かべている軽薄なニヤニヤとした笑みが、なんかこう、不安な気持ちにさせる。

 また、鼻筋の通って彫りの深い端正な顔立ちの青年だったが、その左目を縦断するように、ざっくりとした傷痕が刻まれていた。傷跡は赤黒く変色しているので、古い傷なのだろう。その下の瞳は、白く濁ってしまっている。

 服装は、黒いシャツに皮ベスト、ズボンという出で立ちだが、シャツの前ボタンが上から三つまで開けられて、だいぶ気崩している。
 おれは横に一歩ひいて、青年を見つめかえした。

「いや、金がないわけじゃないんだが」

「ふぅん? じゃあ、何か困りごとぉ?」

「べ、別にもめ事じゃないですよ、ノインさん。ただ、その兄ちゃんが細かい金がねェっていうから……」

 この青年はノインという名前らしい。
 ノイン青年は店主とは顔見知りのようだ。というか、店主はぎこちないながらもノインに対して敬語だし、ノインの方がなにか立場が高いのだろうか?

 なら、おれも敬語を使ったほうが良かったのかな? うーん……

「なに、おにーさん、細かい金持ってねェの?」

「ああ……あいにく、手持ちを切らしててな」

「そうなんだー。じゃあ、俺がおごったげるよ」

 えっ。

 驚いているおれを尻目に、ノイン青年は店主に「そういうわけで、串揚げ2本よろしくー」と声をかけていた。

 店主はちらりとおれの顔を見た後、揚げたばかりの串揚げを2本手にとり、それをノインに手渡す。
 いや、見れば、串揚げと同時になぜか銀貨を3枚、店主の方がノインに手渡していた。

 金と串揚げを受け取ったノインが、へらりとした笑みを向ける。

「あんがとね、親父さん。今月の返済も確かに受け取りましたよーっと。じゃあおにーさん、あっち行って食べよーよ。ここじゃゆっくりできないしぃ」

「……いいのか? 初対面なのに、悪いな」

「いいのいいの~、おにーさん、なんか面白そうだしさぁ。あっちでゆっくりお話聞かせてよ」

 ニヤニヤした笑みはそのままのノインは、なんだかどこか胡散臭い。
 少し迷ったが、結局、おれはノインの後についていくことにした。

 串揚げを食べてみたい、という誘惑にあらがえなかったのである。
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