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戦い
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おれはしばし呆然とアレクを見送った後、ハッと、こうしている場合ではないと気がついた。
アレクはああ言ったけれど、不足の事態が起きるかもしれないし。アレク一人に戦いに行かせて、おれ一人だけこうやってぼんやりしているわけにはいかない。ましてや、アレクはおれのために、馬車の人達を助けに行ってくれたんだから。
おれはアレクから少し遅れて、馬車の方へ駆け出した。
とは言え、舗装されていない林の中で、木の茂みや大木をよけながら転ばないように気をつけて駆けるおれの足は速くはない。先程のアレクはカモシカみたいな身軽さで、茂みを軽々と飛び越すようにして駆けていったが……すごいなアイツ、おれと同じスニーカーなのに。それとも、単純に身体能力の差だろうか?
おれはひいこら息を切らせながら、それでもなんとか馬車が襲われている場へとたどり着く。
「ッ、アレク……」
その時、アレクはちょうど、狼に襲われていた若い男性――砂埃と血に汚れた洋服と甲冑を着て、手に西洋剣を携えた20代後半ほどの人――の背後にいるところだった。
狼の猛攻に段々と体力を削られているのか、男性の額には玉のような汗が浮かび、足取りもふらつき始めている。このまま戦い続けていれば、数分後には悲惨な光景が展開されるだろうことは想像に難くない。
「――アンタ、ちょっと邪魔」
そして、アレクが何をするのかと思えば――なんと、その戦う男性を背後から片足で思いっきり蹴飛ばしたのだった。
……って、えええええぇぇぇ!?
ちょっ、アレクさーん!? お前、何やってんの!?
「ぐわっ!?」
「キャウンッ!?」
背後から思いっきり蹴飛ばされた男性は、前につんのめって転ぶ。
対峙していた狼はというもの、思ってもみなかった人間達の行動に、呆気にとられたように動きを停止していた。
だが、すぐに気を取り直し、目の前に新たに現れたアレクへと牙を剥いて唸り声を上げる。
「……ハァ。うるさいなぁ。俺、犬って嫌いなんだよねー」
アレクは目の前の狼を、じろりと冷めた目つきで見下ろす。そして、いつの間にやら持っていた西洋剣を片手に構える。どうやら先程蹴り飛ばした男性の剣のようだ。あの瞬間に、男性から剣を横取りしていたらしい。
「ガウ、ギャウンッ!」
「ハッ!」
アレクは迷いなく、素早い踏み込みで切っ先を狼に繰り出した。
喉笛を食い破ろうと飛び上がった狼の喉に、剣先は吸い込まれるように突き立てられる。
「ギャ、ガ……ッ!」
「あー、ハイハイ。そういうのいいから、さっさと死ねよ」
最期の断末魔を上げかけた狼を見下ろすアレクは、相変わらず何の感慨も浮かべていない、冷めた目つきだった。
そして、同情も敵意も何一つ窺わせない無表情で、アレクは握った剣をバターナイフでも操るように滑らすと、狼の首をすっぱりと綺麗に両断した。
「……あ、ありがとう。アンタは一体……?」
剣を振って血糊を落とすアレクに、よろよろと立ち上がった男性がお礼の言葉をかける。
アレクは男性をちらりと横目で見る。その表情は、先程狼に向けていたのと同じく、何の感情も浮かんでいない。
「お礼を言うんなら俺のあるじに言って。俺はご主人ちゃんの命令でやっただけだからさ」
「あ、主?」
「そうだ。この剣、しばらく借りるねー」
「そ、それは構わんが……」
アレクは男性が言い終わらない内に、冷めた顔つきのまま再び駆け出した。
その進行方向には、未だ残りの狼に襲われている他の人達の元だ。
そして、その場にたどり着くと、アレクは先程と同様に無駄のない軽やかな動きで、一切の迷いなく狼達を切り捨て始めた。
…………す、すごい。
さっきはアレクが怪我をしたらどうしようかと心配しきりだったけれど……なるほど、確かにあれほどの戦闘能力があるなら問題はなさそうだ。
おれがアレクの凄まじい戦いぶりに見惚れている内に、狼達の半分はすっかりアレクが斬り殺し終えてしまった。
残った狼達は、アレクの強さの前に分が悪いことを悟ったのだろう。ほうほうの体で逃げ出していった。
しかし、狼達がその場からすっかりいなくなっても、アレクは警戒を緩めなかった。剣を握ったまま、険しい目つきで狼達の逃げ去った方向を見据える。
だが、数分もしてすっかり狼達がこの場から離脱したのが分かると、ふっと肩の力を抜いた。
そんなアレクに、狼達に襲われていた内の一人がおずおずと声をかけようとする。見れば、それは真っ赤な髪をポニーテールヘアにした女性で、彼女もまた洋服の上に革鎧を着込み、腰には西洋剣を携えていた。
「助太刀、感謝するよ。ところでアンタは一体……」
が、アレクはその声が聞こえていなかったのように、彼女にくるりと背を向けると、一目散におれの方へと走り寄ってきた。
アレクの所に行こうと、隠れていた茂みから出てきたおれは、一直線にこちらに走ってくるアレクにぎょっと硬直してしまう。
「ご主人ちゃーん! 見てた見てた? 俺、ちゃんと助けてきたよ!」
「うわっ。ア、アレク、落ち着けよ……」
持っていた剣をぽーんと放り、がばりとおれを胸元に抱きしめたアレク。
ちょっ、お前。その剣、さっきあの男性から借りた物だろうが!
「ねぇねぇ、俺、ちゃんと頑張ってきたぜー? 褒めてよ、ご主人ちゃん」
「わ、分かった。分かったから、ちょっと離せって……」
ぎゅうぎゅうと抱きしめてくる腕が苦しいぐらいだ。
おれは手でぺちぺちとアレクの腕をタップする。
「ねぇ、ご主人ちゃん。ご褒美は?」
「あ、後でな。後でちゃんとやるから。今は皆見てるからさ」
「うん、約束ね!」
にっこにこの笑顔のアレクの向こうで、ぽかんとした表情でこちらを見つめてくる馬車の人達。
ああ、そうだよね……。さっきまであんなに無表情でクールに戦ってたヤツが、いきなりガラッとこんなに態度が変われば驚くよね。うん、おれも貴方達以上に、そのギャップに内心ではめちゃくちゃ驚いてるから気持ちは分かるよ……。
なおもアレクにぎゅうっと抱きしめられたまま、どうしたものかと考えていると、馬車の扉ががちゃりと開いて、恰幅のいい男性が出てきたのが見えた。
えびす顔の男性は、眉尻を下げた笑顔を俺達に向けて歩み寄ってくる。その服装は細かな刺繍がほどこされた仕立ての良さそうな物だった。
「危ないところをありがとうございました!」
揉み手をしながらこちらに歩み寄ってくる男性に、アレクがおれを腕から離すと、おれと男性の間にすっと入る。
「貴方達のおかげで我が商会の積荷が無事、守られました。本当にありがとうございます!」
「いえ……お役に立てたなら良かったです」
緊張のあまり、喉がカラカラになっているのが分かる。
この世界で初めてコンタクトをとる人間だ、否が応でもドキドキしてしまう。
そ、それにしても……狼達と戦って怪我をしている人もいるのに、『積荷が無事』ってどうなの? 普通、回りの人を心配するのが先じゃないのか?
「それにしても、あなた方は旅の冒険者様でしょうか? これから何処に向かわれるおつもりだったのでしょうか」
恰幅のいいおじさんの発言にちょっと引き気味になったおれは、緊張も相まって、次の言葉が出てこなくなる。元々、人付き合いが上手い方じゃないのだ。
どうしようと焦っていると、前に出ていたアレクが愛想の良さそうな笑顔で答えを返した。
「自分達は見聞を深めるために旅をしている者です。自分は従者兼、護衛のアレクと申します」
「お、おれはユウキです」
「ああ、申し遅れました。私はアンブレッジ商会のミドロと申します。いやはや、まだお若いのに護衛のアレク様のお力は素晴らしいですね。あのグレートウルフの群れを瞬殺とは! まったく本当にありがとうございました」
アレクの口からすらすらと飛び出した慇懃な敬語に、びっくりしたものの、何とか内心を顔に出さないように取り繕う。そして、アレクのフォローに沿う形でおれもなんとか自己紹介をした。
さっき襲ってきた狼達は、グレートウルフと言うらしい。
「旅ということは、ユウキ様達ももしかしてドローレスの街へ行かれるところで? 我々はこれからドローレスの街へと戻るところだったのですが、今回のお力添えのお礼に、よろしければ一緒に馬車へ乗られていきませんか?」
「えっ、乗せてもらっていいんですか?」
「勿論でございます。むしろこれぐらいは是非させて下さい」
ドローレスの街というのが、何処にあるのか、どれぐらいの規模なのかは分からないが……この商人、ミドロさんの口ぶりから察するに、馬車で辿り着ける距離に街があるのは確かなようだ。
おれはアレクをちらりと見上げる。
これは渡りに船だと思う。ミドロさんのお言葉に甘えて、ぜひ馬車に便乗させて頂きたい。
アレクはおれのアイコンタクトにすぐに気が付き、かすかな頷きを返してきた。アレクの判断としても、ミドロさんの馬車に乗せてもらうのに問題ないようだ。
「では、是非お願いしてもいいでしょうか?」
「勿論でございます! ささっ、どうぞ中へお入り下さい」
にこやかな笑顔のミドロさんに促されて、おれとアレクは馬車に便乗させてもらうことになった。
やった! 正直、インドア系現代っ子のおれの足はそろそろキツくなってたところだったのだ。このまま馬車に乗って街へ辿り着けるなんて、ラッキーだ。
……これも全部、アレクがこの人達を助けてくれたおかげだな。
おれは馬車に乗り込むと、ミドロさんの正面、そしてアレクの隣に座った。四人がけの室内には他に人はいない。
馬車の中に腰を落ち着けると、ふと隣から視線を感じ、おれは横を向いた。
そこにあったのは、アレクの顔だ。アレクはにっこりと微笑むと、声に出さずに口パクだけで「ご褒美、楽しみにしてるね」と伝えてきた。
……や、やばい。マジでどうしよう?
アレクはああ言ったけれど、不足の事態が起きるかもしれないし。アレク一人に戦いに行かせて、おれ一人だけこうやってぼんやりしているわけにはいかない。ましてや、アレクはおれのために、馬車の人達を助けに行ってくれたんだから。
おれはアレクから少し遅れて、馬車の方へ駆け出した。
とは言え、舗装されていない林の中で、木の茂みや大木をよけながら転ばないように気をつけて駆けるおれの足は速くはない。先程のアレクはカモシカみたいな身軽さで、茂みを軽々と飛び越すようにして駆けていったが……すごいなアイツ、おれと同じスニーカーなのに。それとも、単純に身体能力の差だろうか?
おれはひいこら息を切らせながら、それでもなんとか馬車が襲われている場へとたどり着く。
「ッ、アレク……」
その時、アレクはちょうど、狼に襲われていた若い男性――砂埃と血に汚れた洋服と甲冑を着て、手に西洋剣を携えた20代後半ほどの人――の背後にいるところだった。
狼の猛攻に段々と体力を削られているのか、男性の額には玉のような汗が浮かび、足取りもふらつき始めている。このまま戦い続けていれば、数分後には悲惨な光景が展開されるだろうことは想像に難くない。
「――アンタ、ちょっと邪魔」
そして、アレクが何をするのかと思えば――なんと、その戦う男性を背後から片足で思いっきり蹴飛ばしたのだった。
……って、えええええぇぇぇ!?
ちょっ、アレクさーん!? お前、何やってんの!?
「ぐわっ!?」
「キャウンッ!?」
背後から思いっきり蹴飛ばされた男性は、前につんのめって転ぶ。
対峙していた狼はというもの、思ってもみなかった人間達の行動に、呆気にとられたように動きを停止していた。
だが、すぐに気を取り直し、目の前に新たに現れたアレクへと牙を剥いて唸り声を上げる。
「……ハァ。うるさいなぁ。俺、犬って嫌いなんだよねー」
アレクは目の前の狼を、じろりと冷めた目つきで見下ろす。そして、いつの間にやら持っていた西洋剣を片手に構える。どうやら先程蹴り飛ばした男性の剣のようだ。あの瞬間に、男性から剣を横取りしていたらしい。
「ガウ、ギャウンッ!」
「ハッ!」
アレクは迷いなく、素早い踏み込みで切っ先を狼に繰り出した。
喉笛を食い破ろうと飛び上がった狼の喉に、剣先は吸い込まれるように突き立てられる。
「ギャ、ガ……ッ!」
「あー、ハイハイ。そういうのいいから、さっさと死ねよ」
最期の断末魔を上げかけた狼を見下ろすアレクは、相変わらず何の感慨も浮かべていない、冷めた目つきだった。
そして、同情も敵意も何一つ窺わせない無表情で、アレクは握った剣をバターナイフでも操るように滑らすと、狼の首をすっぱりと綺麗に両断した。
「……あ、ありがとう。アンタは一体……?」
剣を振って血糊を落とすアレクに、よろよろと立ち上がった男性がお礼の言葉をかける。
アレクは男性をちらりと横目で見る。その表情は、先程狼に向けていたのと同じく、何の感情も浮かんでいない。
「お礼を言うんなら俺のあるじに言って。俺はご主人ちゃんの命令でやっただけだからさ」
「あ、主?」
「そうだ。この剣、しばらく借りるねー」
「そ、それは構わんが……」
アレクは男性が言い終わらない内に、冷めた顔つきのまま再び駆け出した。
その進行方向には、未だ残りの狼に襲われている他の人達の元だ。
そして、その場にたどり着くと、アレクは先程と同様に無駄のない軽やかな動きで、一切の迷いなく狼達を切り捨て始めた。
…………す、すごい。
さっきはアレクが怪我をしたらどうしようかと心配しきりだったけれど……なるほど、確かにあれほどの戦闘能力があるなら問題はなさそうだ。
おれがアレクの凄まじい戦いぶりに見惚れている内に、狼達の半分はすっかりアレクが斬り殺し終えてしまった。
残った狼達は、アレクの強さの前に分が悪いことを悟ったのだろう。ほうほうの体で逃げ出していった。
しかし、狼達がその場からすっかりいなくなっても、アレクは警戒を緩めなかった。剣を握ったまま、険しい目つきで狼達の逃げ去った方向を見据える。
だが、数分もしてすっかり狼達がこの場から離脱したのが分かると、ふっと肩の力を抜いた。
そんなアレクに、狼達に襲われていた内の一人がおずおずと声をかけようとする。見れば、それは真っ赤な髪をポニーテールヘアにした女性で、彼女もまた洋服の上に革鎧を着込み、腰には西洋剣を携えていた。
「助太刀、感謝するよ。ところでアンタは一体……」
が、アレクはその声が聞こえていなかったのように、彼女にくるりと背を向けると、一目散におれの方へと走り寄ってきた。
アレクの所に行こうと、隠れていた茂みから出てきたおれは、一直線にこちらに走ってくるアレクにぎょっと硬直してしまう。
「ご主人ちゃーん! 見てた見てた? 俺、ちゃんと助けてきたよ!」
「うわっ。ア、アレク、落ち着けよ……」
持っていた剣をぽーんと放り、がばりとおれを胸元に抱きしめたアレク。
ちょっ、お前。その剣、さっきあの男性から借りた物だろうが!
「ねぇねぇ、俺、ちゃんと頑張ってきたぜー? 褒めてよ、ご主人ちゃん」
「わ、分かった。分かったから、ちょっと離せって……」
ぎゅうぎゅうと抱きしめてくる腕が苦しいぐらいだ。
おれは手でぺちぺちとアレクの腕をタップする。
「ねぇ、ご主人ちゃん。ご褒美は?」
「あ、後でな。後でちゃんとやるから。今は皆見てるからさ」
「うん、約束ね!」
にっこにこの笑顔のアレクの向こうで、ぽかんとした表情でこちらを見つめてくる馬車の人達。
ああ、そうだよね……。さっきまであんなに無表情でクールに戦ってたヤツが、いきなりガラッとこんなに態度が変われば驚くよね。うん、おれも貴方達以上に、そのギャップに内心ではめちゃくちゃ驚いてるから気持ちは分かるよ……。
なおもアレクにぎゅうっと抱きしめられたまま、どうしたものかと考えていると、馬車の扉ががちゃりと開いて、恰幅のいい男性が出てきたのが見えた。
えびす顔の男性は、眉尻を下げた笑顔を俺達に向けて歩み寄ってくる。その服装は細かな刺繍がほどこされた仕立ての良さそうな物だった。
「危ないところをありがとうございました!」
揉み手をしながらこちらに歩み寄ってくる男性に、アレクがおれを腕から離すと、おれと男性の間にすっと入る。
「貴方達のおかげで我が商会の積荷が無事、守られました。本当にありがとうございます!」
「いえ……お役に立てたなら良かったです」
緊張のあまり、喉がカラカラになっているのが分かる。
この世界で初めてコンタクトをとる人間だ、否が応でもドキドキしてしまう。
そ、それにしても……狼達と戦って怪我をしている人もいるのに、『積荷が無事』ってどうなの? 普通、回りの人を心配するのが先じゃないのか?
「それにしても、あなた方は旅の冒険者様でしょうか? これから何処に向かわれるおつもりだったのでしょうか」
恰幅のいいおじさんの発言にちょっと引き気味になったおれは、緊張も相まって、次の言葉が出てこなくなる。元々、人付き合いが上手い方じゃないのだ。
どうしようと焦っていると、前に出ていたアレクが愛想の良さそうな笑顔で答えを返した。
「自分達は見聞を深めるために旅をしている者です。自分は従者兼、護衛のアレクと申します」
「お、おれはユウキです」
「ああ、申し遅れました。私はアンブレッジ商会のミドロと申します。いやはや、まだお若いのに護衛のアレク様のお力は素晴らしいですね。あのグレートウルフの群れを瞬殺とは! まったく本当にありがとうございました」
アレクの口からすらすらと飛び出した慇懃な敬語に、びっくりしたものの、何とか内心を顔に出さないように取り繕う。そして、アレクのフォローに沿う形でおれもなんとか自己紹介をした。
さっき襲ってきた狼達は、グレートウルフと言うらしい。
「旅ということは、ユウキ様達ももしかしてドローレスの街へ行かれるところで? 我々はこれからドローレスの街へと戻るところだったのですが、今回のお力添えのお礼に、よろしければ一緒に馬車へ乗られていきませんか?」
「えっ、乗せてもらっていいんですか?」
「勿論でございます。むしろこれぐらいは是非させて下さい」
ドローレスの街というのが、何処にあるのか、どれぐらいの規模なのかは分からないが……この商人、ミドロさんの口ぶりから察するに、馬車で辿り着ける距離に街があるのは確かなようだ。
おれはアレクをちらりと見上げる。
これは渡りに船だと思う。ミドロさんのお言葉に甘えて、ぜひ馬車に便乗させて頂きたい。
アレクはおれのアイコンタクトにすぐに気が付き、かすかな頷きを返してきた。アレクの判断としても、ミドロさんの馬車に乗せてもらうのに問題ないようだ。
「では、是非お願いしてもいいでしょうか?」
「勿論でございます! ささっ、どうぞ中へお入り下さい」
にこやかな笑顔のミドロさんに促されて、おれとアレクは馬車に便乗させてもらうことになった。
やった! 正直、インドア系現代っ子のおれの足はそろそろキツくなってたところだったのだ。このまま馬車に乗って街へ辿り着けるなんて、ラッキーだ。
……これも全部、アレクがこの人達を助けてくれたおかげだな。
おれは馬車に乗り込むと、ミドロさんの正面、そしてアレクの隣に座った。四人がけの室内には他に人はいない。
馬車の中に腰を落ち着けると、ふと隣から視線を感じ、おれは横を向いた。
そこにあったのは、アレクの顔だ。アレクはにっこりと微笑むと、声に出さずに口パクだけで「ご褒美、楽しみにしてるね」と伝えてきた。
……や、やばい。マジでどうしよう?
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