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利益
――その後、誘拐犯たちは全員お縄についた。
今回幸いしたのが、おれがコリン君と一緒に連れて行かれたため、その後すぐにロディがおれの不在にすぐに気がついたとのことだったそうだ。
で、ロディはしばらくおれを探したが、ギルド内にはいなかった。
しかし、冒険者ギルド内の人が何人か、シルバグレーの髪の少年がおれを抱きかかえて裏口から出ていったのを見ていたので、その話からおれがコリン君と一緒にいるのが分かったのだと言う。
その後、ロディが経緯をロットワンダ商会に確認し、どうやらコリン君が誘拐されたらしいことが発覚。
ロディとロットワンダ商会の人間総出で聞き込みを行ったところ、まだ誘拐実施からそれほど時間が経っていなかったために何人かが、冒険者ギルドに停まっていた不審な馬車や、コリン君に声をかけたという男の風貌について覚えている者がおり、それを元にコリン君が換金されていると思しき場所を捜索。
そして、捜索隊の一人としてロディが向かったスラム街の一角で、なんだか人だかりが出来ているのを発見。
ロディが近寄ったところ、人だかりの主はコリン君その人であり、ロディはおれを助けるために突入してきた、というわけだ。
ちなみにコリン君が人だかりを作っていたのは、コリン君の外見がいかにも羽振りが良さそうなお坊ちゃんだったので、物乞いの人に取り巻かれていたらしい……。
良かった、一応あの二人組を足止めしておいて。もしもコリン君を追っていかれたら、また捕まってたかもしれないもんな。
というか、もしかして物乞いの人にたかられて足止めを食らうところまで想定済みで、あの地下室を監禁場所に選んだのだろうか……。いや考え過ぎかな。
まぁ、何はともあれコリン君は脱出完了し、おれもまた無事にロディの元に帰ってこられたのだった。
……ただ、最後にもう一つだけ問題が発生してしまった。
「――で。どういうわけか、聞かせてもらえるんだろうね?」
おれとロディが通されたのは、先日もお邪魔させていただいたロットワンダ商会の応接間だ。現在は人払いをしてもらっているので、室内にいるのはおれとロディ、そしてコリン君と、ロットワンダ商会の長男であるリアンさん、この四名だ。今、おれたち四名は応接間のソファに座って向き合っている。
そう。向き合っているということは、おれの格好は今、黒いモフモフの猫の姿ではない。
おれは今、人間の姿でコリン君とリアンさんに相対していた。
「……それは……」
眉を八の字にしたロディがおろおろと、おれの顔とリアンさんの顔をそれぞれ見る。
そうなんだよねー!
ホラ、おれってばコリン君の眼の前で人間に変身しちゃったじゃん?
それで案の定、コリン君はリアンさんにおれのことを話してしまったらしい。
まぁ話さざるを得ないよね。だって、コリン君一人でどうやって脱出できたんだって話になるし。コリン君がもしも嘘をついても、現場検証すればすぐにバレるだろうし。そもそもおれもコリン君に口止めはしてなかったしね。
「主人にかわっておれから説明させて頂いてもよろしいでしょうか?」
おれは観念し、ソファに座る背筋を伸ばして居住まいをただし、こちらを探るように見据えるリアンさんを見た。
「……かまわないよ。君の名前は……クロ君、でいいのかな」
「はい。えっと……」
「ああ、私のこともリアンでかまわない」
なお、おれは今は人間の姿ではあるが全裸ではない。
男三人に囲まれて全裸一人とか、さすがに勘弁だ。
今のおれは、コリン君が貸してくれた下着、生成色のシャツと深緑色のズボン、同色のジャケットを羽織っている。……というか、これすっごい着心地がいい洋服なんだけど。麻かな?
かなり上等っぽい服だし、汚さないように気をつけないとな……。
「ではリアンさん。まず、おれの種族のことについて説明してもいいでしょうか?」
「ああ、お願いするよ」
リアンさんの表情は穏やかそのもので、こちらに敵意は見られない。
ただ、その眼光だけがこちらを推し量るように鋭い。
……やっぱりコリン君とリアンさんは兄弟なだけあってそっくりだ。恐らくリアンさんの腹の中では、おれに対する好奇心と、商人としての思惑が渦巻いているに違いない。
つまり――おれのことを利用できるか、そしておれの存在は自分の利益足り得るか。
きっと今、リアンさんはそれを目まぐるしく頭の中で計算しているのだ。
「自分はランクこそ低いものの、人間に変化できるスキルを持ったモンスターなんです」
おれの言葉に、隣に座るロディが身体を身じろぎさせたものの、言葉を挟むことはなかった。
ロディには以前『自分は元は人間で、ひょんなことでこの姿になっている』と説明したから、それと矛盾するおれの言葉に驚いたのだろう。けれど、リアンさん達の手前、今この場所でそれを突っ込むのは控えてくれたようだ。
さすがおれのご主人様は空気が読めるぜ!
「先程、実際に変身する所を見せられていなければ、とても信じられなかっただろう。初めて聞く種族とスキルだが、クロ君の仲間はいるのかい?」
「いえ、おれは自分の同族にまだ出会ったことがありません」
「自分の親は見たことがないのかい?」
「昔はそばにいましたが……気がついた時はもう森で一人で暮らしていました。で、ある日、森で主人に拾われまして従魔になったんです」
言ってることは全部、嘘じゃないだろ?
本当のことは言ってないだけで!
それに、コリン君からは『人間に変化できるスキルを持ったモンスター』って思われてるんだしね、この方が話が早い。元人間ってことを話すと、税金はどうなってるんだとか突っ込まれそうだし。
ん? でも、おれはこの世界では元々モンスターとして転生したんだから、この説明であってるのか?
つまり一周回って本当のことを話しているのか……? こんがらがりそうだ。
「基本はあの猫の姿ですが、自分の持つ魔力を消費することによって一定時間の間、人間に化けられます」
「ふむ……そんなモンスターがいるとはね」
おれの言葉を吟味するように、腕組みをして考え込むリアンさん。
相変わらず穏やかな表情ではあるが、おれの言葉を全て信じてくれたわけではないだろう。ただ、おれの存在と自分の商会の利益を天秤にかけて、頭の中で吟味しているに違いない。
その隣で、コリン君が目をきらきらと輝かせておれを見つめてきた。
「すごい! 人間と同程度の知識を有しているなんてSSランクのモンスターだけだと言われていましたが……クロさんのようなモンスターもいるんですね!」
ついで、次にロディの方に顔を向ける。
「そんなモンスターを従魔登録として従えているなんて、ロディさんってすごい人だったんですね……」
「えっ。ああ、いや、まぁ……」
「でも、クロさんのことを冒険者ギルドにお話すれば、世紀の大発見者となれたのではないですか? もしかすると、ロデリックさんの今のギルド内での評価だって覆ったかもしれませんよ?」
えっ、そうなの!?
おれは慌ててロディを見る。
ロディは未だにこの状況にたじろいでいたようだったが、それでもコリン君を真正面から見て、静かに唇を開いた。
「俺は……従魔としてもだが、それ以上にパートナーとしてクロのことは大切に思っている。冒険者ギルドに報告しても良かったが、それだとクロを強制的に接収される可能性もあったからな」
「ああ、そうですよね……」
コリン君はロディの答えに納得がいったように頷いていたが、おれの方が逆にビックリしていた。
ちょ、聞きました奥さん!?
ロディがおれのこと、パートナーで、大切って言ってくれた……!
いやいや、落ち着け自分。きっと今のはロディなりに、おれの話の辻褄合わせをしてくれたんだろう。うん。
「それに冒険者ギルドに行かなかったわけではないからな。受付ではそこまでの検査はされなかったから、こちらも特に自分から言い出すこともないかと思ったのもある」
「ああ、そうでしたね……」
「でもそうなると、なおさら冒険者ギルドは問題だなぁ……クロ君がもしも人間に敵意を持つタイプのモンスターだったら大変なことになっているよ。そこら辺はどうなのかな?」
リアンさんの質問に、ロディが「どう、とは……?」と首を傾げる。
ロディはまだリアンさんのような、含んだ物言いをするタイプの人間とは付き合ったことがないのだろう。おれはロディからバトンタッチをすることにして、ソファから若干身を乗り出す。
「基本は、おれは主人の命令以外では絶対に人間には変身していません。今、おれの主人が許可を出しているのは自宅の室内だけですので、それ以外でスキルを使用したこともありません。ただ今回は、かなりの緊急事態と判断しましたので……」
リアンさんに向けて、主人に絶対服従してますよアピールをするおれ。
おれの言葉を聞いたリアンさんは満足そうに頷いた。
「おお! きちんとモンスターの手綱をとっているのだね。いや、これは素晴らしい……素晴らしいモンスターだと感じてはいたが、まさかこのような希少種をロデリック殿が従えているとは」
「……ありがとうございます」
リアンさんの賛辞に、若干硬い面持ちで頭を下げるロディ。
まぁ、絶賛していただいたところなんだけど、難点をいえば人間に変化する時に全裸状態になるって弱点があるんだよね……。ちょっと致命的すぎない?
そんなことを考えるおれと、いまだに硬い表情のロディの顔を、リアンさんは再び吟味するようにそれぞれじっくりと眺める。
「ロデリック殿。前回話していた、商人ギルドの冒険者の件なのだが……良ければぜひともうちの商会に来てくれないかい?」
「え……」
リアンさんの申し出に、目を瞬かせるロディ。
「なんだい、不満かね?」
「いえ、そういうわけでは。ただ、従魔の件をお二人に隠していたわけですから、そのお話はなかったことになるものと思っていました」
「いやいや、ロデリック殿が内密にしていたのは最もだよ。このような希少な従魔ともなればね」
驚いた表情のロディに対し、リアンさんはにこにこと人の良さそうな笑顔を向ける。
「私が思ったのは、ぜひロデリック殿とクロ君をそろってこのロットワンダ商会で雇いたいということだよ」
「クロ……もですか?」
「ああ。クロ君の能力が護衛に最適なことは今回の誘拐事件で証明されてるしね。それに男性冒険者では、嫁入り前の女性を護衛させるにするには都合が悪いこともある」
「クロは護衛なんてできません。その、こいつは特に力があるわけでも魔法が使えるわけでもないんです」
ロディ。おれが何の役にも立たないということを、丁寧に教えてくれてありがとう。
しかし、リアンさんはそんなロディの慌てように動じた様子もなく、ただただ鷹揚に笑った。
「今言ったのはあくまでも例え話さ。ただ、ロデリック殿の従魔の希少性はきっとうちの商会の事業に役に立つことがある。つまりまぁ、前回は君一人だけに勧誘をしたが、今回はその従魔の存在込みで改めてロデリック殿を勧誘しなおしたいという話だよ」
「……ありがたいお話、だとは思います」
「ああ、そうなると前回提示した給与や休暇条件も見直さなくてはならないね。ロデリック殿の方で、何か要望はあるかね?」
前回と同じように、優雅な強引さで着々と話を進めていくリアンさん。いや、むしろ前回の強引さが懐かしいと思えるぐらいには、今日のリアンさんは性急に話を進めたがっていた。
恐らく、おれの存在が自分の商会の利益になると判断したからだろう。
……警戒すべきは、おれの能力を利用してリアンさんが何か悪いことを企んでいたらどうしようかということだけど……まぁ、ここまでの人となりを見るからに、そこまでの悪人というわけはないだろう。
ただ、根っからの利益主義なお人なので、油断はしないほうがよさそうだ。
そして、それを差し引いても今回の話はおれ達二人にとって、またとない話である。
おれは、いいんじゃないかなという意思を込めて、隣に座るロディの太腿に手を乗せる。
ロディはおれの顔をちらりと見ると、少し迷ってから、リアンさんの顔を真っ直ぐに見つめ返した。
「……条件があるのですがいいでしょうか?」
「おや、なんだい?」
「こいつのことをあまり多くの人間に知られたくないので……できれば寮や住み込みではなく、ロットワンダ商会の近くの借家に二人で住まわせて欲しいのですが」
「そんなことかね、もちろんいいとも」
朗らかな笑顔のリアンさんが、ロディに向けて手を伸ばす。
ロディは少しだけ躊躇いを見せた後、自分も手を伸ばして、リアンさんの手を握ったのだった。
「それでは――これで、交渉成立ということだね。正式な契約書はまた後日交わすとしよう」
「……はい。これからよろしくお願いいたします」
「クロ君は従魔なので契約書を交わすわけにはいかないので、ロデリック殿の方に組み込むとしよう。かまわないね?」
「はい、大丈夫です」
寛大とも言えるような朗らかな笑みのリアンさんだが、その言葉と態度の端々から、『こんな金のなる木を逃す手はない』と思っていらっしゃるのが最早ありありと分かった。
うーん、さすが商人。自分の商会の利益を至上とする姿勢はいっそ清々しいぜ。
今回幸いしたのが、おれがコリン君と一緒に連れて行かれたため、その後すぐにロディがおれの不在にすぐに気がついたとのことだったそうだ。
で、ロディはしばらくおれを探したが、ギルド内にはいなかった。
しかし、冒険者ギルド内の人が何人か、シルバグレーの髪の少年がおれを抱きかかえて裏口から出ていったのを見ていたので、その話からおれがコリン君と一緒にいるのが分かったのだと言う。
その後、ロディが経緯をロットワンダ商会に確認し、どうやらコリン君が誘拐されたらしいことが発覚。
ロディとロットワンダ商会の人間総出で聞き込みを行ったところ、まだ誘拐実施からそれほど時間が経っていなかったために何人かが、冒険者ギルドに停まっていた不審な馬車や、コリン君に声をかけたという男の風貌について覚えている者がおり、それを元にコリン君が換金されていると思しき場所を捜索。
そして、捜索隊の一人としてロディが向かったスラム街の一角で、なんだか人だかりが出来ているのを発見。
ロディが近寄ったところ、人だかりの主はコリン君その人であり、ロディはおれを助けるために突入してきた、というわけだ。
ちなみにコリン君が人だかりを作っていたのは、コリン君の外見がいかにも羽振りが良さそうなお坊ちゃんだったので、物乞いの人に取り巻かれていたらしい……。
良かった、一応あの二人組を足止めしておいて。もしもコリン君を追っていかれたら、また捕まってたかもしれないもんな。
というか、もしかして物乞いの人にたかられて足止めを食らうところまで想定済みで、あの地下室を監禁場所に選んだのだろうか……。いや考え過ぎかな。
まぁ、何はともあれコリン君は脱出完了し、おれもまた無事にロディの元に帰ってこられたのだった。
……ただ、最後にもう一つだけ問題が発生してしまった。
「――で。どういうわけか、聞かせてもらえるんだろうね?」
おれとロディが通されたのは、先日もお邪魔させていただいたロットワンダ商会の応接間だ。現在は人払いをしてもらっているので、室内にいるのはおれとロディ、そしてコリン君と、ロットワンダ商会の長男であるリアンさん、この四名だ。今、おれたち四名は応接間のソファに座って向き合っている。
そう。向き合っているということは、おれの格好は今、黒いモフモフの猫の姿ではない。
おれは今、人間の姿でコリン君とリアンさんに相対していた。
「……それは……」
眉を八の字にしたロディがおろおろと、おれの顔とリアンさんの顔をそれぞれ見る。
そうなんだよねー!
ホラ、おれってばコリン君の眼の前で人間に変身しちゃったじゃん?
それで案の定、コリン君はリアンさんにおれのことを話してしまったらしい。
まぁ話さざるを得ないよね。だって、コリン君一人でどうやって脱出できたんだって話になるし。コリン君がもしも嘘をついても、現場検証すればすぐにバレるだろうし。そもそもおれもコリン君に口止めはしてなかったしね。
「主人にかわっておれから説明させて頂いてもよろしいでしょうか?」
おれは観念し、ソファに座る背筋を伸ばして居住まいをただし、こちらを探るように見据えるリアンさんを見た。
「……かまわないよ。君の名前は……クロ君、でいいのかな」
「はい。えっと……」
「ああ、私のこともリアンでかまわない」
なお、おれは今は人間の姿ではあるが全裸ではない。
男三人に囲まれて全裸一人とか、さすがに勘弁だ。
今のおれは、コリン君が貸してくれた下着、生成色のシャツと深緑色のズボン、同色のジャケットを羽織っている。……というか、これすっごい着心地がいい洋服なんだけど。麻かな?
かなり上等っぽい服だし、汚さないように気をつけないとな……。
「ではリアンさん。まず、おれの種族のことについて説明してもいいでしょうか?」
「ああ、お願いするよ」
リアンさんの表情は穏やかそのもので、こちらに敵意は見られない。
ただ、その眼光だけがこちらを推し量るように鋭い。
……やっぱりコリン君とリアンさんは兄弟なだけあってそっくりだ。恐らくリアンさんの腹の中では、おれに対する好奇心と、商人としての思惑が渦巻いているに違いない。
つまり――おれのことを利用できるか、そしておれの存在は自分の利益足り得るか。
きっと今、リアンさんはそれを目まぐるしく頭の中で計算しているのだ。
「自分はランクこそ低いものの、人間に変化できるスキルを持ったモンスターなんです」
おれの言葉に、隣に座るロディが身体を身じろぎさせたものの、言葉を挟むことはなかった。
ロディには以前『自分は元は人間で、ひょんなことでこの姿になっている』と説明したから、それと矛盾するおれの言葉に驚いたのだろう。けれど、リアンさん達の手前、今この場所でそれを突っ込むのは控えてくれたようだ。
さすがおれのご主人様は空気が読めるぜ!
「先程、実際に変身する所を見せられていなければ、とても信じられなかっただろう。初めて聞く種族とスキルだが、クロ君の仲間はいるのかい?」
「いえ、おれは自分の同族にまだ出会ったことがありません」
「自分の親は見たことがないのかい?」
「昔はそばにいましたが……気がついた時はもう森で一人で暮らしていました。で、ある日、森で主人に拾われまして従魔になったんです」
言ってることは全部、嘘じゃないだろ?
本当のことは言ってないだけで!
それに、コリン君からは『人間に変化できるスキルを持ったモンスター』って思われてるんだしね、この方が話が早い。元人間ってことを話すと、税金はどうなってるんだとか突っ込まれそうだし。
ん? でも、おれはこの世界では元々モンスターとして転生したんだから、この説明であってるのか?
つまり一周回って本当のことを話しているのか……? こんがらがりそうだ。
「基本はあの猫の姿ですが、自分の持つ魔力を消費することによって一定時間の間、人間に化けられます」
「ふむ……そんなモンスターがいるとはね」
おれの言葉を吟味するように、腕組みをして考え込むリアンさん。
相変わらず穏やかな表情ではあるが、おれの言葉を全て信じてくれたわけではないだろう。ただ、おれの存在と自分の商会の利益を天秤にかけて、頭の中で吟味しているに違いない。
その隣で、コリン君が目をきらきらと輝かせておれを見つめてきた。
「すごい! 人間と同程度の知識を有しているなんてSSランクのモンスターだけだと言われていましたが……クロさんのようなモンスターもいるんですね!」
ついで、次にロディの方に顔を向ける。
「そんなモンスターを従魔登録として従えているなんて、ロディさんってすごい人だったんですね……」
「えっ。ああ、いや、まぁ……」
「でも、クロさんのことを冒険者ギルドにお話すれば、世紀の大発見者となれたのではないですか? もしかすると、ロデリックさんの今のギルド内での評価だって覆ったかもしれませんよ?」
えっ、そうなの!?
おれは慌ててロディを見る。
ロディは未だにこの状況にたじろいでいたようだったが、それでもコリン君を真正面から見て、静かに唇を開いた。
「俺は……従魔としてもだが、それ以上にパートナーとしてクロのことは大切に思っている。冒険者ギルドに報告しても良かったが、それだとクロを強制的に接収される可能性もあったからな」
「ああ、そうですよね……」
コリン君はロディの答えに納得がいったように頷いていたが、おれの方が逆にビックリしていた。
ちょ、聞きました奥さん!?
ロディがおれのこと、パートナーで、大切って言ってくれた……!
いやいや、落ち着け自分。きっと今のはロディなりに、おれの話の辻褄合わせをしてくれたんだろう。うん。
「それに冒険者ギルドに行かなかったわけではないからな。受付ではそこまでの検査はされなかったから、こちらも特に自分から言い出すこともないかと思ったのもある」
「ああ、そうでしたね……」
「でもそうなると、なおさら冒険者ギルドは問題だなぁ……クロ君がもしも人間に敵意を持つタイプのモンスターだったら大変なことになっているよ。そこら辺はどうなのかな?」
リアンさんの質問に、ロディが「どう、とは……?」と首を傾げる。
ロディはまだリアンさんのような、含んだ物言いをするタイプの人間とは付き合ったことがないのだろう。おれはロディからバトンタッチをすることにして、ソファから若干身を乗り出す。
「基本は、おれは主人の命令以外では絶対に人間には変身していません。今、おれの主人が許可を出しているのは自宅の室内だけですので、それ以外でスキルを使用したこともありません。ただ今回は、かなりの緊急事態と判断しましたので……」
リアンさんに向けて、主人に絶対服従してますよアピールをするおれ。
おれの言葉を聞いたリアンさんは満足そうに頷いた。
「おお! きちんとモンスターの手綱をとっているのだね。いや、これは素晴らしい……素晴らしいモンスターだと感じてはいたが、まさかこのような希少種をロデリック殿が従えているとは」
「……ありがとうございます」
リアンさんの賛辞に、若干硬い面持ちで頭を下げるロディ。
まぁ、絶賛していただいたところなんだけど、難点をいえば人間に変化する時に全裸状態になるって弱点があるんだよね……。ちょっと致命的すぎない?
そんなことを考えるおれと、いまだに硬い表情のロディの顔を、リアンさんは再び吟味するようにそれぞれじっくりと眺める。
「ロデリック殿。前回話していた、商人ギルドの冒険者の件なのだが……良ければぜひともうちの商会に来てくれないかい?」
「え……」
リアンさんの申し出に、目を瞬かせるロディ。
「なんだい、不満かね?」
「いえ、そういうわけでは。ただ、従魔の件をお二人に隠していたわけですから、そのお話はなかったことになるものと思っていました」
「いやいや、ロデリック殿が内密にしていたのは最もだよ。このような希少な従魔ともなればね」
驚いた表情のロディに対し、リアンさんはにこにこと人の良さそうな笑顔を向ける。
「私が思ったのは、ぜひロデリック殿とクロ君をそろってこのロットワンダ商会で雇いたいということだよ」
「クロ……もですか?」
「ああ。クロ君の能力が護衛に最適なことは今回の誘拐事件で証明されてるしね。それに男性冒険者では、嫁入り前の女性を護衛させるにするには都合が悪いこともある」
「クロは護衛なんてできません。その、こいつは特に力があるわけでも魔法が使えるわけでもないんです」
ロディ。おれが何の役にも立たないということを、丁寧に教えてくれてありがとう。
しかし、リアンさんはそんなロディの慌てように動じた様子もなく、ただただ鷹揚に笑った。
「今言ったのはあくまでも例え話さ。ただ、ロデリック殿の従魔の希少性はきっとうちの商会の事業に役に立つことがある。つまりまぁ、前回は君一人だけに勧誘をしたが、今回はその従魔の存在込みで改めてロデリック殿を勧誘しなおしたいという話だよ」
「……ありがたいお話、だとは思います」
「ああ、そうなると前回提示した給与や休暇条件も見直さなくてはならないね。ロデリック殿の方で、何か要望はあるかね?」
前回と同じように、優雅な強引さで着々と話を進めていくリアンさん。いや、むしろ前回の強引さが懐かしいと思えるぐらいには、今日のリアンさんは性急に話を進めたがっていた。
恐らく、おれの存在が自分の商会の利益になると判断したからだろう。
……警戒すべきは、おれの能力を利用してリアンさんが何か悪いことを企んでいたらどうしようかということだけど……まぁ、ここまでの人となりを見るからに、そこまでの悪人というわけはないだろう。
ただ、根っからの利益主義なお人なので、油断はしないほうがよさそうだ。
そして、それを差し引いても今回の話はおれ達二人にとって、またとない話である。
おれは、いいんじゃないかなという意思を込めて、隣に座るロディの太腿に手を乗せる。
ロディはおれの顔をちらりと見ると、少し迷ってから、リアンさんの顔を真っ直ぐに見つめ返した。
「……条件があるのですがいいでしょうか?」
「おや、なんだい?」
「こいつのことをあまり多くの人間に知られたくないので……できれば寮や住み込みではなく、ロットワンダ商会の近くの借家に二人で住まわせて欲しいのですが」
「そんなことかね、もちろんいいとも」
朗らかな笑顔のリアンさんが、ロディに向けて手を伸ばす。
ロディは少しだけ躊躇いを見せた後、自分も手を伸ばして、リアンさんの手を握ったのだった。
「それでは――これで、交渉成立ということだね。正式な契約書はまた後日交わすとしよう」
「……はい。これからよろしくお願いいたします」
「クロ君は従魔なので契約書を交わすわけにはいかないので、ロデリック殿の方に組み込むとしよう。かまわないね?」
「はい、大丈夫です」
寛大とも言えるような朗らかな笑みのリアンさんだが、その言葉と態度の端々から、『こんな金のなる木を逃す手はない』と思っていらっしゃるのが最早ありありと分かった。
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