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新弟子 ラナンナチェの正体
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さっそく弟子兼助手となった名無しの少女、雇用主ジオドリックはやはり呼び名がないと面倒と考えて名を付けることにした。
「俺はあまりセンスがない、譲歩してくれ」
「はい、どのような名前でも受け入れます。それに嬉しいです」
生い立ちの事情から人と会話したことが少ない少女は、こうして声をかけられるだけで幸せに思うのだ。どれほど辛い目にされていたのかとジオドリックは辛くなる。魔法研究ばかりして孤島に閉じ籠っていたせいで偏屈と言われてきた彼とて少女の心の痛みはわかる。
「俺は自ら外界を避け人からも距離をとっているが、それとは事情が違うからな……」
彼は名前を考えながら日課の作業である基本陣を羊皮紙にいくつも描いて唸る。そして、いくつか思いついた名をラクガキ用の紙へ書きなぐった。
「リーリィ、ルイ、シンシアどれもしっくりこないな……ラナンナチェはどうか」
「ラナンナチェ……どういう意味でしょうか?」
聞き慣れないと思った少女は掃除の手を止めて尋ねてしまう、師匠は少しバツが悪そうにして答えた。
「古い言葉で孤独や一つだけと言う意味を持つ、お前のこれまでのことを象徴して言葉にしてしまった。すまん、忘れろ」
だが、少女はニコリと笑い、たったひとつだけの私だけの名前だと言って喜ぶ。師匠は狼狽えてやめろと言うが聞き入れない。
「私はラナンナチェ!それがいいです。それに家族とは疎遠でしたが孤独ではなかったですよ」
「なぜ?」
地下書庫に隠すようにされてきたと言っていたはずだとジオドリックは詰問した。
「それはですね、小さなお友達がたくさんいてくれたからですよ。外界のことや読み書き、それから一般常識を教えてくれたのはその友人です」
俄かに信じがたいことを言いだした少女ラナンナチェに師匠と兄弟子のカモメは頭を傾げた。あまりに楽しそうに話すものだから詳しく聞きたいと言い出した。
***
「お友達は増えたり減ったりいつも同じではなかったです、背には羽が生えていて飛び回ってました、姿の色もバラバラです。でもみんな私を好きだと言ってくれました。食事が貰えない日は彼らが食べるものを用意してくれたので、私は飢えることなく生きられました。でも、お友達と会えなくなったのがとても辛いです。元気かしら……」
一通り”小さなお友達”とやらの事を聞きだした師匠ジオドリックは目を見開て固まった。
「あの……お師匠様?どうかしましたか?」
「いいや、ただとんでもない事を聞いて驚いただけだ……。お前ってヤツはスゴイな」
ジオドリックの狼狽えぶりを見て、少女はなにか変なことを言ってしまったかと青くなった。戯言として忘れてくれと言いかけたが、カモメがそれを遮った。
「おまえスゴイな!そーかそーか!さすが俺の妹弟子だ!アーロンと呼び捨てするのを許可するぜ」
「え?アーロン様?」
目の前でバッサバッサと翼を広げるものだから少女も師匠も嫌そうに目を眇めた。
「よさねぇかアホウ鳥!埃が舞うだろ、まったく……」
「アホウ……ひどいよ師匠、似ているけど俺はカモメだよ~!」
困惑するラナンナチェに気が付いて師匠は古くて分厚い本を書棚から取り出した。とんでもない埃が舞ったので魔法で空気を清浄化した。
「ラナン、お前が接していたというのはこのような者で間違いないか?」
師匠は分厚いそれを開いて、ある個所を指差した。その絵図には手の平に乗る程度の小さい生き物が描かれていた。背中にはトンボや蝶の羽根を生やしている、それぞれの衣服は緋色の衣や白い絹を纏っただけの者など様々である。
「ああ!そうです、そっくりだわ。顔立ちはぜんぜん違うけど同じ種族かと思います」
図解についての説明文には”聖女や愛し子を護る精霊、もしくはそれに準する魔力を持つ者に仕える精霊”と書かれていた。
「聖女は神の加護を持って生まれ寵愛を受けた者、お前は精霊の愛し子だろうな。その類まれな魔力が放たれる場所は居心地が良く美味しいのだろう」
「美味しいのですか?魔力が……?」
少し恐ろしく思ったが、害成すほど吸われることはないと師匠は付け加える。
「俺はあまりセンスがない、譲歩してくれ」
「はい、どのような名前でも受け入れます。それに嬉しいです」
生い立ちの事情から人と会話したことが少ない少女は、こうして声をかけられるだけで幸せに思うのだ。どれほど辛い目にされていたのかとジオドリックは辛くなる。魔法研究ばかりして孤島に閉じ籠っていたせいで偏屈と言われてきた彼とて少女の心の痛みはわかる。
「俺は自ら外界を避け人からも距離をとっているが、それとは事情が違うからな……」
彼は名前を考えながら日課の作業である基本陣を羊皮紙にいくつも描いて唸る。そして、いくつか思いついた名をラクガキ用の紙へ書きなぐった。
「リーリィ、ルイ、シンシアどれもしっくりこないな……ラナンナチェはどうか」
「ラナンナチェ……どういう意味でしょうか?」
聞き慣れないと思った少女は掃除の手を止めて尋ねてしまう、師匠は少しバツが悪そうにして答えた。
「古い言葉で孤独や一つだけと言う意味を持つ、お前のこれまでのことを象徴して言葉にしてしまった。すまん、忘れろ」
だが、少女はニコリと笑い、たったひとつだけの私だけの名前だと言って喜ぶ。師匠は狼狽えてやめろと言うが聞き入れない。
「私はラナンナチェ!それがいいです。それに家族とは疎遠でしたが孤独ではなかったですよ」
「なぜ?」
地下書庫に隠すようにされてきたと言っていたはずだとジオドリックは詰問した。
「それはですね、小さなお友達がたくさんいてくれたからですよ。外界のことや読み書き、それから一般常識を教えてくれたのはその友人です」
俄かに信じがたいことを言いだした少女ラナンナチェに師匠と兄弟子のカモメは頭を傾げた。あまりに楽しそうに話すものだから詳しく聞きたいと言い出した。
***
「お友達は増えたり減ったりいつも同じではなかったです、背には羽が生えていて飛び回ってました、姿の色もバラバラです。でもみんな私を好きだと言ってくれました。食事が貰えない日は彼らが食べるものを用意してくれたので、私は飢えることなく生きられました。でも、お友達と会えなくなったのがとても辛いです。元気かしら……」
一通り”小さなお友達”とやらの事を聞きだした師匠ジオドリックは目を見開て固まった。
「あの……お師匠様?どうかしましたか?」
「いいや、ただとんでもない事を聞いて驚いただけだ……。お前ってヤツはスゴイな」
ジオドリックの狼狽えぶりを見て、少女はなにか変なことを言ってしまったかと青くなった。戯言として忘れてくれと言いかけたが、カモメがそれを遮った。
「おまえスゴイな!そーかそーか!さすが俺の妹弟子だ!アーロンと呼び捨てするのを許可するぜ」
「え?アーロン様?」
目の前でバッサバッサと翼を広げるものだから少女も師匠も嫌そうに目を眇めた。
「よさねぇかアホウ鳥!埃が舞うだろ、まったく……」
「アホウ……ひどいよ師匠、似ているけど俺はカモメだよ~!」
困惑するラナンナチェに気が付いて師匠は古くて分厚い本を書棚から取り出した。とんでもない埃が舞ったので魔法で空気を清浄化した。
「ラナン、お前が接していたというのはこのような者で間違いないか?」
師匠は分厚いそれを開いて、ある個所を指差した。その絵図には手の平に乗る程度の小さい生き物が描かれていた。背中にはトンボや蝶の羽根を生やしている、それぞれの衣服は緋色の衣や白い絹を纏っただけの者など様々である。
「ああ!そうです、そっくりだわ。顔立ちはぜんぜん違うけど同じ種族かと思います」
図解についての説明文には”聖女や愛し子を護る精霊、もしくはそれに準する魔力を持つ者に仕える精霊”と書かれていた。
「聖女は神の加護を持って生まれ寵愛を受けた者、お前は精霊の愛し子だろうな。その類まれな魔力が放たれる場所は居心地が良く美味しいのだろう」
「美味しいのですか?魔力が……?」
少し恐ろしく思ったが、害成すほど吸われることはないと師匠は付け加える。
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