隣の芝はやっぱり青い

音爽(ネソウ)

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それは社交シーズンの季節の頃だった、春薔薇が咲き乱れる気候に入り伯爵令嬢であるサマンサ・アクロイドもこの季節を満喫していた所だ。


「こんにちは、今日は良い天気ですね」
「え?あぁ……そうね」
突然に垣根越しに声を掛けられて驚くサマンサだ、些か無作法な挨拶に眉を顰めそうになった。ここタウンハウスでは隣家との距離がとても近い、彼女は『早くカントリーハウスに戻りたい』と密かに思った。

そう思っているサマンサを置いて隣人のアニタ・エイムス子爵令嬢はお構いなしに話し掛けてくる。彼女は最近越してきたばかりだ、初対面にも拘わらずズケズケとあーだこーだ、とどうでも良い自慢話をふってくるのだ。

「薔薇はやはりバロネスが一番華やかだと思いますの!貴女もそう思わなくて?」
「はぁ……私は種類に関係なく皆美しいと」
サマンサはこの図々しい隣人から離れたくてウズウズしていた、ペチャクチャと喧しいアニタに閉口していると助け船がやってきた。

「サマンサ様、まもなくマナーレッスンの時間でございます。シーズン中に粗相がないようにしなければ」
「ええ、そうね。では失礼しますわ」
いつもは侍女長の御小言は苦手な彼女だったが、この時ばかりは有難いと心から感謝したのである。




「ナイスタイミングだったわ、はぁ肩が凝ってしまった」
「そうでしょうとも、あの隣人はマナーがなっておりません。主が困っているのを見過ごせません」
「あら、知っていたの?」

すると侍女長は得意顔でこう述べる。
「もちろんでございます、お嬢様の機微に疎くては務まりませんから」
サマンサは頼もしいと思うと共に厄介なことだと眉を下げるのだった。


***


「あー気に入らないわ!何よ気取っちゃってさ!」
邸内に戻って開口一番に毒付くアニタは履いていたヒールを乱暴に脱ぎ飛ばした。今年の春からここに越してきた彼女はイライラと歯噛みする。

タウンハウスに住むのは貴族にとって誉高いことだ、やっとの想いで手に入れた中古住宅である。それでも隣家に比べればかなり小さい。

「お父様もケチケチせずにもっと立派な屋敷を手に入れてくれたら」
ブツブツと文句を垂れているとそこに兄にアルドがやってきてニヤリと厭らしく笑う。アニタに良く似た面差しをした彼はこう言った。

「だったら乗っ取りでもしたら?隣のはおっとりしていて何処かマヌケそうじゃないか」
「……ふうん、そうね。それも悪くないかも、でもどうやって?」
兄は肩をちょっと竦めると「俺がいるじゃないか」と自信満々に言うのである。見目が良くスマートな振る舞いを自画自賛の彼は「今年のシーズンは新しい風を吹き込むはずさ」と言ってのけた。






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