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下町の片隅で小さな家を構え暮らしていた若夫婦の話。

結婚して五年、子に恵まれなかったが二人きりの人生も悪くはないだろうと思い始めていた頃だった。
いつものように夕飯の支度をしていた妻のネイベルは、玄関の方から荒々しくドアを開ける音に驚き手を止めた。何事かとそこへ小走りに行ってみれば、見知らぬ女性が腰に手を当てて立っていた。その背後にはやせっぽちの夫ミックの姿がある。

「おかえりなさい、あのこちらの婦人は?」
だがしかし、ネイベルの問に答える前に女性が割って入って声高に言い放つ。
「この私が来たからには、いろいろ躾直してやらないとね!正妻の在り方について!」
「え?」
口ごたえは許さないと女性は咆えて、慎ましく夫に尽くして家に金を入れ、年上の私を敬って接しろと宣った。

困惑する妻ネイベルは「叔母さんか何か?」と夫に聞いた。すると予想の遥か斜め上の返事がきたのだ。
「失礼なことを言うな!彼女は俺の恋人だ!」
「は?……え、冗談でしょ。この人、私達よりかなり年上に見えるけど?」
「五十三歳だ!」
「はあ!?約二倍じゃないのよ!」呆れかえる妻を放置して話は進んでしまう。

「彼女は病弱で身寄りが無くて可愛そうな人なんだ、すぐに部屋を用意しろ。そして、彼女の世話をするんだ!」
「……何を言ってんの?理解できない」
堂々と愛人を連れて来て、さらには一緒に棲むとまで言い出した夫に妻は混乱するばかりだ。
流石に常識から逸脱した宣言に腹を立てたネイベルは、余計な部屋はないと突っぱねるが夫のほうは嗤って信じられない事を言った。

「ならばお前がお物置小屋で過ごせ」と無理矢理に家から妻を追い出したのだ。
「オーホホホッ!邪魔は消えたわねダ~リン♡」
「そうだねベティ♡」

嵐のような出来事に庭先に出て茫然自失になっていたネイベルだったが、我に返ると沸々と怒りの炎が再燃してきた。
「なるほど、そういう態度なわけね。後悔させてあげるから!」

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