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悪意に酔う鬼女
灯りを落としたその部屋は月明かりで青白く輪郭を浮かべていた。
窓辺に座る人物は虚ろな目で月夜を見上げていた、手には真っ赤なワインがありボトルのまま飲んでいる。
乱れた髪と崩れたドレス、その姿は場末の娼婦のようだった。
グイッとワインをあおり下品にゲップを吐く、その様を見ていた夫は頭を左右に振って目を伏せた。
「ルーファが捕縛された、お前のせいだ」
「ふふ。役に立たない子、グズでバカで……素直なところだけは評価してたのに」
再びワインを煽ったポリーは盛大にゲップを吐いた。
「よさないか見苦しい、……まぁいいか明日には他人だ。ここに居ようが逃げようが好きにしろ」
男が部屋を去る気配がしてポリーは呼び止めようとしたが言葉がでなかった。
ふらりと立ち上がり男の背を追おうとする。
「今更なんだ?……私の名さえ忘れた元妻よ」自嘲気味に笑う男。
「……名前……アランでしょ、私は妻よ忘れてない」
「残念だ、私の名はアーリンだ。はっ、所詮はその程度の存在だったのだな」
「……」
ポリーは悔しそうに歯ぎしりしてワインボトルを床に叩きつけた。
「名なんてどうだっていいわ!私を幸せにする存在ならばね!でもあなたはポリーとして私を見てなかった!ただの後妻で家守の女と利用して置いただけよね!」
夫は感情の消えた顔で言い放った。
「それはお互い様だろう?私の長男バートを蔑ろにして追い出した愚妻のくせに」
「ルーファだって息子よ!いつもいつもバートばかり優先してたわ」
酔っ払いとは話にならないと言って夫アーリンは廊下に出る。
「元妻よ、長男で後継の嫡男が優先されるのは当たり前だ。それに腹を痛めた息子を傀儡に育てたお前は母ですらない、ただの鬼女だ」
アーリンはそう言葉を浴びせるとドアを閉めて去って行った。
「うるさい!うるさい!私の人生よ!華やかに生きるために手駒を作っただけよ!けど、とんだ不良品だったわ!役立たずの可愛い私の息子、道具にすらならなかった哀れな子」
ルーファを婿に入れ内側から公爵家を乗っ取る算段が潰えた、いつも幸せに満ちていたリーナの顔を、不幸に落として苦しみに歪む顔が見たかったポリー。
天井を仰ぎ見て下品に嗤うポリーには淑女の片鱗さえ残っていない。
「もうどうでもいい、どうでもいいのよ……フフフ、アハハハハッ」
やがて酔いつぶれて床に転がった。
そこへ憲兵隊が雪崩れ込んでポリーを捕縛した。
それから調査団も合流して屋敷を見分した、しかしルーファを狂わせた薬物はみつからなかった。
***
長年に渡って息子を薬漬けにした母親は虐待容疑で逮捕された。
しかし肝心の薬物がなかなか発見されない、連日ポリーは尋問されたが口を割らなかった。
一番怪しい彼女の居室は捜査員がくまなく調べる。
壁紙が剥がされ、敷物はもちろん床板一枚残らず剥がされて調査されていた。
だが薬物どころか調合形跡すら発見されない、どういう手口なのかすら検討がつかない始末だった。
投与されたルーファにいたっては、薬が抜けても精神が病んでしまい人が近づくと怯えて泣き叫ぶ。
幼児退行をしている可能性があると精神科医が報告した。
自分の名と最低限の生活文化しか彼の記憶が残っていないのだ。
どのように薬を飲まされたかなど聞きだすことは叶わない。
一方、厳しい尋問にも屈しない頑なな容疑者ポリーの態度に業を煮やした検察は、専門医を呼びつけ逮捕後2度目になる身体検査を徹底的に行わせた。
最初は何一つ出なかったがやがてある検査によってポリーの悪だくみが発覚した。
窓辺に座る人物は虚ろな目で月夜を見上げていた、手には真っ赤なワインがありボトルのまま飲んでいる。
乱れた髪と崩れたドレス、その姿は場末の娼婦のようだった。
グイッとワインをあおり下品にゲップを吐く、その様を見ていた夫は頭を左右に振って目を伏せた。
「ルーファが捕縛された、お前のせいだ」
「ふふ。役に立たない子、グズでバカで……素直なところだけは評価してたのに」
再びワインを煽ったポリーは盛大にゲップを吐いた。
「よさないか見苦しい、……まぁいいか明日には他人だ。ここに居ようが逃げようが好きにしろ」
男が部屋を去る気配がしてポリーは呼び止めようとしたが言葉がでなかった。
ふらりと立ち上がり男の背を追おうとする。
「今更なんだ?……私の名さえ忘れた元妻よ」自嘲気味に笑う男。
「……名前……アランでしょ、私は妻よ忘れてない」
「残念だ、私の名はアーリンだ。はっ、所詮はその程度の存在だったのだな」
「……」
ポリーは悔しそうに歯ぎしりしてワインボトルを床に叩きつけた。
「名なんてどうだっていいわ!私を幸せにする存在ならばね!でもあなたはポリーとして私を見てなかった!ただの後妻で家守の女と利用して置いただけよね!」
夫は感情の消えた顔で言い放った。
「それはお互い様だろう?私の長男バートを蔑ろにして追い出した愚妻のくせに」
「ルーファだって息子よ!いつもいつもバートばかり優先してたわ」
酔っ払いとは話にならないと言って夫アーリンは廊下に出る。
「元妻よ、長男で後継の嫡男が優先されるのは当たり前だ。それに腹を痛めた息子を傀儡に育てたお前は母ですらない、ただの鬼女だ」
アーリンはそう言葉を浴びせるとドアを閉めて去って行った。
「うるさい!うるさい!私の人生よ!華やかに生きるために手駒を作っただけよ!けど、とんだ不良品だったわ!役立たずの可愛い私の息子、道具にすらならなかった哀れな子」
ルーファを婿に入れ内側から公爵家を乗っ取る算段が潰えた、いつも幸せに満ちていたリーナの顔を、不幸に落として苦しみに歪む顔が見たかったポリー。
天井を仰ぎ見て下品に嗤うポリーには淑女の片鱗さえ残っていない。
「もうどうでもいい、どうでもいいのよ……フフフ、アハハハハッ」
やがて酔いつぶれて床に転がった。
そこへ憲兵隊が雪崩れ込んでポリーを捕縛した。
それから調査団も合流して屋敷を見分した、しかしルーファを狂わせた薬物はみつからなかった。
***
長年に渡って息子を薬漬けにした母親は虐待容疑で逮捕された。
しかし肝心の薬物がなかなか発見されない、連日ポリーは尋問されたが口を割らなかった。
一番怪しい彼女の居室は捜査員がくまなく調べる。
壁紙が剥がされ、敷物はもちろん床板一枚残らず剥がされて調査されていた。
だが薬物どころか調合形跡すら発見されない、どういう手口なのかすら検討がつかない始末だった。
投与されたルーファにいたっては、薬が抜けても精神が病んでしまい人が近づくと怯えて泣き叫ぶ。
幼児退行をしている可能性があると精神科医が報告した。
自分の名と最低限の生活文化しか彼の記憶が残っていないのだ。
どのように薬を飲まされたかなど聞きだすことは叶わない。
一方、厳しい尋問にも屈しない頑なな容疑者ポリーの態度に業を煮やした検察は、専門医を呼びつけ逮捕後2度目になる身体検査を徹底的に行わせた。
最初は何一つ出なかったがやがてある検査によってポリーの悪だくみが発覚した。
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