完結 裏切りは復讐劇の始まり

音爽(ネソウ)

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約束通りの三日後。
ほぼ時間通りにやってきたニコラスは早速薬を受け取って共に来いと言う。
彼はメイジーに犯罪の片棒を担がせる気なのだ。彼女がベタ惚れしているのをいいことになんでもやらせる。
この時も彼女は不満そうな顔をしたものの大人しく付いてきた。

「アシュトン侯爵が湖で余暇を過ごすと情報を手に入れたんだ。これを利用しない手はないからな」
「へぇ、良くやるわねアナタ。かなり嫌われていると噂に聞いているけど」
ついこの間の醜聞のことを出されたと思ったニコラスはカッとなってメイジーの頬を叩いた。
「何をするのよ!一人じゃ何もできないボンボンの癖に!このまま帰っても良いのよ」
「っ!すまなかった……つい。最近ついてなくて苛立ってるんだ」

痴話喧嘩に発展しそうになった二人だが、静かな別荘地で騒いでは悪目立ちする。拙いと思ったニコラスはメイジーの機嫌を宥める。手伝ってくれたら優しく抱いてやると囁く。
だがメイジーは気持ち悪いと思ってしまう、事実これからやる卑怯な謀は女子を辱めることなのだから。
「他所の女を手籠めにしたその手で私の事を触らないでよね」
「わかったよ、手伝ってくれたらそれでいいから機嫌直してくれ」
ニヤニヤと下品に笑うニコラスの様子は、メイジーでなくとも気持ち悪いと思うに違いない。


ニコラスの計画では陽が落ちてから別荘へ忍び込み、食堂裏にて薬を仕込む算段だという。
「警備や侍女とて食事はとるからな、水瓶にこれを混入させれば……ふふふ」
「……なるほど、通りで昏倒薬を多めに作らせたわけね」
無味無臭だというメイジーが調合する薬は気取られる心配はなさそうだ。先ずは別荘外の護衛らがいるそこに薬を散布して眠らせた。そして食堂の様子を伺い、仕込みに必死そうな厨房を確認すると水瓶の隙間へそっと薬瓶を傾けた。

まんまとうまくいったニコラスは声を殺して笑う。
水瓶から汲んだ水を使いスープを作り出した様子を見て、そこから退避した。
「うまくいったな!後は食事が終わった頃合いに」
「ねぇ、まだ時間があるわよね。ボートを借りて湖を楽しもうよ」
せっかくなのだからとメイジーは彼を誘った、陽が落ちた湖は幻想的な美しさを見せている。軽食を摂りながら景色を楽しむのもありだろうとニコラスは説得された。

「わかったよ、ちょっとだけだからな。三十分後には屋敷へ入るんだから」
「それでいいわよ、デートなんて久しくしてないから嬉しいわ」
愛人にそう言われた彼は満更でもない様子でボートに乗り込む。軽くオールを動かせば緩々と湖面を走った。
そして、やや奥まったところまで来た時、休憩しようとメイジーが言う。

「炙り肉のサンドを作ったのよ、それから果実水」
「ああ、気が利くじゃないか」
喉が渇いていたらしい彼は水筒を受け取るとゴクゴクと飲み干していく。すっかり空にしてしまってから「悪いな」と詫びた。
「いいのよ、最初から貴方のためにだけ用意したのだもの」
「そうだったのか?」

さらにニコラスはサンドに手を伸ばしてガツガツと食み始めた、メイジーの分まで食べそうな勢いに彼女は笑う。
「相変わらずがっつきね……ふふ」
「あ~食った……少し眠いな。少し寝ていいか?」
「ええ、いいわよ。好きなだけ休むといいわ」
「いや、それは駄目だ。計画が……ふあああ、クソ困ったな」
彼はしきりに頭を振って眠気と戦っていた、だが次第に手足が痺れてきて異変に気が付く。

「残念……こっちが本当の薬入りだったのよ、愚かなニコラス」
空瓶を足元に転がしてメイジーはクスクスと笑った。
「な、なんで?どうしてそんな裏切りを……」

朦朧とする意識、その最中に聞いたのは彼女の恨み言だった。
「裏切ったのは貴方じゃない、あの時の恨み晴らさせて貰うわ」
手足がどんどん麻痺して動けなくなっていく、抗うがうまく行かない。苛立ってメイジーを掴もうとしたが弾かれた。その弾みで湖へと落ちてしまった。

足掻き助けてと叫ぶニコラスにメイジーは面白そうに笑う。
「苦しいでしょ?ふふ、体の自由を奪われて惨めに沈みなさいよ。運が良ければ誰か助けてくれるかも、でも駄目ね霧が濃くなってきたわ。目視できる人なんていないし人気もない残念」

逆行して蘇っていたのはルシアナだけではなかったのだ。
妻の家族を亡き者にした後、事情を知る愛人の存在が邪魔になったニコラスはメイジーまでも手にかけていたのだ。
愛した者に騙された彼女はこの時をずっと待っていた。

ゴボガボと苦しみ、必死に泳ごうとしているが睡魔と麻痺で思うように動けない。
「さようなら、ニコラス」
ゆっくりと岸に戻って行く舟の上でメイジーは失恋の歌を口ずさむ、その頬には一筋光るものがあった。 オールで出来た波紋が、僅かに湖面に浮いていた彼の顔を覆う。
「が、っは……た、すけ、……ゴボボ」

青く光る湖に白い霧が立ち込める時、美しく悲し気な歌声が聞こえてくると伝承が残る。
それは遠い遠い昔の話。
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