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穏やかに眠る王子
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「お目通り叶いまして至福に存じます」
朗々と口上を述べる少年に対してテンツフィール王は一瞬たじろいだが、直ぐに気を取り直してニッコリ微笑み返して「良い出来だ」と褒めた。
「一平民が王族に召喚されたとあればボロを出す、貴殿はあれか貴族の出なのではないか?いや、そうとしか思えぬ」
「……はい、その通りにございます。しかしながら私の身分は剥奪されております、謂れなき罪によって」
「ほう?」
妙に食いつく王は一席を設けたいと侍従に目配せした。狼狽するノチェに対して「案ずることはない」と王は笑う。
あくまで平民の彼女に対して興味を示したに過ぎないのだと。
寒々とした玉座の間から一転して穏やかな陽光の指すサロンで茶会が開かれた。そこには急遽同席を命じられた王妃までもが参じていた。
「あ、あの、これは一体……」
「まぁ良いではないか、話は和やかにいこうぞ」
「は、はぁ」
「そうですよ、貴方に興味が湧いてきました」
止む無く供された茶をしずしずと嗜む他はないと判断したノチェは大人しくその通りにした。鼻に抜ける高級茶葉はいつぶりだろうかと思う。
それも手伝ってかノチェは誰にも告白するつもりも無かった身の上話を語る。これは後に気づいたことだが自白剤が微量に含まれていた。
「なるほど……苦労されたのね、でも大丈夫よ。貴女を酷使するようなものはこの国にはいないわ」
「うむ、なんとも奇妙なことか。相貌が変わってしまうほど……その瘴気とかいったか?」
「はい、空気の淀みを総じてそのように申しておりました。毒素が含まれていたのかと」
瘴気とは何か、瘴疫とも呼ばれる架空の病原体のことを指す。
「なるほどな……貴殿いや、其方の生まれ育ったセントリブ国ではそのように言われておるのか。余が考えるにその毒素とは鉱毒と思われるな、愚かなことだ」
「鉱毒……たしかに国を支える事業にそのようなものがあったようです、まさかそのような……」
瘴気とよばれ恐ろしい淀みの源が鉱毒というものだと知らされたノチェは改めて驚く。
「通りで地表や地表水にまで汚染物質が溜まっていたわけで……、地下水に有害なものが流れていたのですね」
「さて、本題にはいろうか。キミを呼んだのは他でもない、その得意の秘術で我が息子の症状を見て戴きたい」
「と、得意の秘術だなんて……私はそんな」
恐縮してそう答えるノチェだったが、どうかと頭を下げられてはどうにもならない。治せなくとも良いと言う言質を得て御子息と対面することになった。
「これは?」
開口一番にでた言葉がこれだった、無理もない第二王子マガワードはそこで穏やかな表情で眠っていたのだから。これが苦悶の表情でも浮かべていれば話は違っていただろう。
「とても穏やかに眠られているようですが」
「うむ、そうであろう。これが普通ならばな……ただ眠っているだけなのだ。何をしてもどのように大音でもって妨げようと一向に眠りから覚めやしない」
「なんと……どういうことでしょうか」
栄養は点滴により得られているようだったが、それだけだ。ただ穏やかに眠りにつき健やかな寝息を立てている。異常なのか正常なのか決定打に欠けている。
「昏昏と眠られている、そして表情は穏やかで微笑みすら称えられている……普通に眠られているとしか」
「ぐぬぅ……やはりそうだったか、いや済まなかった忘れてくれて良い」
「王様……」
王子と対面したノチェは診察だけさせて貰うことにした。
とはいえ出来ることが限られていて、ただ脈数を測り、目を無理矢理に開けて瞳孔確認をするだけだった。
「ふぅ……どうして起きられないのでしょうか?」
ぴくりとも反応しない王子は穏やかにここに在った。なにか反応することがあればと思い話しかける。今日は良い日和だと話かけてみた。とても静かな午後のひと時であるとも伝えた。するとどうだろうか、微笑んだ口元が僅かに開いた。
「まぁ王子殿下……私の声が聞こえるのですか?」
朗々と口上を述べる少年に対してテンツフィール王は一瞬たじろいだが、直ぐに気を取り直してニッコリ微笑み返して「良い出来だ」と褒めた。
「一平民が王族に召喚されたとあればボロを出す、貴殿はあれか貴族の出なのではないか?いや、そうとしか思えぬ」
「……はい、その通りにございます。しかしながら私の身分は剥奪されております、謂れなき罪によって」
「ほう?」
妙に食いつく王は一席を設けたいと侍従に目配せした。狼狽するノチェに対して「案ずることはない」と王は笑う。
あくまで平民の彼女に対して興味を示したに過ぎないのだと。
寒々とした玉座の間から一転して穏やかな陽光の指すサロンで茶会が開かれた。そこには急遽同席を命じられた王妃までもが参じていた。
「あ、あの、これは一体……」
「まぁ良いではないか、話は和やかにいこうぞ」
「は、はぁ」
「そうですよ、貴方に興味が湧いてきました」
止む無く供された茶をしずしずと嗜む他はないと判断したノチェは大人しくその通りにした。鼻に抜ける高級茶葉はいつぶりだろうかと思う。
それも手伝ってかノチェは誰にも告白するつもりも無かった身の上話を語る。これは後に気づいたことだが自白剤が微量に含まれていた。
「なるほど……苦労されたのね、でも大丈夫よ。貴女を酷使するようなものはこの国にはいないわ」
「うむ、なんとも奇妙なことか。相貌が変わってしまうほど……その瘴気とかいったか?」
「はい、空気の淀みを総じてそのように申しておりました。毒素が含まれていたのかと」
瘴気とは何か、瘴疫とも呼ばれる架空の病原体のことを指す。
「なるほどな……貴殿いや、其方の生まれ育ったセントリブ国ではそのように言われておるのか。余が考えるにその毒素とは鉱毒と思われるな、愚かなことだ」
「鉱毒……たしかに国を支える事業にそのようなものがあったようです、まさかそのような……」
瘴気とよばれ恐ろしい淀みの源が鉱毒というものだと知らされたノチェは改めて驚く。
「通りで地表や地表水にまで汚染物質が溜まっていたわけで……、地下水に有害なものが流れていたのですね」
「さて、本題にはいろうか。キミを呼んだのは他でもない、その得意の秘術で我が息子の症状を見て戴きたい」
「と、得意の秘術だなんて……私はそんな」
恐縮してそう答えるノチェだったが、どうかと頭を下げられてはどうにもならない。治せなくとも良いと言う言質を得て御子息と対面することになった。
「これは?」
開口一番にでた言葉がこれだった、無理もない第二王子マガワードはそこで穏やかな表情で眠っていたのだから。これが苦悶の表情でも浮かべていれば話は違っていただろう。
「とても穏やかに眠られているようですが」
「うむ、そうであろう。これが普通ならばな……ただ眠っているだけなのだ。何をしてもどのように大音でもって妨げようと一向に眠りから覚めやしない」
「なんと……どういうことでしょうか」
栄養は点滴により得られているようだったが、それだけだ。ただ穏やかに眠りにつき健やかな寝息を立てている。異常なのか正常なのか決定打に欠けている。
「昏昏と眠られている、そして表情は穏やかで微笑みすら称えられている……普通に眠られているとしか」
「ぐぬぅ……やはりそうだったか、いや済まなかった忘れてくれて良い」
「王様……」
王子と対面したノチェは診察だけさせて貰うことにした。
とはいえ出来ることが限られていて、ただ脈数を測り、目を無理矢理に開けて瞳孔確認をするだけだった。
「ふぅ……どうして起きられないのでしょうか?」
ぴくりとも反応しない王子は穏やかにここに在った。なにか反応することがあればと思い話しかける。今日は良い日和だと話かけてみた。とても静かな午後のひと時であるとも伝えた。するとどうだろうか、微笑んだ口元が僅かに開いた。
「まぁ王子殿下……私の声が聞こえるのですか?」
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