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領主様
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夜会から数日後が経った頃、またもルビアンヌが癇癪を起した。だが、無理もない、因習である花捧げの儀を行うとブランネール公爵家から通達が来たのだから。
「冗談じゃないわ!どうして私がいけ好かない漁色家ジジィに御手付きされなきゃならないの!」
ルビアンヌの輿入れが決まった途端に舞い込んだ因習の誘いに困惑するミュゼリント家である、古来より続けられてきた初夜権の行使に狼狽えている。このように代々領主の権限により処女が搾取されてきた。
「おぉ、ルビアンヌ……私の可愛い娘よ、だが、わかっておくれこればかりは避けられないのだ」
「嫌よぉおお!どうして父様!娘が可愛くないの!?」
「それは……うぅむ」
嫌がる娘の勢いに飲まれてタジタジになるミュゼリント氏である、たかが僻地の豪農が領主に逆らえる訳がない。悩んだあげく出た答えは悪魔のような考えだった。
そう答えは決まっていた、彼らは地下室に向かうのである。
「あの……なんの御用でしょう?」
たじろぐセシルにミュゼリント氏は厭らしい笑みを称えてグイと衣服を剥ぎ取った。すると痩せこけた身体が露わになり僅かに膨らんだ胸が剥き出しになる。そして、伸び放題だった前髪をザクリと切り落とされた。
「な、なにを……」
「ふん、やはりな。お前も十六になるのだ、少々劣るとはいえ我が娘に良く似ている」
「え?」
氏は忌々しくも双子の片割れを見下ろす、そして、下女たちに命令して小奇麗にさせていくのである。
「やめて!どうして……これは風呂?うぷっ!嫌だ!」
有無を言わさずゴシゴシと身体を洗われて香油を掛けられて行く、そして鏡の前に現れたのは美しい姿に変貌した己だった。訳が分からず混乱するセシルは抵抗虚しくルビアンヌの恰好をさせられたのだ。
「まぁ嫌だわ、これが私の身代わりですって?比べられるのは不愉快だわ」
瓜二つとはいかないが、それなりにお嬢様然としたその姿を気に入らないとルビアンヌは頬を膨らませる。痩せていて背の低いセシルとは雲泥の差であると主張する。
「まぁそういうな、これでお前の貞操は守られるのだからな」
「ふん、せいぜい変態ジジィを慰めてきなさいな」
悪態をついてセシルの肩をドンと押してきた、弾みで後ろにコケた彼女は盛大に尻もちを着く。それを見てルビアンヌは傲慢に高笑いをした。
『痛い……何処までも意地悪な、ボクが何をしたと言うの』
鈍い痛みに顔を歪めるセシルは自分の境遇を恨んだ。
***
鬱々としたセシルを乗せて豪奢な馬車はガラガラと音を立て悪路を行く、今夜は大雨に見舞われた、まるでセシルの心情を表しているかのようだ。大粒の雨がカンカンと車窓を叩く、慣れない事にビクついていると、やがて大きな屋敷に着いた。馭者がやって来て降りるように声を掛けて来た。
「足元がお悪いです、ドレスを引っ掻けないように」
「……はい」
礼を言いゆっくりと降り立つ、すると闇からスルっと小柄な男が腰を曲げてきた。公爵家のフットマンと見られる、再びセシルは緊張する。
「ようこそ、ブランネール公爵家へ。さあ、お嬢さん、我が主がお待ちかねでございます」
「……う、はい」
言われるがままに屋敷の奥へと入る、ここまで来たらに腹を決めなければならない。自分の運命がこの先にあるのかと気が滅入る。すべてが終わったら何処へ成りへと逃げたいと思った。それくらい疲弊していたのである。
「旦那様、例年通りに生娘を連れて参りました」
昏い帳の奥にその人物は坐っていた、どんな老獪な爺さんだろうとセシルは蒼い顔で震えた。だが、いつの間にかフットマンに代り執事が灯りを近づけると浮かんだのは黒髪の美しい男だった。凛とした横顔は酷く冷たく感じたが、年老いた老人などではない。
「なんだ、古い因習の真似事などしおって……私はそこまで強欲ではないぞ」
「冗談じゃないわ!どうして私がいけ好かない漁色家ジジィに御手付きされなきゃならないの!」
ルビアンヌの輿入れが決まった途端に舞い込んだ因習の誘いに困惑するミュゼリント家である、古来より続けられてきた初夜権の行使に狼狽えている。このように代々領主の権限により処女が搾取されてきた。
「おぉ、ルビアンヌ……私の可愛い娘よ、だが、わかっておくれこればかりは避けられないのだ」
「嫌よぉおお!どうして父様!娘が可愛くないの!?」
「それは……うぅむ」
嫌がる娘の勢いに飲まれてタジタジになるミュゼリント氏である、たかが僻地の豪農が領主に逆らえる訳がない。悩んだあげく出た答えは悪魔のような考えだった。
そう答えは決まっていた、彼らは地下室に向かうのである。
「あの……なんの御用でしょう?」
たじろぐセシルにミュゼリント氏は厭らしい笑みを称えてグイと衣服を剥ぎ取った。すると痩せこけた身体が露わになり僅かに膨らんだ胸が剥き出しになる。そして、伸び放題だった前髪をザクリと切り落とされた。
「な、なにを……」
「ふん、やはりな。お前も十六になるのだ、少々劣るとはいえ我が娘に良く似ている」
「え?」
氏は忌々しくも双子の片割れを見下ろす、そして、下女たちに命令して小奇麗にさせていくのである。
「やめて!どうして……これは風呂?うぷっ!嫌だ!」
有無を言わさずゴシゴシと身体を洗われて香油を掛けられて行く、そして鏡の前に現れたのは美しい姿に変貌した己だった。訳が分からず混乱するセシルは抵抗虚しくルビアンヌの恰好をさせられたのだ。
「まぁ嫌だわ、これが私の身代わりですって?比べられるのは不愉快だわ」
瓜二つとはいかないが、それなりにお嬢様然としたその姿を気に入らないとルビアンヌは頬を膨らませる。痩せていて背の低いセシルとは雲泥の差であると主張する。
「まぁそういうな、これでお前の貞操は守られるのだからな」
「ふん、せいぜい変態ジジィを慰めてきなさいな」
悪態をついてセシルの肩をドンと押してきた、弾みで後ろにコケた彼女は盛大に尻もちを着く。それを見てルビアンヌは傲慢に高笑いをした。
『痛い……何処までも意地悪な、ボクが何をしたと言うの』
鈍い痛みに顔を歪めるセシルは自分の境遇を恨んだ。
***
鬱々としたセシルを乗せて豪奢な馬車はガラガラと音を立て悪路を行く、今夜は大雨に見舞われた、まるでセシルの心情を表しているかのようだ。大粒の雨がカンカンと車窓を叩く、慣れない事にビクついていると、やがて大きな屋敷に着いた。馭者がやって来て降りるように声を掛けて来た。
「足元がお悪いです、ドレスを引っ掻けないように」
「……はい」
礼を言いゆっくりと降り立つ、すると闇からスルっと小柄な男が腰を曲げてきた。公爵家のフットマンと見られる、再びセシルは緊張する。
「ようこそ、ブランネール公爵家へ。さあ、お嬢さん、我が主がお待ちかねでございます」
「……う、はい」
言われるがままに屋敷の奥へと入る、ここまで来たらに腹を決めなければならない。自分の運命がこの先にあるのかと気が滅入る。すべてが終わったら何処へ成りへと逃げたいと思った。それくらい疲弊していたのである。
「旦那様、例年通りに生娘を連れて参りました」
昏い帳の奥にその人物は坐っていた、どんな老獪な爺さんだろうとセシルは蒼い顔で震えた。だが、いつの間にかフットマンに代り執事が灯りを近づけると浮かんだのは黒髪の美しい男だった。凛とした横顔は酷く冷たく感じたが、年老いた老人などではない。
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