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セシリア
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若き公爵は、朝食の紅茶を飲みながら自由になるには相応の知識を学ばなければならないと言った。判断力なくしてこの先は苦労するだろうと言うのだ。
「知識……」
「そうだ、先ずは常識を身に付けるのだ。世間に出て右も左もわからんでは困るだろう、詐欺まがいの事に巻き込まれでもしたらどうする?それこそ路頭に迷うぞ」
「……そうですね」
短慮な考えしかなかったセシルは蒼くなって俯いた、自由とはそう簡単に手にできるものではないらしい。公爵はチューターを付けようと言う、恐らくそれぐらいせねば身に付かないと卿は深く溜息を吐く。
「よいな必要最低限の品格を身に着けるのだ、話はそれからだ」
「あ、はい。公爵様」
彼女は慌てて居住まいを正しぎこちない礼をする、するとふわりと柔らかく彼女の頭に手を置く公爵だった。これには非常に驚いた、冷たいと思っていた御仁がこんなにも優しいのだから。彼の手は非常に温かい。
「あの……公爵様?」
「先ずは言動から正さなければならんだろうな、心して学ぶのだぞ」
「は、はい。わかったです」
***
それからのセシルは毎日のように忙しかった、言葉から学び淑女として恥ずかしくないマナーも学んだ。孤児同然に生きて来た彼女には過酷かも知れない。
「はい、ここまでの事を良く覚えなさい。これでも最低限ですからね」
「う、はい。わかったです」
「わかりました、ですよ。それから”う、はい”というのは止めなさい、聞いていて恥ずかしい!どもるのは仕方ないとしてそれはお止めなさい」
厳しい女教師はレニー伯爵夫人である、貴族の常識をトコトンまで教え込むつもりらしい。セシルに貴族の嗜みは必要かは甚だ疑問である。
自室にて必死に勉強するセシルのもとに、公爵が陣中見舞いだと言ってやって来た。メイドの真似事をする公爵に度肝を抜かれる。
「あ、そんな!卿自ら紅茶を淹れるなんてボクが、いいえ私が」
「まぁ、良いから。それよりそんな突っ込みをしている場合か?まだまだ学ぶことはあろう」
「……はい」
香しい香が部屋中に広がって行く、鼻腔を擽るのはハニービターの紅茶の香りだ。
「これは!ラクシュミーでございますか?」
「ほう、良く分かったな。紅茶の趣味は悪くない、もっと教養を身に着けるが良い」
「はい、ありがとうございます」
思わず走らせていたペンを止まらせて微笑んでしまうセシルだ、ちょっとばかりはしたなかったが卿は敢えて見過ごすことにした。
しばし寛ぐことにした二人はカウチに移って紅茶を楽しみだした。そこに、思わぬ声がした。
「あらぁ、様子を伺ってみれば、まぁまぁ!これは珍しい事ですね」
「ゲホッゴホッ!これはレニー夫人!」
「おほほ、気にせずに続きを楽しみなさいな」
公爵を揶揄う夫人は目を細めて「卿がこの紅茶を淹れるのは親しい方だけですのよ」と笑う。それを聞いた公爵は耳を赤くして抗議する。
「止めてください夫人!」
「おほほほ、宜しいじゃないのぉ。どれ、私もご相伴にあずかろうかしら。ところでねぇセシル、貴女の呼び名だけれど似つかわしくないわ」
「え?どうしてですか?」
急に話を振られてドギマギするセシルである、呼び名が今更なんだと言うのだろうと疑問符を頭に浮かべた。
「貴女の呼び名は男の子のようだと思うの、そうねぇ……どう思ってクラレンス?」
「そうですねぇ……」
顎に手をやってしばし長考する公爵は「セシリアというのはどうだろうか」と笑んだ。
「知識……」
「そうだ、先ずは常識を身に付けるのだ。世間に出て右も左もわからんでは困るだろう、詐欺まがいの事に巻き込まれでもしたらどうする?それこそ路頭に迷うぞ」
「……そうですね」
短慮な考えしかなかったセシルは蒼くなって俯いた、自由とはそう簡単に手にできるものではないらしい。公爵はチューターを付けようと言う、恐らくそれぐらいせねば身に付かないと卿は深く溜息を吐く。
「よいな必要最低限の品格を身に着けるのだ、話はそれからだ」
「あ、はい。公爵様」
彼女は慌てて居住まいを正しぎこちない礼をする、するとふわりと柔らかく彼女の頭に手を置く公爵だった。これには非常に驚いた、冷たいと思っていた御仁がこんなにも優しいのだから。彼の手は非常に温かい。
「あの……公爵様?」
「先ずは言動から正さなければならんだろうな、心して学ぶのだぞ」
「は、はい。わかったです」
***
それからのセシルは毎日のように忙しかった、言葉から学び淑女として恥ずかしくないマナーも学んだ。孤児同然に生きて来た彼女には過酷かも知れない。
「はい、ここまでの事を良く覚えなさい。これでも最低限ですからね」
「う、はい。わかったです」
「わかりました、ですよ。それから”う、はい”というのは止めなさい、聞いていて恥ずかしい!どもるのは仕方ないとしてそれはお止めなさい」
厳しい女教師はレニー伯爵夫人である、貴族の常識をトコトンまで教え込むつもりらしい。セシルに貴族の嗜みは必要かは甚だ疑問である。
自室にて必死に勉強するセシルのもとに、公爵が陣中見舞いだと言ってやって来た。メイドの真似事をする公爵に度肝を抜かれる。
「あ、そんな!卿自ら紅茶を淹れるなんてボクが、いいえ私が」
「まぁ、良いから。それよりそんな突っ込みをしている場合か?まだまだ学ぶことはあろう」
「……はい」
香しい香が部屋中に広がって行く、鼻腔を擽るのはハニービターの紅茶の香りだ。
「これは!ラクシュミーでございますか?」
「ほう、良く分かったな。紅茶の趣味は悪くない、もっと教養を身に着けるが良い」
「はい、ありがとうございます」
思わず走らせていたペンを止まらせて微笑んでしまうセシルだ、ちょっとばかりはしたなかったが卿は敢えて見過ごすことにした。
しばし寛ぐことにした二人はカウチに移って紅茶を楽しみだした。そこに、思わぬ声がした。
「あらぁ、様子を伺ってみれば、まぁまぁ!これは珍しい事ですね」
「ゲホッゴホッ!これはレニー夫人!」
「おほほ、気にせずに続きを楽しみなさいな」
公爵を揶揄う夫人は目を細めて「卿がこの紅茶を淹れるのは親しい方だけですのよ」と笑う。それを聞いた公爵は耳を赤くして抗議する。
「止めてください夫人!」
「おほほほ、宜しいじゃないのぉ。どれ、私もご相伴にあずかろうかしら。ところでねぇセシル、貴女の呼び名だけれど似つかわしくないわ」
「え?どうしてですか?」
急に話を振られてドギマギするセシルである、呼び名が今更なんだと言うのだろうと疑問符を頭に浮かべた。
「貴女の呼び名は男の子のようだと思うの、そうねぇ……どう思ってクラレンス?」
「そうですねぇ……」
顎に手をやってしばし長考する公爵は「セシリアというのはどうだろうか」と笑んだ。
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