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少女の夢は尽きない
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プリシラが王都学園中等部に進学した頃、兄達は成人して仕事に就く。
縮まらない距離に焦りを見せる彼女は、淑女になる為の知識とマナーを必死に学ぶのだがこれで良いのかと疑問を持つ。
「私はなぜ頑張ってるのだっけ?大人になるって何?」
恋焦がれたクラレンスと同じ年頃になったものの、増えた知識と背が伸びたことくらいしか彼女は変化を感じなかった。両親は「大きくなった」と嬉しそうだが、当人は気が付かないものだ。
鏡に映る13歳の少女はまだまだ子供の顔だ、体型のほうもツルペタでメリハリがあるとは言えない。
「あと数年でボボーンと育つものかしら、ペタペタスカスカだわ」
必要になった年齢だと言って侍女がブラを付けてくれたが、カップはブカブカでパットを補充しなければとても不格好だ。
「お嬢様はこれからなのですわ、それにとても美少女です。なにが不満なのですか?」
「お情けで”美”がついても少女のままが気に入らないの!背ばかり伸びて棒みたいじゃない」
早く大人になりたい彼女としては幼少期とさして変わり映えしない容姿が不満で仕方ないのだ。
「はぁ、お母様みたいになるにはどうしたら……」
女の子は父親に似ると言われるが、まさにプリシラの顔立ちは父親譲りだ。父の顔は整ってはいるが体型まで似てしまったらどうしようと悩むのだ。
性別上そんなことはあり得ないのだが、逞しい体つきの父のようにゴツゴツ成長したら絶望的だとプリシラは心を痛める。
「クラレンス様はゴリマッチョはお好きかしら?」
「なにを仰ってるんですか、お嬢様。バカなことを言ってる暇はありません、馬車乗り場へ急ぎますよ」
時計を気にして主を急かす侍女は姿見から離れないプリシラの背中を無理矢理に押す。
「学園つまんなーい、メリアが代わりに行ってよぉ」
「お嬢様、私これでも子持ちでアラサーでございますよ?」
「まだまだイケるよ!白髪は染めればいいじゃない、ほうれい線はテープで引っ張れば」
「……お嬢様しばきますよ?」
***
渋々学園に赴いたプリシラは教室で騒ぐ男子生徒らの子供っぽさにウンザリする。知り合った頃のクラレンスと同年だというのに何故こんなに違うのかと思った。
「あぁクラン様……あの時の貴方はとても大人に見えたわ。そこに惚れたのに」
年齢差ということをすっかり失念している彼女は、初恋の相手を少々過大評価しがちなのである。
近頃は大人になった彼を兄が時々招いて酒を楽しんでいる、ツマミや氷を持ってその場に邪魔するプリシラは凛々しく成長したクラレンスに益々惚れた。
だが、挨拶しても「やぁ」と返されるだけで、話を振っても生返事しかして貰えない。それでも「そんなクールな所も素敵!」と言って恋心は燃えるばかりだ。
「あぁクラン様、貴方の恋人になれたらどれほど素晴らしいかしら。そしてゆくゆくは御嫁に、キャッ!」
ランチの席でひとりで盛り上がる彼女を苦笑して見守る友人マーガレットは「妄想はほどほどに~」と言って揶揄う。
「だって素敵なのよ、青い瞳と美しい金髪!つんと尖った美しい鼻梁!はぁ~好きぃ!」
「はいはい、何度も聞いたわ。初恋のキミの話をね」
「もう、マーガレットはいないの?焦がれる殿方とか」
友人の恋バナを聞きたいプリシラは前のめりになって質問する、しかし、返答はいたって普通だった。
「親が決めた婚約者がいる、以上」
「えぇ~つまんない」
恋を知らないまま嫁に出るなんて、とても不幸なことだとプリシラは諭すのだが、「貴族子女のほとんどはそんなものだ」とマーガレットは苦笑した。
「許嫁か……私にもいたらどう変化があるのかしら?クラン様以外で考えた事がないわ」
「あら、案外水面下で婚約者が用意されてるかもよ?」
「え~!絶対嫌!そんな事になったら職業夫人にでもなって生涯ボッチの方がマシよ!なんなら冒険者とか」
「うわぁ……思ったより過激な思考してたのね」
ポヤポヤした容姿とは裏腹に中々に激しい生き方をしたいらしい学友にマーガレットは「それはそれで凄い」と妙な感心を示した。
「お父様に似た私なら筋骨隆々になれる可能性が、ゴリマッチョも夢じゃないフンヌッ!」
小さな力瘤を造ってプリシラは鼻息荒く宣った。
「ぶふっ、妖艶美女になる予定は捨てちゃうわけ?」
「例えよ例え~、好きな人と添えないなら自由に生きてみたいのよ」
食べ掛けで放置していたサンドを噛み、もそもそ食みだしたプリシラはふと「クラン様に婚約者はいるのか」と今更に思った。すでに成人し騎士として働いてる彼だが浮いた話を聞いたことがないので考えも及ばなかったのだ。
「やだ、肝心なことを……あれ、でもそんな話一度も耳にしてないわ」
自分の知らないクラレンスの私生活、どうしようもなく不安に駆られた彼女はすっかり食欲が失せていた。
縮まらない距離に焦りを見せる彼女は、淑女になる為の知識とマナーを必死に学ぶのだがこれで良いのかと疑問を持つ。
「私はなぜ頑張ってるのだっけ?大人になるって何?」
恋焦がれたクラレンスと同じ年頃になったものの、増えた知識と背が伸びたことくらいしか彼女は変化を感じなかった。両親は「大きくなった」と嬉しそうだが、当人は気が付かないものだ。
鏡に映る13歳の少女はまだまだ子供の顔だ、体型のほうもツルペタでメリハリがあるとは言えない。
「あと数年でボボーンと育つものかしら、ペタペタスカスカだわ」
必要になった年齢だと言って侍女がブラを付けてくれたが、カップはブカブカでパットを補充しなければとても不格好だ。
「お嬢様はこれからなのですわ、それにとても美少女です。なにが不満なのですか?」
「お情けで”美”がついても少女のままが気に入らないの!背ばかり伸びて棒みたいじゃない」
早く大人になりたい彼女としては幼少期とさして変わり映えしない容姿が不満で仕方ないのだ。
「はぁ、お母様みたいになるにはどうしたら……」
女の子は父親に似ると言われるが、まさにプリシラの顔立ちは父親譲りだ。父の顔は整ってはいるが体型まで似てしまったらどうしようと悩むのだ。
性別上そんなことはあり得ないのだが、逞しい体つきの父のようにゴツゴツ成長したら絶望的だとプリシラは心を痛める。
「クラレンス様はゴリマッチョはお好きかしら?」
「なにを仰ってるんですか、お嬢様。バカなことを言ってる暇はありません、馬車乗り場へ急ぎますよ」
時計を気にして主を急かす侍女は姿見から離れないプリシラの背中を無理矢理に押す。
「学園つまんなーい、メリアが代わりに行ってよぉ」
「お嬢様、私これでも子持ちでアラサーでございますよ?」
「まだまだイケるよ!白髪は染めればいいじゃない、ほうれい線はテープで引っ張れば」
「……お嬢様しばきますよ?」
***
渋々学園に赴いたプリシラは教室で騒ぐ男子生徒らの子供っぽさにウンザリする。知り合った頃のクラレンスと同年だというのに何故こんなに違うのかと思った。
「あぁクラン様……あの時の貴方はとても大人に見えたわ。そこに惚れたのに」
年齢差ということをすっかり失念している彼女は、初恋の相手を少々過大評価しがちなのである。
近頃は大人になった彼を兄が時々招いて酒を楽しんでいる、ツマミや氷を持ってその場に邪魔するプリシラは凛々しく成長したクラレンスに益々惚れた。
だが、挨拶しても「やぁ」と返されるだけで、話を振っても生返事しかして貰えない。それでも「そんなクールな所も素敵!」と言って恋心は燃えるばかりだ。
「あぁクラン様、貴方の恋人になれたらどれほど素晴らしいかしら。そしてゆくゆくは御嫁に、キャッ!」
ランチの席でひとりで盛り上がる彼女を苦笑して見守る友人マーガレットは「妄想はほどほどに~」と言って揶揄う。
「だって素敵なのよ、青い瞳と美しい金髪!つんと尖った美しい鼻梁!はぁ~好きぃ!」
「はいはい、何度も聞いたわ。初恋のキミの話をね」
「もう、マーガレットはいないの?焦がれる殿方とか」
友人の恋バナを聞きたいプリシラは前のめりになって質問する、しかし、返答はいたって普通だった。
「親が決めた婚約者がいる、以上」
「えぇ~つまんない」
恋を知らないまま嫁に出るなんて、とても不幸なことだとプリシラは諭すのだが、「貴族子女のほとんどはそんなものだ」とマーガレットは苦笑した。
「許嫁か……私にもいたらどう変化があるのかしら?クラン様以外で考えた事がないわ」
「あら、案外水面下で婚約者が用意されてるかもよ?」
「え~!絶対嫌!そんな事になったら職業夫人にでもなって生涯ボッチの方がマシよ!なんなら冒険者とか」
「うわぁ……思ったより過激な思考してたのね」
ポヤポヤした容姿とは裏腹に中々に激しい生き方をしたいらしい学友にマーガレットは「それはそれで凄い」と妙な感心を示した。
「お父様に似た私なら筋骨隆々になれる可能性が、ゴリマッチョも夢じゃないフンヌッ!」
小さな力瘤を造ってプリシラは鼻息荒く宣った。
「ぶふっ、妖艶美女になる予定は捨てちゃうわけ?」
「例えよ例え~、好きな人と添えないなら自由に生きてみたいのよ」
食べ掛けで放置していたサンドを噛み、もそもそ食みだしたプリシラはふと「クラン様に婚約者はいるのか」と今更に思った。すでに成人し騎士として働いてる彼だが浮いた話を聞いたことがないので考えも及ばなかったのだ。
「やだ、肝心なことを……あれ、でもそんな話一度も耳にしてないわ」
自分の知らないクラレンスの私生活、どうしようもなく不安に駆られた彼女はすっかり食欲が失せていた。
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