本編完結 彼を追うのをやめたら、何故か幸せです。

音爽(ネソウ)

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墜ちて行く

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悪癖が露見し始めたクラレンスは騎士団内でもヒソヒソされるようになっていた。勤めのひとつである鍛錬でもどこか上の空で、手合わせしていた部下に怪我を負わせ厳重注意を受けた。
このような失態は騎士職に就いて初めてのことであり、上官に手酷く叱責されたことは矜持が高い彼には強烈なショックだった。


ストレスが増えて不眠気味になった彼は職務態度にも怠慢さが目立ち始めた、王子殿下の側近が護衛騎士であるクラレンスに職務態度を改めるように警告した。
「王族は国の要である、その護衛騎士に就いた貴殿が腑抜けていてどうするか!このままでは任を解かれることになろうぞ」
「っ!それだけはどうかご容赦を!もうすぐ4年目になるのです、お願いします!」
頭を下げて謝罪する彼だったが「処分を下すのは王子殿下だ」と冷たくあしらわれてしまう。
護衛中にも拘わらず立ったまま寝ていたことを見咎められたのはかなり拙い。

悔しさに震え唇を噛むが、すべては己の体たらくが招いたことだ。
益々と深酒する夜が増えて、さらにはエイミに対しても口先だけの愛すら語らなくなり捌け口扱いを取り繕うこともしなくなる。
「クラン、最近の貴方はどうかしてる……避妊すらしてくれないのね。責任とれるの?」
「うるさい!俺は仕事で疲れているんだ!は?責任だと、孕んだとしてそれは俺の種だと断言できるのか?緩い股の女のくせに!」
「ひ、ひどい!この身体は貴方にしか許したことないのに!」

彼らは騎士団内にも拘わらず痴話喧嘩を披露してしまう始末だ。
彼の醜聞は人づてに内外に漏れる事になって、身の置き場に窮して行く。やがてそれはエイデール侯爵家にも届くことになる。
「娘のことを差し引いても彼の腐った生活態度は目に余るな、私が騎士爵の推薦をすることは永劫ない。アーリン、お前も友人選びを改めよ」
「はい、父上。残念なことになりました。幼少からの友でしたが決別の時です」

***

品行方正であることを掲げて行動することを暗黙の了解であった護衛騎士の規律を破り、醜態を晒し続けたクラレンスはダドリー王子殿下から直々に呼び出しを受ける。その場には近衛隊長の姿もあり、騎士団長まで居合わせていた。
「人の上に立つ以上は模範となるべき存在でなければならない、それが王族だ。ただ権威を持って生まれたにあらず。騎士もとうぜん誉高い矜持のもとに厳しい心得を持つものだ。だが、キミは違った、どこで歪んだのか。若き騎士に期待していたのだが、残念だ……とても残念だよ、クラレンス卿。本日をもって護衛の任を解く、これまで大儀であった」
「ぐっ、――恐れ入りま、す」



もうすぐ騎士爵を貰える時にきて爵位を賜るどころか、クラレンスは出世街道からも大きく外れてしまった。
まだ24歳にもなっていないのに、彼の相貌は30代後半の中年のように老け込んでいる。不摂生の影響とは恐ろしいものだ。
護衛をクビにされた彼は幽鬼のような足取りで宿舎に帰った。どこをどう歩いてきたのかその記憶が抜け落ちていた。それほどに任を解かれた事は精神に大きな打撃を受けさせた。

塞ぎ込む彼に顔見知りの同僚が「騎士は続けられるんだから」と慰めの言葉を掛けたが反応は薄い。
そもそも騎士団に入団すること自体が選ばれたエリートなのだが、今のクラレンスにはどうでもいい名誉だ。
「なにが選りすぐりの精鋭だ……俺はいったいなんの為に」
王子護衛から離れた彼は騎士団の第5部隊副隊長に納まった、元々中佐の位にいた彼は落ちたとはいえ、そこそこの役職におさまる。


猛省してそこで奮起すれば一兵として安定した生活が送れるはずだ。だが、彼はあらぬ方向へと転がるのである。
「あぁ……プリシラ、俺を慰められるのはキミの胸の中だけさ。会いたい、会いたいよ」
騎士団勤務に戻っても彼は相変わらず酒に逃げて、毎夜愚痴った。
そんな彼の様子をドアの隙間から覗いていたエイミは他所の女の名を呼び、咽び泣く姿を見て床に崩れた。
どんなに愛しても答えてくれないクラレンスに彼女は大きく傷ついて泣き伏した。

「どうして側にいる私ではダメなの――、こんなに愛しているのに!私ならどんな貴方だって受け入れるのよ?」
重ならない二人の想いは拗れるばかりで、未来が視えない。

王子の護衛ではなくなっても城内を警備するクラレンスは結局職務環境はさほど変化がない。
しかし、言いようのない焦燥が心に湧いて胃を痛める。どうしようもないと言い聞かせるが切り替えは難しい。
そんなある日、省庁が並ぶ塔を警備する仕事が巡ってきた。各部署を交代で当たるので仕方ない事だ。
苦虫を噛んだような顔をしてその大廊下を巡回するクラレンス。

何往復したかわからない警邏中に聞き覚えある声が彼の耳に届く、アーリンとプリシラの声だった。
ハッとした彼は咄嗟に曲がり角の壁に身を隠した、夜会のあの日から燻ぶらせていた恋心がボッと燃え上がる。
「プリシラ……あぁまた更に美しくなった、

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