本編完結 彼を追うのをやめたら、何故か幸せです。

音爽(ネソウ)

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攫われた先で

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拐されたプリシラは気絶させられてダストカーの中へ閉じ込められ城から連れ出されていた。
下位騎士の扮装をしたクラレンスはまんまと彼女を奪ったのだ。護衛の隙を狙われたとはいえ、あまりにお粗末なことだ。
しかし、裏門からダストカーを押して出て行く騎士を見かけたメイドが不審に思い、すぐに城内へ報せに戻った。
人伝で事態を知ったマクシミリアン殿下はすぐに追手を放つも間に合うかどうか怪しい。

「なんてことだ、私も城も平和ボケが過ぎていたようだ。いくら騎士達が有能揃いだったとはいえ。その騎士が裏切るなどと……あぁ!プリシラ!どうか無事でいてくれ」王子自らも早馬を立てて捜索に当たった。
同じく誘拐劇を知った侯爵親子はすぐに下手人がクラレンスであると目ぼしをつけて動く。

クラレンスの生家であるバルヴェ伯爵家へも兵を走らせて、行方を追う。
大きなダストカーを騎士が通りを歩けば目立つであろうが、この日は大雪に見舞わており外を歩く者は極端に少なかった。それも災いしてか杳として行方は掴めない。
馬も降り積もった雪に足をとられるのか、もどかしいほど走る速度が遅かった。
「プリシラ、プリシラ!私の最愛よ……あぁ神様、彼女の元へ導いてくれ!」
必死な王子の声は降りしきる雪の中に阻まれてしまう。

***

一方、追われる身となったクラレンスは、どんどんと都心部から離れて下町方面へと移動していた。
奇しくも雪が彼の歩く音を消し去り人の耳から遠ざけていた。何もかもが悪漢側に味方をしているかのようだ。
凍れる寒さもものともせず、彼は一歩一歩と己の欲望のために突き進む。
奪還劇を成功させた事でひどく高揚した精神が肌を刺す冷たさを感じさせないようだ。

「ふふ、もうすぐだ。二人きりで暖を取ろうね、もちろん肌と肌でさ、人肌はとても温かいからね」
彼の歪み切った情熱は雪を融かして行く、プリシラには迷惑千万なことである。
やがて彼は一軒の安宿の前で停止した、ダストカーに放り込まれたプリシラは麻袋に封じられた状態で肩に担がれた。


「予約した通り十日ほど世話になるぞ。それから他言無用で頼む」
宿の主人にだいぶ多めに金を握らせてクラレンスは部屋を案内させた。
「いやはや突然の大雪には困りましたな、部屋は暖めておきましたのでごゆるりと」
「ああ、すまないね。食事は廊下にでも置いといてくれ」
「畏まりました」

上客を招いた主人はホクホク顔で階下へと降りて行く。
二階奥の部屋を与えられたクラレンスはニタリと嗤うと部屋へ入る、言われたとおりに暖炉には火がくべられていて部屋はじゅうぶんに暖かい。
彼は担いできた彼女を寝具において、閉じられた袋をもどかし気に開いていった。

気絶したままの彼女は青白い貌をして現れた。少し乱れた髪の毛が妙に色気があり、頬にかかった髪の毛を彼は壊れ物に触れるかのようにそっと払ってやる。
暖に包まれた彼女の顔にゆっくりと紅が射していった、寒空の下に晒してしまった事で心配していたクラレンスだったがホッと安堵の息を吐いた。

「やっと会えたね俺の可愛いプリシラ、あぁなんて美しい。幼いキミを蔑ろにしてきた己を呪うよ、なんて愚かだったのかとね。でも大丈夫さ、俺たちは相思相愛になれたのだからね!粗末な部屋で申し訳ないが邪魔者から逃げるには都合が良かったんだよ」

きっちりと着込んだドレスは彼女を堅牢に守っていて艶はない、それでも大きく膨らんだ双丘は十分にクラレンスを魅了する。
それを剥いだらどのような姿なのだろうと想像するだけで彼はゾクゾクする。そして、劣情が昂ると下半身に熱が集まり膨張していった。

「今宵は気が済むまで愛し合おうね、大好きだよプリシラ」
彼女の小さな手を持ち上げて香を嗅ぐ、甘い花のような匂いがすると彼は感想を述べ恍惚とした表情を見せる。
そして、堅い騎士服を脱ぎ棄ていよいよ彼女の衣服に手をかける。
早鐘のように鼓動が煩くなり期待は膨らんでいった、クラレンスは一瞬寒気を感じたが上半身を開けさせたせいかと思って気に留めない。

そして、彼女のドレス裾に手を掛けた時だ。
背中にトスリとした冷たい刺激を感じた、それはジワジワと熱を帯びていってやがて激痛へと変化していったではないか。
なにが起きたのか驚いた彼はゆっくりと背後へ視線を回す。
見知った姿の者がそこに立っていて二度驚く。

「あ……なんで?何故ここにいるんだ?」
その人物はいつも泣かせていたエイミであった、彼女の表情は悲しみが溢れているのに紫に変色した唇は弧を描いていた。薄っすら血濡れたナイフを手にした彼女は言う。

「女の敵、許さない、許されないからね。何人の女の子を泣かせれば気が済むの?」
「エ、エイミ……」

「知っているのよ、なにもかもね。貴方がその子の周辺を嗅ぎまわっていたのと同じにね。だって好きなのだもの、愛した人のことならなんでも知りたいものなのよ、そうでしょ?クラン貴方ならわかるよね」

ジンジンと熱くなって行く痛みを抑えながら、クラレンスは自身に起きた災難に瞠目する他なかった。
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