醜いと蔑んだ相手は隣国の美姫

音爽(ネソウ)

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本格的な夏を迎え、学園は長期の休みに入った。

ある日、避暑地でアルバイトへ訪れていたクライドは、例の少女と偶然会う。
暑気払いにやってきたらしい彼女ら一行は湖のほとりで立ち往生していた。そこに出くわしたクライドは何か手伝えないかと声をかけたのだ。

「まぁ、御親切にありがとうございます」
「いいえ、困った時はお互い様です」
彼女に話を聞けばブレスレットを畔のどこかに落としたらしい。細かい砂が延々と続くそこで発見するのは容易ではない。

するとクライドは少し小難しい顔をしてから、ある魔法を唱える。彼の得意な探査魔法だった。あっという間に探し物をみつけた彼に彼女は「素晴らしい!」と褒めちぎる。
「ありがとうございます!是非お礼を、そうだわ夕餉を御一緒しましょう。ご馳走させてください」
「いいえ、こんな地味な魔法で……」
「地味?とても便利な魔法ですわよ、使い方では狩りや戦で真価を発揮します」

褒め慣れてないクライドはこそばゆくて仕方ない、両親には”地味で役に立たない”とバカにされてきたせいもある。
少しばかり表情を曇らせた彼を見て少女は「あ、うっかりしました」と詫びて来た。
「ごめんなさい、こんな醜い女と食事などご迷惑ですね。何か違うものを」
「え?そんな事思ってませんよ!自身の凡才さにガッカリしていただけですから」
勘違いさせてしまったと彼は大急ぎで訂正する、そして招待を喜んで受けると申し出た。

「良かったわ!あ、私の名はクリスティン、ラディンセル国の第二王女です、名乗らず失礼しました」
「お、王女様!こちらこそ失礼をしました、私はクライドです。クライド・ウエルスしがない子爵の次男です」


その日の夕刻に別荘へと招待されたクライドは豪華な料理に舌鼓み打った。山深い避暑地というのに取り寄せた海の幸が供されたことに驚く。
「ふふ、これくらいでしかお礼ができなくて」
「とんでもない!こんな贅沢ははじめての体験です」
貧乏子爵家のテーブルには一生上らないであろう魚介の数々にクライドは感嘆した。そして、談笑の合間に彼女がなぜここにきたのかなど理由を聞かされた。

隣国から遊学名目で来たこと、実は遠出した森林で瘴気に当てられて皮膚を病んでしまったことなどを聞かされた。
「この国には良い治療薬があると聞きましてね、勉強も兼ねて参りましたの。これでも少しは癒えたのです」
「そうでしたか、ご苦労されたのですね。失礼ながら爛れていてもお顔立ちはとても美しいです、完治したらさぞかし眩しい相貌なのでしょうね」
美しいと言われたクリスティンは目を見開いて驚く。
「家族にさえ避けられるというのに……彼方はなんてお優しいの」
感激した彼女はポロポロと涙を零して、嬉しいと言って泣きながら笑う。

「そんな、優しいなど……普通です。私はなにをしても普通なのですよ」
「そんな卑下なさらないで、他人を慮る心根は素晴らしいのよ。私は貴方の言葉に救われました」
再び微笑んだ彼女の顔は花が咲いたように可憐だとクライドは思う。

「ま、可憐だなんて、お上手ね」
「え!あ、すみませんつい本音が」
無意識に口から発していたことを恥ずかしいと頭をかくクライドである。



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