完結 愛される自信を失ったのは私の罪

音爽(ネソウ)

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まさか後を追われているとは夢にも思っていないディアナは、山の避暑地でデッキチェアに寝そべり、うつらうつらとしていた。そよ風が爽やかに彼女撫ぜて通り抜ける。
だが、それでも眠れないのかゴロリと寝返りを打った、いったい何回目の事だろう。


「お嬢様、やはり眠れそうもないですか?」メイドが気遣わしく言い、午後の茶を淹れにきた。
「あ、ありがとう。ハァ……駄目ね、眠らなければと思うほど目は冴えてしまうの」
ギシリと音を立てて伸びする、それから湯気を立てる茶器を持ち上げてゆっくりと嚥下した。温かな香気が彼女を一瞬だけ和らげた、眠れるようにとメイドが選んだハーブティーである。

「ふぅ~気持ちが安らぐわ、とても美味しい」
「うふ、それは良かったです」
カタカタとワゴンを下げてメイドはそこから離れて行った。なるべく一人になりたいディアナはその気遣いに感謝した。

「どうしても駄目、気が付くと彼の面差しを思い出してしまう……もう諦めなければいけないのに」
思わずツゥと涙が溢れた、目を閉じれば幸せだった頃を思い出してしまうのだ。彼女は「辛い」と零して再び涙を流す。
しかし、同時にブリタニー・ロベルの勝ち誇った笑みが蘇る。彼の身体に纏わりつきながら、あの憎らしい微笑みがどうしても脳裏から離れない。

「……私は嫉妬深いんだわ、なんてはしたない」



***


ブラッドは地図を広げて唸る、次は何処に行こうかと頭を悩ませた。パンを齧ったまま夢中になっていると御婦人がやってきて「あらまぁ」と苦笑する。彼女の名はアガサ・オルグレン、公爵夫人である。未亡人な彼女はこの広い屋敷を数名の従者と過ごしている。

「こら、ダメよ食事中に」
「あ、すみません。つい……」
ポリポリと頭を掻き申し訳ないと頭を下げた、しかし、気持ちは逸り無造作に食べかけのパンをに飲み込んだ。
「んぐぐ…ゴホン!あのオルグレン様」
「良いのよ、発つのでしょう?僅かな時間だけれど楽しかったわ」
「面目ありません、すっかりお世話になってしまいました」

懐から幾枚かの金子を出して「これを」と言ったが、オルグレン夫人は受け取ろうとしなかった。
「私、腐っても公爵夫人でしてよ。お金には困ってないの、それに亡くなった夫に怒られちゃうわ」
「申し訳ないです、この御恩は忘れません」
「うふふ、そう。忘れちゃ駄目よ……」
何か言いたげな夫人だったが途中でそれを飲み込む。

彼は再び小さな馬車に乗ると「お元気で」と挨拶して溌剌と出で行った。無精髭を落とした彼は「待っていてディアナ」と来た時とは全く違う顔をして旅立った。


「あぁ、レスリー様……ラディ・レスリー様、あの方に生き写しね。今はもう会えないけれど、そのうちそちらに伺いますわ。きっとあの世では共に……」
ラディはブラッドの祖父の名である、小さくなって行く馬車を見送りながら、そんな事を呟く夫人がいた。







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