不思議森の妖精ご飯

音爽(ネソウ)

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春の足音

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水を含んだような牡丹雪が降る。
大粒だけど積もりはしない。

冬の終わりが近づいた。
時たまアラレが降ったりを繰り返し、野山を冷やす。

それに負けない蕗の薹が顔をだし、春のはじまりだと知らせる。
無理矢理に冬を追い出してるようだと、妖精は思った。

雪割草も花をつけるとゴウゴウピュルルーと風がうなる日が増える。
春風が冬を蹴散らして、残雪が空を舞っては融ける。






ボクは小川のせせらぎを聞いてボンヤリ。

まだまだ緑いっぱいとは言えない。
枯れ木と土の黒い野はところどころまだ白い。

針葉樹だけが緑に揺れてる。
遠く小鳥の声が聞こえた気がした、彼らは虫を食べる。

虫は起きだした?

ふと近くの木の枝を見た、小さな芽が出てる。
テントウムシは起きたかな?

いいやまだだね、きっと。

逸る気持ちがまた溜息になって出ていく。

♪~♪~
「春の歌ですか?」いつの間にか、隣にリスが座ってた。
「ボクは冬眠しませんから、春がじわじわ来るのがもどかしかったです」

「そうかボクと一緒だね」
妖精は頷いて青い空を見上げた、燕がくるのはもっと先だ。

リスは雪割草をひとつ咥え、クルクル踊るように駆けて春を楽しみだした。
それに鼓舞されたのか違うリスもたくさん駆けてきて遊び出す。

ボクもその上を羽を広げて飛んでみた。
暖かい風が時折ふいて花を揺らした。

――――春に唄おう、春に遊ぼう――――――



少し分けてね。
プチリプチリ・・・。

「何してるんですか?」頭に花をのせたリスが頭を傾げる。
「お薬にするんですよ、こっちはお茶にもなります」

「へー妖精さんは物知りですね」
・・・・

いいえ、ボクは何も知らないよ。
姫を失って悲しい時期はずっとずっと眠っていたから、ただ無駄に長く生きてるだけ。

「お花がクスリに・・クスリとはなんでしょう?」
リスがカゴに入った草をしげしげ見つめた。

「ボク蜜がでる花はたまに食べますよ、ハチが怒るからほんの少しね」
リスがクルクル駆けだした。

命がどんどん湧くような野原をボクは眺めた。

春は楽しいワクワクする、でもちょっと寂しい。
再会とサヨナラはもうすぐ。

ボクの目、どうかお願い泣かないで。

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