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5 初なふたりとお邪魔虫
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嫉妬の目を向けられているとは知らない二人は、そのまま手を取り合い庭園を散策して四阿で休憩を取っていた。
互いの侍従たちが茶の用意を素早く整えて下がった。
「美味しいわ、果実の香りがする。これはオレンジね」
「うん、とても良い香だ」
気の利いた会話はなかったが、ふたりは幸せだった。
空に浮かぶ雲のように優しい時間がゆっくり流れていく、陽が沈む直前までそうしていた。
「残念だけれど帰宅する時間のようだ」
茜色の空を眺めてから、名残惜しむようにアリスターは寂しく笑う。
「寂しいけど、学園で会えるわ」
「学園だけかい?」
「そんなわけないわ!今度は私が会いに行くから」
「ありがとう、そうだ次の週末は街へ行かないか?小さな催しがあって大道芸が観られるらしいんだ」
「素敵ね!是非行きましょう」
ナリレットは馬車まで送ると言って、少し強めに手を握った。
アリスターはちょっと驚いた顔をしたが、すぐにヘニャリと相好を崩してナリレットの手を握り返す。
すっかり骨抜きにされている子息の様子に、侍従たちは微笑んで見守る。
玄関前に待機していた馬車にアリスターが足を掛けた時だった、無粋な声が割って入る。
「貴様!よくも俺様のナーナに馴れ馴れしく、許さないぞ!お前もだナーナこの浮気者!」
勝手に怒るグランは松葉杖を振り回して襲って来た。
「キャァ!誰か!」
ナリレットが悲鳴をあげるとグランは怯んだ。
不審者が侯爵子息に絡んで来たと侍従たちが阻もうと動き、子爵家の護衛達がバタバタと馬車の方へ駆け寄って来た。
取り囲まれたグランは悪態を吐いて抵抗したが、あっけなく取り押さえられた。
「い、痛い!俺は怪我人なんだぞ、丁重に扱え!」
「キミこそ誰の許可を得て屋敷内に入ったのかね?」
騒ぎに駆け付けた子爵と侯爵が揃ってグランを睨む。
だがそれで大人しくなるグランではない。
「うるさい!俺様に指図するな!男爵家次男グラン様を舐めるな!」
それを聞いた侯爵が呆れて言った。
「この男は心に病でも持っているのか?実に気の毒なことだ、なぁ子爵殿」
「そうですね、彼は幼少から自分の立場を弁えていない。残念な頭の持ち主なのです」
口々にグランに辛辣な言葉を投げる紳士達だが、愚かなグランにはなんの効果もないようだ。
「煩い煩い!身分を笠に阻もうと俺から愛を奪えると思うな!ナーナは俺の俺様のぉものおーんぐぁぁぶぇ……」
口汚く喚いたと思えば、グランは泡を吹いて気を失った。
「な、なんだ一体!?」
「……おそらく興奮し過ぎて気絶したのかと」
なんて傍迷惑な人物だろうと、その場にいた全員が深いため息を吐いた。
互いの侍従たちが茶の用意を素早く整えて下がった。
「美味しいわ、果実の香りがする。これはオレンジね」
「うん、とても良い香だ」
気の利いた会話はなかったが、ふたりは幸せだった。
空に浮かぶ雲のように優しい時間がゆっくり流れていく、陽が沈む直前までそうしていた。
「残念だけれど帰宅する時間のようだ」
茜色の空を眺めてから、名残惜しむようにアリスターは寂しく笑う。
「寂しいけど、学園で会えるわ」
「学園だけかい?」
「そんなわけないわ!今度は私が会いに行くから」
「ありがとう、そうだ次の週末は街へ行かないか?小さな催しがあって大道芸が観られるらしいんだ」
「素敵ね!是非行きましょう」
ナリレットは馬車まで送ると言って、少し強めに手を握った。
アリスターはちょっと驚いた顔をしたが、すぐにヘニャリと相好を崩してナリレットの手を握り返す。
すっかり骨抜きにされている子息の様子に、侍従たちは微笑んで見守る。
玄関前に待機していた馬車にアリスターが足を掛けた時だった、無粋な声が割って入る。
「貴様!よくも俺様のナーナに馴れ馴れしく、許さないぞ!お前もだナーナこの浮気者!」
勝手に怒るグランは松葉杖を振り回して襲って来た。
「キャァ!誰か!」
ナリレットが悲鳴をあげるとグランは怯んだ。
不審者が侯爵子息に絡んで来たと侍従たちが阻もうと動き、子爵家の護衛達がバタバタと馬車の方へ駆け寄って来た。
取り囲まれたグランは悪態を吐いて抵抗したが、あっけなく取り押さえられた。
「い、痛い!俺は怪我人なんだぞ、丁重に扱え!」
「キミこそ誰の許可を得て屋敷内に入ったのかね?」
騒ぎに駆け付けた子爵と侯爵が揃ってグランを睨む。
だがそれで大人しくなるグランではない。
「うるさい!俺様に指図するな!男爵家次男グラン様を舐めるな!」
それを聞いた侯爵が呆れて言った。
「この男は心に病でも持っているのか?実に気の毒なことだ、なぁ子爵殿」
「そうですね、彼は幼少から自分の立場を弁えていない。残念な頭の持ち主なのです」
口々にグランに辛辣な言葉を投げる紳士達だが、愚かなグランにはなんの効果もないようだ。
「煩い煩い!身分を笠に阻もうと俺から愛を奪えると思うな!ナーナは俺の俺様のぉものおーんぐぁぁぶぇ……」
口汚く喚いたと思えば、グランは泡を吹いて気を失った。
「な、なんだ一体!?」
「……おそらく興奮し過ぎて気絶したのかと」
なんて傍迷惑な人物だろうと、その場にいた全員が深いため息を吐いた。
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