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暗躍する者2
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意を決してフォードは洞窟の奥へ歩を進める。漆黒の闇に足を取られ何度も心を折られそうになる。
転げる度に折れた右腕に激痛が走り、悲鳴をあげ涙を滴らせる。
かの王は他者の魔力を嫌うため光を灯すことも出来ないのだ。暫くすると突然足元がガクンと下がった。
通路は下方へとうねるように続いていたのだ。
「グガッァア!ちくしょう!……ここまで来て帰れるか!」
段差に足を取られて体を強かに打ち、脂汗が止まらない状態になった。
度を超えた激痛は吐き気をもよおして、何度も耐えて気を失いかけた。かの王の領域を吐瀉物で穢せばその瞬間に命は消されるだろう。
闇に目が慣れてきたフォードだったが、死んでは元も子もない。やむなく温存しておいた回復薬を飲んだ。
耐え難い痛みはいつしか怒りに変わった、体力が削げしばしへたり込んだが徐々に回復した。
ドリアードが作る上質な薬とは程遠いそれは全快しない、それでもいくらかマシになる。
途中の通路は鍾乳石が尖り生えていて、行く手の邪魔をしてきた。喉が渇きを訴えてきた頃、水音に喜び近づけばそれは濃酸の泉であった。
危うく溶け死ぬところだ、進むほどに困難が増えていく。
死の泉を恐々抜けると白銀の敷物が目の前に現れた、見た目は美しいが先端の尖りは恐ろしい。
無数に突き出た銀水晶が怪しく輝いていたのだ。
皮ブーツなど瞬く間にズタズタに裂いてしまう。
金にものを言わせ誂えた上質のブーツだったが、通り過ぎる頃には無惨な様になった。
とうぜん足裏は悲惨な状態に違いない、だがフォードは敢えて目を背けた。見てしまえば絶望で歩けなくなる気がしたのだ。
止血剤をかけて上着を裂き破って足にグルグルと巻きつけた、無いよりは良いだろう。
這うように通路を降りていくとガイコツ型のランプに照らされた禍々しい門が見えてきた。後少し。
地鳴りのような恫喝がビリビリと彼を威嚇した、それでもフォードは諦めない。
重厚な門に手をかけ全力で押した、人ひとり分の隙間を作ったところで転がりこむ。
さっきまでの暗闇が嘘のように、煌々とランプに照らされる広大な部屋に彼はしばし混乱した。
地精霊の王ゲノーモスが天蓋付きの寝台に寝そべっていた。
今代の王は女性型のようだ、妖艶な肢体に絹地の布を纏い闖入者を睨む。
「何ゆえに参った、我は拒んだはずだ」
「……私の名はフォード・ロクゾル。恐れながら、どうしてもお会いしたい事情がございました」
フォードは平伏して言葉を発した。憤怒のままに瞬殺されても、文句が言えない不敬を働いた自覚はあった。
「ゴミ虫以下の人間になぜ耳を貸さねばならん、去ね」
「……ただでとは申しません、せめて献上品をご覧いただけませんか」
しつこいフォードにゲノーモスが紫水晶の目を眇める。
フォードは懐から小箱を取り出して、恭しくそれを掲げあげた。怪しく赤黒く光る宝玉だ。
「トゥニッセの心臓か……我が始祖の秘宝。遠い昔、戦乱期に奪われたはず」
「はい、乱世に乗じ北のトムテが所持したと故事にございます」
ゲノーモスは宝玉を手に取り、光に翳した。口が弧を描く、どうやら本物であると認めたようだ。
「出どころは干渉せぬ、良い土産だ大儀であるぞ。だがこれは口を利く駄賃である、そうであろう?これは元々我らの宝なのだ」
まだ足りないとゲノーモスは言う。
「なにをご所望でしょうか」
フォードは静かに答えを待った、そしてハッと我に返る。
激痛に苛まれた己の身体が綺麗さっぱり治癒していたのだ。
そしてゲノーモスの目を真っすぐ見て言った。
「私の全てを貴女様に捧げます」
ゲノーモスは満足な笑みを見せた。
転げる度に折れた右腕に激痛が走り、悲鳴をあげ涙を滴らせる。
かの王は他者の魔力を嫌うため光を灯すことも出来ないのだ。暫くすると突然足元がガクンと下がった。
通路は下方へとうねるように続いていたのだ。
「グガッァア!ちくしょう!……ここまで来て帰れるか!」
段差に足を取られて体を強かに打ち、脂汗が止まらない状態になった。
度を超えた激痛は吐き気をもよおして、何度も耐えて気を失いかけた。かの王の領域を吐瀉物で穢せばその瞬間に命は消されるだろう。
闇に目が慣れてきたフォードだったが、死んでは元も子もない。やむなく温存しておいた回復薬を飲んだ。
耐え難い痛みはいつしか怒りに変わった、体力が削げしばしへたり込んだが徐々に回復した。
ドリアードが作る上質な薬とは程遠いそれは全快しない、それでもいくらかマシになる。
途中の通路は鍾乳石が尖り生えていて、行く手の邪魔をしてきた。喉が渇きを訴えてきた頃、水音に喜び近づけばそれは濃酸の泉であった。
危うく溶け死ぬところだ、進むほどに困難が増えていく。
死の泉を恐々抜けると白銀の敷物が目の前に現れた、見た目は美しいが先端の尖りは恐ろしい。
無数に突き出た銀水晶が怪しく輝いていたのだ。
皮ブーツなど瞬く間にズタズタに裂いてしまう。
金にものを言わせ誂えた上質のブーツだったが、通り過ぎる頃には無惨な様になった。
とうぜん足裏は悲惨な状態に違いない、だがフォードは敢えて目を背けた。見てしまえば絶望で歩けなくなる気がしたのだ。
止血剤をかけて上着を裂き破って足にグルグルと巻きつけた、無いよりは良いだろう。
這うように通路を降りていくとガイコツ型のランプに照らされた禍々しい門が見えてきた。後少し。
地鳴りのような恫喝がビリビリと彼を威嚇した、それでもフォードは諦めない。
重厚な門に手をかけ全力で押した、人ひとり分の隙間を作ったところで転がりこむ。
さっきまでの暗闇が嘘のように、煌々とランプに照らされる広大な部屋に彼はしばし混乱した。
地精霊の王ゲノーモスが天蓋付きの寝台に寝そべっていた。
今代の王は女性型のようだ、妖艶な肢体に絹地の布を纏い闖入者を睨む。
「何ゆえに参った、我は拒んだはずだ」
「……私の名はフォード・ロクゾル。恐れながら、どうしてもお会いしたい事情がございました」
フォードは平伏して言葉を発した。憤怒のままに瞬殺されても、文句が言えない不敬を働いた自覚はあった。
「ゴミ虫以下の人間になぜ耳を貸さねばならん、去ね」
「……ただでとは申しません、せめて献上品をご覧いただけませんか」
しつこいフォードにゲノーモスが紫水晶の目を眇める。
フォードは懐から小箱を取り出して、恭しくそれを掲げあげた。怪しく赤黒く光る宝玉だ。
「トゥニッセの心臓か……我が始祖の秘宝。遠い昔、戦乱期に奪われたはず」
「はい、乱世に乗じ北のトムテが所持したと故事にございます」
ゲノーモスは宝玉を手に取り、光に翳した。口が弧を描く、どうやら本物であると認めたようだ。
「出どころは干渉せぬ、良い土産だ大儀であるぞ。だがこれは口を利く駄賃である、そうであろう?これは元々我らの宝なのだ」
まだ足りないとゲノーモスは言う。
「なにをご所望でしょうか」
フォードは静かに答えを待った、そしてハッと我に返る。
激痛に苛まれた己の身体が綺麗さっぱり治癒していたのだ。
そしてゲノーモスの目を真っすぐ見て言った。
「私の全てを貴女様に捧げます」
ゲノーモスは満足な笑みを見せた。
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