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不穏な歓迎会
聖女到着から三日後、王家主催による聖女の歓迎夜会が開かれた。
貴族は挙って参加したし、商売で財をなした平民商人までがコネを使って無理矢理顔を出していた。
身分関係なく聖女を一目見た男達はだらしなく相好を崩して夢中になる。
「あんな乳爆弾のどこが良いわけ?」
どこかの令嬢が口元も隠さずに嫌味を言う、どうやら恋人が聖女に入れ込み金品を差し出しているらしい。
上品とは言いかねる悪態だったが、それに賛同する女子は少なくない。
口さがない令嬢達は聖女ベアトリスを「はしたない乳袋」と言って嫌悪した。
「貴女も気を付けなさいませ、ロズアンナ様。噂ではアンドレ王子はかなり聖女に御執心のようだわ」
「え、ええ……そうですわね」
会場の隅にいたはずのロズアンナ・バダンテール侯爵令嬢を目ざとく発見した令嬢がこそこそと耳打ちしてきた。
婚約者であるアンドレの名を聞いた彼女は薔薇園でのことが頭を過り吐き気をもよおす。
気分が悪いと言って場を離れる旨を告げると侍女と共に中庭へと出て行った。
外気の冷たさが彼女の心を落ち着かせる、深く息を吸い込めばモヤモヤした腹の中が清らかになっていくようだった。
「ふぅ……少ししたら暇しましょう」
「はい、そうですね。長居する場所ではありませんわ」
彼女を気遣った侍女はそう述べて、馬車の手配をするため離れて行った。
ロズアンナは澄み渡る星空を眺めて、月の側を流れる細長い雲を見ていた。まもなく初夏というのに夜風は冷たかった。
「明日は雨かもしれないね」
少し離れた箇所から聞き覚えのない男性の声が聞こえた、そこへ視線を移すと柔らかに微笑む黒髪の青年が佇んでいた。衣服から察するに異国の客人であると彼女はすぐに気が付いた。
「こんばんわ、バルテフォレスの方でしょうか?遠路ご苦労様ですわ」
「はは、ありがとう。私は親善使節団の護衛で参りました。ロディと申します」
「そうでしたの、今宵は楽しんでくださいませね」
侍女が戻って来たので、彼女は会釈して去ろうとする、だが「名を聞いていない」と呼び止められた。
「失礼しました、私はロズアンナ・バダンテールですわ」
「素敵な名だ、会えて嬉しかったよバダンテール嬢」
彼は手を振って昏い庭園の奥へと消えて行った。静かに立ち去る彼の背を見送って、ロズアンナは不思議な殿方だと思うのだった。
***
「結局王子殿下と踊らないまま去ってしまいましたね」
「いいのよ、聖女にベッタリでこちらを見向きもしなかったわ。それにいずれは無関係になる予定だもの」
会場を後にした彼女は馬車に揺られ我が侯爵家へと向かっていた、両親より先に暇した無礼は明日にでも詫びようと目を閉じる。
会が始まってすぐに聖女ベアトリスをエスコートして現れた王子に対して軽蔑せずにはおれなかった。
抗議したところで「友好国から来た聖女を持て成して何が悪い」と開き直るに違いない。
「あの人もだけど王様の様子も何か変だったわ、どこか王妃様を蔑ろにしていたような」
「そうですね、年若い男性ならともかく……懸想されているとは思いたくありませんが」
”親子揃って気持ちが悪い”
口に出さずともロズアンナの顔には侮蔑の意が露わだった、彼らだけではなく夫人や恋人を放置して聖女に群がっていた男たちも同様に軽蔑の対象である。
「この国の社交界は荒れるわね……」
国の中枢にまで良くない影響がでるのではと彼女は懸念するのである。
貴族は挙って参加したし、商売で財をなした平民商人までがコネを使って無理矢理顔を出していた。
身分関係なく聖女を一目見た男達はだらしなく相好を崩して夢中になる。
「あんな乳爆弾のどこが良いわけ?」
どこかの令嬢が口元も隠さずに嫌味を言う、どうやら恋人が聖女に入れ込み金品を差し出しているらしい。
上品とは言いかねる悪態だったが、それに賛同する女子は少なくない。
口さがない令嬢達は聖女ベアトリスを「はしたない乳袋」と言って嫌悪した。
「貴女も気を付けなさいませ、ロズアンナ様。噂ではアンドレ王子はかなり聖女に御執心のようだわ」
「え、ええ……そうですわね」
会場の隅にいたはずのロズアンナ・バダンテール侯爵令嬢を目ざとく発見した令嬢がこそこそと耳打ちしてきた。
婚約者であるアンドレの名を聞いた彼女は薔薇園でのことが頭を過り吐き気をもよおす。
気分が悪いと言って場を離れる旨を告げると侍女と共に中庭へと出て行った。
外気の冷たさが彼女の心を落ち着かせる、深く息を吸い込めばモヤモヤした腹の中が清らかになっていくようだった。
「ふぅ……少ししたら暇しましょう」
「はい、そうですね。長居する場所ではありませんわ」
彼女を気遣った侍女はそう述べて、馬車の手配をするため離れて行った。
ロズアンナは澄み渡る星空を眺めて、月の側を流れる細長い雲を見ていた。まもなく初夏というのに夜風は冷たかった。
「明日は雨かもしれないね」
少し離れた箇所から聞き覚えのない男性の声が聞こえた、そこへ視線を移すと柔らかに微笑む黒髪の青年が佇んでいた。衣服から察するに異国の客人であると彼女はすぐに気が付いた。
「こんばんわ、バルテフォレスの方でしょうか?遠路ご苦労様ですわ」
「はは、ありがとう。私は親善使節団の護衛で参りました。ロディと申します」
「そうでしたの、今宵は楽しんでくださいませね」
侍女が戻って来たので、彼女は会釈して去ろうとする、だが「名を聞いていない」と呼び止められた。
「失礼しました、私はロズアンナ・バダンテールですわ」
「素敵な名だ、会えて嬉しかったよバダンテール嬢」
彼は手を振って昏い庭園の奥へと消えて行った。静かに立ち去る彼の背を見送って、ロズアンナは不思議な殿方だと思うのだった。
***
「結局王子殿下と踊らないまま去ってしまいましたね」
「いいのよ、聖女にベッタリでこちらを見向きもしなかったわ。それにいずれは無関係になる予定だもの」
会場を後にした彼女は馬車に揺られ我が侯爵家へと向かっていた、両親より先に暇した無礼は明日にでも詫びようと目を閉じる。
会が始まってすぐに聖女ベアトリスをエスコートして現れた王子に対して軽蔑せずにはおれなかった。
抗議したところで「友好国から来た聖女を持て成して何が悪い」と開き直るに違いない。
「あの人もだけど王様の様子も何か変だったわ、どこか王妃様を蔑ろにしていたような」
「そうですね、年若い男性ならともかく……懸想されているとは思いたくありませんが」
”親子揃って気持ちが悪い”
口に出さずともロズアンナの顔には侮蔑の意が露わだった、彼らだけではなく夫人や恋人を放置して聖女に群がっていた男たちも同様に軽蔑の対象である。
「この国の社交界は荒れるわね……」
国の中枢にまで良くない影響がでるのではと彼女は懸念するのである。
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