思われ、想い

そらうみ

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夢の話

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次の日、俺は家の仕事を手伝いながらも様子がおかしかった。
働いていても、ふとした時に昨日の夢を思い出し、動きが止まってしまっていた。

家族もそんな俺の様子に気づいていたようだが、豊の葬式の翌日でもあり、誰も何も言ってこなかった。

俺は早めに仕事を上がらせてもらい、店を出て歩いていた。
風が吹くたびに寒さが染みるが、俺は黙って歩き続けた。

昨日見た夢が、豊の表情と言葉が忘れられない。
豊は確かに俺に向かって「欲しい」と言った。

一体何が欲しいのだろうか?俺が持っているもので、豊が欲しがるものがあるとは思えない。
もしかしたら、豊は俺に何か欲しいと言ったわけではなく、欲しいものがある事を、俺に知らせたのかもしれない。
いきなり死んでしまったんだ。心残りがあるに決まっている。
豊が夢に出てきて言った事を誰かに話しても、きっと相手にはされないだろう。
でも弘なら、真剣に聞いてくれるはずだ。

俺はそう考え、仕事を終えてから弘の家へと向かった。
弘の家に辿り着き玄関で声をかけると、弘の母親が出てきた。
弘の母親も小さい頃から知っている。
俺の顔を見て、悲しげな表情を浮かべたが、特に何も言わず家の中へと迎え入れてくれた。
俺も軽く頭を下げ、黙ってそのまま弘の部屋へ行く。
小さい頃から何度も来ているので、迷う事なく俺は弘の部屋へと辿り着き、声をかけて襖を開けた。

「弘、聞いて欲しいことがあるんだが・・・」

部屋に座っている弘を見ると、弘はとても疲れた顔をしていて、俺は言葉の続きが止まってしまっていた。
弘は俺を力なく見つめ、そのまま開いている窓の方へと視線を向けた。
俺はその様子を眺めながら、立ち止まっていたその場所に、そのまま座り込んだ。
しばらくどちらも何も話さなかったが、俺は弘に向かって、ゆっくり話し始めた。

「弘、昨日あまり眠れなかったのか?」

「・・・あぁ、正夫まさおもそうだろう?酷い顔をしている」

弘は窓の外に視線を向けながら答える。そして、お互いにまた沈黙してしまう。
またしばらくして、俺は深く呼吸し再び話始めた。

「弘、聞いてほしい。
実は昨日、夢で・・・豊が出てきたんだ」

俺が“夢”といった瞬間、弘の肩が揺れた。
俺はその様子を見て、恐る恐る尋ねる。

「もしかして・・・弘の夢にも、豊が出てきたのか?」

「豊は、夢で正夫に何か言ったのか?」

俺の問には答えず、弘が俺に尋ねる。

「・・・言ったよ。ただ一言、“欲しい”とだけ。
一体何が欲しいのか分からなくて、でもこんな事弘にしか話せなくて、やって来たんだ」

「・・・」

「弘、何か心当たりはないか?」

弘はまだ窓の外を眺めている。
何かを考えているようで、じっと動かない。
すると弘がようやく俺に向き直った。

「俺の夢で、弘は何か言いたげだったが、何を言っているのか聞こえなかった。
心当たりも無い」

「そうか・・・でも、豊は何か俺たちに伝えようとはしているんだな。
もう少し具体的に話てくれたら良かったんだけれど」

「どうしようもないな。何か心当たりが無いか考えてみる」

「そうだな。邪魔して悪かった。帰るよ」

俺はそう言うと、静かに弘の部屋から出ていった。
弘は家へ帰る俺に、何も声をかけなかった。

俺たち3人は小さい頃からよく一緒にいた。
だから豊が俺たちに何か伝えようとしているのが分かる。

弘は、夢で豊が何を言っていたか聞こえなかったと言った。
でも実際は、聞こえていたのだと思う。

弘がその事を隠そうとしているのが分かっていたが、何故か俺は逃げるように、弘の部屋を後にした。
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