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第1章
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アルデン王国の城下町が賑わっている。
町のあちこちに花が飾られ、普段とは違う雰囲気が漂っていた。特に年頃の娘たちは誰もが鮮やかに着飾っている。
なぜなら、今日はこの国の第二王子であるフィリップの花嫁が決まる特別な日なのだ。
未婚の女性たちは皆、自分が花嫁に選ばれるのではないかと、時折城へと視線を向けては、期待に目を輝かせていた。
「賑わってるな」
そんな人々の様子を見ながら、通りの店先でお茶を飲んでいた一人の少年が呟く。
少年の見た目は16~18歳くらいで、この辺りでは珍しい銀色の髪をしていた。旅のローブを着ており、この国の者ではないと一目で分かる。
少年の独り言が聞こえたのか、隣の席で食事をしていた年配の男性が、少年に声を掛ける。
「君はこの国の者ではないようだ。旅の者かい?」
「ええ、今日はこの国で特別な日だと聞いたので、見学に来たんです」
少年は愛想よく、話しかけてきた男性に笑顔で答える。声を掛けた男性は、少年の返答を聞いてどこか嬉しそうにしていた。
「今日という日を見にやってくる旅の者は多い。そう、今日はこの国にとって大切な日なのだ。特に、未婚の女性たちにとってはね」
「そのようですね。なんでも、今日は王子の花嫁が決まる日だと聞きましたが?」
「そうだとも。だから今日は特別に、国中の女性たちが着飾っているんだよ」
「王子の花嫁をどうやって決めるのでしょうか?国中の女性から選ぶといっても、1日では不可能でしょう」
「旅人さんは、花嫁が選ばれる瞬間を見るため、この国に来たんだね?」
「そうです」
「それを見るためには、選ばれる花嫁の傍にいなければいけない。見られるかどうかは運次第だな。それに見られたとしても、あれは一瞬の出来事だ」
「あなたは見たことがあるのですか?」
男性は昔の事を思い出すかのように、ふと遠くに視線を向けた。
「私は運よく、今の国王の花嫁が決まる時に、たまたまその花嫁の近くにいたんだよ」
「そうなんですね。それは一体どのようなーーー」
少年の言葉が、鐘の音によってかき消される。
城や教会の鐘が国中に鳴り響き、今から花嫁が選ばれるのを告げているのだった。
しばらくして鐘の音が鳴り止み、今度は国全体が静まり返る。皆が息をひそめ、じっとその時を待っていた。
少年の隣に座った男性は、周りに遠慮するかのように、小さな声で少年に囁く。
「あの時も、国中に鐘の音が響き渡り、辺りが静まり返った。そしてしばらくすると、選ばれた花嫁の体が光り始めーーー」
男性がそう言ったのと同時に、話を聞いていた少年の体が、優しい光を放ち始めた。
「…」
「…」
少年は飲みかけの紅茶のカップを持ちながら、光り始めた自分の体を眺め、男性もまた、じっと光り輝く少年を見る。
「…そう、花嫁に選ばれた者は体全体が光り、やがてーーー」
男性が言い終わるや否や、少年の姿は光と共にすっと消えてしまった。
少年の席にはカップの受け皿がひとつ残され、男性はじっとそれを見つめながら、独り言のように呟いた。
「まさに…そんな感じだった…」
城の大広間では沢山の人が集まり、皆がその時を待っていた。
広間の真ん中には魔方陣が描かれていて、そのすぐそばに、この国の第二王子であるフィリップ王子が立っていた。
先ほど、国の鐘が鳴り響いたのを合図に、フィリップ王子は自分の指先をナイフで少し切り、魔方陣に血を数滴垂らした。すると、血を受けた魔方陣が優しく光り始めたのだった。
皆が固唾をのんで見守る中、魔方陣の真ん中にひとりの人物が光に包まれて現れた。
「…え?」
突然魔方陣の上に現れた少年は、驚いた表情で自分を取り囲む人々を見渡す。
少年の手には、先ほどまで飲んでいたカップが握られている。魔方陣の光が消え、少年の体からも光が消えた。
「えっと…俺、旅の者なんですけど…。ここって、どこですか?」
魔方陣の中心に立った少年が、大勢の人々に向かって言うが、誰も返事をしない。
少年は泳がせていた視線を、自分の一番近くに立っていたフィリップ王子へと合わせた。
「えっと…誰だか知らないけれど…状況を教えてもらっても…?」
少年がじっとフィリップ王子を見つめる。見つめられたフィリップ王子は少年よりも少し背が高く、綺麗な紺色の髪をしていた。けれど、今はその髪色とは対照的に、顔が真っ赤になっている。整っている顔も怒りで歪み、体も小さく震えていた。
そして、ようやく何かを押し殺すかのように、ゆっくりと口を開いた。
「ここは…アルデン王国の…城の大広間だ…」
「え?お城の中?どうして俺が城に?え?お前って…もしかしてーーー」
少年は混乱しながら足元の魔方陣に視線を落とす。そして、次第に状況を理解し始めていた。
おい、嘘だろ…これってーーー。
「私は…この国の第二王子、フィリップだ」
「…」
「そしてお前は…私の花嫁ではない」
怒りのこもった静かな声が、広間に響き渡る。
足元の魔方陣を見ていた少年が、再び王子へと視線を合わせた。
そりゃ、違うに決まってるだろ。
魔方陣により召喚された少年は、口元まで出かけた言葉をぐっと飲み込むよう、手にしているカップからお茶をすすった。
町のあちこちに花が飾られ、普段とは違う雰囲気が漂っていた。特に年頃の娘たちは誰もが鮮やかに着飾っている。
なぜなら、今日はこの国の第二王子であるフィリップの花嫁が決まる特別な日なのだ。
未婚の女性たちは皆、自分が花嫁に選ばれるのではないかと、時折城へと視線を向けては、期待に目を輝かせていた。
「賑わってるな」
そんな人々の様子を見ながら、通りの店先でお茶を飲んでいた一人の少年が呟く。
少年の見た目は16~18歳くらいで、この辺りでは珍しい銀色の髪をしていた。旅のローブを着ており、この国の者ではないと一目で分かる。
少年の独り言が聞こえたのか、隣の席で食事をしていた年配の男性が、少年に声を掛ける。
「君はこの国の者ではないようだ。旅の者かい?」
「ええ、今日はこの国で特別な日だと聞いたので、見学に来たんです」
少年は愛想よく、話しかけてきた男性に笑顔で答える。声を掛けた男性は、少年の返答を聞いてどこか嬉しそうにしていた。
「今日という日を見にやってくる旅の者は多い。そう、今日はこの国にとって大切な日なのだ。特に、未婚の女性たちにとってはね」
「そのようですね。なんでも、今日は王子の花嫁が決まる日だと聞きましたが?」
「そうだとも。だから今日は特別に、国中の女性たちが着飾っているんだよ」
「王子の花嫁をどうやって決めるのでしょうか?国中の女性から選ぶといっても、1日では不可能でしょう」
「旅人さんは、花嫁が選ばれる瞬間を見るため、この国に来たんだね?」
「そうです」
「それを見るためには、選ばれる花嫁の傍にいなければいけない。見られるかどうかは運次第だな。それに見られたとしても、あれは一瞬の出来事だ」
「あなたは見たことがあるのですか?」
男性は昔の事を思い出すかのように、ふと遠くに視線を向けた。
「私は運よく、今の国王の花嫁が決まる時に、たまたまその花嫁の近くにいたんだよ」
「そうなんですね。それは一体どのようなーーー」
少年の言葉が、鐘の音によってかき消される。
城や教会の鐘が国中に鳴り響き、今から花嫁が選ばれるのを告げているのだった。
しばらくして鐘の音が鳴り止み、今度は国全体が静まり返る。皆が息をひそめ、じっとその時を待っていた。
少年の隣に座った男性は、周りに遠慮するかのように、小さな声で少年に囁く。
「あの時も、国中に鐘の音が響き渡り、辺りが静まり返った。そしてしばらくすると、選ばれた花嫁の体が光り始めーーー」
男性がそう言ったのと同時に、話を聞いていた少年の体が、優しい光を放ち始めた。
「…」
「…」
少年は飲みかけの紅茶のカップを持ちながら、光り始めた自分の体を眺め、男性もまた、じっと光り輝く少年を見る。
「…そう、花嫁に選ばれた者は体全体が光り、やがてーーー」
男性が言い終わるや否や、少年の姿は光と共にすっと消えてしまった。
少年の席にはカップの受け皿がひとつ残され、男性はじっとそれを見つめながら、独り言のように呟いた。
「まさに…そんな感じだった…」
城の大広間では沢山の人が集まり、皆がその時を待っていた。
広間の真ん中には魔方陣が描かれていて、そのすぐそばに、この国の第二王子であるフィリップ王子が立っていた。
先ほど、国の鐘が鳴り響いたのを合図に、フィリップ王子は自分の指先をナイフで少し切り、魔方陣に血を数滴垂らした。すると、血を受けた魔方陣が優しく光り始めたのだった。
皆が固唾をのんで見守る中、魔方陣の真ん中にひとりの人物が光に包まれて現れた。
「…え?」
突然魔方陣の上に現れた少年は、驚いた表情で自分を取り囲む人々を見渡す。
少年の手には、先ほどまで飲んでいたカップが握られている。魔方陣の光が消え、少年の体からも光が消えた。
「えっと…俺、旅の者なんですけど…。ここって、どこですか?」
魔方陣の中心に立った少年が、大勢の人々に向かって言うが、誰も返事をしない。
少年は泳がせていた視線を、自分の一番近くに立っていたフィリップ王子へと合わせた。
「えっと…誰だか知らないけれど…状況を教えてもらっても…?」
少年がじっとフィリップ王子を見つめる。見つめられたフィリップ王子は少年よりも少し背が高く、綺麗な紺色の髪をしていた。けれど、今はその髪色とは対照的に、顔が真っ赤になっている。整っている顔も怒りで歪み、体も小さく震えていた。
そして、ようやく何かを押し殺すかのように、ゆっくりと口を開いた。
「ここは…アルデン王国の…城の大広間だ…」
「え?お城の中?どうして俺が城に?え?お前って…もしかしてーーー」
少年は混乱しながら足元の魔方陣に視線を落とす。そして、次第に状況を理解し始めていた。
おい、嘘だろ…これってーーー。
「私は…この国の第二王子、フィリップだ」
「…」
「そしてお前は…私の花嫁ではない」
怒りのこもった静かな声が、広間に響き渡る。
足元の魔方陣を見ていた少年が、再び王子へと視線を合わせた。
そりゃ、違うに決まってるだろ。
魔方陣により召喚された少年は、口元まで出かけた言葉をぐっと飲み込むよう、手にしているカップからお茶をすすった。
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