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第1章
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マーカスが強引にフィリップを連れ、こっそりと城を抜け出して城下町へと向かっていた。
マーカスは念のためにと、先ほどフィリップに簡単な変身の魔法をかけていた。マーカスの魔法でフィリップの紺色の髪が銀色に輝いている。
「お前と同じ色なのだが…」
色の変わった髪をいじりながらフィリップが呟く。そんなフィリップを見ながら、マーカスはどこか楽しそうにしていた。
「銀色の髪はこの辺りであまり見かけないし、迷子になっても見つけやすいからな。他人からも兄弟に見えるかもしれない。その場合、俺が兄貴だからな」
「兄弟は…兄上だけで十分だ」
フィリップはそう言って黙り込んだが、マーカスは軽く「そうか」とだけ答え、それ以上は何も言わなかった。
しばらく歩くと、二人は町の中心にある広間までたどり着いた。
そこには様々な露天の店が出ていて、大勢の人々で賑わっている。マーカスは興味深そうに店に売られているものを覗いて行き、フィリップは黙ったまま後ろでマーカスの様子を眺めていた。
マーカスがとある雑貨の店先で立ち止まるっていると、その店の女主人がマーカスたちに声をかけてきた。
「いらっしゃい。めずらしい髪色だねぇ。旅人さんかい?」
「ええ、そうです」
「ひょっとすると、この国の王子様の結婚式を見に来たのかい?」
「そんなところです」
マーカスが愛想よく答え、後ろにいるフィリップは黙ったままだ。
女主人はフィリップが王子だとは全く気づいていない様子で、マーカスに話し続ける。
「じゃあ旅人さんは、ずいぶんと長い間この国に滞在してるんじゃないかい?花嫁を決める儀式が行われてから随分と経つだろ?」
「そうですね」
マーカスは、あまり事情を分かっていないような様子で返事をする。
「実はね、もう花嫁は決まっているはずなんだけれど…まだ正式に発表されていないんだよ。いつもなら、花嫁が決まってからすぐに結婚式があるんだけれどね」
「そうなんですか」
「皆、何かあったんじゃないかと心配しているんだよ。どうも、今回の花嫁さんはこの国の者ではないらしくてね。それでなのか、王子様か花嫁さんか、どちらかが結婚を嫌がっているんじゃないかって。こんなこと、今までになかっただろうにーーー」
「…」
「花嫁が決まったら、結婚式をはじめ様々な催しが行われるから、皆楽しみに待っているんだけどね…。旅人さんたちには、ぜひとも国をあげてのお祝いを見ていって欲しいね」
二人は店を離れてから、互いに何も言わず町を歩き続ける。
やがて日が傾き始め、人通りが少なくなった道に入ると、マーカスがフィリップに話しかけた。
「…フィリップに召喚されてからずいぶん経つな。俺の知らないところで、結婚について周りから何か言われてたりしていたのか?」
「いや、私たちが互いに否定していたのを見ていたからか…誰も何も言ってこなかった」
「ディルクも?」
「兄上は私に対して何も言わない。普段からそうだ。たまに話すことはあっても、表面上の付き合いのようなものだけで…。私と兄上では…立場が違いすぎる」
「フィリップってさ、実はディルクの事が苦手だったりするのか?」
「…」
「別に言わなくても言いけど。フィリップの話だと、ディルクと距離を作っているように思えるな。同じ兄弟でも、そんなもんなのか?」
マーカスはちらりとフィリップを見る。
フィリップは、いつも俺には言いたいように言ってくるが、俺以外の人と話しているのをあまり見た記憶がない。話していても、必要最低限の会話だけだったような気がする。
俺はディルクと話していても、ディルクに対して近寄りがたいとか、話しにくいと感じたことはなかったんだけどな。
フィリップはマーカスに言われて黙ったままだが、今まで見たことのない、少し辛そうな表情をしている。
「ここは城じゃないんだし、今のお前は王子でもなんでもない。こんな所まで来たんだ。言いたい事があるなら聞くけど?別に誰にも言いふらしたりしないし」
「…」
フィリップはしばらく黙り込んでいたが、やがて独り言のように、静かに話し始めた。
「…別に兄上が嫌いなわけじゃない」
「うん」
「私よりもずっと優れていて…この国の次期国王にふさわしいと思っている。私はそれを傍で支えるのが使命だ」
「おう、頑張れ」
「ずっとそう思って生きて来たし、それが唯一私に出来る事だと思っていた。取り立てて私には何もないーーー」
そこでフィリップが言葉を止める。
「けれど…花嫁だけは、ただ私のためだけの存在だと思っていた」
「…」
フィリップは立ち止まり、まっすぐにマーカスを見る。マーカスも立ち止まって、フィリップを見つめ返し、言葉の続きを待った。
「けれど、私が召喚した花嫁は…魔法使いだった。それも強い力を持っていて…一人で魔物を退治できるほどの…。マーカスは私よりも、ずっとこの国に貢献する事が出来る」
「フィリップ、それはーーー」
「結局私は、国のために役に立つ魔法使いを…繋ぎ止めるだけの楔だったんだな」
「おい。前にも言ったが、俺はこの国のために召喚されたんじゃない」
「…」
「なんだ?俺を国のために利用するつもりか?」
「…マーカスが城を離れることを父上と兄上に報告した。二人とも、マーカスを引き留めろ、手放すなと、必死になって私に言ってきたのだ。
今まで、二人があんな風に私に言ってくることはなかった。二人が初めて私に…。そして、二人が望むことは…この国が、お前を望んでいるということだ」
「は?どうしてそうなる?飛躍しすぎだ。俺は城に残らないぞ。おいフィリップ。何を考えているんだ?」
「それにあの魔方陣は…結局、召喚した者の事なんて関係なかったんだ。ただ召喚する王族や国にとって都合のいい者が現れるものだったんだ。私にとってはその対象が、国を守る魔法使いだっただけでーーー」
「フィリップ、いい加減にーーー」
「…マーカス」
「やめろ。今は俺を名前で呼ぶな。次に俺に命令したらカエルにするって言っただろ?本気だからな」
「…私がマーカスを召喚したが、お前を求めているのはこの国だったんだ。私はーーー」
「おい、やめーーー」
フィリップに命令されたら、俺はどんな内容でも従うしかないーーー。
そんな身構えるマーカスの手首をフィリップが掴み、強引に抱き寄せてきた。
マーカスは驚いて言葉が出てこない。フィリップに命令されている訳でもないのに、何故か体が動かなかった。
「…っ、おいーーー」
フィリップの腕の中で動揺しているマーカスに対し、フィリップはマーカスの耳元に顔を寄せ、小さく呟いた。
「私は…自由になりたいーーー」
そう言うと、フィリップはマーカスからゆっくりと離れ、背を向けてどこかへ歩いて行ってしまった。
マーカスはちょうど夕日に照らされ真っ赤になった顔で、呆然とその場に立ち尽くしていた。
「マーカス様。フィリップ殿下がどちらにいらっしゃるか、ご存じでしょうか?」
ひとりで城に戻り書庫に籠っていたマーカスにの元へ、宮廷の魔法使いが慌てた様子で尋ねてきた。
「…フィリップなんて人、知りません」
「マーカス様?」
「マーカス殿、弟が何処にいるか本当に知らないか?」
宮廷魔法使いの背後から現れたディルクが、心配している様子でマーカスに話しかける。
マーカスはディルクの様子を見て、仕方なく返事をする。
「まだ戻っていませんか?城下町に出たのはずいぶん前で…もう戻っているものかと…」
「やはり二人で出かけていたのか。ここ数日、フィリップがひどく落ち込んでいたからね…。
マーカス殿。何故弟が落ち込んでいたのか分かるかい?」
「え?えっと…」
マーカスはフィリップが悩んでいることを言う訳にもいかず、言葉に詰まる。
すると、ディルクがそんなマーカスを見てはっきりと言った。
「弟は…花嫁の君と離れてしまうのが耐えがたいのだ」
「…ん?」
なんだ?ディルクは何を言い出しているんだ?
「あのー…別にフィリップは、俺と別れるのが辛いとかでは決してなくてですねーーー」
「弟は今まで自分の感情を表に出さず常に冷静だった。けれど、君が現れて弟は変わった。あんな風に自分をさらけ出しているのを始めて見たよ」
マーカスはフィリップと過ごした日々を思い出す。そこには、ただただマーカスを睨みつけている表情しか思い出せなかった。
「…ただ、キレていただけでは?」
「今だって、勝手に城を抜け出す事だってなかった」
「あ、それは俺が勝手に連れ出してーーー」
「皆思っていたんだ。やはりマーカス殿は、弟にとっての選ばれた花嫁なんだ。弟にとって、君はもう、かけがえのない存在なんだ。どうか、弟の傍に居てはくれないだろうか?」
「えー…」
ここでようやくマーカスは気づいた。
この城の者たちは、どうやら俺とフィリップがお似合いに見えていたらしい。フィリップとの言い合いも、痴話げんかに思えていたのか。あれが?おい、嘘だろ?
普段大人しいらしいフィリップが感情的になっているのを見て、俺はフィリップにとって特別なのだと勘違いしたってことか?
俺とフィリップ以外はあの魔方陣の真の意味に気づいていない。フィリップは魔方陣の真意を知り、そして自分のために発動した訳ではないと思っている。
ディルクは、フィリップが落ち込んでいる原因を俺だと言った。けれど、本当にフィリップが悩んでいるのは花嫁じゃない。結局はフィリップ自身の問題なのだ。
「…」
マーカスがどう説明しようかと悩んでいると、再びディルクが声をかけてくる。
「弟がマーカス殿との別れを拒んで逃亡したのなら、連れ戻すだけでは解決にならないんだ。君にとって弟は、本当に何でもない存在なのか?」
「…」
ディルクの言っていることは見当はずれだが、実際フィリップは自由になりたがっていた。
あいつ…このまま家出するつもりか?ちょうど今、俺が魔法でフィリップの外見を変えてしまっている。家出には絶好のチャンスなのかもしれない…。
ひっとして…俺の責任…?連れ出したのは俺だし…俺がきっかけ?ちょっと待て。俺と契約したままなのだが?
マーカスはため息をつき、目を閉じてしばらく黙り込む。
「…マーカス殿?」
マーカスは声を掛けられても答えずにじっとしていたが、やがて目を開けてディルクを見た。
「…連れ戻してきます」
マーカスはしぶしぶそう答え、再び町へと出かけていった。
マーカスは念のためにと、先ほどフィリップに簡単な変身の魔法をかけていた。マーカスの魔法でフィリップの紺色の髪が銀色に輝いている。
「お前と同じ色なのだが…」
色の変わった髪をいじりながらフィリップが呟く。そんなフィリップを見ながら、マーカスはどこか楽しそうにしていた。
「銀色の髪はこの辺りであまり見かけないし、迷子になっても見つけやすいからな。他人からも兄弟に見えるかもしれない。その場合、俺が兄貴だからな」
「兄弟は…兄上だけで十分だ」
フィリップはそう言って黙り込んだが、マーカスは軽く「そうか」とだけ答え、それ以上は何も言わなかった。
しばらく歩くと、二人は町の中心にある広間までたどり着いた。
そこには様々な露天の店が出ていて、大勢の人々で賑わっている。マーカスは興味深そうに店に売られているものを覗いて行き、フィリップは黙ったまま後ろでマーカスの様子を眺めていた。
マーカスがとある雑貨の店先で立ち止まるっていると、その店の女主人がマーカスたちに声をかけてきた。
「いらっしゃい。めずらしい髪色だねぇ。旅人さんかい?」
「ええ、そうです」
「ひょっとすると、この国の王子様の結婚式を見に来たのかい?」
「そんなところです」
マーカスが愛想よく答え、後ろにいるフィリップは黙ったままだ。
女主人はフィリップが王子だとは全く気づいていない様子で、マーカスに話し続ける。
「じゃあ旅人さんは、ずいぶんと長い間この国に滞在してるんじゃないかい?花嫁を決める儀式が行われてから随分と経つだろ?」
「そうですね」
マーカスは、あまり事情を分かっていないような様子で返事をする。
「実はね、もう花嫁は決まっているはずなんだけれど…まだ正式に発表されていないんだよ。いつもなら、花嫁が決まってからすぐに結婚式があるんだけれどね」
「そうなんですか」
「皆、何かあったんじゃないかと心配しているんだよ。どうも、今回の花嫁さんはこの国の者ではないらしくてね。それでなのか、王子様か花嫁さんか、どちらかが結婚を嫌がっているんじゃないかって。こんなこと、今までになかっただろうにーーー」
「…」
「花嫁が決まったら、結婚式をはじめ様々な催しが行われるから、皆楽しみに待っているんだけどね…。旅人さんたちには、ぜひとも国をあげてのお祝いを見ていって欲しいね」
二人は店を離れてから、互いに何も言わず町を歩き続ける。
やがて日が傾き始め、人通りが少なくなった道に入ると、マーカスがフィリップに話しかけた。
「…フィリップに召喚されてからずいぶん経つな。俺の知らないところで、結婚について周りから何か言われてたりしていたのか?」
「いや、私たちが互いに否定していたのを見ていたからか…誰も何も言ってこなかった」
「ディルクも?」
「兄上は私に対して何も言わない。普段からそうだ。たまに話すことはあっても、表面上の付き合いのようなものだけで…。私と兄上では…立場が違いすぎる」
「フィリップってさ、実はディルクの事が苦手だったりするのか?」
「…」
「別に言わなくても言いけど。フィリップの話だと、ディルクと距離を作っているように思えるな。同じ兄弟でも、そんなもんなのか?」
マーカスはちらりとフィリップを見る。
フィリップは、いつも俺には言いたいように言ってくるが、俺以外の人と話しているのをあまり見た記憶がない。話していても、必要最低限の会話だけだったような気がする。
俺はディルクと話していても、ディルクに対して近寄りがたいとか、話しにくいと感じたことはなかったんだけどな。
フィリップはマーカスに言われて黙ったままだが、今まで見たことのない、少し辛そうな表情をしている。
「ここは城じゃないんだし、今のお前は王子でもなんでもない。こんな所まで来たんだ。言いたい事があるなら聞くけど?別に誰にも言いふらしたりしないし」
「…」
フィリップはしばらく黙り込んでいたが、やがて独り言のように、静かに話し始めた。
「…別に兄上が嫌いなわけじゃない」
「うん」
「私よりもずっと優れていて…この国の次期国王にふさわしいと思っている。私はそれを傍で支えるのが使命だ」
「おう、頑張れ」
「ずっとそう思って生きて来たし、それが唯一私に出来る事だと思っていた。取り立てて私には何もないーーー」
そこでフィリップが言葉を止める。
「けれど…花嫁だけは、ただ私のためだけの存在だと思っていた」
「…」
フィリップは立ち止まり、まっすぐにマーカスを見る。マーカスも立ち止まって、フィリップを見つめ返し、言葉の続きを待った。
「けれど、私が召喚した花嫁は…魔法使いだった。それも強い力を持っていて…一人で魔物を退治できるほどの…。マーカスは私よりも、ずっとこの国に貢献する事が出来る」
「フィリップ、それはーーー」
「結局私は、国のために役に立つ魔法使いを…繋ぎ止めるだけの楔だったんだな」
「おい。前にも言ったが、俺はこの国のために召喚されたんじゃない」
「…」
「なんだ?俺を国のために利用するつもりか?」
「…マーカスが城を離れることを父上と兄上に報告した。二人とも、マーカスを引き留めろ、手放すなと、必死になって私に言ってきたのだ。
今まで、二人があんな風に私に言ってくることはなかった。二人が初めて私に…。そして、二人が望むことは…この国が、お前を望んでいるということだ」
「は?どうしてそうなる?飛躍しすぎだ。俺は城に残らないぞ。おいフィリップ。何を考えているんだ?」
「それにあの魔方陣は…結局、召喚した者の事なんて関係なかったんだ。ただ召喚する王族や国にとって都合のいい者が現れるものだったんだ。私にとってはその対象が、国を守る魔法使いだっただけでーーー」
「フィリップ、いい加減にーーー」
「…マーカス」
「やめろ。今は俺を名前で呼ぶな。次に俺に命令したらカエルにするって言っただろ?本気だからな」
「…私がマーカスを召喚したが、お前を求めているのはこの国だったんだ。私はーーー」
「おい、やめーーー」
フィリップに命令されたら、俺はどんな内容でも従うしかないーーー。
そんな身構えるマーカスの手首をフィリップが掴み、強引に抱き寄せてきた。
マーカスは驚いて言葉が出てこない。フィリップに命令されている訳でもないのに、何故か体が動かなかった。
「…っ、おいーーー」
フィリップの腕の中で動揺しているマーカスに対し、フィリップはマーカスの耳元に顔を寄せ、小さく呟いた。
「私は…自由になりたいーーー」
そう言うと、フィリップはマーカスからゆっくりと離れ、背を向けてどこかへ歩いて行ってしまった。
マーカスはちょうど夕日に照らされ真っ赤になった顔で、呆然とその場に立ち尽くしていた。
「マーカス様。フィリップ殿下がどちらにいらっしゃるか、ご存じでしょうか?」
ひとりで城に戻り書庫に籠っていたマーカスにの元へ、宮廷の魔法使いが慌てた様子で尋ねてきた。
「…フィリップなんて人、知りません」
「マーカス様?」
「マーカス殿、弟が何処にいるか本当に知らないか?」
宮廷魔法使いの背後から現れたディルクが、心配している様子でマーカスに話しかける。
マーカスはディルクの様子を見て、仕方なく返事をする。
「まだ戻っていませんか?城下町に出たのはずいぶん前で…もう戻っているものかと…」
「やはり二人で出かけていたのか。ここ数日、フィリップがひどく落ち込んでいたからね…。
マーカス殿。何故弟が落ち込んでいたのか分かるかい?」
「え?えっと…」
マーカスはフィリップが悩んでいることを言う訳にもいかず、言葉に詰まる。
すると、ディルクがそんなマーカスを見てはっきりと言った。
「弟は…花嫁の君と離れてしまうのが耐えがたいのだ」
「…ん?」
なんだ?ディルクは何を言い出しているんだ?
「あのー…別にフィリップは、俺と別れるのが辛いとかでは決してなくてですねーーー」
「弟は今まで自分の感情を表に出さず常に冷静だった。けれど、君が現れて弟は変わった。あんな風に自分をさらけ出しているのを始めて見たよ」
マーカスはフィリップと過ごした日々を思い出す。そこには、ただただマーカスを睨みつけている表情しか思い出せなかった。
「…ただ、キレていただけでは?」
「今だって、勝手に城を抜け出す事だってなかった」
「あ、それは俺が勝手に連れ出してーーー」
「皆思っていたんだ。やはりマーカス殿は、弟にとっての選ばれた花嫁なんだ。弟にとって、君はもう、かけがえのない存在なんだ。どうか、弟の傍に居てはくれないだろうか?」
「えー…」
ここでようやくマーカスは気づいた。
この城の者たちは、どうやら俺とフィリップがお似合いに見えていたらしい。フィリップとの言い合いも、痴話げんかに思えていたのか。あれが?おい、嘘だろ?
普段大人しいらしいフィリップが感情的になっているのを見て、俺はフィリップにとって特別なのだと勘違いしたってことか?
俺とフィリップ以外はあの魔方陣の真の意味に気づいていない。フィリップは魔方陣の真意を知り、そして自分のために発動した訳ではないと思っている。
ディルクは、フィリップが落ち込んでいる原因を俺だと言った。けれど、本当にフィリップが悩んでいるのは花嫁じゃない。結局はフィリップ自身の問題なのだ。
「…」
マーカスがどう説明しようかと悩んでいると、再びディルクが声をかけてくる。
「弟がマーカス殿との別れを拒んで逃亡したのなら、連れ戻すだけでは解決にならないんだ。君にとって弟は、本当に何でもない存在なのか?」
「…」
ディルクの言っていることは見当はずれだが、実際フィリップは自由になりたがっていた。
あいつ…このまま家出するつもりか?ちょうど今、俺が魔法でフィリップの外見を変えてしまっている。家出には絶好のチャンスなのかもしれない…。
ひっとして…俺の責任…?連れ出したのは俺だし…俺がきっかけ?ちょっと待て。俺と契約したままなのだが?
マーカスはため息をつき、目を閉じてしばらく黙り込む。
「…マーカス殿?」
マーカスは声を掛けられても答えずにじっとしていたが、やがて目を開けてディルクを見た。
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