憑拠ユウレイ

音音てすぃ

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第四章 爪痕アクター

二十六話 紅コンビニ

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この季節になると日も長くなり、午後七時というのに空はまだ明るい。
僕は自転車でダラダラと家にも帰らず町をさまよっていた。
「今日はなんにもない一日だったな。──そうでもないか」
パシリにされていることを思い出す。面倒といえばそこまでだが、自転車で校外へ出ると自分が住んでいる町なのに、新しい発見があるものだ。いい例として、この前まであった大きな木が切り倒されていた。そこから見る景色は綺麗だったけれど、少し悲しかった。
もう、日が沈む。
物思いに沈んでいると、スマホのバイブレーションがなった。確認すると、葛城からであった。
「ちょっと外暗いけど買ってきてほしい物がああるんだ。そこ遠いんだけどいいよね。あの新しくできたコンビニだよ」
という内容だ。『あ』一個多いし。
さらにメッセージが送られてきた。
「あっ……ごめーん。何買ってきて欲しいか忘れちゃった。先に向かってくれない?」
「うっぜー!」
たった四行程度の文章でここまで頭にくることは初めてだ。
宵の明星と共に自転車を漕ぎだした。
この後、さらにうざったいスタンプが送られてくることは、僕はまだ知らない。

ーーースカーレットーーー
あたりは真っ暗で、自転車のライトだけが目の前を照らしてくれる。街灯は道を示してくれる。そんな暗黒の道を走っているわけだけど、コンビニが見えてきた。
「これが新しくできたコンビニか。ピカピカだな……」
接近につれて鼻をつまみたくなるような匂いがしてきた。
「コンビニって、色だっけ?」
北海道にいっぱいあるコンビニじゃあないけれど、確かに真っ赤だった。
窓に塗りたくられた赤、青いはずの照明は赤。
赤赤赤赤赤。
店内に入ると、足元がベタつくのがわかった。
「これって……血じゃねぇか」
商品の置かれている棚や蛍光灯やレジまで血で染まっていた。
「やべっ吐きそう………」
頑張って飲み込み、店内を探索していると、二十代ほどの女性が二名、男性の店員が一名確認できた。幸いにも生きていた。
「大丈夫ですか?」
僕が質問すると、店員は口を開いた。
「た……助けてくれ!速く!お願いだ」
血まみれの手で腕を掴まれた。妙な暖かさは店員の手の熱ではなく、血の暖かさだった。
「生き残ってるのはあなた含め三人ですか?」
「ひ、ひひひ一人、ババ、バラバラにされた……ほら、見ればわかるだろ?」
確かに妙な肉片が辺りに散らばっている。本当に人が死んだのか?
「そうだ、電話しなくちゃ……」
震えた手でケータイを取り出そうとする店員を僕は止めた。
「私がやります」
そんな手じゃ電話できないと思ったからだ。急いで警察を呼んだ。
それにしても誰がやったのだろう?いや、関わる必要はない。でも、血がまだ暖かかったということは、そんなに時間が経っていないことになるのか?
僕はそんなことを考えながら外にでると、赤い足跡?が暗闇に続いていることがわかった。
「こいつじゃねぇか……」
僕の靴と形が合わないのでおそらくこの足跡をたどれば犯人に会う可能性は高い。
というか、そのは足跡、とわかるだけで人の足の形をしていない。
勝手に足は動いていた。好奇心が勝ってしまった。『ちょっとだけ』という感情は『もっと見たい』に変わっていた。
赤い足跡はどこまでも続く。

結局、葛城からの連絡はこない。僕はわけのわからない血を追っている。すると、足跡は消えてしまった。時間が経てば捜索は難しい。そこはちょうど踏切だった。
今あったことを葛城に伝えるため、スマホを取り出した。
「あ、葛城、話せば長くなるけど、コンビニのことなんだけど……」
「え!大丈夫だった?いいから速く家に帰って!」
「そのつもりだよ……ってなんで知ってんの?」
「いいから速く!」

殺気だ。

後ろから下駄のカランコロンという音が聞こえる。かなり近い。さらに踏切は通れなくなった。電車が来たのである。そのせいで下駄の音はかき消された。
振り向くと、大きな黒い人影がいた。後ろを通り過ぎる電車の明かりのおかげで良く見える。驚くべきことは、右手がおかしな形をしていることだ。巨大で鋭く光る爪。僕は逃げようとするが後ろは電車が通っていて、正面には殺人鬼?
逃げ場はない。足は動かない。震えている。
下駄の音は近づいてくる。
僕も死ぬのか?

電車が通り過ぎた。踏切が今なら通れる。
「よし!今な」
踏切を渡ろうとした一瞬だった。上半身が動かなくなったのだ。理由は簡単、五つの刃で貫かれていたからだ。そして、勢いよく刃を引き抜かれ、僕の血は吹き出した。
「ぐっ……」
痛みで何も言えない。気がつくと影は消えていた。
「ちく……しょう。いってぇ」
僕は踏切で倒れてしまった。
「音希田君!音希田ってば!」
そういえば電話してたな。
画面は汚れて良く見えない。
「悪いな。死にそう……」
「えー!ちょっと!何があったの?」


流れ出した血は、止まることはなかった。
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