電色チョコレートヘッド

音音てすぃ

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来た五月

15話 初耳キャンプ

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「よ」
「よっ」
「よう!」

キャンプ場には麗乃と間がいた。
ハルはどこだろう?
まぁいない方が都合がいいけど。

「ハルは?」
「ハル君は神社調査、三人でね」

三人で。

「そうか、すまないが少し訊きたいことがある。間、お前は神田のところに行ってくれないか?頼む」

トイレか何かで戻ってきていたのだろう、数分ハルだけ残すのは忍びないが、訊きたいことをサクサク聞き出せばあまり迷惑かけないだろう。

「は、何で?」
「間ぁ!君は敬語身につけようぜ!」

僕は少し怒りを出して拳を構えた。

「あぁ?例の武器の特性は聞いた。今度は負けねぞ!」
「はぁ?」
「やんのかぁ!?」
「ちょっとまって。周りのお客さんに迷惑」

見渡すと家族連れがこっちを見ていた、やめよう。

「やめだ。それと……間、これをお前に預けたい。利き腕はどっちだ?それか、どっち側がいい?片方貸す」
「両方いける。なら左を貸してくれ」

僕はアタックαの左を間に渡した。
これなら僕が見てない時、いや今だけど、そんな時に任せられる。
間ほどの実力がないとダメだ。

「麗乃、わがままごめんな?ちょっと訊きたいことがあって」
「いいけど。そんなに長い時間無理だよ。ハルくん放ったらかしは良くないし」
「と、いうことです、間は川に行ってくれ」
「気に食わねぇ……行くけどさ」

間は川の方へ歩いて行った。
僕と麗乃は近くのベンチに座った。

「訊きたいのは、ハルのことなんだ。その……訊き方とかよく分からないときもあるかもしれないけど、その時は分からないと言ってくれ」
「どうぞ」

僕はある仮説を持っていた。
ただの予想なのだが、当たったとしても嬉しくも悲しくも、ただそれだけのことだ。

「まず……去年の、2016年の四月、つまりは新聞部入部のことについてなんだが、麗乃はどうして新聞部に入ろうと思ったのか、それから訊きたいんだ」
「うーん、立派な理由はないよ。姉さんがやっていたから、とかだと思う。オカルト研究部って言われたのを知ったのは速攻入部してすぐに噂で知った事だったけどね」

なんと事実、オカルト研究部として成立しているのを知ったのは入部してからだったのか。

「姉さんから少しは知ってたけど」

なんだ。

「そしてハルのことについて。アイツはどうして入部したのか知っているか?教えて欲しい」

この訊き方は教えろ、ということだ。

「……時間が必要、とやりたいことがあって、大切な人のための時間が一番使えるところに行きたい。それが新聞部だった。そう言ってたよ。入部は二番目だっけど」

僕はその先が聞きたくてしょうがなかった。
その大切な人が一番ハルのその人に近いと思うから。
でも、これは推理ゲームなんだ。
僕の答えじゃないとハルに何故か申し訳ないのだ。

「麗乃は、ハルの大切な人って誰か知ってるのか?」
「うん、知ってるよ」
「それは、女の人?」
「そうだね」
「その人は僕が知っている人?」

麗乃は困った顔をして「どうだろう?」と言った。
これ以上の拘束は良くない。
ありがとうと言って麗乃を公園に行かせた。

「割とハッキリした」

キャンプ場に残り、ベンチにダラダラと腰を低くしていった。

「……ふぅ」

麗乃は僕の人間関係を大体把握している人間だ。
僕の知人は彼女の知人で、多数の彼女の知人は僕の他人であることが多い。
ならば、ハルの彼女は僕からだ。
ハルに僕の知人かと訊いたときに誤魔化されたのは、被害者リストを作らされたわけでもなくて、葛城に訊けということだったと思った。
結局僕なら知り合い全員に聞いて回ると思われたのだろう。

「ったく、人のこと言えないが、ハルも大概言葉の使い方が雑だ……ん?ならブラウンはそれを聞かされたのか?」

でも今ならどうでもいい、ブラウンが気の利くやつでも、目標の人物は僕の知らない人なんだから。
知らないのならもう無理だろう。

僕は早々に川に戻り、ブラウンに一言言ってた。

「二回目だ。回答」
「音希田さん、お願いします」

隣と神田はまたかという顔で、さらに隣の間はなんの話かという顔だ。

「えぇと……そいつは僕の知らない人だ。僕の知り得る人物ではない」

一応間もいるので、気を使ってハルの名前は出さなかった。

「……音希田さん、雑です」
「な、なに!」

不正解だと?でもどこが雑だったのだろう?

「正確に言うのであれば、半分正解です」
「半分……」
「のであと一回、ちゃんと考えてくださいね」

僕はとぼとぼとキャンプ場に戻る。
魚は沢山釣った、だからもう仕事はいいだろうと。
軽い自傷のようにベンチに座り込んだ。

あと一回、回答権がある。
これは蔑ろにできない。
でも考えることはほとんど無くなった。

「ヒントでも訊けばよかったか」
 
半分正解と言われた。
ではその半分とはなんだ?

『僕の知らない人』

これが半分。
さて、この文章が正解の半分なのか。
それとも、この文章の半分が正解なのか。

前者であれば、例えば、〇〇学校の『僕の知らない人』と回答するのが正しい。
または、『僕の知らない人』で実は中学校が同じ、とか。

後者なら『僕の〇〇』?『〇〇知らない人』?ちょっと意味が分からなくなってきた。

ブラウンは雑と言った、ならばどこが雑だったのか?
多分麗乃に訊くのは正しい事だった。
ならば、何かが足りなかった?

僕は
他に聞くことがあるのかもしれない。
ならそれはまた麗乃なのか、それとも他に。

「ハルのことを知るのは誰だ?」

薄い関係性を除外すれば一年生は考えない。
ハルの周り、同じクラスの人間か、それは今訊けない。
麗乃は訊いた。
さて、ならば。

「そうか、僕は雑だったか。どうでもいいわけではない、それでも、何か申し訳ないことをしていた気がする」

僕は立ち上がってバンの運転席まで行った。




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