マッシブスピリッツ

★白狐☆

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不死なる者と、その希望

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 地位も名誉も金も欲するだけ手に入れた。贅を尽くし、日々を怠惰に生きて来た。しかし、ある日に彼は気づいた。


 全ての富を持ってしても手に入らぬものがある。それは年を重ねていくうちに何としても手に入れたくなり、持てる財を費やしそれを手に入れようと躍起になった。


 誰もがそうなる訳ではない。富を得ても自らの欲によりより大きな富を欲する者。また逆に富を手に入れたとて、より貧民に分け与える様な者。


 欲にキリはなく、人によってどうなるかは生い立ち、環境、繋がりにより変わるだろう。しかし、一様に同じものを欲する者達もいる。


 傲慢を許され、誰にも指図される事もなく怠惰かつ我儘に生きた者達である。彼等はすべからず、同じその答えに辿り着く。


 ーーーーーーーー限りなき命が欲しい。


 好きに生き、自分の欲のまま生きた者達が辿り着くべくして到達する境地。健康維持から始まり、最終的に自分の地位や培った物を失う事を恐れ始める。


 真綿で首を絞めるが如く、脅迫観念の様にゆっくりと生に囚われ始める。生きたい、老いが怖い、自分の持っている物を何一つ失いたく無い。


 そして怪物の卵は生まれた。


 手始めに魔術都市を作り、魔術研究の一環と称して不老不死の研究を始めた。研究は上手く行かず、ありとあらゆる文献を手に入れ、何を犠牲にしても研究は遂行された。


 しかし、人を集め情報や機材を集める事で予期せぬ事や予期せぬ者を招き入れる事もある。それはたった一人の魔術師けんきゅういんがたまたま思いついた実験であった。


 捕獲された寿命の長い研究用の魔物が突然、歪な形を型取り殺されたことから始まった。


 積み上がる魔物の死骸は、やがてそれを行った者の足取りを掴む為に、十分すぎる量が廃棄されていた。


「ガンクル。貴様どう言うつもりだ、研究生物も無料タダでは無いんだぞ」


 研究長が他の研究員を引き連れて魔物殺しの現場をおさえたのだった。しかし、それは惨劇の始まりに過ぎなかった。


 ガンクルと呼ばれた研究員はポケットに忍ばせたそれを見せつけると、研究長達は赤黒い石の様な物に釘付けとなる。


「それは、魔石か」


 研究員の一人がそう呟くと、辺りがザワつき始める。魔物から魔石が抽出される事は分かってはいたが、実際にそれを見たのは初めてであった。


「はい、魔石の生成方法と使い方の研究を独自に開発していました」


「バカをいう。魔石生成だけでも学術発表出来る功績。貴様は更に使い方までも理解し始めていると言うのか」


「そうですね。まぁ、他の者よりは詳しいと言う程度ですがお見せしましょうか?」


 ガンクルが研究用の魔物の檻に近づくと、他の研究員達は蜘蛛の子を散らすかの様に離れて一箇所に隠れる様に集まる。


 そこから始まったのは研究でも実験でも無く、ただの拷問であった。


 いかに害悪のある魔物であったとしても、同情と哀れみを思い起こされる惨状に、数人の研究員達は吐瀉物を撒くほどの気分の悪さである。


 手始めに体毛を燃やし牙や角を刃物で切り落とす。弱り逃げ惑う姿を嘲笑いながら、毒の塗られた槍で檻の外から何度も突き刺さし動かなくなるまで、ゆっくりと命を奪っていた。


 意味も分からず、恐ろしさのあまり固まったままの研究員達は事の顛末を見守ることしか出来なかった。


「魔石生成の方法として、過度な暴力、無慈悲な状況、救いなき絶望感そして怒り。つまりは魔物に感情と言うものを植え付ける事で生まれる異物混入イレギュラーがそれです」


「だったら、恐怖以外の感情でも可能なのか」


「理論上は。だが、無駄だ。魔石は殺さなければ手に入らない上に、恐怖と怒り以外の感情を植え付ける事は今まで出来た事はない」


 それは事実なのかもしれない。しかし、ガンクルの恍惚とした様な表情を見れば、ただのこの男の趣味にしか見えないでもなかった。


「それに生産的では無い。他の経済動物同様、一番手っ取り早い方法を取るべきだ。魔石の生産事業はこの先大きな物になるはず」


 理屈の上では間違ってはいなかった。動物を食料や毛皮や牙を奪う為に命を奪うが、魔物であれば残酷と言う言い方に変わる事自体が不自然な様にも思える。


「だが、ガンクル。我々研究員はあくまでも雇われの身、それ以上の仕事は上の者の判断に任せるべきだ」


 研究長がそう告げる。あくまで、組織の一社員が出過ぎたマネをするなと釘を指した。が、それを聞き分けるわけも無く見せしめと言わんばかりに魔物と同じ様に研究員に魔弾を放った。


「なんて事を!ガンクル、貴様何をしたのか分かっているのか!」


 燃え盛る研究室。悲鳴と熱気に入り混じって血の匂いの含んだ煙が上がる。逃げ惑う研究員達だったが、さらに不幸は重なる。


 逃げ出した研究用の魔物達が脱走。そこからは悲劇と惨劇しか生まれなかった。研究員は戦闘経験のある者が少なく、魔物に無防備にやられる者が後を絶たなかった。


 一握りの研究員を残して、研究所は壊滅状態である。その中で異質に佇んでいたガンクルと呼ばれた研究員はまるでこの惨状を望んでいたかの様に高笑っていた。


「バカはお前らだ!この研究には時間制限、つまりはタイムリミットが存在する。しかし、研究と言いながら時間を浪費する無能な豚共はすでに存在悪である事も分からないのか!!それに俺達も魔物と同じだと言う事も」


 我々の主人の意思だと笑い、自分達は浪費される経済動物同様で替えなど幾らでも居るのだと言い切った。


 ーーーーそしてガンクルの言った事は全て事実である事をすぐに知る事となった。


 ガンクルは捉えられ、その場で拘束。生き残った魔物と生き残った研究員達は集められ、研究を再開する為にこの魔術都市に残り復興と再建を命じられた。


 そして、捕らえられたガンクルは城の牢に入れられ、その罪に対しての判決を執り行うまでの一ヶ月間。およそ人として扱われる事などない生活を送った。


「、、、、、、出ろ」


 毎日の様に殴られ、視界の霞む中で這う様にして牢を出る。気味悪がる看守達を横目にただ自らの罪を裁かれに行くためだけに一カ月振りに牢の外に出た。


 必要も無かったが目隠しをした後、看守に連れられ何度も上り下りし、馬車に積み込まれ半日運ばれた後、ようやく目隠し外すとそこは法廷であった。


「これより、ガンクルの罪状及び刑を決める事とする」


 細工のある使い古された判決道具は、どれを取っても年季が入り傷だらけである。しかし、裁判官は元より誰もその事など気にも止めていない。


 裁判所としての作り自体は異世界であってもあまり大差はなかったが、所々に暴れた形跡の残る部屋には、シミの様なものも見てとれた。つまりは暴れた形跡の多い場所だとすぐにわかる様になっている。


 法廷ではあったが、ただの見せしめでしか無い様に思えた。辺りにいる人々はただ血を見たいだけの野次馬が集まり、判決など既に決まっている様なものである。


 ただ、どの様に殺すかを決めるだけの残酷な儀式。ガンクルという大罪人を罰するための場は異様なまでに悪意が満ち満ちていた。


「静まりたまえ、諸君らの騒音で先に進まぬ」


 一般人も法廷の外からヤジを飛ばしていた。ありとあらゆる罵詈雑言の嵐は、法廷の進行を妨げるだけで無く、石の様なものまで飛び交った。


 ーーーーーーーゴスン。


 鈍く低い音と共に、ガンクルが倒れたかと思うと、頭から血を吹き出し壁に新たなシミを作ると、野次馬オーディエンスは歓声と盛り上がりを見せた。


 倒れてなお無表情のままのガンクルだったが、近くにいた兵に無理やり起こされ、立って判決を受ける様に言ってきた。


 何を聞いたのかもわからず、時間を潰すかの様に、ただそこにいるだけのガンクルは、まるでオブジェの如く微動だにしないまま立ち尽くしていた。


「残虐にして最悪。誰一人として貴様を許す者は居ない。よって闘技場送りとする」


 再び飛び交う石やゴミ。そして熱狂する観覧者達は、これから始まるこの世界での罪人の裁き方に興奮していた。


 闘技場送り。この世界の極刑、つまりは公開処刑であった。それも丸腰の罪人を闘技場に放り出し、そこに魔物を放ち倒れるまで戦わせる見せ物でもあった。


 刑はすぐさま執行される為に、すぐに部屋を出る事となった。


 しかし、法廷からの出口まで石を投げる手が止まる事なく、ガンクルを連行する鎧騎士にも当たりカンカンと音を鳴らしながら法廷を出るまでその音が鳴り止む事はなかった。


 闘技場は、いわゆるコロッセオと呼ばれるものその物であった。サークル状の闘技場を囲う様に野次馬オーディエンスの席が設けられていた。


 そして闘技場でその事件は起こる。罪人を裁く為に行われる儀式は、いつも通り執り行われていた。しかし、今回に限り少し様子が変わっていた。


「何故、今回に限り我が王はこの場におられるのか」


 大臣に尋ねる裁判長は困惑を隠せないでいた。実際、今まで一度もこの場に訪れた事などなかった王は、これから始まる判決セレモニーをただつまらなそうに観ていた。


「余が此処に居て何か不都合でもあるのか?」


 どうやら本人に聞こえていた様で「そのような事がある筈がございません」と逃げ腰のままなんとか返したが、一睨みすると脱兎の如く裁判長は逃げ出した。


「しかしながら、突然公務を投げ打ってまで此方に赴かれたのかは私も気になる所ではあります」


「一つ確かめたい事があってな。奴がどの様な人間かを確かめたくなっただけの事」


 大臣は迷惑そうに黙り込むとこれ以上何も追及する事はなかった。


 ファンファーレが鳴り響くと、歓声が上がる。ようやく始まると罪人ガンクルは薄手の衣服のみにされたまま闘技場の真ん中に放り込まれた。


 まるで祭りでも始まるかの様な馬鹿騒ぎこそが、人本来の残虐性を丸裸にさせている様でもある。この世界での数少ない娯楽エンターテイメントの一環だった。


 すぐにそれは始まる。闘技場のガンクルが居る場所の反対側の門が開くと、薄っすらと奥からそれがやって来た。


 ライオンの頭、山羊の胴、蛇の尻尾がある魔物。ガンクルの目の前に現れたのはキマイラと呼ばれる大型の魔物であった。


 現れた瞬間、火炎を吐きながら観客ざつおんに向かって挨拶すると、咆哮を上げながらガンクルに向かって今度は火を吹いた。


 命からがら逃げ惑うガンクル。元より研究員にである為、戦闘どころか運動もまともにしてこなかった為、逃げる事で手一杯なのは至極当然の様に思われた。


 しかし、キマイラは何故か愚鈍な筈の獲物ガンクルをなかなか捉えられず、次第にフラストレーションを募らせる様に、攻撃をする手数が増え苛立ちを見せていた。


 ーーーーーーー地響きが起こるほどの咆哮が響く。


 火を吐きながらガンクルを捉えようと猛進したキマイラは、我武者羅な動きに加え火炎の熱が迫る。しかし、終わりはいとも簡単に訪れた。


 キマイラの前足はガンクルを唐突に捕えた。まるでボールの如く地面を跳ねながら、ガンクルは何度も地面に叩きつけられ、ビクビクと痙攣したまま動かなくなった。


「何だ、もう終わりか。呆気なかったな」


 異様な盛り上がりを見せたが、不意に終わりを告げた大衆娯楽みせものは誰かの呟いた一言によって本当に終わりを告げた。


「王よ。早くお戻りください、公務に差し支えます」


 大臣の一言を聞いてなお動こうとしなかった王は、観客オーディエンスの居なくなった闘技場にただ一人、頬杖をつきながらただガンクルの遺体を注視していた。


「、、、、、、、、確かめろ」


 突如、発した王の言葉に周りにいた従者の誰もが聞き取れないでいた。しかし、次の瞬間残っていた者達全てに戦慄が走る事となる。


「何故誰も奴の死を確認しない!余が言った事も分からぬのか!このたわけ者どもが!!」


 怒号が鳴り響く。突拍子もなく張り詰めた空気が始まり、辺りが固まったかと思われたが、すぐさまあたりが騒がしくなり言われるがままガンクルの生死を確かめに数人の兵が向かった。


「何故そこまで、あんな罪人をお気になさるのです」


「本当に分からぬのか?もし思惑が当たれば余の悲願が成就するというのに」


 しかし、大臣の顔は訝しげに曇る。この話が出る度に、また無茶な研究を続けるのかと内心気が気ではなくなるのである。費用、人材、場所等の負担も今ではかなりのものである。


 周りに居た誰一人として何も言い返すことの出来ないまま、時間が過ぎると闘技場から、悲鳴にも似た叫びが上がった。


「傷が塞がっている!それに、まだ生きているぞ」


 兵士そう叫ぶと、まるで堪えていたものが溢れかえるかの様に卑下た笑いを隠そうともせずに響き渡らせる。


 辺りが凍りついた。ガンクルは意識の戻らぬまま拘束されると共に、王直々の配慮という名の職権乱用を行使し、城の地下に幽閉される事となった。


 ーーーーーーーー三日後。


 地下に幽閉されて早三日が過ぎた。ガンクルは丸二日牢の中で生死の境を彷徨うと、三日目にようやく目を覚ました。


 四畳半もない様な狭く薄暗い場所にはベッドしかなく、後はトイレがあるだけであった。石造りの壁と床はひんやりとし、寒冷期であれば命にも関わる様な冷たさになる事が分かる。


 いつ持って来たのかも分からない、牢の隙間から入れられた食事を犬の様に摂ると、やっと自分がまだ生きているのだと実感した。しかし、目を覚ましてからはずっと牢の中にいる為、情報が何もなく何故此処に居るのかも判らなかった。


 食事の後、急な吐き気や頭痛が繰り返し起こり気が狂いそうになりながら、ようやくまともに戻りかけたその時だった。


「やはり死なんか、しかし寿命には効かんそうだがな」


 地下まで足を運んだのは王であった。それも従者も従えず、牢屋の見張りがいるだけの防備が手薄なままやって来ていた。


「何だ、、、、、、俺は言われた通り仕事をしていただけだろ」


「無論、貴様の言うことに異論などない。だからこうするのだ」


 王は牢屋の見張りに指示を出し、牢の鍵を開けさせる。見張りが離れると牢の扉を王自ら開ける。しかし、扉が開いた瞬間ガンクルが飛び出し、王の胸に尖れた壁の石片を突き刺さした。


「貴様!王よ、今すぐに医務班を、、、、」


 たった一人の牢の見張りは、すぐさま誰かを呼びに上に駆けようとした。しかし、その足を誰でもない王自身が掴んで離さなかった。


「賊のいる場に王を残してなど!!」


「構わん、ただ貴様は此処から立ち去るが良い。そして、このことは他言無用だ」


 王はとにかくこの場所から失せろと言うと、渋々ではあったが見張りは一礼をすると牢の監視部屋まで戻って行った。


「何だ?死に急いだのか王よ。まぁいいこんな場所とっととおさらばだ」


「それでは、困るんだよ。お前にはまだやって貰わなければならない事がある」


 立ち塞がった王は腹に刺さった石片を抜き取り傷から血が流れていた。しかし、おかしな事はすぐに起こる。そのまま出血多量で倒れるかと思いきや血がすぐに止まる。


「何だ、何が起こっている」


「貴様と同じだ。罪人風情がまさか魔石の使い方を知っていようとはな」


 傷が塞がると同時に王は見る見る姿を変えて行った。牙が生え、山羊の様な瞳に全身から黒く長い毛が生えた。側から見れば王と呼ぶよりは魔王といった方がしっくりと来る見た目となった。


「まさか、、、、、、、、、アンタも食ったのか」


「ああ、魔石をな」


 王とガンクル。二人は同じ思考の持ち主らしく、考え方すらも似ていた為、いつの間にか同じ境地にまで立っていたのだった。


 互いのことを一瞬にして理解しあった二人は、物言わずとも旧地の仲の如く信頼し合えるのだと確信する。


「王は何が望みですか」


「無論。私の夢、君に研究を完成させてもらう事だとも」


 秘密の共有。互いの信頼は、瞬く間に紡がれると強固なものとなっていた。互いの利害の一致もあり、ガンクルはこの後から何不自由なく研究が執り行われる事となった。


 ーーーーーー三年の月日が経った。


 ガンクルを表向きには死んだことにし、秘密裏に王宮に匿い新たな名前を与えられ、王の別宅を研究室に作り替え研究は続けられていたが、この事は二人とごく僅かな信頼できる者達にしか知り得ぬ事となっていた。


「バーランドお嬢様。そろそろお時間ですので、公式の式典なのでお召し物を着替えませんと」


 若い侍女がそう言う。連日の研究続きで何日篭って居たのかさえ覚えてはいなかったが、侍女の一言にそうなのだろうと髪を掻きむしった。


「わかった。後で向かうから片付けだけさせてくれ」


「畏まりました。しかし、またその様なお言葉遣いをなされては殿方達に嫌われてしまうかと」


 一部の需要を除いて。などと思っても口にはしない。口が悪いのもであるので仕方なく、ハッキリ言えば侍女などガンクルバーランドには必要など無いのである。


「今日はお嬢様が、此方にお越しになって早三年の記念日でもございます」


「もうそんなに、研究が進むわけだ」


 ガンクルが匿われる際。人相を変える為にさらに魔石を飲んだ。異形の形になる事は勿論であるが、その際に人にカモフラージュする魔術が一度使える為それをあてに飲んだまでは良かった。


 しかし、魔石を二度も飲んだ者はおらず最悪は魔物になる覚悟はしていたが、思わぬ副作用により性別が反転してしまったのである。


 幸か不幸か、女性化し更に若返ったことにより疑われる事なく城に潜伏できていた。よもや虫も殺せそうも無いお嬢様の様な顔に変わった為、良い事も悪い事も起こっていた。


 勿論、良い事とはガンクルである事がバレる要素がおおよそ無い事である。しかし、口調や所作が突然良くなる筈もなく、習いごとなるものまで覚える手間が増えて居た。


「では行く、、、行きましょうか」


 女性の言葉遣いがむず痒い為、日常の殆どの会話を侍女に任せていた。渋々ではあったが仕方なくバーランドは式典に向かい始めた。


 国を挙げての式典は、この国には一つしか無い。故に年に一度きりだからこそ盛り上がる行事でもあった。


「建国祭の式典なんて、偉い人間が勝手にやってれば良い。王のめいより大事な事などこの国には無い筈なんだが」


「それはバーランド様には、そちらの方が大切なのかも知れませんが、国民には直接王を見れるだけでも一大事なんですから」


 用意されて居た馬車に乗り込み、侍女の小言を聞かされながら嫌々に式典に向かう。大体、裏稼業の者が表に晒されるのはリスク以外の何ものでも無い筈である。


 しかし、たまたま研究室にやって来て居た王とのやり取りを、国の大臣に見つかる失態をし、身バレした事より事態は急転した。


 王が若い娘を囲っている。等と面白おかしい話スキャンダルにでもされれば威厳や品位が損なわれるのは火を見るより明らかである。


 通常であれば相手を物理的に消す事が常套句であるが、危ない橋は出来るだけ避けたかった事と、毎回誰か見つかる度に大掛かりな証拠隠滅する手間を考えれば、いっそいつ会ってもおかしく無い相手にした方が得策だと二人が考えたからである。


「まさか、親戚の貴族とは」


 根も葉も根拠も何もない、ざっくりとした言い訳は思いの外すぐに馴染んだ。と言うよりも王の言葉に逆らえるはずも無く、言った瞬間から親戚は存在せざるを得ない事実となって今に至る。


 馬車が建国式式典場にやってくるまでそう時間は掛からなかった。今の研究所は元王の別宅である。三十分もかからない場所であったが、貴族というのは見栄で出来ているらしく、徒歩で移動するだけで他の貴族は馬鹿にしてくる生き物である。


「歩いた方が早いのに効率の悪い事この上ない」


「仕方ありませんよ。また下民下民と噂されたくはありませんよね」


 貴族、しかも王との繋がりもあり王族とも噂されるだけに下手な行動が取れないでいるのが気に入らなかった。煩わしい事も多かったが、潤沢な資金を王から出資して貰い場所まで提供されている為、これくらいは我慢する他なかった。


 式典の開会まではまだ時間があったが、バーランドは王に呼び出されて居た為、侍女を王宮前に待たせた。王宮の中に入ると慌ただしく駆け回る給仕達や、これから始まる警備の為の兵達が溢れかえっていた。


 慌ただしく騒がしい場所を抜けると、まるで人が居なくなったのではないかと思えるほど静まり返る。王が本当に居るのかも疑わしかったが、とにかく約束の広間に向かって歩いた。


「時間がない。研究の成果の報告をするがいい」


「早々なのは構いませんが、此方で話すには危険が大きすぎると思われますが」


「だからこそ今日なのだ。私以外の人間は大体が今日の式典に手を取られるため、まず聞き耳を立てる者などおるまい」


 恐らく客間であろう広すぎる部屋には、不気味な壁飾りが並ぶ。ガーゴイルと呼ばれる魔物の彫刻のならぶ室内は、何処か危機感をかりたて落ち着きを奪う。


「ならば王を信じましょう。報告する事も多いので手短かにですが」


「構わん、話せ」


「では、以前よりの不老不死もくひょうの魔物化の限界値が魔石小なら五つから六つ。しかし、魔物化進行を抑えての聖水の服用により粒子状であれば十五を超えての使用が可能です」


「ならあと、九個は服用出来るのか。だがそれもいつまでも持つものではないのだろうが」


「仰る通りです。しかし、王の身体は魔石により半魔物化が進み過ぎている事とご年齢が三百を超えている為、実際には三個程が限界かと」


「何だそれは!そんな物は成果とは言えん!」


 王はバーランドを殴りつける音が響いた。しかし、それもこの二人には良くある状況であった。ただ、今回はバーランドにはまだ話の続きがあった。


「その根底であるマッシブスピリッツの探索及び推測結果の方が出ております」


「話せ」


「観測隊および、警備隊による報告で天使なるものの観測を確認し、予想通りに魂の還元と共に魔物の発生を確認。装置的役割は予測のものと誤差はないかと」


「だったら次の段階に移れ。現状で私はあと三十年程しか保たぬかもしれんではないか。とにかく時間が惜しい」


「ではマッシブスピリッツの破壊に移って宜しいのですね?」


「壊す他あるまい。神族と地上の繋がる場所。魂が帰る場所などがあるからこそ、不老不死の邪魔にしかならん」


 王は魂が還元せず、留まらせる事で生の繋ぎ止めと縛り付けが出来ると考え、神族と敵対し魔王と手を結んでいた。


「でしたらやはり、アンデットの地に向かわれる方が現実的かと」


「だが、そこから出れず縛り付けられるだけで仮に生きながらえたとして、それでは魔物と遜色はあるまい」


「もう時間はない。式典に出なければならんからな、実験の続きと行こうか。国民を今より兵に変える実験をな」


「準備は整っております」


 式典が始まった。計画は驚くほどにスムーズに進んでいく。単純な計画であった。式典にかこつけて仕込んだ、魔石を改良し魔物に変える薬を至る所に仕込んだ。


 魔物はいくら居ても足りない。実験の為と戦力強化の為。そして魔石生成のためにいくら居ても足りないのであった。


 魔物不足が続き実験が滞れば不老不死が遠退いてしまう。その為、最終手段として国民を魔物化するという暴挙についに出た瞬間であった。


「我が愛しの国民の皆よ!我々はついに今日長きにわたる夢を叶える事が出来る。このよき日に最大の功労者をここに迎えよう」


 式典の行事プログラムに組み込まれて居ない王からのサプライズすら、国民からすればお祭りの一環であると歓喜する。


「我が友人にして今日までの功労者バーランド嬢だ」


 拍手で迎えられ真っ赤なドレスを着込んだバーランドは、まるで全てを包み込むかの様な仕草で両手を広げると、大袈裟にして丁寧に挨拶を遂げる。


「今日のよき日に、全ての国民、全ての生きとし生けるものを感謝し王と共に此処に尊き犠牲の元、この国に新たなる世界を約束します」


 悪魔の演説が終わる。そして、作動した国全部を覆うほどの魔法陣しかけが作動し、時揺れが起こると狂気の時間が始まりを告げた。


「逃げろ!早く避難、、、、、、、を」


 勇気ある人間は何処にでもおり、避難誘導をしていた男から魔弓により撃ち殺された。混乱はピークを迎え、何も知らされて居なかった兵達もどうすれば良いのかと右往左往していると、ついにそれは始まった。


「魔物だ!魔物が混じっているぞ!」


 人々の混乱の最中、何処からかそんな声が聞こえてきた。しかし、その言葉を遮るように別の叫び声が聞こえて来る。


「違う、魔物だったんじゃない!うちの娘が魔物なはずがない」


 魔物が人に化けていたのではなく、人が魔物になってしまったと言う声が上がり続けていた。悲鳴と助けを求める声は止むことがないように思えるほどだった。


 そんな国民を見下ろすように王とバーランドは見つめると、経過を視察するかの様に人々の嘆きの中、自分達の欲を満たす為のサバトを観察していた。


「井戸に魔石を入れただけでコレとはな」


「いいや王よ。魔石の魔力が流れ出た水だけでは何年かかるか分からなかったので。こうして魔法陣により魔力暴走状態から魔物化を引き起こす他はありませんでしたが」


 変貌は瞬く間に周囲を染め上げると、辺りはガーゴイルだらけとなった。そして生き残り、たまたまこの街に来ていた人間や水を他の場所から引いている人々を襲い始めた。


「お、恐れながら王よ。国民を助けるめいを、、、、、、え」


「兵が王に命令など、謀反もいいところだ。そのまま死んでろ」


 王の手には血の滴ったサーベルが握りしめられていた。それは兵が持っていたものだったが、自らの刃を使われて兵は一撃の元に胸を突き刺されていた。


「王よ。国民が見てますよ」


「今、此方を見る者などおるまいて。片付けろ」


 他の兵にそう命令する。半数以上は命令を無視して城下町に飛び出してしまったが、自分の命の惜しい者や気が動転している者は未だに城の中に留まっていた。


 言われるがまま傀儡の様に見える兵達を見て、バーランドは更なる実験のきっかけを得る。いっそ兵達を魔物化、もといアンデット化してしまえばより忠実なる下僕として使えるのではないかと。


「ガーゴイルの量産が実現した今、もはや足りぬ物はありません。しかし、貴方は本当に王でしょうか」


「今更臆したか?紛れもないわ。我が心は魔石の副作用により魔物と化しているかを問うならば、もはや貴様の知る所にないのだ」


「失礼しました。出過ぎた真似でした」


 一昼夜続いた地獄絵図は、静けさと共にその役目を終えていた。国には最早魔物が蔓延り、生き残った兵達は気が狂った様に叫んでいた。


 そんな中。二人だけが静けさの中、悪魔の様な表情のまま佇んでいた。


 復興などあるはずも無く、荒廃していく都市部。実験の繰り返しに次、疲弊しきったこの国には救いなど無く、やがて武力の力だけがヒエラルキーの根幹へと変わってしまった。


 滅んだと他国に囁かれるまでには一か月として掛からなかった。国民なくして城などただのデカい箱でしか無くなる。


 食料、衣料、全ての産業なくして王など何の役にも立たない飾り以下の存在でしか無くなる。だが、それでもなお君臨出来る者はまさに力を持った者である事をも証明していた。


「まだ出来ぬのか!この体が朽ちるには最早時は満ちすぎているというのに。バーランドは何をしている!彼奴に鞭でも打たねば気が済まん!」


 バーランドが研究所に篭って早半年が過ぎようとしていた。何も報告が来ないのはおろか、研究所から出た姿すら表さない為、一時は逃げたとまで言われていたが、バーランドはずっと苦しんでいた。


 何故か結果が振るわず、全ての必要であろう素材は集まっているにも関わらず、未だ不老不死という手掛かりの端すら掴んではいなかった。


「、、、、、、、、またか」


 不眠不休での実験は、バーランドの顔から生気を抜き取っていた。青白い顔のまま目にクマをつけ王の前までやってくると気だるそうに頭を掻きむしった。


 このやり取りは何度も行われてこれ以上のやり取りは無用であると互いに理解していたが、王の機嫌の為に仕方なく言って報告する事が恒例となっていた。


「バーランドよ。いつまで待たせる」


「魔石からの延命措置による技術も進んでおります。まだ時間はありますので、、、、」


「誰が延命措置の研究を進めろと言った。欲しいのはただ一つ!不老不死に他ならない」


 魔石研究が進むにつれ、延命と副作用の抑制は進んでいたが、やはりその先の不死。そして不老が思っていた以上に研究が進まずにいた。しかし。


「恐れながら王よ。別の方法がまだございます」


「言ってみろ」


「不死を体現出来る魔導書がこの世にございます」


「ネクロノミコンならば既に手に入れたであろう」


「しかしながら、王はその魔導書を使なられてはおりません。あれは使う物であり、研究の読み物ではありませんので」


 そう言い、バーランドは懐より取り出した一冊の魔導書を取り出して手渡した。死霊を操り、不死を体現せしめるための書。しかし、これは最終手段でもあった。


「これを使えば不死は手に入ります。しかし不老ではなくアンデットとして蘇る為、人ですら無くなります」


 ゆえに研究物にしかならなかった。全てを満たせないからこそ、バーランドは敢えてこの魔導書を王に渡さなかったのだった。


 それを手渡すほど切迫した状況であり、バーランドには他に手が無かった。そして、王もそれを察するかの様に手が止まる。


「待とう」


 一言だけ放ち、踵を返しながら自室の方に帰った。バーランドも頭を下げたまま王が立ち去るのを待っていたが、突然足音が止まった。


「後三年。待って駄目ならそれを試そう」


 王には後三年で何かが取り戻せなくなるという予感があった。延命でも間に合わない何かがあり、バーランド自身にもその声色に意図を読み取った。


 三年を待たずにその時はやってきた。二年目に差し掛かろうとした時、城では不気味な出来事と襲撃を受けていた。


「バーランド様、早くここを離れてください。何者かの襲撃をうけ、城は半壊状態にあります。いつこちらに向かわれるか」


 兵士がやって来ると矢継ぎ早にそう言い、バーランドを連れ出そうとした。しかし、研究の最中であり、いきなり此処の研究成果を捨てて逃げるなど出来るはずもなかった。


「鉄扉を閉めろ!それ以上の出来ることなどない」


「そんな、命より研究所の方が大事だと言うんですか!」


「当たり前だろう!どのみち、この研究の成果が出ねば私は殺される。それに、有事の際の研究所だ。此処より安全な場所などない」


 王の別宅を改装したのには理由があった。一見すればただの大きな屋敷であった。その実、改装の際に地下に部屋を設け人目につけたくない研究はそちらで行なっていた。


 やって来た兵に〝逃げろ〝と言い含めた。しかし、これは兵士の為に言ったのではない。地下にある研究室は一部の人間しか知り得ない存在であった為、兵にはとにかく離れて欲しかっただけの一言である。


 地下に逃げ込み、まるで上の建物が瓦解したかの様な轟音と衝撃が起こった。だが、それでは終わらず音が近づいたり遠退いたりしながら一週間は何も起こらない日がなく、ようやく静かになった次の日にバーランドは地上に出た。


「あぁ」



 城はかろうじて城の形をとどめ、辺りの城下町は廃墟を超え瓦礫の塊へと変わっていた。そこに生活の営みはなく、かつて町であった面影すらなかった。


 そんな中、ただひたすらに立ち尽くして動く事なく壊れた魔物が一匹。誰よりも大きく雄々しいその姿に見る影はなく、ただの像の如くそこにあるだけの存在があった。


「王、、、、、、、、よ」


 バーランドの声は空を斬るが如く、響く事もなくただ吐き捨てられた。絶句を超えた虚無状態の王は、ついにバーランドという存在を理解できなくなったまま徘徊を繰り返すだけの亡者と化したのだった。


 だが、バーランドにとってそれもどうでも良い事であった。何故ならば王の為の実験はいつの間にか自分の欲のための手段でしか無くなっていた為である。


 アンデットが蔓延り、町があった場所にはガーゴイルが生き埋め状態となっていた。それは、バーランドにとって実験の宝庫とも捉えられた。


 期間の区切りがなくなりバーランドは時間をかけながら研究に没頭する。王であった亡者は実験を繰り返す事で本物の亡者となるまでにそう時間はかからなかった。


 ただ、問題が一つあった。それは王が居なくなった事で、何とか繋ぎ止めていた兵達が逃げ出したり、狂人と化す例が現れた事である。


 勿論、実験の為に生身の人間が必要不可欠な存在であった。魔物化と人間の境界を探り、人でありながら魔物に近しい生命力を持ってこそ、不老不死に近づける最短であると考えた為でもあった。


 人間モルモットが居なくなれば、たちまち研究が滞ってしまう事は火を見るより明らかである。そこでバーランドは王になりすます事にした。


 元より男性であったが身体が女性で力仕事等の不便から、いつか男性に戻ろうと考えていた為、男性に戻る用意は既に出来ていたのだった。


 性別さえ戻してしまえば、外見を偽装するのは左程難しくはなかった。しかし、王に成りすました所で壊れてしまった兵達が戻るわけではない。


 そこで、かねてより考えていたバーランドの兵増強の為の秘策を実行する為、城の地下にその秘術の準備を進めたのだった。


「魔法陣は必ずエルカンの魔石を砕いて描け!他の物では安定しないからな」


 キビキビとバーランドが指示を出しながら魔法陣の準備を行う。王の姿となって初の仕事であったが、問題なくことは進んだ。


 王の変わりようを兵達は上手く勘違いしてくれたことも功を奏した。ひっ迫し、困窮の極みについに王は王としての自覚に目覚め、自分達を率いてくれているのだと信頼を集めていた。


 そのおかげで仕掛けは一週間とかからずに組み上がる事となった。魔物を媒体に魔法陣が稼働可能かの試運転を行い、兵達を人払いし数人の装置を動かす者と王だけが地下に残った。


「諸君らには苦労をかけた。これに成功すれば必ずや我が国は復興を遂げるだろう」


 一つの禁忌が破られた。国同士の取り決め、そして均衡を保つ為の措置であったが、崩壊寸前の国に法などあってないものであった。


 魔物という名の贄を捧げる。魔法陣の中心には折り重なる様にして魔物の死骸が積まれていた。血溜まりができ、地下である為に生臭さと不快さを合わせ嘔吐する者まで現れる始末であった。


「国民の尊き犠牲にこたえよ!我が力となりし異世界よりの使者よ!」


 赤く鈍く光る魔法陣は、ゆっくりと光量を上げながら、その力の強さを表すかの様に地面から天井に赤い閃光が噴き出した。


 それは一瞬の出来事であった。閃光が部屋を光で染め上げたのは、わずか一瞬の出来事である。そして、大砲を撃ち込まれたかの様な衝撃と轟音によって、たちまち土煙に包まれてしまった。


 辺りを瓦礫に変えるほどの衝撃、亀裂が入り危なげな壁や床を気にする間もなく、現れたそれの迎撃に対処する他なかった。


「、、、、、、、、お前ら、何者だ」


 低く威嚇を込めた声は地下ではよく響き、突如現れた黒装束のその姿は忍者であった。そして、それが判る頃には兵達はすでにやられてしまった者もいた。


 しかし、それすらも想定内。元より言いなりになるなどと、はなから考えてはいなかったはずである。だからこそ魔術師を分けていたのだった。


 半分は召喚の儀の為、そして残りの半分は不測の事態を想定しての配備であった。つまりは捕縛および排除するために動いたのだったが、初動が遅れた事は不覚としか言いようがなかった。


「構わん、やれ」


「勝手に呼んどいて、そりゃあないんじゃ、、、、、、、、ひぎゅう」


 突然、首を絞めた様な鳴き声を上げる忍者は拷問の訓練も受けていた為、何か得体の知れない力から逃れるために、のたうち回りながら暴れ回った。


 しかし、今までの訓練したものとは違い、忍者に魔術など理解出来るはずもなく、物理的に何かされた感覚しかない為、どうすれば助かるのかも解らなかった。


 忍者が動かなくなったのを確認したバーランドは、異世界人の遺体を魔法陣の中心に置き直し、魔法陣にさらに何かを書き加えさせていた。


「では、これからが本番である。此処からの秘術は分かっておるな」


 今まで携わっていた兵達を部屋から追い出し、ただ一人になったバーランドは懐に忍ばせていたあの魔道書を取り出した。


「ネクロノミコン。しかし、王の為に使いたかったが」


 王は幽閉し、来るべき時が来るまで閉じこめるつもりでいたが、いつの間にか牢から抜け出し今は行方知れずとなっていた。


 魔法陣にさらなる秘薬と書き込みを行う。秘術ゆえに他の者に知られる事を恐れ、一人で作業する他なかった。反魂の儀に最も近しい力と呼ばれる不死なる秘術。


 それをなす為にバーランドは犠牲を出し続け王の寿命がくる、その直前の延命方法として使おうと考えていた虎の子を使う覚悟なのである。


「、、、、、、、、ふぅ」


 一息吐く。しかし、それだけで出来るだけ緊張の糸を切らない為、作業を再び始めると手を止める事なく準備を進めた。


 わざわざ地下に、この施設を作ったのは人目につかないと言う一点でのみ大規模な工事を行ったのである。今まさにその為の努力がようやく実ろうとしていた。


「、、、、、、、、ふ、、、、はははははは!!」


 秘術は滞りなく終わる。異世界人を召喚し、さらにアンデット化を施すと、もうただの操り人形と化す。


 異世界人は不死の体と隷属の呪いにより決して裏切る事のない傀儡へと変わり、最強の兵士へと変貌を遂げた。


「貴様に新たな名をやろう。我がなの稲妻ライトニングから波状せし者、スパークと名乗るがいい」


 終わりを告げる為の始まりが始まる。ライトニングとスパークが出会い、やがて訪れる対立を知らぬままに。
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