魔法少女♂とヤンデリオ

嶋紀之/サークル「黒薔薇。」

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嫉妬型ヤンデレ、八雲チアキの場合

②-6

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 チアキがワープした先では、まさに、魔法少女ノブユキが巨大な竜――ジャネープと戦っている真っ最中だった。雄叫びを上げながら暴れまわるジャネープを、なんとか止めようとしているが、ノブユキの魔法では押し負けそうになっている。
 戦場になっていたのは遊園地の中央、目玉スポットである薔薇園だ。チアキたちも、今日の最後に回ろうと楽しみにしていた場所である。色とりどりの薔薇の花は、ジャネープの巨体に踏み潰され、見るも無残な姿になっていた。
(なんて酷い……、よくも、先輩の大事な場所を……!)
 彼はジャネープを睨みつけると、加勢のため、ノブユキに近づいていく。
「……先輩っ!! 無事ですか!?」
「なっ!? おまえは、この前のストーカー……!?」
 突然現れたチアキ――闇の魔法使いジェラシィに、ノブユキは、すかさず魔法で攻撃を仕掛ける。
「悪いがおまえの相手をしている暇はない、退いてもらうぞ……!」
「えっ、ちょっと待っ……ぐぁっっ♡♡」
 ノブユキの放った光弾が、チアキの体を直撃する。吹き飛ばさそうになるも気合で留まり、彼は弁明を試みた。
「ご、誤解です!! 待ってくださ――」
「いいか、ここは皆の大事な場所なんだ!! 皆の楽しい休日は、邪魔させない……!」
 正義感に満ちた眼差しで見つめられ、チアキは、改めて己と彼との違いを痛感する。平和のために戦う彼はあまりにも眩しくて、エゴで魔法の力を使っている自分は、彼の隣にいる資格などないのだと思ってしまう。
(ああ……やっぱり先輩は、ヒーローなんだ。自分勝手な嫉妬で暴走する俺と違って……こんなにかっこよくて、眩しくて……)
「それに、さっさとジャネープを倒して……壊れた花壇も元に戻して、俺は、八雲を探さないと……!!」
「……え?」
 しかし、暗く沈みかけた思考は、他ならぬノブユキの言葉に覆された。……彼は今、なんと言った?
「悪いが――今日の俺は怒っているんだッ!! 楽しい遊園地を、素敵な自然公園を壊したことも許せない。だが、ヒーローとしてあるまじきことだが……俺は……楽しみにしていた、大事な後輩との休日を邪魔されたことに! 少しばかり怒っている!! 容赦はしないッ、さっさと片付けさせてもらうぞ、闇の魔法使いヤンデリオ!!」
(嘘――まさか、本当に? 聞き間違いじゃない? 先輩っ、いま、おれのこと『大事な後輩』って……今日のこと、『楽しみにしてた』って!!)
 ノブユキの声は真剣な怒りを帯びており、彼が本気でチアキのことを心配し、二人で過ごす時間を楽しんでいたのだということが伝わってきた。ただそれだけの事実が、チアキの胸を熱くさせる。死んでもいいと思えるくらいに、喜びで胸がはちきれそうだった。
(嬉しい――嬉しい、嬉しい嬉しいっ♡♡♡ おれだけじゃなかった!! 先輩も、今日を楽しみにしてくれてた!! 先輩が……ほんの少しだけでも、おれのこと、ちゃんと見てくれてたなんて……!!)
 恍惚の笑みを浮かべた彼は、あふれる胸の高鳴りを込めるように、炎の魔法を発動させる。
「……とにかくっ、ここはおれに任せてくださいッ、先輩!! 炎よ……いっけええっ!!」
「なっ……!?」
 指先から放たれた炎の渦が、巨大なジャネープの体を包み込む。咄嗟のことに対応できず、ジャネープはバタバタと悶え苦しんでいた。
「先輩っ! ジャネープの動きは封じました!! 浄化するなら今です!」
「ど、どういうことだ? なんのつもりだ、いきなり……!?」
「おれはただ……先輩の力になりたいだけです! 先輩に加勢しに来たんですっ!! あなた一人で、危ないことをしてほしくないだけなんです……! それに、先輩の大切な場所を、お花と笑顔に満ちた場所を壊すなんて、ジャネープも先生も許せないっつーか……!」
「え……? ええと……よくわからんが……とりあえず助太刀感謝するッ!!」
 突然の展開に理解が追いついていない様子のノブユキだったが、ヒーローとして、降って湧いたチャンスをふいにはできない。無理矢理気持ちを切り替えると、ジャネープを浄化するための魔法を発動させる。
「……終わりだ、ジャネープ! くらえ……《クリスタル☆シャワー》ッ!!」
「ギャオオォ……!!」
 ノブユキの全身が淡い桃色の光に包まれたかと思うと、前に突き出した両手から、光の粒がジャネープめがけて降り注ぐ。技を喰らったジャネープは断末魔の叫びを上げ――ゆっくりと、光の粒となって解けて消えていく。同時に、破壊された建物や植物たちも、ジャネープが現れる前の姿に戻っていく。
(すごい……、これが魔法少女の……先輩の力なんだ……!)
 奇跡を目の当たりにしたチアキは感激し、思わず、ノブユキに抱きついていた。
「や……やったー!! やりましたよっ、先輩!!」
「っ!? い、いきなり何をする!?」
「あっ……、す、すみません!! 嬉しくて、つい……」
 警戒され、慌てて体を離したジェラシィチアキを見て、ノブユキは呆れたようにため息をついた。
「あー……その。事情はわからんが……おまえのおかげでジャネープを浄化できた。それについては感謝している」
「え、えへへ……。やっとおれ、先輩の役に立てました……!」
「……はぁ。闇の魔法使いなのに、敵じゃないのか……? どういうことなんだ……?」
 すっかり困惑した様子のノブユキに、チアキは、神妙な顔で頭を下げる。
「あの……この前はすみません、先輩……。おれ、先輩のこと、怖がらせちゃって。でも……おれ、先輩の力になりたいだけで……」
「いや……こちらこそ。話も聞かず、一方的に敵だと決めつけてすまなかった。おまえはいったい、何者なんだ?」
「え? えーと……、何者、と言われても……」
「おまえ以外の闇の魔法使いは、皆、こちらの話や事情も聞かずに理不尽なことを言う連中ばかりだった。だがおまえは、少なくとも俺の敵ではないと言った。この遊園地が壊されたことに怒る正義感もあるようだ。それなのに、どうして……?」
 何故、彼が闇の魔法使いなどをやっているのかと問うノブユキからは、ジェラシィへの敵意や不信感は消えているように見えた。純粋に助けられたことに感謝し、だからこそ、疑問に思っているような顔だった。
 嫌われていないことに無意識に安堵しながら、ジェラシィチアキは、素直に事実を口にする。
「……実は、おれもよくわかってないんです。気付いたら、闇の魔法使いになってて……先輩が、貴方が魔法少女になって、危険な戦いをしていると知って。この力で、なんとか助けになりたくて――ぁ゛あ゛あ゛ッ!?」
「!? どうした、大丈夫か……?」
 もしかしたら、今なら正体を告げてもいいのではと――そう思った瞬間に、激しい頭痛がチアキを襲う。突然悲鳴をあげて崩れ落ち、墜落しそうになった彼を、魔法少女ノブユキは姫抱きで受け止める。
「あ……、す、すみませ……、大丈夫、です……。一瞬、頭痛がしただけで……」
「……おまえ、まさか、」
 力ない声で返事をする顔を、ノブユキは驚いたように凝視していた――が。すぐに首を横に振る。
「……いや、なんでもない。似ているはずがない……、気のせいだろう」
「先輩……?」
「おい、自力で歩けるか?」
「あ、は、はい……」
 ふわりと、やさしく着地をしたノブユキは、そのままジェラシィを丁寧に地面に下ろした。

「……ええと、ジェラシィ、だったか」
「っ! あ、名前……!」
 はじめて魔法使いの名前で呼ばれて、名を覚えてもらっていたのかと、ジェラシィチアキは瞳を輝かせる。
「おまえの気持ちはわかった。ストーカー行為は許容できないが、俺を心配してくれたこと自体は、嬉しいしありがたいと感じたよ」
「そ、そんな……♡」
「だが、俺は魔法少女をやめる気はない。ジャネープと戦うことも、もちろん、おまえたち闇の魔法使いヤンデリオと敵対することもやめない。それに、おまえの気持ちに応えることもできない。……すまないが、諦めてほしい」
「っ! せん、ぱい……」
 ノブユキは真剣な表情をしている。以前出会ったときのような冷たい拒絶ではなく、きちんとジェラシィの言葉を受け止めた上で、それでも優しく受け取れないのだと諭す態度だった。
「俺を守ろうとしてくれた気持ちはありがたいが、俺は魔法少女だ。自分だけ守られるわけにはいかない。もしまた、俺を無理矢理止めようとするのなら、そのときはおまえを倒して先へ進む。覚えておけ」
「……はい」
「それと……おまえにそのつもりが無くとも、闇の魔法は人を傷つける。見たところ、おまえはそこまで悪人にも見えない。改心するつもりはないのか」
「それ、は……」
 言い淀んだ彼に畳み掛けるように、まるで懇願するように、ノブユキは続ける。
「……闇の魔法を使い続けるのならば、俺は、いつかおまえを倒さねばならない。だが……もしもヤンデリオを抜けるのならば。俺は魔法少女として、市民であるおまえを守るつもりだ」
(なんで……こんなに優しくしてくれるんだろう。今のおれは後輩チアキじゃなくて、素性もわからないストーカー野郎でしかないのに。どうしていつもみたいに笑ってくれるんだろう……)
 彼が惚れた一因でもある優しさに触れて、チアキは、泣いてしまいそうな気持ちになった。
(先輩が優しくしてくれるたび、嬉しいのに、苦しくてたまらなくなる。多分、おれがやってることは間違ってる。わかってるのに――先輩の隣に立てる力を、先輩を守れる力を失いたくなくて。そんな身勝手な自分が嫌になる……)
 涙を溢す資格は自分に無いと、これ以上ノブユキに負担をかけてはならないと、なんとかチアキは涙をおさえこんだ。


「……これで、話は終わりだ。今、魔法で連絡があったが、サファイアたちの戦いも一段落ついた……というかおまえの仲間が逃げたみたいだな。俺は、人を……大事な後輩を待たせているのでそろそろ立ち去る。おまえも、誰かに見つかる前に帰ったほうがいいだろう」
「!! わ、わかりましたっ、先輩。あの……お気をつけて」
「ん……? あ、ああ、ありがとう」
 どうやら、デヴォーションタイチらも決着がついたらしい。色々と気にかかる部分もあったが、ノブユキが変身を解き、戻るつもりである以上、これ以上引き止めることはできなかった。
 なにより、ノブユキがチアキとの休日を望んでくれているならば、それに答えないという選択肢は無い。
(……そうだ、落ち込んでる場合じゃないっ!! 先輩が、おれなんかと過ごすのを楽しみにしてくれてたんだ。空元気でも、笑っていなきゃ。先輩に楽しんでもらわなきゃ!! 考えるのは、あとにしよう……!)
 ジェラシィは、瞬間移動の魔法で元いた場所――トイレの個室にまで戻ってくると。そこで、ようやく変身を解いたのだった。
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