魔法少女♂とヤンデリオ

嶋紀之/サークル「黒薔薇。」

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最終決戦

③-2

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 同じ頃、ノブユキたちはと言えば――不完全にだが復活しようとしている闇の神の魔力から、必死にその身を守っているところだった。
 闇の魔力は竜巻のように大きく渦を巻き、辺り一体を覆い始めている。おまけに触手による攻撃もあり、変身の解けたチアキとタイチを、それぞれの恋人が守っている……という状況だったのだ。

「ぐうぅ……っ!? 八雲、下がってろ!! ここは危険だ!!」
「で……でも、先輩がっ!! それに、先輩の中に、俺から吸い取ってくれたチカラが……アメジストの、闇の力があるんですよね!? 闇の神に気づかれたら、今度は先輩が……!」
「タイチ!! 怪我はねえか!?」
「貴方こそ!! ……申し訳ありません、あの男の配下でいたというのに私は……奴の弱点すら、何一つ知らず……貴方の力になれもしないで……!」
「てめえが謝ることじゃねえだろ! それより、とにかく身を守れっ!!」

 今はなんとか耐えながら、最初に発動させた封印の魔法陣に力を込めようとしているものの、闇の神の力が強すぎて抵抗されてしまっている。
 ケイの視覚越しにすべてを見ていたコウヤ――妖精ルビーの王は、起死回生の一手はないかと思考を巡らせる。

(……闇の神は半分復活状態。おまけに現場には、封印を解く鍵になりそうな人間が少なくとも二人、か……。……ケイちゃん、突然だけど作戦変更していい?)
(え? コウヤ様?)
(オレが引きこもってて解決する、って盤面でもなさそうだ。こうなりゃ、総力戦で逆転狙うくらいしかないかも……なんてね?)

 そう言うや否や――あたりの魔力が揺らぐ。コウヤが転移魔法を使ったのだった。

 ケイのストーキング魔法とコウヤの知識の組み合わせにより、彼らは、互いのいる場所であれば簡単に転移できるという力を手にしている。
 本来ならば、闇の神の復活には妖精の命が必要なはずだった。だからこそコウヤは姿を隠していたのだが、この盤面ではそれも無意味だと、むしろ自分も戦力として表に出るべきだと判断してのことである。

 突如、この場に現れたコウヤは、いつもの部屋着でもなければ歌手としての衣装でもない――妖精本来の姿に戻っている。チャイナ服のような装束は、ケイと並ぶとお揃いのようだった。

「こ……コウヤ様っ!!」
「おまたせ、皆の衆! うちのケイちゃんがお世話になったね。俺は妖精、ルビーの王ことホンイェ。訳あってこの戦いを離れたとこから見てたんだけど……さすがにいてもたってもいられなくてね。助太刀にやってきた、ってわけさ」

 魔法で声を拡声しつつ、さらっと現れた彼。妹でもあるノコは、思わず憎まれ口を叩いていた。
「あ……兄上!! 貴様! 人間を矢面に立たせておいて、こんなことになるまで出てこないとはどういうつもりである!?」
「どうどう、ノコルディウス、落ち着いて。内輪もめしてる場合じゃないだろ?」
「ぐぅ……っ、そ、それはそうだが!」

 普段の飄々とした歌手としてではない、冷静で落ち着いた軍師としての声で、コウヤは仲間たちに支持を出す。
「メケレーディアは引き続き、その民間人の救護を。ノコルディウス、おまえも、その人と少年を護ってやりなさい」
「わかってる!!」
「無論である!」

 二人の返事に頷き――コウヤの視線は、傍らで期待満々の目をした男に、セフレ兼パートナー、ということになっている少年へと向けられる。
「……ケイちゃん、悪いんだけど……、俺と一緒に命がけで世界、救ってくれる?」
「はいっ!! コウヤ様のおねがいなら、喜んで!!」
「いや即答かよ!? 君さあ、もっと考えて判断しなよね!?」
「だって!! オレの命は、コウヤ様のためにあるんですもんっ。貴方の命令ならオレ、なんだってします!! コウヤ様のために死ねるなら本望っす!!」
 ある意味、予想通りのケイの返答に、コウヤは大いに呆れていた。本当ならば説教してやりたいくらいなのだが時間がない。ひとまず、置いておくこととする。

 彼は魔法使いたち――光の魔法使いであるノブユキとユウゴ、そして、闇の魔法使いであったチアキとタイチを、ゆっくりと見回す。

「で……魔法使いの諸君。君らはいわば、俺たち妖精や、闇の神に巻き込まれただけの、ただの人間だ。見てのとおり、闇の神は力の半分以上を取り戻している。復活を妨げようとするならば……命の危険も覚悟しなきゃならない。それでも君らは、戦ってくれる? 安全な場所に逃げるなら今のうちだ」

 彼らの覚悟を試すような、あるいは、最後の逃げ道へと案内するような。そんな問いかけに、真っ先に答えたのはノブユキだった。

「……逃げても、闇の神が復活してしまえば、世界は大変なことになるんだろう? ならば、俺は戦う。戦って……、平和になった世界で……八雲とイチャラブデートをせねばならんからな……!」
「せ、先輩!? こんなときに何言ってるんですか……!?」
「だが、八雲だって俺とデート、したいだろう……?」
「し、したいですけどっ!! 先輩、暴走しすぎですって……!」
 もはやチアキへの愛を隠そうともしないノブユキにおろおろしつつ。チアキも、続けて答えを口にする。

「あ、で、でも……、おれもっ。今は、なんの力もなくなっちゃったけど……。それでも、先輩のそばにいたい。先輩の隣で戦いたい。あ、足手まといになるのは、わかってるけど……」
「そんなことない……! おまえがいてくれるだけで俺は100倍くらい元気になれるぞ、八雲」
「はぅっ!? せ、先輩……!」

 隙あらばイチャつきだす二人を前に、ユウゴとタイチは笑いを浮かべた。
 人前で堂々とイチャつくのに恥じらいを感じる程度には大人な二人だが……彼らの答えもまた、決まっていた。
「……はは、若けぇ奴らは賑やかでいいな! なぁ、タイチ?」
「ええ……、微笑ましい、ですね。もしかしたら私、素直に振る舞える彼らに妬いていたのかもしれません」
「こーら、ウジウジすんなっての!! ……ルビーの王、とか言ったか? 俺は、乗りかかった船から降りるなんてみっともない真似はしねえ。ガキどもが命張るってんのに、大人がすごすご逃げ出してたまるかよ!」
「私も……ユウゴと共に戦いましょう。ホンイェさん、でしたか? どうやらなにか策がおありの様子。無力な、ただの人間に戻った私達にも、できることがあるから声をかけたのでしょう? はやくその手段を教えなさい。……私は、もう、間違えませんから」

 四人の口から出た答えは一つだった。彼らは皆、巻き込まれた被害者として逃げるのではなく、愛する者のために戦うことを選んだのだ。


「そっか……、気持ちいい返事をありがとね。戦力増えて、俺としちゃありがたい限りだよ」
 この返事を想定していたのか、いなかったのか。コウヤは今がピンチだというのに、悠々とした笑みを浮かべて、作戦を語る。

「……って言っても、やることはシンプルだ。闇の神と戦いながら、さっきみたいに、魔法陣に魔力を込めて封印を進めるだけ。ただ、戦うにしても戦力が足りないから、俺も転移してきたワケだけど……」
 そこで――コウヤの視線は、チアキとタイチに向けられる。
「……八雲くん、にタイチ先生、だっけ? 君ら、もう一度変身する覚悟はあるかい? ……埋め込まれた魔力は、洗脳が解けてもわずかにその身に残ってるはずなんだ。闇の力を、今度は、大切な人を守るために……使ってほしい。魔法の力は心の力。君らの意思次第で、その力は、毒にも薬にも変わるはずだから」

 それは、ある意味危険な賭けだった。彼らの心の中にわずかでも迷いがあるのなら、再び、闇の神の手先にされてしまう危険性がある提案だった。
 実際、闇の魔法で暴走したことのある当の本人たちは、その危険を肌で理解している。

 ――それでも。

「……わかりました、やってみせましょう。私が……私の力が、ユウゴの助けとなるのなら!!」
「へっ……可愛いこと言ってくれるじゃねえか!」
 タイチは、確固たる意志を持ち、今度こそ恋人を信じて力を使うのだと覚悟を決める。

「おれも……、今度こそ本当に、先輩を守るために、戦いたい!! 先輩の隣で、先輩にふさわしいおれに、なるために……!」
「八雲……! 俺の隣にふさわしいのはおまえだけだ、今までも、いつだって、ありのままのおまえを愛してる!!」
「先輩……!」
 チアキもまた、今度こそ本当にノブユキの役に立つのだと……以前誘われたような、『背中を預けられる仲間』になるのだと決意し、首を縦に振った。

 決意を固めたタイチとチアキは、目を閉じ、変身の呪文を改めて唱える。
「《……執愛装填、魔装展開》」
「《嫉愛装填、魔装展開!!》」

 途端、禍々しい闇の力の塊がタイチを覆う。瞬きをするほどのほんの一瞬で、彼は再び、闇の魔法使いデヴォーションへと変身していた――のだが。
 チアキが呪文を唱えても何も起こらず、元の姿の彼が佇むのみであった。

「……あ、あれっ!? なんで、変身できないんだ……!?」
「……あ、もしかして、八雲の力は……俺が、吸ってしまったから……?」
「ええええ……!? やっと、先輩のために戦えると思ったのに!!」
 ――そう、チアキの変身が解けたのは、ノブユキが彼の魔力を吸い取ったからだ。
 力を吸収したノブユキは、今、闇の魔法使い『ジェラシィ』としての姿に変身している。チアキの元にあった闇の魔力は、全て、ノブユキが手にしているのだった。

「す、すまん、八雲。俺もこんなことになるとは……」
「先輩~! 返してくださいっ、おれの力!」
「わ、わかってる! もちろん返してやりたいが! ……どうすれば!?」
 混乱するチアキとノブユキに、答えを告げたのは、似たような状況を経験していたケイとコウヤだった。

「あ~、オレとコウヤ様んときは、チューして魔力受け渡したな!!」
「ま、それが一番簡単かもね? なーんで光の魔法使いが相手の魔力吸収してんの、とかツッコミどころはたくさんあるけど……」
 妖精のコウヤからすれば、ノブユキのやったことは相当規格外であるらしい。呆れ混じりにアドバイスをすれば、なるほど、とノブユキは頷いた。

「わかった!! 八雲……いや、チアキ。おまえを信じて託すぞ、この力!」
「ひゃいっ! の、ノブユキ先輩っ!!」
 こんな状況でこそあるが、人前でのキス、ということに僅かに浮足立ちながら、二人は互いの名前を呼ぶ。
 ちゅっ、と唇同士が触れ合い、同時に、ノブユキの体から、何か温かいものが流れ出していく。

(八雲……もとい、チアキの、唇……。やわらかくて、なんて愛くるしいんだろう……♡ 好きだ、チアキ、大好きだ……!!)
(せ、先輩と、ちゅー、しちゃってる……!! なんか……あったかくて気持ちいいものが流れてくる……っ♡ おれ、ホントに、先輩と両思いになれたんだ……)

 チアキの周りを、きらきらと輝く光が包み込む。
 光が晴れたその場所にいたのは、闇の魔法使いジェラシィ……ではなく。ピンク色を基調とした、ヒラヒラフリフリのロリィタ衣装で、ふくよかなむっちりボディを包み込み、少し伸びた髪をツインテールにした――『魔法少女スイートクリスタル』の衣装を身に着けた、チアキであった。



「……!? す、姿が、変わった……!? こ、この服、先輩の前の衣装とお揃いじゃ……!?」
「あ~……混ざってるねえ、これ……。ノブユキくんの光の魔力と、八雲くんの闇の魔力と」
 驚くチアキに、コウヤが呆れ顔で解説する。どうやら二人の魔力がノブユキの中で混ざってしまい、混ざりあった形のままチアキに戻ってきたことで、今までとは違う変身をしてしまった……ということらしい。

「つ、つまり、おれと先輩の合作……!?」
「二人の共同作業、というやつだな!! いや、愛の結晶か?」
「ふ、ふへっ、ふへへ……! て、照れちゃいますね、ノブ先輩……♡」
「新しい姿も可愛らしいぞ、チアキ♡」
 妖精からしても想定外の自体なのだが、当の本人たちは呑気にイチャつく口実にしている。コウヤは大きくため息をついた。

「……ま、いっかあ。この非常時だし、戦えりゃ問題ない、よね。色々クレイジーだけど!」
「愛の前には無関係っすよ、コウヤ様!! そんじゃ早速、オレが闇の神に攻撃を……」
「待ーった!! ……戦うのは俺! ケイちゃんは魔力込める係!! いいね!?」
「え、ええーっ!? なんで!? オレ、あんたのためなら死んでも怖くないっすよ!?」
「そういう性格だからだよ……!! 無茶して死ぬなって言ってんの!!」
 放っておくと無茶をする、己のパートナーに釘を刺しつつ。コウヤは、全員に号令をかける。

「はぁ。そんじゃ……仕切り直して、最終決戦と行こうか!!」
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