異世界の力で奇跡の復活!日本一のシャッター街、”柳ケ瀬風雅商店街”が、異世界産の恵みと住民たちの力で、かつての活気溢れる商店街へと返り咲く!

たけ

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第八章 異世界での新たな出会い

第122話 幻影の指輪の量産マシーン

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 「父ワルツを助けて下さり、本当にありがとうございました。すっかり顔色も良くなって。今はゴン...いやアリスさんが付きっきりで看病をしています」

 そう言って、クリストローネはぱっと花が咲いたような笑顔を見せた。その笑顔に、胸がきゅっと締めつけられる。

 彼女は、父ワルツの容体を気にかけながら、宿屋の運営に従業員の管理、さらには近隣の洞窟に身を寄せる二百五十人程もの部下たちの面倒まで見てきた。

 この華奢な体で...。そんな重圧を、たった一人で背負ってきたのだ。

 立派なものだ。

 そういえば、ワルツは今どうしているのだろうか?そんな疑問を口にすると、クリストローネは微笑みながら答えてくれた。

 「父は自分で出来ると言っているのですが...。アリスさんが心配して、率先して食事や身の回りのお世話をしてくれて...。父のために、皆とは違う特別な料理をわざわざ作ってくれたんです!」

 なるほど。消化にいいものでも作ったのだろうか。なんだかんだ言いながら、ワルツとゴン...いや、アリスは仲がいい。

 ただ、どうしても”アリス”という呼び名が外見と一致しない。筋骨隆々の体格は、まるで筋肉芸人、”なかやまだきんにくん”の身体に、ボスゴリラの顔を無理やり乗せたようにしか見えないんだもん。どう見ても...”アリス”じゃない。

 もちろん、本人の前では絶対に言わないけど。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 ワルツは言っていた。アリスとは魔王時代からの古い仲だと。よくアリスの営む小料理屋で、酒を片手に愚痴をこぼしていたらしい。アリスもまた、ワルツのことを大切に思っているようだ。

 それなのに、先ほどのアリスはまるで別人のようだった。ワルツに向かって怒りを爆発させ、宿屋全体が震えるほどの殺気を放ったのだ。

 俺とクラシアルが慌てて止めに入って、ようやくアリスは我に返った。

 「もーやだー!ワルちゃんたら、冗談が過ぎるんだから♡ゴンゾウって...誰の事かしら⁉」

 そう言って、皆の前では笑顔を浮かべて見せたが...その瞳の奥には、明らかに別の色が宿っていた。

 次の瞬間、アリスはすっとワルツの耳元へ顔を寄せる。吐息がかかるほどの距離で、低く、鋭く、そして確かな殺気を込めて囁いた。


 「次言ったら...マジで殺すからな」


 その声音は、冗談の余地を一切許さない冷たさを帯びていた。

 あまりの迫力に、ルミナはその場にへたり込んだ。膝から力が抜け、床に手をついて肩を震わせながら必死に呼吸を整えようとする。顔は見る間に青ざめ、瞳は怯えに揺れ、唇はかすかに震えていた。

 「おーよしよし、怖かったねー♡」

 いつの間にか現れたシュリンが、柔らかな声でそう囁きながら、そっとルミナを抱きしめた。包み込むようなその腕は、まるで母のように優しく...。だが、胸元に添えられた手は、明らかに別の意図を秘めていた。

 震えるルミナの胸元を、しっかりと、そして執拗に揉みしだく。

 「ちょ、ちょっと...こらぁ♡」

 ルミナは困惑と羞恥シュウチの入り混じった声を漏らすが、抵抗する力はなく、ただ頬を赤らめるばかり。その姿は、もはや完全にシュリンのと化していた。
 
 そんな二人のやりとりに、周囲は一瞬、言葉を失う。だが、誰かが小さく吹き出したのをきっかけに、緊張の糸がふっと緩んだ。

 空気が少しずつ和らぎ、場に笑顔が戻り始める。そんな流れに乗るように、俺もふと気になっていたことを口にした。クリストローネの方を向きながら、軽く問いかける。

 「へぇ、アリスはワルツに何を作ってあげたんだろう?」

 クリストローネは、ふっと肩の力を抜き、柔らかな笑みを浮かべて答えた。

 「熱々のおでんです!アリスさんが、お父さんの口元に一つずつ運んでくれて...。『早く元気になりなさい!』って。お父さんも食べる度に元気になっていくみたいで、ベッドの上で踊っているんですよ♡」

 「ふーん...」

 まだ根に持っているな、ゴンゾウ...。

 あんまりいじめるなよ、ゴンゾウ...。

 それにしても...サーマレントにも”おでん”てあったのね。友三さんが教えたのかな?友三さん、”おでん”好きだったもんなもんな...。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 「さあ、幻影の指輪を増やそう!」

 俺の呼びかけに反応して、ダイニングキッチンに集まっていた皆がこちらを見た。ただ、ここから先は俺の役目ではない。主役は...我らが財務担当大臣、流さんだ。

 「さて、クリストローネ。幻影の指輪を二百五十個、用意するね。その前に一度この場を片づけよう。残飯は一ヶ所に集めておいて。大切な資源になるからね。お皿やカップはそのままで構わないよ」

 従業員達がざわめいた。

 幻影の指輪...。

 それは、ただの装飾品ではない。高価で、希少で、そして何よりも人気がある。自分が思い描いた姿かたちになれるという、まさに夢のような代物だ。もちろん、値段もそれ相応に高い。ミスリル金貨一枚分。日本円にしておよそ一千万円の価値を持つ逸品である。

 もっとも、日本人の感覚からすればそれほど驚くような値段じゃない。むしろ安く感じる。高級外車一台分くらいの価格で、自分の望む姿かたちに変われるんだから。まあ、この世界では姿を変える魔法を操るエルフが珍しくないという。まあその分、希少価値ってやつは下がってるのかもしれないな。

 だが、その幻影の指輪を二百五十個も用意するとなれば、場が騒然とするのも無理はない。誰もが息を呑み、互いの顔を見合わせる。驚きと期待、そしてほんの少しの不安が入り混じった空気が、ダイニングバーの天井近くまで満ちていた。

 すっかり打ち解けた俺の仲間奴隷とカエンの従業員は、声を掛け合いながら協力して、大きな桶に残飯を集めてく。皿やカップはそのままテーブルの上に整然と残された。


 「フロアクリーン!」


 俺の声に応じて魔法が発動すると、ダイニングバー全体に淡い光が広がった。空気は一瞬で澄み渡り、場の雰囲気ががらりと変わる。

 汚れた皿やカップはもちろん、テーブルクロスや参加者たちの衣服、そして肌にこびりついていた細かな汚れまでも、すべてが、静かに、穏やかに洗い流されていった。

 「おー!これはすごい!」 

「便利すぎる!」 

 「風呂入らなくて済む!」

 あちこちから歓声が上がり、場の空気が一気に明るくなった。笑顔が弾け、軽やかな声が飛び交う。

 ...風呂にはちゃんと入ろうね。

 流さんは、ポヨンポヨンと弾むように跳ねながら、綺麗になったことを喜びのダンスで表現している。本当に綺麗好きなスライムである。

 「さあ、まずはカップとお皿を所定の棚にしまって。テーブルはたたんで、端に寄せよう。スペースを確保するためにね」

 そう声をかけながら、俺はアイテムボックスの中からひとつの指輪を取り出した。淡い光を帯びたそれは、幻影の指輪。

 流さんの前にそっと差し出しながら、俺は静かに問いかける。

 「流さん、この指輪なんだけど...コピー、できそうかな?」

 俺が”幻影の指輪”をそっと差し出すと、流さんの身体がかすかに震えた。ぷるんとした表面に波紋のような揺らぎが広がり、しばらくの間、考え込むように静かにたたずむ。スライム特有の柔らかな質感が、その心の動きが、微かな揺らぎとなって表れていた。

 「...たぶん、大丈夫です。ですから。代わりに、何か食べるものが欲しいです」

 ”幻影の指輪”をひとつ流さんに渡したその間に、ダイニングバーは素早く姿を変えていた。

 テーブルは音もなく端へと移動し、椅子は重ねられ、床が広々とした姿を現す。ダイニングバーはいつの間にか、一つの広い会場へと姿を変えていた。
 
 「ありがとうね、皆。じゃあ、皆も端っこに寄っていてね」

 その言葉を合図に、空間は再び動き出す。


 ドドドドドォォォォォ!


 アイテムボックスから溢れ出す品々が、洪水のように床を埋め尽くす。奴隷の首輪、家具、生活用品、そしてミノタウロスの骨まで...次々と現れ、秩序もなく、床一面に広がった。

 「これで足りるかな?まあ、足りなかったら王宮に行けば、いらないガラクタなどが沢山転がっていそうだし、拾ってきた方がいい?」

 俺は念話で流さんに問いかける。すると、少しの間を置いてから控えめな声色が念話を通して返ってきた。

 「...多分、いけると思います。でも、実際に食べてみないと分からないもので...」

 その言葉に続くように、流さんの身体がふにゃりと縮こまり、申し訳なさそうに身をすぼめていく。遠慮がちに揺れるその姿は、どこか子犬のようで、見ているこちらがくすぐったくなるほどだった。

 すると、会場のあちこちから歓声が上がった。

 「かわいい!」

 「私が育てたい!」

 「抱きしめたい!」

 そこへ、どこからともなくアリスが現れた。筋骨隆々の体格に似合わぬ黄色い声で、「かわい~!」と叫び、場の熱気が一気に高まった。

 俺は苦笑しながら、流さんに念を送った。

 「流さん、できる範囲でいいからね。それじゃあ、よろしく頼むよ」

 その声に応えるように、流さんは静かに身体を薄く広げていく。水面が緩やかに広がるような動きで、目の前に散らばる大量のガラクタを包み込んでいく。その姿にはどこか神秘的な気配があり、空気が凍りついたように、場が一瞬、沈黙に包まれた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 やがて、流さんの身体はガラクタを取り込んだことで大きく膨らみ、丸々とした輪郭を描いていく。だがそれも束の間、消化が始まるとともに、膨らんだ身体はゆっくりと収縮を始めた。

 その動きに合わせて、流さんの体表から...!


 シュッババババババ!!

 
 何とも形容しがたい音を響かせながら、何かが勢いよく飛び散った。カラン、カラン!と硬質な音を立てて、それらは床に転がり、やがて静かに止まる。

 拾い上げて鑑定してみると、それはまぎれもなく”幻影の指輪”だった。

 しかも、一つや二つではない。流さんの身体からは、まるでポップコーンのように、次々と幻影の指輪があふれ出してきた!

 「...すげえ!ポップコーンみたい!」

 思わず声が漏れる。

 一人ではしゃいでしまった俺の声が、静まり返った会場に響く。その異様な光景を前に、周囲の者たちは数秒間、呆気にとられたように固まり、ただ目を見開いていた。

 我に返った者たちが順に床に転がった指輪を拾い上げ、自分の指にはめてみる。そして、次々に驚きの声が上がった。

 「すげえ...本物だ!俺の尻尾が消えている!見えなくなっている!」

 「本当よ!私の肌の色も人族と同じ様な色になっているわ!これなら人族の町でも獣人国でも働けるわ!」

 「では、私も...いや~!尻尾が見えなくなってる~!いやん♡綺麗になってるかしらん?もともと美しいけど、さらに美しく、私なりの美人のエッセンスを加えてっと♡ワルちゃんに見せに行ってくるわ!」

 アリスは満面の笑みを浮かべ、誇らしげに胸を張ってワルツの部屋へと駆けていった。とはいえ、いくら病魔から回復したとはいえ、ワルツの体力はまだ万全ではないはずだ。こんな時くらい、そっと寝かせてやれよ...。

 そう思った矢先、遠くの部屋から...。

 「いや~!!化け物!!」 

 「誰が...化け物だって、こぉらあ!!!」

  遠くの部屋から聞こえたような、聞こえなかったような。それはまた、別のお話...。
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