異世界の力で奇跡の復活!日本一のシャッター街、”柳ケ瀬風雅商店街”が、異世界産の恵みと住民たちの力で、かつての活気溢れる商店街へと返り咲く!

たけ

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第四章 "柳ケ瀬風雅商店街復活祭第一弾”

第49話 戦慄商店街

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 「ちょっと!どっちに逃げればいいのよ!」

 パイナップルを持った老人ゾンビが、「うわ~!!プシャ~!!」と叫びながら杖をつきつつ、執拗に追いかけてくる。その速度は、私がテレビや映画で見たゾンビよりもはるかに速い。

 「リンカさん、こちらです!矢印がこちらに進めと示しています!」

 私の問いかけにカーシャが即座に反応し、周囲から矢印を見つけた。

 「サンキュー、カーシャ!!」

 それにしても冷静ね。カーシャは...。私よりも落ちついていて、何だかお化け屋敷慣れをしているというか...。さっきだって5,6匹のゾンビに囲まれた時、巧みなフェイントで、その場から難無く切り抜けた。

 ただ...逃げても逃げても、次々と敵が現れる。普通のリアル脱出ゲームのエキストラの倍以上、いや、それ以上いるように感じる。さらに、ゾンビの固定概念にとらわれず、動きが素早いモノも紛れている。

 さっき、”岐阜健康大学陸上部”のユニフォームを着た女性ゾンビランナーに追いかけられた。全身には青白いペイントが施され、頭にはナイフが突き刺さり、血が滴るメイクがされていた。

そしてなぜか、「用意、ドンドンドン!!」と叫びながら追いかけて来た!!

 恐ろしい上に、めっちゃ速い!!反則だよ!!何よ、ドンドンドンって⁉意味わかんないし~。

 そんな状況だからか、一瞬たりとて気が抜けない。建物も潰れたシャッター街をリアルに使用して、ゾンビに占領された街並みを演出している。

 暗くて狭い路地裏に逃げ込んでも、どこからともなくゾンビのうめき声が聞こえてくる。影が動くたびに心臓が跳ね上がり、息を潜めて隠れるしかない。

 "戦慄商店街”...本当に面白い!!さすが”鍛冶職人、抜刀少女AYANO”の原作者、”西川京太郎”先生が考案しただけのことはある!もう...めちゃ楽しい!恐怖と興奮が入り混じり、心臓がドキドキする。まるで現実と虚構の境界が曖昧になるような、そんな体験...♡

 それにしても、こんな素晴らしいアトラクションをたった2日のためだけに作り上げるなんて、なんて太っ腹なの...⁉

 もう、最高過ぎるじゃない!!


◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 "戦慄商店街”...。

 潰れかけた商店街に目をつけた大手製薬会社”SMRコーポレーション”は、生命の賦活《フカツ》化を目的とした極秘実験をこの商店街一帯で行うことにした。

 実験として、”SMRコーポレーション”特製の万能治療薬”グレートポーション”をシャッター街全体に極秘に散布した。この事実を知っているのは一部の大物議員や権力者たちだけで、平和に暮らしていた住民たちには何も知らされなかった。

 実験開始当初、”柳ケ瀬風雅商店街”の住民たちは、老若男女問わず身体の調子が良くなったと喜んでいた。

 地下水から湧く水に栄養成分が含まれているや、あるいは”柳ケ瀬風雅商店街”一帯のパワースポットとされる”大金神社、別名”ゴールド神社”のおかげか、住民たちは勝手なことを言い合い、喜び合った。

 しかし、その喜びは長くは続かなかった。住民たちの身体は、やがて恐ろしい変化が現れ始めた。皮膚は青白くなり、目は虚ろになり、やがて彼らは死ぬこともできないゾンビと化してしまった。夜な夜な商店街を徘徊する彼らの姿は、まるで地獄の光景のようであった。

 そんな悲劇に見舞われた商店街の住民を救うため、20人の勇者たちが集結した。彼らは知恵を結集し、ゾンビ化した住民たちを救うために”グレートポーション”を散布する機械を壊し、住民たちを元に戻すために立ち上がった。

 そんな物語...。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 ここは閉店し、放置されたままのデパートの3階、子供服売り場。薄暗い照明の中、埃が舞い上がり、静寂が不気味に響く。

 「リンカさん、6時の方向から3体のゾンビが接近して来ます。3人とも10歳未満の子供たちの様です。動きが素早いので、見つかるわけにはいきません。リンカさん...向こうに矢印があります。チェックポイントの様です。周囲に目を配りながら行ってみましょう」

 カーシャは冷静に小さな声で私に伝えた。商店街の潰れたデパート内で身をかがめながら、彼女の言葉に耳を傾ける早鐘ハヤガネのように打ち、冷や汗が背中を伝う。

 カーシャに言われて分かったけど小さな子供たち子供たちが近づいてきている様だ。

 よく分かったわねこの...。カーシャの観察力には驚かされるが、今はそれどころではない。遠くから聞こえるかすかな足音が、恐怖を一層かき立てる。見つかったら最後、逃げ場はない。

 確かに足音が聞こえたが、3ものだとは私には分からなかった。足音は不規則で、人数なんて分かるわけがない。

 何で3人の足音、しかも10歳未満と分かるの?

 カーシャは凄く落ち着いているし、それに、ゾンビに追われているという状況下で、彼女は驚くほど冷静で的確な行動をとる。普通なら恐怖にすくみ上ってしまってもおかしくない状況下なのに...。

 暗闇の中、ふらふらと歩く子供ゾンビたちは「か~ごめ、かごめ...♪」とフロア中に彼らの唄声が響き渡る。

 暗闇の中で聞く日本の童謡...。すごく怖い。

 無造作に置かれてあるマネキンの手足、そして目が、急にぎこちなく動き出し、その目が私をじっと見つめる。さらにはレジスターまでもが勝手に開き、古びた硬貨が”カラン、カラン...”と音を立てて床に落ちる。私の心臓は一瞬止まりそうになる。

 お願いだから、こういう演出はやめてよ。本当に怖すぎる💦

 恐怖を必死に押し殺しながら、カーシャが見つけた矢印に従い、チェックポイントに到達した。しかし、ここからは今まで一緒に行動してきたパートナーのカーシャとは強制的に別行動を取らされる様だ。


 ”選ばれし者達よ...2人が別々の道を進み、”グレートポーション”の兵器を打ち壊す武器、”紅”を手に入れるのだ。一人は青の扉、一人は赤の扉に進むがよい...”


 チェックポイントにある石板に残酷な啓示が刻まれており、カーシャと無理やり引き離された...。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 カーシャは青の扉に消えていった。私は彼女が扉を開けて中に入るのを見届けた後、赤の扉に向かおうと立ち上がった瞬間...。

 ガタッ...。

 私が隠れていた子供服のワゴンが少し動いてしまった。フロア内に僅かな音が響き渡った。心臓が一瞬で凍りつくような感覚に襲われ、息を呑んだ。冷たい汗が額を伝い、全身が硬直する。

 ”リンカさん!!物音をを立てないで...!!”

 カーシャの声が頭の中で響く。もし近くにカーシャがいたら、きっと叱られていただろう。ごめんね、カーシャ。出してしまった音は取り戻せない。あとは、子供ゾンビたちが気づかないことを祈るばかり。

 暗闇の中、私は息を潜めて耳を澄ませた。遠くから聞こえるかすかな足音が次第に近づいてくる!子供ゾンビたちがこちらに向かっているのかもしれない。気づかれた⁉

 心臓の鼓動がますます速くなり、胸が締め付けられるような感覚に襲われる。

 だが、こんなところでまごまごしてはいられない。赤の扉の先に進み、”グレートポーション”を噴出させている機械を破壊するため剣、”紅”を手に入れなければ。

 商店街のみんなを元に戻す為には、”紅”が必要不可欠だ。何よりも、カーシャが先に進んでいる。彼女を待たせるわけにはいかない。

 お願いだから、ゾンビたちに見つかりませんように。神様、仏様、そしワズラて普段は勧誘がワズラわしいと思ってしまう他の宗教の神様方、どうか...よろしくお願いします。

 「...だれも...いないね...下の階に...行こうよ...お姉ちゃん」

 そう、小さな女の子ゾンビが隣にいる、お姉ちゃんゾンビに声をかける。

「そう...だね...誰も...いないようだね。下に...行こうか...ゆみちゃん...」

 2人はペタペタと下のフロアに向かって歩き出した。よかった。どうやら見つからなかった様だ...。

 私は屈んでいた姿勢から腰を伸ばし、周囲を見渡した。ゾンビの少女たちは下の階に向かったようだ。2人とも階段を下っていく音がする。さあ、私も、赤の扉に急がなければ。

 しかし...あれ?

 2人?

 さっきカーシャは3人と言っていたような...。

 全身に何とも言えない不快な感覚が広がり、よどんだ空気に包まれたような気がした。背筋に冷たい汗が流れ、心臓の鼓動が速くなる。そして、誰もいないはずの後ろの空間に、何かの存在を感じる...。振り向いたら後悔すると思うけれど、それでも...。

 「見~つけた♪背の高いお姉ちゃん...僕らと...おもちゃ売り場で...ジェンガをやろうよ...」

 その声は、まるで氷のように冷たく、耳元で囁かれた。恐る恐る振り向くと、三人目の子供ゾンビが私の後ろでにっこりと笑っていた。その笑顔は、無邪気さと狂気が入り混じり、背筋が凍るような恐怖を感じさせた。

 ...見つかってしまった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 何とかその場を逃げ切り、カーシャや他の参加者と合流して、”紅”を手に入れた。”グレートポーション”を散布し続ける機械の破壊をするために訪れた実験棟で、”SMRコーポレーション”の悪の大幹部をやっつけてゲームが終了となった。

 最後の悪の大幹部はファントムマスクをかぶっていたけど、長髪で金色の髪の女性。しかも実際のSMRコーポレーションの幹部さま。ラジオで共演した、あのお方に違いないとは思ったが...そこには一切触れないでおいた。
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