異世界の力で奇跡の復活!日本一のシャッター街、”柳ケ瀬風雅商店街”が、異世界産の恵みと住民たちの力で、かつての活気溢れる商店街へと返り咲く!

たけ

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第四章 "柳ケ瀬風雅商店街復活祭第一弾”

第57話 話がしたい...。

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 「おお、誰かと思えば、ユリー・ファルヴェリゲブラデさんじゃないか! まさか、うちの優ちゃんと知り合いだなんて、びっくりしたよ! わはははははは!」と、元気なイケオジが高笑いをした。

 ユリーの知り合いはみんな、ユリーの本名を覚えてるんだな。ちなみに“ファルヴェリゲブラデ”はデンマーク語で”色とりどりの葉っぱ”という意味らしい。やっぱり植物由来。さすがエルフ。

 そんな俺をよそに、ユリーは「お久しぶりです、山岩理事長。ご無沙汰しております」とスマートに挨拶を交わした。彼女の落ち着いたボイスと丁寧な言葉遣いに、山ちゃんの父も自然と微笑んだ。

そして、「優希さんと親しいのは、こちらの太郎さんです。柳ケ瀬風雅商店街のイベント会場と救助現場で出会い、その後交流が深まったようです」と、関係性を補足してくれた。

 「おお、君か!優ちゃんが電話で話していた、リンカちゃんと同じくらい素敵な男性っていうのは!いやー、ありがとう、太郎君!私は優ちゃんの父で、”山岩宗太朗ソウタロウだ。君らのおかげで優ちゃんが怪我人の救助に積極的に動いてくれた!私は父親として誇らしく思う!ゆっくりしていいてくれたまえ、病院だけどな、ははははははははは!」

 朝っぱらから元気な人だな...。でも悪い人じゃないみたいだ。

 「もう、パパったら!ねぇ、パパ...実は、ママと一緒に食べてもらおうと思ってイベント会場でお弁当を買ってきたの...。クーラーボックスに入れておいたから腐ってはいないと思うんだけど、事故現場で急ブレーキをしたせいでひっくり返っちゃって...。もし食べられなかったら、“裕次郎”にあげてくれる?」

 山ちゃんは、宗太朗さんに“貴婦人弁当”と“どすこい弁当”の入ったクーラーボックスを手渡した。

 「優ちゃん...」

 宗太朗さんは震える手でクーラーボックスを受け取りながら、「中身が崩れていても、ママもパパも全然気にしない!優ちゃんが私たちのために買ってきてくれたお弁当なんだから、裕次郎なんかにあげるもんか!」と言って、それをぎゅっと抱きしめた。

 う~ん。親子愛なのか。宗太朗のリアクション...大げさのように見えるのだが。

 ちなみに”裕次郎”とは、山ちゃん家で買っている、ゴールデンリトリバーの名前らしい。うちで飼っていたハムスターの”裕次郎”とまさかのダダかぶり。ペット界では人気のある名前なのかな...?


◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 賑やかな親子に案内されて、リンカの元へと向かった。リンカはCT、MRI、血液検査を受けたが、結果は全て正常だった。意識も回復し、すぐにでも退院できる状態だったが、大事故の影響もあり、山岩医師の回診を待って退院の許可が下りることになった。

 俺たちも少し早めの回診に同席させてもらったが、果たして良いのだろうか?まだ病棟フロアでは朝食の後片付けが行われているようだ。現場のナースや介護職員の皆さんも、突然の理事長の登場に戸惑っている様子だった。

 しかし、山岩理事長はそんなことにはお構いなしだ。おいおい、息子が来てくれたことで、少し浮かれすぎてはいないだろうか?

 ナースたちが遠くでひそひそと話す中、グレーのケーシーを着た2人のナースが慌てて駆け寄ってきた。

 「先生、何かあったのですか?」と少し心配そうに尋ねる。

 「おお、矢井田君、上田君、すまんすまん。こちらは特別室の患者さんの関係者の方々だ。そして、私の大切な友人と家族でもある。特別室の患者のことが気になって駆けつけたんだが、せっかくだから回診がてらお会いしていただこうと思ってな」と説明した。

 矢井田さんと上田さんは、一瞬ほっとした表情を浮かべながらも、矢井田さんが「先生、事前に一言言ってくださいよ!今、朝食の後片付け中なんです。しかも、871号室の柏木陽斗ハルト君がまた急変して、現場が混乱しているんですから」と、少し苛立ちを隠せない様子で話しかけた。

 「すまんすまん、すぐに陽斗君を診に行った方がいいか?」と心配そうに宗太朗さんが矢井田さんに尋ねると、矢井田さんは「今、亀山先生が来てくれています。大丈夫です。ただ、事前に一言連絡が欲しかっただけです」ときっぱりと返答した。

 はっきりとした人だ。まあ、人命がかかっているもんな。こうやって自分の意見をしっかり言える人、俺は好きだな。

 「矢井田チーフ、何もないようでしたら、私は先に陽斗君の元に戻ります!」そういって上田さんが俺たちの元から離れると、「すぐに行くから任せたわよ、上田さん!」と長身スレンダーの可愛らしいナースに声をかけた。

 忙しそうな時に来てしまい、申し訳ないことをしたな。ただ、柏木...陽斗。この苗字には何か引っかかるものがある...。まさか、な...。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 そんなことを考えながら、リンカのいる特別室の前に到着した。扉をノックすると、そこには少々疲れた表情を浮かべる40代後半の男女と、FM”やなっち”のディレクターである美咲さんの顔が見えた。

 そして、大きなベッドの上でギャッジを45度ほど傾けた病衣姿のリンカがこちらを振り向いた。病室は驚くほど広く豪華で、ここが本当に病院の部屋かと思わせるような空間だ。

 40代後半の男性は、「先生、この度は本当にありがとうございました。娘を見ていただき、しかもこんな立派な部屋に運んでいただいて」と、感謝の意を述べつつ、目には涙が浮かんでいた。

 どうやらリンカのお父さんの様だ。

 彼の声は震え、言葉を紡ぐのも精一杯という様子だった。涙が頬を伝い、彼は手で何度も拭っていた。

 その様子を見たリンカは、「お父さん、泣かないでよ。みんなの前で!」と照れくさそうに言った。

 「何言ってんだい、この娘は!先生の息子さんとイベントを主催した太郎さんが助けを呼んでくれたって、ナースの方々が教えてくれたんだよ!意識を無くしているあんたが心配だから自分の病院にって。ドクターヘリまで呼んで下さったっていうじゃないかい!ちゃんとお礼を言わないと罰が当たるよ!」と、リンカの母親と思われる女性が父親に同調した。

 リンカを叱りつけた後、リンカの両親は宗太朗さんにはもちろん、俺や山ちゃんを含めた全員に対して深々と頭を下げた。

 また、リンカの傍にいた美咲さんも「そうよリンカ、お父様を叱る前にまず、助けてくださった皆様に感謝の言葉を述べないと、大好きな抜刀少女様からもそっぽを向かれるわよ!」と”抜刀少女AYANO”を絡めていじった。

 「うっ!」

 みんなから攻められたリンカは「あ、あの、みなさん、本当にありがとうございました。おかげさまで、すごく元気です。それと...」とベッドの上でお礼を言った後、山ちゃんの方に視線を移した。

 「根津さんの隣にいらっしゃる方が、先生のご子息ですか?本当にありがとうございました。私を助けてくださって...。それで、よろしければお名前を教えていただけますか?」と、山ちゃんに向かって少し照れくさそうに話しかけた。

 山ちゃんは大きな体を少し縮めるようにして、目をそらしながら「や、山岩、ゆ、優希です」と小さな声で答えた。顔は赤くなり、手をもじもじと動かしながら、次に何を言うべきか分からず、困惑した様子が伺えた。

 リンカは驚いた表情を浮かべ、「やっぱり」と小声でつぶやいた。そして、「あなた、もしかして『山ちゃん』と根津さんやユリーさん、カーシャから呼ばれていませんか?」と山ちゃんの顔をじっと見つめながら尋ねた。

 「えっ!」と大きな体をびくっとさせて驚く山ちゃん。その動揺した様子を見て、リンカは何かを確信したように表情を変えた。

 さらにリンカは、「もしかして、事故現場でずっと私に呼びかけてくださっていましたか?開かない車のドアを一生懸命に叩いたり、引っ張ったりして...。指を血まみれにしながら、それでも諦めずに開けようとしてくださっていましたよね?でも、おかしいですね?今は指に傷がない...」と山ちゃんの指を見つめながら問いかけた。

 おいおい、事故現場の記憶があるのか⁉呼びかけても反応しなかったから、気を失っていると思っていたけど…。あの状況下で意識があったなら、ちょっとヤバいかも。リンカの変な方向に曲がった脚や頭からの出血、山ちゃんの指の傷など、全部治しちゃったからなぁ。

 リンカはすごく困惑した視線を山ちゃんに向ける。

 そんな視線をリンカから向けられた山ちゃんはというと...。

 人見知りの山ちゃんが、リンカのそんな視線に耐えられるわけがない。山ちゃんはさらに大きな体を小さくしてオロオロとしている。あまりにも見ていられなくて、「大丈夫だよ、山ちゃん」と山ちゃんの肩に手を置き、落ち着かせるように声をかけた。

 するとリンカは、はっとした表情を浮かべながら「そ、そう、二人の声...!や、やっぱり、あの時私はあなた達に...!」と言った後、ソファーでやり取りを見つめている両親や美咲さん達に向けて、「みな、いえ、みなさん、ごめんなさい。少しの間だけでいいので、三人で話をさせていただけますか?」と真顔で言った。
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