異世界の力で奇跡の復活!日本一のシャッター街、”柳ケ瀬風雅商店街”が、異世界産の恵みと住民たちの力で、かつての活気溢れる商店街へと返り咲く!

たけ

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第五章 動き出した心と身体

第64話 脳内に響く声

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 「太郎!悪いけど田中寿司まで、回覧板を届けておくれ。その後100均...」と、いつものようにお袋からの指示が乱れ飛ぶ。

 11月の半ばに冷たい風が吹き抜ける中、午前11時頃の台所には暖かい光が差し込んでいる。お袋は手際よく家事を進めながら、次から次へと俺に指示を出す。

 窓の外からは、買い物客や観光客の賑やかな話し声や笑い声が聞こえ、商店街が以前にも増して活気づいているように感じられる。

 最近、優ちゃんやリンカ、カーシャのおかげかは知らないが、お袋は非常に元気だ。活力に満ち溢れている。

 それはそれで喜ばしいのだが...お袋が俺に対する人使いが荒い。いや、”俺使い”が荒い様な気がする。

 言っても俺はこの根津精肉店の三代目なのだが...。まるで小僧さんのように、あっちに行け、こっちに行け、あれを買ってこいと、お袋の俺に対する扱いが酷すぎる。

 まあ、親父が二代目店長だった頃から、この精肉店の店長の役割はこんなものだった。親父と同じ扱いだな。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 そんな俺とお袋の間に、まるで天から舞い降りた女神のように、優ちゃんが現れた。

「た、太郎君、私が休憩中に回覧板とお買い物に行ってきますから、太郎君は休んでくださいね...」と、優ちゃんが気遣ってくれた。

 しかし...。

 お袋がすかさず、「甘やかしちゃだめだよ、優ちゃん!あんたは本当にいい子だね。こんないい子が太郎を気に入ってくれるなんて...。太郎!もっときびきび働きな!」と厳しく言い放ち、回覧板と100円ショップで買うべきもののリストを俺に手渡した。

 優ちゃんは、お袋の厳しい言葉にオロオロとし、涙目になっている。

 ごめんよ、優ちゃん。親子のたわごとに巻き込んでしまって...

 そう、俺は心の中で謝る。優ちゃんのパパさんもママさんも優しい人だから、こんな恐ろしい光景を見たら、明日からまた引きこもりに戻らないか心配だ。

 そんなあほなことを思っていると、お袋から「ほら早く行きなって!」とせかされた。

 はいはい、行けばいいんでしょ、行けば。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 田中寿司の大将に回覧板を届けると、「よう!太郎、ご苦労様だな!最近、君江さん元気だなぁ」と言われた。まるで先ほどのやり取りを見ていたかのようだ。

 「本当に...回覧板を届けた後は、100均に行ってこいって言われているよ」とぼやきながら、回覧板をカウンターの端に置き、「ここに置いとくよ」と寿司を握る大将に声をかけた。

 最近、うちのお袋以外のみんなも活気に満ち溢れている。田中寿司の大将もイベント以降、寿司弁当の注文が増え、ランチタイムの客の流れも良くなったと喜んでいる。

 カウンター越しに大将が笑顔で客を迎える姿が見え、店内のネタケースには新鮮な寿司ネタが並んでいる。寿司を握る手さばきは見事で、客たちはその技に見とれながら美味しい寿司を楽しんでいる。

 また、回転寿司チェーン店”スシゾウ”の店長とはライバル関係にあるものの、互いに新作寿司のアイデアを出し合っているようだ。

 大将は「あのチェーン店では、新しい品を自由に商品化できないらしい。うちの店が羨ましいとよく言う。そんなアイツに言ってやったんだ。商店街がもっと賑わえば、うちで働かせてやるよってな」と笑った。

 近い将来、田中寿司で大将と一緒に働く元”スシゾウ”の店長の姿が見られるかどうか...。それはまた別の話...だな。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 ”戦慄商店街”のイベントが幕を閉じた後も、”鍛冶職人、抜刀少女AYANO”のアンテナショップは依然としてその輝きを失わず、熱心なファンたちが絶え間なく訪れている。店内には、”戦慄商店街”の世界観を再現したディスプレイが並び、訪れる人々はその魅力に引き込まれている。

 ファンたちは、AYANOの最新グッズや限定アイテムを手に入れるために列を作り、店内は常に活気に満ちている。ショップの外では、AYANOのコスプレをしたファンたちが写真を撮り合い、その情熱と愛情が溢れ出ている。

 まるで、イベントの余韻が今も残っているかのような、そんな賑わいが広がっている。

 ネット上では、”鍛冶職人、抜刀少女AYANO”と西川京太郎先生のリアル脱出ゲームのファンが協力して、”戦慄商店街をもう一度!”と題したサイトが立ちあがったそうだ。優ちゃんによると、そのサイトは非常に人気があり、毎日多くのアクセスが集中しているとのことだ。

 コメント欄には、再開を望むファンたちの書き込みが絶え間なく続いている。

 ”神コラボイベントを、たった2日間なんておかしい!”

 ”事前の宣伝が全然なかった!ひどい!”

 ”ネット抽選に当たらなかった!当選者が羨ましい!!”

 ”10秒でアクセス切れたという噂が...”

 ”体験者だが、値段の設定がおかしすぎる。あの考え抜かれた内容と環境、それにエキストラの人数で、1000円なんておかしい。もちろんいい意味で!あと1回、いや、5回は体験したい!!”

 ”俺も体験者だけど、”カマエリア”は本当に恐ろしかった。帰宅してから気が付いたんだけど、俺が着ていたパーカーのフードに”ジョイフル”と書かれた名刺が入っていて、すごく怖かった”

 ”西川先生のイベントが2日間なんておかしすぎる!!もっと期間を長くして!!”

 たくさんのコメントが飛び交っている様だ。優ちゃんが身振り手振りを交え、目を輝かせながら興奮した様子で、”戦慄商店街をもう一度!”のウェブサイトの最新情報を教えてくれた。

 ただ、ジョイフルの連中め...名刺をフードに入れて、店の宣伝をするなよ...。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 ”鍛冶職人、抜刀少女AYANO”のアンテナショップは柏木さんが担当のようで、イベントが終わっても時々店に顔を出してくれて、俺たちと食事を楽しむ。

 柏木さんは俺たちと一緒の時はいつも元気いっぱいで、笑顔が絶えない。しかし、店を出るときには、たまに何かに悩んでいるかのような重苦しい雰囲気を感じさせる。

 彼女の背中には、まるで見えない重荷を背負っているかのような影が差し、俺たちの前で見せる明るさとは対照的だ。

 24歳でSMRの新星として期待される彼女には、様々な悩みがあるかもしれないな...。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 そんなことに思いを巡らせながら、お袋から頼まれたものを買うために商店街にある、100均ショップに向かう。寒さが本格化するこの時期、ランニングシャツとショートパンツ姿のいかれた連中、スポーツジム”プロテイン"の連中がポーズを取りながら、ケーブルテレビの取材を受けている。

 おいおい、いくら筋肉の鎧をまとっていても、寒いだろう?無理しちゃって...笑顔が引きつっているよ。

 ただ最近、ケーブルテレビやラジオ、新聞の取材が明らかに増えている。全国各所の商店街が衰退する中で、”柳ケ風雅商店街”は再び注目を集めている稀有ケウな存在だ。

 それも一商店街の分際で、大企業のSMR様とコラボしているということから、世間からすれば摩訶不思議なスポットと言えるだろう。

 マスコミによる注目は歓迎する。しかし、俺たちの本当の願いは、単なる一時的なブームに留まらず、継続的な報道が行われることだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 何だかんだと遅くったが、昨日通った”慄商店街”の跡地が見えてきた。『また今日もあの不思議な声が聞こえるのではないか』という不安をふり払うかのように足を速めるが...やはり...。

 「寂しい...誰も気がついてくれない...」

 ほうら、また聞こえた。自然と辺りをきょろきょろして周囲の状況を確認する。

 だが、周囲の通行人は普通に歩いている。どうやら俺が聞いた謎の声は、彼らには聞こえていないようだ。その事実に、ますます不安が募る。

 “セキコム”の詰め所には、昨日勤務していた本西さんと本条さんが帰ったようで、交代勤務の川平カワヒラさんと安住アズミさんが働いていた。軽く挨拶をした後、「イベントの忘れ物を回収したいんだけど、中に入っていい?」と声をかけると、「太郎さんならOKですよ」と言ってくれた。

 やはり気になる。いや、とても気になる。

 そして俺がこのデパート跡地に一歩足を踏み入れた瞬間、声の主が「また違う男性の気配がする。この感じは...昨晩、本西や本条と話していた者だ。どうやら、中に入ってくるようだ。でも...私の存在には気づくことはないだろう...」と寂しそうに呟くのが聞こえた。

 もうばっちりと。声だけでなく、感情の起伏までもなんとなく感じ取れる。誰か、いや何者かが、このデパート跡地にいるようだ。

 気になる...。会いに行くか...。
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