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第四章
28.優しい眼差し
しおりを挟む私はグレーのボクサーパンツを両手に持ちながら罪悪感と葛藤する。
家政婦だから身の回りの世話をするのは当たり前だけど、彼のパンツまで干さなきゃいけないなんてトホホだよ……。
「高杉悟のファンの皆様、ごめんなさい。私は彼の事なんてこれっぽっちも思ってないので、どうかパンツを干す事を許して下さい。これが私の仕事で嫌でも毎日触らなきゃいけなくて……」
空想の中のファンに向かって半泣き状態でパンツを持ったままひとりごとをブツブツ言ってると……。
「人のパンツを持ったまま悪口言わないでくんない?」
背後から日向の不機嫌な声が届いた。
ギョギョッと驚いて振り返ると、彼は仏頂面のまま腕を組んで立っている。
「……も、もう帰ってきたの? 帰宅は20時過ぎくらいって聞いてたのに……」
「自分の家だからいつ帰ってきてもいいだろ。それより、いつまで人のパンツ握ってんの?」
「はっ! 私とした事が……」
「……ったく、どーゆー趣味してんだよ。それに、そのでっかいカエルの絵が入ったベージュのエプロンさ……」
「あっ、コレ? 可愛いでしょ。中央にドーンとカエルの絵が入ってるからミカちゃんが喜んでくれると思って奮発して買っちゃった」
結菜はカエルの絵にシワが寄らないように両端をつまんでピンとさせながら自慢をするが、日向からは呆れた目が届く。
「クソだせぇな。……それ、本当にミカが喜ぶと思ってんの?」
「へっ? 幼稚園の先生ってこんな感じのエプロンしてなかったっけ?」
「するかよ。自分のセンスを幼稚園の先生と称して濁すなよ。それより風呂沸いてる?」
「(うぐぐっ……。相変わらずひど過ぎる)沸いてます……」
「今からミカを風呂に入れるから、その間飯作ってて」
「……はい」
最初が肝心だって言うから新しいエプロンまで買って気合いを入れたのに、初っ端から芽を摘むなんて……。
しかも、この毒舌はどうにかならないのかしら。
ミカちゃんは彼の帰宅に気づくと、声をキャアキャアと弾ませながらリビングから駆け寄ってきてジャンプして彼に抱きついた。
あまりにも嬉しそうな姿を見てたら、私じゃ足元にも及ばないなぁ~と思ってしまった。
彼が笑ってる姿を生で見たのは今日が初めて。
学校ではメガネにマスク姿だから感情は一切見えないし、テレビモニター越しの姿は本物の笑顔かどうかわからないから。
でも、こうやって幸せそうに笑うんだ……。
優しい眼差しに穏やかな声。
ミカちゃんを大切にしてるのがこっちまで伝わってくるよ。
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