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第十章
89.未来の蓋
しおりを挟む結菜は後方扉から教室に戻って自分の席に着席すると、前の席に座っているみちるが元気よく振り返った。
「おっはよぉ~。……っとっと、今日は暗い顔してない?」
「……うん。ちょっと嫌な事があって」
「元気だーしーて! ちょっと美帆んとこ行ってくるね」
「うん、わかった」
みちるはそう言うと、席を立って黒板前の友達の席へ向かって行った。
本当はみちるに何でも話したいけど、日向の相談は出来ない。
私の心を卍固めしているあの誓約書がある限り。
だから、相談相手はヒナタしかいないと思って、スマホをスカートのポケットから取り出してリア王をタップした。
ところが、メンテナンス画面になっていてゲームが起動しない。
……忘れてた。
先日ゲームを起動させた時にお知らせにメンテナンスの日程が書いてあったよね。
以前はこまめにチェックしてたのに、今は日向のインスタを開く回数の方が増えてたから、メンテナンスの日程を忘れてた。
この件をヒナタに相談出来ないなら、一体誰に相談すればいいの。
気分が落ち込んだままメンテナンス画面を眺めていると、堤下さんからLINEメッセージの通知が届いた。
すかさず通知画面をタップして開くと、そこに書かれていた内容は……。
『お疲れ様です。昨日まで家政婦業務に尽力していただき、ありがとうございました。急ではありますが、弊社の都合により本日をもって早川結菜さんを解雇という運びにさせていただく事になりました。つきましては、迷惑料として1ヶ月分の給料を上乗せさせていただきます』
解雇通告だった。
次から次へと訪れる予想外の事態に、頭は更に混乱していくばかり。
解雇……?
どうしていきなり。
私が何かしでかしたの?
ちゃんと仕事をこなしてきたから、解雇されるような覚えがないんだけど。
私は前ぶれさえ見せない急な解雇に焦って返信をした。
『どーゆー事ですか? 仕事は慣れてきたし、不備もないはず。それに、まだ仕事を辞めたくありません』
『大変申し訳ございません。弊社の観点としては、やはり成人してる方に頼むのがベストだと思っています。今日から新しい家政婦が入りますので、その件につきましては心配なさらないで下さい』
『そーゆー問題じゃありません! 私はまだ成人してないけど、ちゃんと仕事は務まります。だから続けさせて下さい』
『今回は決定事項をご報告させていただきました。契約当初の約束通り、今後彼に接近を試みた場合はストーカー罪として罪が課せられる可能性がある事も視野に入れておいて下さい。昨日まで本当にお疲れ様でした。では、失礼致します』
『ストーカー罪? 酷い……。それに、まだ話は終わってません。お願いだから家政婦を続けさせて下さい』
一方的な解雇通告に気持ちが追いつかない事に加えて、最後の文に既読マークがつかない。
画面を一点に見つめたままこれが嘘だと願うばかりに……。
「嘘でしょ……」
彼の退学に加えて不当な解雇。
私は彼との関係が無理やり断ち切れているような気がしてやりきれない気持ちに……。
私は多分日向が好きだ。
明るい未来を願って現在を変えてくれたり。
気持ちが言えるように背中を押してくれたり。
小さな意地悪を言って笑わせてくれたり。
あいつがいなきゃ、楽しい事も、幸せな事も、未来に目を向ける力も得られなかったから。
あいつという存在があまりにも大きいから、失う準備が出来ていない。
……私、どうしたらいいかな。
退学まであと3時間半。
まだ会えるうちに言いたい事を伝えたいけど、伝えられない。
何故なら、誓約書という一つの縛りが私たちの未来に蓋をしているから。
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